表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/20

#19:ナヴィという少女



 あの子が怪我をして帰ってきた。

 まただ。

 これでもう何度目になるだろう。


 あの子は遊んでいて転んだと言っていたが、それは嘘だ。

 きっと私たちを心配させない為に言ったのだろう。

 あの子は優しい子だ。


 なのに。


 なぜ皆はあの子を受け入れてくれないのだ。

 ただ、人より強く不思議な力があるだけなのに。

 あの子は今までに誰かを傷つけた事なんて無いのに。


 どうして、誰もあの子を受け入れてくれないのだ。


 もう、どうしていいのか分からない。

 あの子は外の世界を見るのが好きなようだ。

 閉じ込めて置くことが正しい事なのだろうか。

 わからない。


 なら、せめて、あの子を守ろう。

 私たちでは無理だった。


 だから願おう。

 あの子をただ守ってくれるように。


 あの子さえ。

 あの子さえ守ってくれればそれでいい。



 ――クエスト、魔女討伐の手伝い――





「またこーいうのかよ」

「聞くまでも無いと思うけど、『あの子』ってナヴィの事だよね?」

「…わからんぞ。ミスリードかもしれない」

「つーか、クエストの内容と、テキストがちがうくね?」


 村長から依頼を受けた三人は【アカシック・ガイドブック】のクエストページでクエストの確認を取りつつ、首をかしげた。

 依頼の内容とクエストに出ている情報がズレている。


 依頼の内容は魔女の討伐だ。

 だが、ページの内容はそうさせないような事が書いてある。

 同情を誘うような事が書いてある。


「なんだろうね、これ」

「…これはあれか。どっちの味方をするかでルートが変わる感じか?」

「ゴーレムを敵にまわすルートと、人類を敵にまわすルートか」


 クエストページの情報から察するに、視点になっているのはナヴィの親なのだろう。

 最後の一文を見ると、ゴーレムを作ってナヴィを人の悪意から守ろうとしたらしい。

 それが発端。


 そして今は、人を害するゴーレムになっているということ。


「…人と敵対してゴーレムの味方になる展開ってのもよくわからないな」


 ダークヒーローにでもなるのか。それとも悪役にまわるのか。


 それに人と敵対した場合、道具や武具はどうなるのだろう。

 どうやって入手する事になるのだろう。

 店の人だけは中立な存在として残るのだろうか。


「根拠はないけどさ、どっちを選んでも、ラスボスはナヴィの親御さんになりそうな気がする」

「メタるな」

「本当になんとなくだけどね」


 今出ている情報で推理するなら、ナヴィがボスになるか、ナヴィの両親が最後のボスになるのだろう。

 早まった考えではあるが。

 多分間違った考えである事もわかっているが。


 そもそもナヴィの親はどうしたのだろう。

 あの洞窟に一人になっているナヴィを見れば、何処かで離れ離れになったのはわかる。


 わかるが、どうしてそうなったのかがわからない。


「ねえ。仮にルート選択があったとして、どっち選ぶ?」

「…、……またまた」

「なあ」

「…なあ」


 その言葉をゴトーが言う時点で、茶番感が漂っていた。

 聞くまでもない。


「…俺はどっちでもいいぞ。なんならこのまま放置でも良い」

「オレもどっちでもいいぞ」


 イトーとサトーの二人はゴトーの顔を伺うように、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべた。

 ゴトーは居心地の悪さを覚える。

 二人の性格は悪い。

 もう少し言えば、三人とも性格は悪い。


「自分も別にどっちでも良いんだけど……」

「拗ねんなよ」

「…まあ、考えるまでも無いだろ」


 聞くまでも無いなら、考えるまでも無い。

 シナリオがどっちを選ばせたいかなんて。





#####





「準備が出来たら、ワシの所までくるがよい。……だってさ」

「そろそろ終盤か」

「…この村のクエストはな。いや、このまま引っ張る可能性もあるな」


 クエストを受注した三人は、とりあえず道具の購入を済ませ、森に来た。

 白樺のクエストを終わらせておこうと思ったからだ。


 それについさっきボス戦終わったのに、すぐには切り替えられない。

 気分転換を挟みたい。


「どーせ、この後ボス戦もあんだろ?」

「…そりゃあるだろ」

「絶対あるよね」


 話の流れから考えれば、ここが山場なのだろう。

 RPGで山場があったら普通はボス戦がある。

 むしろ、無いと考える方がありえない。


「ナヴィと戦う事になるのかな?」

「わからん」

「…村人と戦う事になるんじゃないのか?」

「どうだろうね」


 仮にナヴィの味方をするなら、敵になるのは村人で。

 もしかしたら戦う事になるのかもしれない。


 だが、その場合、本当に戦いになるのだろうか。

 あんな雪だるま達に苦戦するようでは、例え数を揃えてみても三人からしてみれば雑魚の集まりだ。

 人である。という一点にしか懸念材料がない。



 それはさておき、三人は困った。


 白樺が見つからない。

 マップも森の中を詳細に表示してくれるわけではないので、おおよそ練り歩いた場所を覚えながら探すしかない。

 探している。


 しかし、三人が自分たちで言ったように迷いの森らしく、同じ場所をグルグル歩いているようでおぼろげだ。

 進展してる感覚がほとんどない。


「やべー。思ったよりも10倍クソだった」

「かといって今更止めるのも……だしね」

「…俺はいつ止めてもいいぞ」


 なんて言いつつも練り歩く三人。

 誰かがはっきり言わないと何となく惰性で続けてしまう。

 そしてイライラが募る。


「大体、ツボに枝を飾る文化がわからん」

「普通は花とかだよね」

「…花はすぐ枯れるだろ」

「ゲームの中なのに?」

「…なんでもゲームだからで済まそうとするな」


 最初はゴーレムとの戦いを回避して、逃げたりして、早めに終わらせようと思っていたのだが、ストレス発散の為にゴーレムを蹴散らすことにした。


 それを何度か。

 蹴散らされたゴーレムも心なしか、普段より派手に破損していた。

 けれど気分は優れない。


 三人が静かになると森の中も静かになる。

 他に音を鳴らす存在がゴーレムくらいしか居ないからだ。

 あるのは自分たちの足音位だろうか。


 動物の鳴き声でもあればやかましくなるのだろうが、今のところ動物の姿は見えない。


 森は静かであるべきとでも開発が思ったのか。

 それとも動物を配置すると、ゴーレムとの見分けがつきにくくなるからだろうか。

 先の見えない森で、敵とそうでない存在が混在すると、緊張感が高まるからだろうか。


 なんにせよ、配置もなく音を鳴らすとなるとSEという形を取ることになり、没入感が薄れてしまう。


「どんだけ潰しても湧いて出てくんのな。コイツら」

「湧いて出てこなくなったら、それはそれで問題だよ」

「…これ以上レベル上げさせたくないとか、開発が面倒くさい所のゲームだとありそうだ。リポップ制限」


 グチグチと文句を言いながらもやめられない三人。


「つーか、これ邪魔だな」


 イトーは先ほど貰った体力計をさして、そう言った。

 体力がわかるのは良い。

 だが、いちいち確認しながら戦うのは楽しくない。


 今まで体力の管理をゴトーに任せていたので、その工程を自分でやるのが面倒くさい。

 それにイトーは、アクセサリーのような肌に付けるものが嫌いだった。腕時計とか。


「やっぱ、ゴトーに任せるわ」


 せっかく貰った体力計をカバンにしまうイトー。


「別にいいけどさ。嫌々やってたわけじゃないし。サトーくんはどうするの?」

「…は?」

「なんで? なんで怒るのかわからないんですけど?」


 サトーはゴトーの事を心から信頼しているわけではないので、自分で出来る事は自分でするつもりだった。

 他人と比べれば信用していないわけではないが、信頼はしていない。


 それにアクセサリーの類も別に嫌ではない。

 今だってメガネをしている。

 そもそもサトーは、昔から姉の手によって着せ替えられたりなど、オモチャにされていたのであまり気にしていなかった。

 身体にごちゃごちゃ付いていても特に気にならない。


「やっぱさ。こういう上等なアイテムはクエストでもらうのかな」

「当たり前だろ」

「…むしろそれ以外があると思ってるのか」

「じゃあ、このクエストでも何かもらえたりするのかな?」

「こんなクソサブクエストでもらえるわけねーだろ」


 三人のイライラは段々と自分の中で消化しきれず、口も悪くなってきた。

 だったら止めればいいのにと思いつつも、誰もが自分からは言い出せず、惰性を続けている。


「…今更言うのもあれなんだが。これ、ヒントがあるクエスト……いや、なんでもない」

「うるせークソ」

「そんなのわかってるよ。わかってたよ。気づいたのはさっきだけど」


 三人は薄々気づいていた。


 普通に考えれば、景色が同じような広い森で、何のヒントもなく探し物のクエストなんてあるわけがなかった。

 これはきっと何処かでヒントを聞くクエストだったのだと。

 既に時間は30分を超えていた。





#####





「なんか、嫌な感じだね」


 白樺を探すクエストは30分どころか、1時間以上の時間を費やした。

 見つけたのは、おおよそ森の全体の5分の2位を散策した辺り。

 マップで見て森の中心より少し右奥。


 予想していた通り、一本だけ。

 この白い世界で、茶色い木々の中で、一本だけの白い木。


 そして三人は400G貰った。

 気分転換にはなった。悪い意味で。



 準備の出来た三人は村長にその事を伝え、さっそくとばかりにナヴィ討伐へと向かう。

 なぜか村人を引き連れて。


 その数は、村長を含めて20人。

 子供の姿はないようだが、村長以外のそれぞれが武器を持っている。

 ゆっくりと三人と村長の後ろについてくる。

 まるで見張られているようだった。


 なぜ、村人を引き連れて歩いているんだろう。

 そもそも自分達は何をしているんだろう。


 村人の視線が強すぎて、ゴトーはなぜこんな事をしているのかわからない状態になっていた。


 イトーは、ただボス戦をしてみたいのだろう。

 サトーは、よくわからない。目の前の作業を消化しているだけのように見える。

 ゴトー自身は……。


 助けたい。と思う。けど。


 ゴトーは、サトーがいつか言ったように放置すれば良かったと、今更ながらに思った。

 そうすれば現状維持が出来る。

 ナヴィはずっとこのまま洞の中だが、村人達も手出しする事が出来ないままになる。

 なんて。


 いやだなと思う。

 後ろの人だけでも消えてくれないかなと思う。

 なんて。



 村を出て、坂を上り、洞の前。

 短い距離で気持ちを整理する間も無く洞に着いた。

 ナヴィはこの奥に居る。

 しかし例によって、黒い壁が立っている。


 その黒い壁はいつもと違い、いつか見たイカの化け物のようなものが面に表示され、臨戦態勢なのが見て取れた。


「…そうかこいつ」

「ナヴィとゴーレムの関係を知った時点で気づくべきだったね」

「なんでもいいけど、コイツがボスなんだろ?」


 始まりが洞の内側だったから思い違いをしていた。

 このゴーレムはナヴィを閉じ込めているのではなく、外敵からナヴィを守っていた。


 そしてふと、誰かが思った。

 今まで出会った人の中で、唯一、ナヴィだけがゴーレムをモンスターと呼んでいたことを。

 それはどんな気持ちで言っていたのだろう。

 仮にも、親が自分を守るために用意してくれたものに対して。


 ――リサイクルモノリス・ブラックスクリーン――


 黒い壁が再び、三人の前に立ちふさがっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ