最終話 黄金の時代
王都は、祭りだった。
王宮の鐘が鳴り響き、大通りには無数の旗が翻る。
花が舞い、人々が笑い、酒場では朝から乾杯の声が飛び交っていた。
その中心にあるのは、たった一つの知らせ。
『アルヴェイン王太子殿下と、リリアーナ・エヴァレスト公爵令嬢の婚約継続並びに正式な婚姻予定発表』
つまり。
結局、両想いだった。
国民の感想はだいたいそれである。
「知ってた」
「やっとか」
「むしろ破談になると思ってた奴いる?」
いた。
社交界には大量に。
だが今、その全員が静かに敗北していた。
一方。
王宮では。
「……終わった」
宮廷占星術師セレスが、机へ突っ伏していた。
死んだような顔である。
「生きてます?」
侍女長が覗き込む。
「たぶん……」
「魂が半分くらい抜けてますね」
「ここ数週間ずっと胃が死んでたんですよ……」
セレスは虚ろな目で天窓を見上げた。
星々は穏やかに輝いている。
もう不穏な揺れはない。
未来線は安定。
王国繁栄ルート、完全固定。
長かった。
本当に長かった。
「なんで両想いなのにここまで苦労するんですかね、あの人たち……」
「恋愛は大体そういうものですわ」
いつの間にか入室していた王妃エレノアが、優雅に笑った。
その後ろには国王もいる。
「セレス」
国王が声をかける。
「ご苦労だったな」
「本当にそう思うなら胃薬支給してください」
「後で褒賞を出そう」
「現物支給でお願いします」
「切実ですわねぇ」
王妃が楽しそうだった。
そんな穏やかな空気の中。
窓の外、中庭では。
アルヴェインとリリアーナが並んで歩いていた。
以前のようなぎこちなさはない。
近づきすぎず、離れすぎず。
自然に隣を歩いている。
「……平和ですね」
セレスがぽつりと呟く。
王妃が微笑んだ。
「ええ」
国王も腕を組む。
「ようやく落ち着いたな」
すると。
中庭の方から、小さく笑う声が聞こえた。
リリアーナだった。
アルヴェインが何か言い訳をしている。
たぶんまた嫉妬関連だ。
「絶対また同じことで揉めますわよね」
侍女長が真顔で言う。
「揉めるだろうな」
国王も即答した。
「でもまぁ、今度はちゃんと話せるでしょう」
王妃の声は穏やかだった。
それを聞きながら、セレスは静かに星空を見上げる。
夜ではない。
それでも、昼の空の向こうに星々の流れが見える。
未来は輝いていた。
豊穣。
平和。
人々の笑顔。
王国の黄金時代。
すべてが、穏やかに繋がっている。
「……やれやれ」
セレスは深く息を吐いた。
「ようやく、星の通りになりましたか」
長かった。
本当に。
胃が痛すぎた。
だが、その時。
「そういえばセレス」
王妃が、にこやかに口を開く。
嫌な予感がした。
「次は、王弟殿下と侯爵令嬢の件なのですけれど」
セレスの動きが止まる。
「……はい?」
「最近かなり拗れておりますの」
「うそだろ」
「しかも今度は、両方とも素直じゃないタイプですわ」
「やめてください」
王妃は優雅に微笑んだ。
「期待していますね」
「嫌です」
「頑張ってくださいませ」
「人の心!!」
国王が肩を叩く。
「諦めろ」
「陛下まで!?」
占星術師の悲鳴が、王宮へ響き渡る。
一方その頃。
中庭では。
「……殿下」
「なんだ?」
「先ほどから、あちらの令嬢方が殿下を見ていますわ」
リリアーナが静かに言う。
アルヴェインは一瞬黙り。
「君しか見ていない」
即答した。
リリアーナの顔が赤くなる。
「そ、そういうことを急に仰るのはずるいです……!」
「本心だ」
「~~っ!」
そしてまた周囲が砂糖を吐く。
王宮保護者会は思った。
(あぁ、平和だな)
こうして。
不器用すぎる王太子と悪役令嬢は。
今日も周囲に見守られながら、幸せに恋をしていくのだった。




