第46話 震える魂と体
同棲という名の、真緒菜による完全な飼育生活が始まって、数日が経過していた。
朝の光が差し込む、高級タワーマンションの広い寝室。俺、亜久嶋大輝は、キングサイズのベッドの下、ふかふかの絨毯の上で目を覚ました。
見上げると、シルクのネグリジェを纏ったご主人様が、優雅に身じろぎをしている。
「おはよう、大輝。私の足、綺麗にして」
「はい……おはようございます、ご主人様」
俺は這いつくばって彼女の足元に近づき、その滑らかなつま先に恭しく口づけを落とし、保湿クリームを塗り込んだ。首に巻かれた重厚なレザーのチョーカーが、カチャリと冷たい音を立てる。
生活のすべてが彼女を中心に回り、俺の社会的な命もプライバシーも完全に掌握されている。だが、この圧倒的な支配下にある歪んだ日常が、今の俺にとっては心地よくて仕方がなかった。
「今日は午後から、いよいよ役員会議ね。大輝、出社する前にこれを入れていきなさい」
真緒菜がベッドサイドの引き出しから取り出したのは、ピンク色の流線型をした小型バイブレーターだった。
「あ……っ、会社に、ですか……?」
「そうよ。あの厳しい役員たちの前で、あなたがどんな顔をするか……私、楽しみで仕方ないの。それとも、私の命令が聞けないのかしら?」
「い、いえ……!喜んで、お受けします……っ」
俺は自らの下着をずらし、冷たいジェルを塗ったオモチャを、ゆっくりと自らのアヌスへと飲み込ませた。異物感と、いつスイッチを入れられるかわからない恐怖が、俺の腹の奥をきゅっと締め付ける。
左手の薬指にはめられたセンサーリングが、俺の高ぶる心拍数を彼女の端末へとリアルタイムで送信している。
「いい子ね。会社ではいつも通り、完璧なエリートの同期として振る舞うのよ」
「はい……っ」
こうして俺たちは、同じ鳥籠から、東都フーズのオフィスへと向かった。表向きは優秀な主任、裏では完全に調教された奴隷という、あまりにも歪んだ日常が、今日も幕を開けた。
+++
午後十四時。本社最上階、重厚なマホガニーのテーブルが鎮座する第一会議室。
東都フーズの中枢を担う役員たちと、第一開発部、第二開発部の幹部がずらりと顔を揃える中、息の詰まるような緊張感が漂っていた。
「――以上が、次期主力商品『クイック・シェフ』シリーズ全国展開に向けた、最終的な原価率圧縮の具体案です」
プロジェクターの光を背に受けながら、真緒菜は堂々とした態度で完璧なプレゼンをこなしていた。地味なグレーのスーツに銀縁眼鏡、感情を交えない理路整然とした説明は、厳しい役員たちをも深く頷かせている。
俺は末席に座り、股間に仕込まれたオモチャの異物感に耐えながら、真面目な顔を取り繕っていた。
すると、真緒菜が不意にこちらへ視線を向けた。
「この企画の進行には、亜久嶋主任のサポートが不可欠です」
役員会議の席で、真緒菜が俺を真っ直ぐに見つめながらはっきりと発言した。
突然話を振られ、フロア中の視線が俺に集まる。
「あ、ああ……全力を尽くすよ」
俺は引きつりそうになる頬を必死に抑え、頼もしいエリート社員の顔を作って答えた。
「頼もしいわね。では、亜久嶋主任、こちらのデータを……」
真緒菜が俺の席に歩み寄り、クリアファイルを渡すふりをして手を伸ばしてきた。
その瞬間。
机の陰に隠れた彼女のもう片方の手が、スマートフォンの画面をタップしたのが分かった。
ブゥンッ……!!
「っ……!!」
俺の体内に仕込まれたバイブレーターが、前触れもなく強烈な振動を開始した。
しかも、いきなりの最大出力だ。
脳天を突き抜けるような刺激に、俺の体は弾け飛ぶように大きく跳ね上がりそうになった。だが、ここは会社の重鎮たちの目の前だ。
俺は机の下で両足をきつく交差させ、太ももをつねって必死に声を殺した。
「どうしました、亜久嶋主任?顔色が赤いようですが」
「い、いえ……!少し、空調が……っ」
「無理はしないでくださいね」
真緒菜は心配そうな声をかけながらも、その銀縁眼鏡の奥の瞳は、サディスティックな笑みに満ちていた。
彼女のその冷酷で愉悦に歪んだ視線に屈服しながら、俺は極限のスリルと快感にガタガタと震え続けた。
+++
俺が脂汗を流して悶えていると、元の立ち位置に戻った真緒菜が、プレゼンを再開しながら目線とわずかなジェスチャーで俺に指示を出してきた。
『あなたもスイッチを入れなさい』
「え……?」
俺は震える手で、真緒菜から新たに支給された監視用のスマートフォンをこっそりと取り出した。ご丁寧に以前のアプリ設定まで復元されている。
アプリを開き、接続されているBluetoothのデバイス名を確認して、俺は息を呑んだ。
そこには、俺の中に仕込まれているオモチャとは別の、見覚えのあるデバイス名が表示されていた。
まさか真緒菜も、以前俺が彼女をいたぶるために渡したあのバイブレーターを、自らの下着の中に仕込んでこの会議に出席しているとでもいうのだろうか。
なんて狂っているんだ。
俺は画面のスライダーに指を当て、ゆっくりと上へスワイプした。
「――っ!このように、物流費の変動リスクも……ぁっ……」
マイクを通した真緒菜の声が、ほんのわずかに上ずり、甘い吐息が混じった。
彼女の肩がビクッと跳ね、ピンヒールを履いた足が不自然に擦り合わされる。
厳格な役員会議の最中。
表向きは、会社の次期主力商品を左右する完璧なプレゼンテーションが進行している。だが、分厚いマホガニーのテーブルの下では、俺と真緒菜の二人が、互いに仕込まれたバイブレーターの強烈な振動に顔を歪め、悶え続けていた。
「うぅ……っ」
「んっ……」
役員たちが真剣に資料に目を落としている隙を突き、俺たちは視線を絡ませ合う。
真緒菜の瞳には、被支配の快感と絶対的支配欲を満たす、究極の二重性癖の悦びが燃え盛っていた。
そして俺もまた、自分の社会的な尊厳が粉々に砕け散るスリルと、彼女の奴隷として扱われる快楽の渦に、完全に飲み込まれていた。
誰にもバレてはいけない極限の状況下で、二人揃って神器の振動に身を焦がす。その圧倒的な背徳感と狂気は、俺たちにこれまで味わったことのない、痺れるような絶頂の悦楽をもたらしていたのだった。




