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電探が回復した。
見ると、白鯨に繭が取り付いている様に見えた。
てめえ。
そう叫びながらエンジンノズルが焼き切れるほどの出力を上げ。
取り付きかかっている繭を撃ち落としながら突進した。
が、衝撃と共にこの艦にいつの間にか纏わりついている繭が、ねじ込みその中身が、この艦に侵入してきた。
けたたましく、警報が艦内に響き渡った。
クソったれ。
右舷後方に、それは取り付いているようだった。
中に乗っている者だけを攻撃目標にしている、ここで、そんないかれた奴の相手をする必要はない。
俺だけで十分だ。
その判断と共に、総員退艦の指示を出し、ポッドに乗組員全員を乗せ、早々に退避させた。コクピットにロックをかけ、侵入者を入ってこさせないようにして、操縦と、攻撃システムの全オペレーションをここ手元に集中させた。
モニターと、電探は回復したが、それを見て愕然となった。
白鯨に、繭がしっかりと食い込んでいた。
絶望、
頭の中に、あの時の、あの場面が繰り返し、流れた。
そこから、どういう操縦をしたのか、ただ自分の体ではない、遊離した自分が全ての行動をしているのではないか。
と、言う位周りはゆっくり進んでいるようだった。
気が付けば、俺の艦はあのバツ包帯野郎の艦の目の前に立ちはだかり、艦首をそいつの艦に衝突させていた、衝角戦法。
艦首の半分ほどめりこませた。
と同時に、エアロックが外れ、汎用機構が飛び込んできた。
艦の中は、酸素で、充満している。
当然、火器などは使えない。使えばあっという間に炎に包まれてしまうし、それでなくても空気が汚染され、船内活動は酸素不足で出来なくなる。
敵味方限らず専ら、原始的でも、槍や、剣、矢などが船内での武器となる。
無数の汎用機構から無数の矢が、空気を裂いて飛んできた。
それを、薙刀で、打ち払った。
侍女だ。
二射。
三射、と撃ち込んで来る。
おれは飛び込み、飛んできた矢を両手で払い除けつつ、数本を握り締め、その手にした矢を機構の中枢に叩き込んだ。
そして、側にあった機構の一台を蹴り飛ばし他の機構に打ち付けた。
超重力星で育った俺にはこいつらの動きが、まるで止まっているかのようにしか見えなかった。
急所らしい頭を潰し、投げ飛ばし機体を叩きつけ、侍女に向かうそれらを引き剥がし、片手に機構を握りしめ、それを振り回し機構同士を叩き打ち付けた。
最後の機構を粉々にした時、自分の肩と、脇に鈍痛が走っている事に気が付いた、知らない間に喰らっていたようだった。
侍女が、同じ様に、最後の機構を一刀両断にして、すぐさまその薙刀を放り投げて、顔色を変え走って来た。
大丈夫ですか艦長。
駆け寄り、刺さった、痛矢串を覆うように自分の着物を切り裂き俺の体に巻き付けた。
この艦は、バツ包帯野郎の艦に突き刺さったままだ。
このまま主砲を全弾こいつに打ち込んでやる。
照準を回せ。
侍女に言った。
侍女は、
そんなことすれば、この艦も巻き添えになります。
俺は、
君は、残ったポッドで脱出するんだ。
侍女、
出来ません、例え成り行きで、夫婦になったとしても、まだ、祝言をあげていなくても、私は・・・。
振動が艦内に響いた。
多分二陣、三陣のコクーンが取り付いたのだろう、痛みに耐えながらもう一度言った。
早く。
乗れ。
彼女の肩を掴みそう言うと。
その彼女の肩越しにある物が見えた。
俺達の向こうがわ、死屍累々となっている汎用機構の隙間を白いものが、いつの間にか立っていた。
目を疑った。
白いそれは確かに、セーラー服。
そう、幼年兵女学校のセーラー服だった。
あの髪の毛が長く、その髪で顔が隠れる位の、どちらが前か後ろか分からない様な、そしてスカートが床を引きずる位長い、その彼女が立っていた。
確か、四天王呼ばれていた一人。
痛みに耐えながら、信じられない物を見ていた。
そう思っている事を一顧だにもせず、スッと俺達の傍まで来て彼女は自分の前髪を掻き分け、その澄んだ瞳を、かすかな微笑みと共に。
確か、四天王と呼ばれていたあの時の一人だ。
お迎えに上がりました。
と初めて聞く小さな声で言った。
おもむろに、セーラー服の彼女は長いスカートをたくし上げたかと思うと、侍女をあっという間にスカートの中に押し込んだ。
横にいた俺は何をしているのか訳が分からずにいると、遠くでバリケードを破る音がした。
第二波の攻撃だろう。
コクピットの離れた所から、多分三区画向こうぐらいだろう。
セーラー服の彼女は、音のした方に向けていた視線を、俺に向け直し、侍女にしたそれと同じ様に、自分のスカートを捲り上げ、そのスカートを俺に被せた。
一瞬の出来事だったのでほとんど何も見えなかったが、
ただ、
その、
やっぱり助けてくれた、彼女の為に何が見えたかは、言わないでおこう。
次の瞬間、穴に落ちた様な衝撃。
全身の痛みに耐えながら、今の状況が飲み込めず、ぼんやりした意識の中で、視線を動かすと直ぐ隣には侍女がいた。
首を捩じって見渡すと、白いセーラー服の、あの幼年兵女学校の面々が慌ただしく走り回っていた。
気が付けば、幼年女学校の生徒の一人が、俺の傷の手当をしてくれている。
ストレッチャーの上にいつの間にか乗せられている俺は、向こうに側で腰の左右に刀を差しているベリーショート、その奥に向かって駆けて行くオープンフィンガーグローブの三つ編み、下級生にだろうか、指示を叫んでいる触角の髪型の女学生、そして、今さっきまで俺が乗っていた重巡になぜかいた、長いスカートの長い髪の女学生が駆け回っていた。
俺はその彼女達を見ていた。
四天王と呼ばれている娘たちが艦内を縦横無尽に駆け回っていた。
良かった、みんな無事の様だ。
そう思い、元気な彼女達の無事な様子を見て、ジワジワ込み上げてくるものが有った。
ついと。
あの長い黒髪の生徒会長がいつの間にか傍に立っていた。
大丈夫ですか。
声を掛けてきたのは彼女の方だった。
それは、俺のセリフだ、繭がこの艦に取り付いたのを見て、俺はもうだめかと思った。
そこまで言うと、不覚にも涙がこぼれてしまっていた。
流れる涙を両拳で隠すのが精一杯だった、溢れて来る嗚咽もせき止められなかった。
もうあんな思いはしたくなかった、その思いが涙をあふれさせていた。
ありがとうございます。
そう彼女は言うと、
続けて、
私たちの星は、特に女性に限ってなんですが、特異能者の持ち主ばかりなんです。
先程も、当校の四天王のひとりが、瞬間移動の特異能力をお見せしたと思います。
私たちは、一人ひとり違った特異能力を持っています。
ですので、あんな機構や、害獣なんてほとんど、意味がありません。
武家の娘として、一人百殺を旨としている、我々一人を狙って来るのですから、逆にその方が我々は闘い易いと言うものです。
それより私たちはこの力がある故に、集団で戦うことが致命的に苦手なのです。
ですので、今回、無理を承知で、ほとんど、人質を取ったような形で助力をお願いしたと思います。
其れはこのためだからと、元首から聞いてます。
でもうれしいです、そうやって、涙を流してまで、思ってくれるなんて。
彼女も少し目が潤み、そして一筋。
瞳から涙がこぼれた。
いつも拙作に、貴重なお時間頂戴して、目を通して下さり大変感謝申し上げます。




