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16.魔王戦、はじまり



 双斧が飛ぶ。


「おォらァァッ!」

「おぉ~~」


 大戦斧が舞う。


「はぁぁッ!」

「おぉ~」


 雷撃が襲い掛かる。


「ふっ――――ッ……!」

「……おぉ」


 戦力は分断されたものの。

 瞬間火力だけなら、『ローネス』の中でも最大の三撃だ。

 しかし魔王は、それを受けてもなお、愉快そうなリアクションを見せるだけだった。


「あはは~。強い強い~。

 やっぱりキミらと殺しあうのは面白いね~」

「チッ……! 化け物が」


 魔王の口元は変わらずにこやかで。

 だからこそ不気味すぎる。

 目元を隠している前髪が少しでも上がれば、本心が見えるかもしれないのに。


「ハッ……! 前髪が跳ね上がってほしいとか、エイトみたいなこと考えてンなぁオレは」

「奇遇だねえ。私もだよ」


 うん。みんな同じこと考えるよね。

 エイトくんの影響は、思ったよりも甚大だった。


「目は見せないほうがいいって言われたんだ~。だからダメ~」

「どうせエントルティンあたりだろ。

 なんだァ? いかつすぎて小便漏らすからかァ?」

「キミ以上にいかつい目つきなんて、魔界見渡してもそういないよ~。逆だよ逆~」


 かわいい系だからなんだってさ~と、にこやかに笑う。


「…………、」


 まるで日常会話だ。――――というか、本当に日常会話のテンションなのだろう。

 ただ、そのテンションのままでも、殺意自体は別途でキープしている。できている。


 本当。

 ヒトのカタチをしているというだけで。コミュニケーションが成立しているというだけで。

 根幹は、ボクらとは絶対的に違う。


 互いに理解できないし、考えが交わることはない。

 今の会話だけで、きっとそうなんだろうなとわかってしまう。そんな異質さ、異常性。


「エンちゃんは死んじゃったけど、いい子だったんだよ~」

「……ッ!」


 会話を続けながら、彼女は巨腕をふるう。


「おやすみなさいは絶対言うし、大変だろうにそのふるまいを表に出さないし~」

「クッ!」


 フラワーちゃんらを追いまわし、壁や床を破壊していく双剛腕。

 しかし攻撃的な行動とは裏腹に、出てくる会話は穏やかだ。


「十二天魔団のみんなと王城を攻略した話を、とても分かりやすく話してくれるたんだ~」

「いやどんなテンションで聞けばいいんだよそのハナシッ!」


 あ、ツッコミが入った。

 まぁさすがにね……。


「ニンゲン倒したハナシなんだからさ~。にこにこしながら聞いて?」

「同族殺したハナシをにこにこ聞いてたらいよいよヤバいヤツだろオレは」

「いや、フラワーちんは基本的にはヤバいヤツだけど……」


 というかツッコミどころは、話を聞く聞かないではなく、攻撃と話口調の差異なんだけどね。……とは、ターゲットがボクに向きそうだから言わないけど。


「しかし……。体力無尽蔵だなこいつ」

「正直まいったねぇ……」


 当たり前だ。

 リューちゃんらがいても、拮抗出来なかったのだ。

 戦力が減った今。状況は悪くなるばかり――――


「……フラワーちゃん?」


 ボクは口元を覆って、ぼそりとつぶやいた。

 彼女の目……。

 ギラついてる。いや……、企んでる目をしてる。


「……まさか」


 ボクは事前に聞かされて(・・・・・・・・)いた作戦(・・・・)を思い出してしまって、ごくりと唾を飲み込んだ。


 たしかに。

 メンツ的には可能だ。

 というか究極、フラワーちゃんともう一人がいれば、作戦は成立する。

 だけどその作戦の肝は、ある程度魔王にもダメージが入ることが前提だ。


「なら……、今は待機してる二人を投入するか……」


 リューちゃんと、新戦力のウディルルを見やる。

 道中もみていたけれど、この二人はスピードがある。

 今はパワーで押しているけれど、今度はスピードで攪乱すれば、魔王も混乱するかもしれない。


「って……、ちょっと! リューちゃんうしろ!」

「む……? うぉ!?」


 ひゅんひゅんと、淡黒い触手がうなる。

 見ると、まるでクラーケンのような大きな触手が、次々とリューちゃんとウディルルを襲っていた。

 そしてその中心に立っているのは――――


「なっ……!? ケ、ケケキ!?」

「Fdrrrrrr……ッ」


 そこには。ケモノめいた呼吸をしながら、ボクがあのとき倒しきったはずの十二天魔団、ケケキの姿が在った。

 でもあのとき見たときよりも、更に正気度は下がっている。

 キッシャリアンのように、言葉をまともに喋っていない。


「リュ、リューちゃん! 躱して! ウディルルも!」

「く、何が……!」

「グッ……!」


 ウディルルは躱しながら、ボクへと言葉を投げる。


「たぶん……、エントルティンの仕業ダ! アイツ、自分の命ッテいうエネルギーで、ケケキの存在を蘇らせタんダ!」

「は!? そんなこと……」


 いや、可能なんだろう。

 可能だということ前提で考えないと。

 相手は魔王軍。しかもナンバーツー。常識が通用する相手じゃない。


「コイツは他の十二天魔団のヤツらの能力を合体させてル! ケケキはこういうのハ使えナイ! ……ット!?」

「ウディルル! ……分かったありがとう!

 リューちゃん! そっちは二人で対処してくれ!」

「うむ!」

「なんとかして、」


 考える。


「ボクが、」


 考えをめぐらす。


「打開策を、」


 ケケキをどうにかする術を。


「考えるから――――」



「隙み~つけた」

「――――え」



 瞬間。

 目の前に、魔王の指が見えた。


「、…………、」


 アドレナリンの作用により、脳が高速回転をし始める。

 なにが起こったのかを刹那で理解。

 そうだ。隙を与えてしまった。

 極限状態だというのに。魔王という存在から、一瞬でも『作戦』のほうへと、意識を離してしまったのだ。この愚かしいボクは。


 魔王はそれを見逃さない。

 人の理の外で在って(いきて)きた生物にとって、殺せる奴は躊躇なく殺すのが当たり前なのだ。


 大きな指は容赦なくボクの頭部をつかもうとする。

 つかまれたら最後。軽く力を入れるだけで、頭は容赦なく砕け散るだろう。


 悲鳴すらもあげられない、刹那にも満たない瞬間時間。

 こうして。

 セルマ・アンブロシアの生命は、あっけなく終わりを告げ――――


「セル、マ……!」

「おぉ~?」

「……え、」


 死を、覚悟し終えた瞬間。

 魔王の巨腕がぴたりと止まる。

 そこには、燃え盛る炎の腕が見えた。


「ク、クリス……!?」

「ぐぐっ……! ッ……!」


 逆立つ髪。燃え盛る四肢。そして、沸き立つ無限にも思える魔力。


「――――……ッ!」


 この状態は知っている。

 精霊状態だ。

 クリスエルトという上位精霊。その本来の力を十二分に発揮できる姿。

 だけどその代わり、膨大なエネルギーを消費していき、それが尽きれば消滅してしまう。


「おぉ~! エンちゃんから聞いてはいたけど、すごい状態だね~」

「そいつは……、どうも!」

「おわわ~!」


 止めた腕ごと、無理やり力任せに放り投げる。

 クリスの倍ほどの質量を誇る巨体は、反対側の壁へと飛んでいき、激しく衝突した。


「クリス、その、その姿は……!」

「……いいんだ。お前が無事でよかった」

「まってよ! 何言って……、」

「マーちん!」


 肩を強く掴まれる。

 サユキちゃんだった。

 その目は、悲しいながらも、決意を秘めた眼光をしている。


「……クリスちんが、決めたことだよ」

「そうだセルマ。もう状況は済んだ。だからあとは――――進むだけだ」

「……っ」


 クリスエルト・グリムは。

 もうすでに、上位精霊状態に成った。成ってしまった。

 それがボクの油断のせいであれなんであれ、状況はそうなっているのだ。

 だったら……!


「……オーライ。考える」

「それでこそだ」


 悲観的になるな。

 クリスは消滅を覚悟で、命を賭して、状況を好転させたんだ。

 だったらそれを、うまく使ってこそのセルマ・アンブロシアだろう。


「クリスが消滅するまでに、決着をつける」


 おそらく十分前後。

 元より魔王と、長くやりあえるはずもない。


「総力戦だ……! いくよみんな!」


 これが。

 戦いのスタートライン。

 長きにわたる魔王との。

 決着のための戦いが、

 今始まった。








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