表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/94

第八十三話 真夏ちゃん、涼風が夏の終わりを告げているわね。

『第八十三話 真夏ちゃん、涼風が夏の終わりを告げているわね』

約二千四百文字になります。


 昼間夕子たち家族が、十四階の部屋をあとにした時だった。

 壁際の大きなイラストから光が溢れ始めた。十四階と十三階を結ぶ螺旋階段に光が溢れ出して消えた。




 安甲神社の境内に倒れていた若い男性を巫女の花園舞が発見した。


 男の中では、すべての時間が止まって、魔法を掛けられたように年齢も止まっている。巫女は慌てる様子もなく安甲神主の携帯電話に連絡を入れた。


「もしもし、神主さんですか」

「舞ちゃんかな」


「ええ、それが、神社の境内にまた人が倒れていました」

「今は遠くにいるからーー そちらには行けないが、その人は大丈夫ですか」


「ええ、意識もしっかりしています」

「で、その人のお名前を聞いてください」


「はい、昼間とか言っていました」

「下の名前は分かるかな」


「ええと、春、春雄とか言っていたような」

「・・・・・・ 」


「それがーー 本人が言う年齢と見かけ年齢が違うのですが」

「分かった。あとで連絡するから、その男性を保護してください」


「はい、お待ちします」




 安甲神主は昼間夕子に境内に倒れていた男性のお話をしてみた。


「昼間春雄とーー 言っていました」

「その方多分ーー 父の兄です」

夕子は、そう言って父の功を見た。


「神主さん、電話でその男性とお話が出来ますか」

功は弾む心を抑えながら神主に言った。


「昼間社長、巫女を呼び出して見ます」


 神主は巫女を呼び出し、若い男性と代わってもらう。


「もしもし、兄さん? 功です」

「功か、春雄です」


「兄さん、身体とか大丈夫ですか」

「それが、こっちの世界に戻ったら若返ってしまって」


「兄さん、それ本当ですか」

「功、冗談で言えないから」


「兄さん、昼間の小型ヘリコプターを神社に派遣するから、

ーー 茨城国際第二空港で徳田財閥のヘリに乗せてもらってください」


「分かった。そうするよ。じゃ功、明日ね」


 功は信じられない面持ちで、御坂恵子に事情を説明した。


「分かりました、社長。ヘリコプターの手配と徳田理事長への依頼ですね」

 御坂は、昼間財閥本社の危機管理室に連絡を入れ、花園舞の携帯番号を伝えた。


「分かりました。御坂さんーー 春雄さんを乗せたら茨城国際第二ですね」


 御坂は次に徳田理事長の秘書山下瑞稀の携帯を呼び出した。


「御坂さんーー 明日、そちらに戻ります」

「その前に第二空港で人を乗せて欲しいの」


「どなたですか」

「昼間春雄前社長です」


「御坂さんーー 理事長にお伝えして前社長と一緒に戻ります」

 山下は携帯電話を切り理事長に内容を伝える。


「そう、行方不明の春雄さんが見つかったのね」

「ただ、年齢が若くなっているそうで」


「あら、竜宮城から戻ったのかしら」

「理事長、浦島太郎ならお爺さんですけど」


「そうね、私は春雄前社長とは面識があるけど、いくつくらいですか」

「それがーー 昼間夕子さんくらいだそうです」


 徳田理事長は次の言葉を驚きのあまり呑み込む。




 翌朝、昼間春雄を乗せた小型ヘリが茨城第二空港に到着した。

巫女の花園舞が春雄前社長に付き添っている。


「春雄前社長、まもなく第二空港です」

「ありがとう。機長」


 徳田財閥の赤い遊覧ヘリが待機している。

一足早く仙台から到着したプライベートジェット機から理事長と山下、客室乗務員、パイロットがヘリに移動していた。


「昼間さん、お元気でしたか」

「徳田さん、浦島太郎になっちゃいました」


「でも、大分お若くなられて羨ましいですわ。

ーー じゃあ、水戸保養所に行きましょう。巫女さんも一緒よ」


「水戸保養所ですか? 」

春雄は戸惑っていた。


 赤いヘリは高度を上げて鹿島灘を経由して大洗港付近に出た。


「理事長、まもなく保養所です」

「御坂さんは、二号棟の何番と言ってましたか。山下さん」


「はい、同じ三番ヘリポートと言っています」

「理事長、私も斉藤司令から三番と聞いています」


 機長は理事長に伝えたあと、斉藤司令を呼び出し伝えた。


「まもなく到着します」


 ヘリポートの誘導信号が赤から緑色に変わった。


「機長、着陸を許可します」


 昼間秋生会長、昼間功と輝子、昼間夕子の四人は、待ち遠しくて地下室の通用口付近で御坂恵子と一緒に待機している。




 赤い遊覧ヘリが昼間水戸保養所二号棟ヘリポートに到着して地下に格納された。

そのあと、地下通用口扉の安全ロックが解除される。


 冷たい金属音が扉付近で待機していた者たちの耳に届いた。


[ガッチャ]


 機長が安全確認の後、乗客を誘導して通用口の扉を開けた。




 徳田理事長、山下瑞稀、昼間春雄、花園舞、客室乗務員、機長の順に昼間家族の前に顔を出す。


 昼間功と輝子が駆け寄り春雄を抱きしめていた。秋生会長は目にゴミが入ったと言って咽せ返っている。夕子は会長の嘘の出鱈目さに呆れながら見守っていた。


「さあ春雄、今晩は宴会じゃな」

「お父さん、お元気で良かった」


「春雄、わしはまだまだ現役じゃからな」

 秋生はそう言って、また咽せている。


「じゃあみなさん、十四階に参りましょう」


 御坂を先頭に一行がエレベーターホール前に到着した時、地下から地鳴りが聞こえたが誰も気付くことがなかった。


[ゴー、・・・・・・ ]


 十三階では、ヒメと真夏がエレベーターホール前で待ち伏せをしている。

日向黒子と白石陽子は呆れながらも一緒にいた。


「ヒメ兄、ラウンジの方明るくない」

「電気がおかしいんじゃないかな」


 いみじくも偶然の重なりの始まりに気付く者はいなかった。昼間春雄前社長が十三階に到着した。

 ラウンジ側の光は消えている。


「ヒメ兄、ほら電気の不具合ね」




 御坂と夕子は、扉の鍵を解除して中に案内した。機長と客室乗務員はスタッフが客室に案内している。

 三日月姫姉妹と帝、未来と零の顔を見た昼間春雄が驚きの声を上げた。


「帝さま、ご無沙汰しております」

「春雄じゃな」


「帝さまの仰せのままに」

「いとをかしかし、春雄じゃ」

三日月姫が言った。


 窓ガラスを涼風が優しく叩いていた。

 生徒たちと夕子は窓際で星乃紫、朝霧美夏、白石式子、酒田昇、安甲兄弟と合流して過ぎ行く季節に思いを馳せていた。


「真夏ちゃん、涼風が夏の終わりを告げているわね」

『第八十三話 真夏ちゃん、涼風が夏の終わりを告げているわね』

 お読みいただき、ありがとうございます!

ブックマーク、評価を頂けると嬉しいです。

投稿後、加筆と脱字を修正をする場合があります。


三日月未来(みかづきみらい)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ