第30話:京都風エリアと絶対零度の聖女(後編)
【ナレーション】
皆様、こんにちは。語り部兼、傍観者の私です。
京都風エリアの高級お茶屋にて、悪徳貴族を相手に『名乗る前の立ち回り』から『時代劇ハイブリッド口上(某・金さん+水〇〇門+暴〇ん坊将軍)』という完璧なコンボを決めたマオ一行。
しかし、そのあまりにも神々しい(?)様式美は、勇者パーティーの監視役である『絶対零度の聖女・エルザ』の心を激しく撃ち抜き、極上のデレ顔を引き出してしまいました。
そして、そのギャップ萌えの凶悪な破壊力をモロに食らった四天王のシーアは、語彙力を失い戦闘中に白目を剥いて昇天。大乱戦の行方は一体どうなってしまうのでしょうか!
***
「……成敗!!」
マオの号令とともに、悪徳貴族が呼び出した精鋭の私兵部隊が、大広間になだれ込んでくる。
「シーア殿!? 急に白目を剥いてどうしたごわす!」
ゴーンが迫り来る私兵を金棒で吹き飛ばしながら、床に倒れたままピクピクしているシーアを見て叫んだ。
「あかん、アイツ性癖のキャパ超えてバグりよった! ゴーン、アレンザの兄ちゃん、ここは俺らだけで……」
マオが扇子を構え直した、その時。
『――氷結連弾!!』
広間の気温が急激に下がり、襲いかかってきた精鋭部隊の足元が次々と分厚い氷に覆われ、凍りついていく。
「な、なんじゃこりゃあ! 動けん!」
私兵たちがパニックに陥る中、マオの後ろから、純白の修道服を翻してエルザが歩み出てきた。
その顔は耳の先まで真っ赤に染まっているが、私兵たちに向ける眼差しは絶対零度そのものだった。
「わ、私のマオ様に……っ! じゃなくて! この美しい古都を汚す野蛮な輩が、大人数でギャーギャーと騒がしいですわね! 少しは静かにしなさい!」
「お、お嬢ちゃん? さっきまで『野蛮な魔族の真似事なんて見ているだけ』って言うとったのに……」
マオが目を丸くして尋ねると、エルザはビクッと肩を震わせ、顔を逸らした。
「べ、別にあなたたちを助けたわけじゃありませんわ! 私はただ、人族領からのエリート監視役として、悪党の暴挙を見過ごせなかっただけです!
マオが唖然としていたその時、襖の裏からお馴染みの声が響いた。
「隙だらけさー」
ジョンの声と共に、悪徳貴族の背後の影から、三つの人影が飛び出してきた。
「お仕置きばい。野良猫ちゃんズも、手伝ってんね!」
『わあぁぁっ!? なしてわだば、またバスタオルのまま戦わなきゃなんねぇんだべ!』
『お姉ちゃん、これも亜人族の誇り高き修行の一環です! 行きますよ!』
総檜の高級大浴場から上がってきたおリンと、バスタオル姿のシノブ、そして同じくバスタオル一枚のシズクである。
「な、なんじゃお前らは! どこから湧いて出たんじゃ!」
悪徳貴族が悲鳴を上げる。
『ふにゃあ……あの口の中でとろける絶品の湯豆腐……あんな美味しいお豆腐を作ってくれるお茶屋の人たちを泣かせる悪党は、エリートくノ一の私が許しません!』
もはや密偵の誇りより「ご当地グルメへの恩義」を優先し始めたシズクが、湯上がりで紅潮した肌のまま、華麗な体術とクナイさばきで残りの私兵たちを無力化していく。
『わ……エリートだったはずのシズクが、完全に湯豆腐に屈服してるだべ……』
姉のシノブが、複雑な表情で『津軽流・猫だまし』を放つ。
「ひぃぃっ! ば、バケモノどもめ! ワシは逃げるぞ!」
悪徳貴族が慌てて窓から逃げ出そうとした、その瞬間。
「……マオ様の敵は、逃がしませんわ」
エルザの放った氷の壁が、貴族の退路を完全に塞いだ。
逃げ場を失い、へたり込む貴族。
マオは冷酷な目で見下ろし、断罪の言葉を紡ぐ。
「言語道断である。歴史ある古都の雅な文化を踏みにじり、あまつさえ美味い湯豆腐の味を落とすようなマネをするなど……万死に値する!」
***
事件解決後。
マオたちは花街の人々から大いに感謝され、念願だった『あっさり出汁の湯豆腐』と『濃厚な宇治風抹茶パフェ』の無限ループを満喫していた。
「いやー! 湯豆腐の優しい味が体に染み渡るなぁ! その後の抹茶パフェの苦味と甘味がまた最高や!」
「マオ殿、抹茶パフェのお代わりごわす!」
「へっ! マオの旦那、今日も面白かったぜ!」
大満足で舌鼓を打つマオ、ゴーン、アレン。
その横では、バスタオルから着物に着替えたシズクが、とろんとした目で湯豆腐を頬張っていた。
『はふ、はふ……京都、恐ろしい場所です……ふにゃあ……お豆腐がいくらでも食べられます……』
『わだば、優秀な妹のこんな腑抜けた顔、見だがったわけじゃねぇだべ……』
シノブが頭を抱えながら、自分もパフェを口に運んでいる。
一方、部屋の隅では。
気絶から目を覚ましたシーアが、双眼鏡を持ってマオの方を見つめていた。
そこには、マオに抹茶パフェを差し出そうとしてモジモジしているエルザの姿がある。
「マ、マオ。これ……私のパフェ、少しだけ残ったから……別にあなたに食べてほしいわけじゃないけど、残すのももったいないから……」
「おお、サンキュー! ほな遠慮なく……」
その光景(極上のツンデレ)を見た瞬間。
「あ、あかん……ギャップが……尊っ……」
シーアは再び顔を真っ赤にして、バタッ……と白目を剥いて仰向けに倒れた。
「おいシーア!? お前まだバグっとんのか!」
***
翌朝。
京都風エリアの入り口で、勇者パーティーとの別れの時が来た。
「マオの旦那、俺たちはそろそろ行くぜ。この後、神戸風エリアの近くでウサギチームの試合があるからな!」 「またねマオさんたち。ほんと、アレンザがいつも迷惑かけてでら申し訳ないわ」
アレンとセリアが手を振る中、エルザだけが神妙な顔をして立ち止まっていた。
「エルザ? 行くわよ」
セリアが声をかけると、エルザはキリッとした表情で宣言した。
「……私は、もう少しこの魔族領の監視を続けます。決して、あのマオとかいう野蛮な魔族の動向が気になったからではありませんわ! 単独任務に切り替えて、徹底的に彼らを監視します!」
「おう、真面目だな! じゃあな、無理すんなよ!」
アレンはあっさりと承諾し、セリアと共に去っていった。
一行から少し離れた電柱の陰。
エルザはそこから、マオの背中を熱っぽい視線で見つめていた。
(ああ……マオ様。あなたのその標準語の威厳、悪を裁くお姿……私、どこまでも監視させていただきますわ……!)
【ナレーション】 こうして、京都風エリアの雅な文化と湯豆腐の平和は守られました。 しかし、マオの悪ノリした様式美は、ついに『絶対零度の聖女のツンデレ・ストーカー化』と『四天王・シーアの定期的なポンコツ化(語彙力喪失)』という新たな属性を生み出してしまったようです。 エリートくノ一・シズクもすっかり堕落し、ますますカオスさを増す世直しお忍び道中。 彼らの気さまぐれな旅は、異国情緒あふれる『神戸風エリア』へと向かいます! さて、次はどんな悪党(とご当地グルメ)が待ち受けているのやら!
次回更新は未定です。




