#18:今度は三人で
「オシ、楽勝! どうだ、見たか!」
スケールコングに勝利したイトーが、ふんぞり返るような態度で戻ってきた。
勝てた事が嬉しいのか、とにかくご機嫌だ。
だが、待機組の二人は首をかしげた。
「…ん? 楽勝? あ、うん」
「あん?」
「や、ギリギリではなかったけど、楽勝でもなくない?
ほら、ログによると、えっと、大体全部で84のダメージを受けてるし。
宿の上昇分を含めても、一回は死んでるよ」
「んだ?」
なんか違う。
イトーが期待していた反応と二人の反応がなにか違った。
絶賛は無いにしても、もうちょっと良い反応があると思っていたのに。
三人は森の端っこ、行き止まりの垣根を背にして【アカシック・ガイドブック】を開く。
倒したスケールコングは既に雪の塊となり、地面と同化した。
2m近くある巨体なので、それなりの体積の山が出来るハズなのだが、普通に地面に溶けるように薄くなって消えていた。
「…つまり、合計で14回攻撃を喰らったのか」
「結構食らったんだね」
「…14回って、多いのか? 少ないって事はないよな」
「オイ、人の喜びに水を差してんじゃねーぞ。オイ、コラ」
イトーは結果的に30ポーションを3つ、60ポーションを1つ消費した。
60ポーションは使わなくてもよかったかも知れないが、回復が遅れた時、咄嗟に60ポーションを使ってしまった。
それでもイトー本人としては結構上手くやったつもりだったのだ。
実際、そこそこ上手くやれていたと自負している。恐怖心を抑えたし、逃げなかった。
「まあ、ほぼ初見にしてはいい方なのかも? 一回も離脱しなかったし」
「…なんだかんだで、ずっとインファイトしてたな」
「オウ」
「自分には絶対無理」
「…俺も多分無理だな」
「だろ?」
二人の同意を得て、イトーは誇らしい気分になった。
自分に出来た事が他人にはできない、というのは優越感をくれる。
もちろんこれは、不機嫌になりそうだったイトーに対する二人のおべっかだ。
「あれ? そういや、蹴りってあった? 無かったよね?」
「…最初のボスでそこまで複雑な行動パターンは無いんじゃないか?
そういうのはもっと上の難易度だろ」
「そういえばさ、インフェルノとかの変な難易度っていつの間にか見るようになったよね」
「…俺は地球防衛軍で知った」
「オレもその辺りからかな」
「…以前はイージー、ノーマル、ハード、ベリーハード、アルティメットってとこか」
「ぶっちゃけイージーモードってやんねーわ」
「わかる。プライドが許さないよね」
「…そしてカジュアルモードとかいうのが出てくるわけだ」
ビデオゲームには難易度選択できるものがあり、その中でも一番下のランクがノーマルの場合とイージーの場合がある。
どちらでも一番下のランクである事には代わりがないのだが、イージーモードの場合、なんとなく負けたような気がしてくるのだ。
開発が用意した救済措置を使っているような。
出来ないお前らの為に用意しましたよ、と。
「そもそも、このゲームって難易度とかあるのか?」
「…無いんじゃないか? 設定するような場所もなかったし」
「どうだろうね」
ゲームを始める時、タブレットにはスタートのボタンしかなかった。
それ以外にも、何か設定するような場所やタイミングは無かった。
【アカシック・ガイドブック】にも難易度を設定する項目は無かったので、難易度設定自体無いのかもしれない。
「とりあえず今日はもうログアウトしよっか。時間もないし。キリも良いし」
「…だな」
「気分良く終わりたいしな」
残り時間を見ると、タイムアウトまで10分を下回っていた。
何かをするには時間が足りない。
クエストをするには時間が無く、村に戻るにしても意味がない。
何故なら、ログアウトしてしまえば教会に戻るから。
「…そういや、60ポーションを4つ持たない場合、松の部屋を使う理由ってないよな」
「松の部屋は300Gで8しか上がらないからね。60ポーションは200Gで30位回復するけど」
30ポーションで17。
60ポーションで33。
現在はレベルが8なのでそれだけの回復量がある。
「…無駄金だったか」
「ぶち大概にしろよ、オメーら」
気分良く終わらせない、友人サトーとゴトー。
──4日→5日目──
三人はスケールコングでの疲れを癒す為に宿にきた。
いや、HPの低下を疲れと言って良いのだろうか。
とにかく宿にきた。
もちろん梅の部屋。10G。
スケールコングの札でお金も手に入ったので何の問題もない。
HPの回復を確認しロビーに戻ると、女将っぽい人から何故か90ポーションを1つずつ渡された。
「お疲れ様です。こちら、村長からのお土産でございます」
「…?」
なにやら村長からの支給品らしい。
きっとスケールコング戦でポーションを使った事を見越しての報酬なのだろう。
ボス戦の後に回復の為に宿に寄る。つまりはそういう事なのだ。
もし飯屋に寄っていたら飯屋でポーションを貰ったに違いない。
「…クエスト報酬が少ないと思ってたけど、こういう事か」
三人が受けた大型のゴーレム退治のクエストの報酬は1000G。
今までのクエストと比べてみると、労力的に考えて少ない。
だが、ここで貰った90ポーションを足せば、500G分+される事になる。
「これさ、5人以上のパーティだったらどうするんだろうね」
「…?」
「妖精設定だろ?」
「…ああ、それか」
前に道具屋が言っていた、ポーションは4つまでしか持てないという設定。
もし5つ以上持つと妖精が集まり、どこかへ行ってしまい、水になる。
今は3人でのプレイだから良いが、5人でプレイした場合、女将がポーションを配る前にポーションに5つ集まった事になり、水に変わるのではないだろうか?
「設定ガバガバだな」
しかし、水になるという設定を本当に守っていたら、道具屋はポーションの管理を相当工夫しなければならなくなる。
それに設定をキツく守っていたら、3人が近づいた時にポーションも一緒に近づいて消えてしまう事になる。
それでは流石に不都合がすぎる。
だからきっと妖精という曖昧なものなのだろう。物理現象ではなく。
「そういえば、大型のゴーレムは二体って言ってなかったっけ? クエスト聞いた時に。
もう一体はどうしたんだろう? 見てないよね?」
「…というか、もう一体ってスケールコングなのか? それとも別の奴なのか?」
「つーか、各個撃破なら、ゴーレム二体に分ける必要ないだろ」
「だよね。なんかクエスト的な繋がりも見えないし」
村長から依頼を受けたとき、村長は大型のゴーレム二体発見した、と言っていた。
なら二体同時に出てくるか、連続戦闘になるか、何らかの繋がりを持ってくるかと思っていたのが、今のところその繋がりが見えない。
こうやって回復しつつ雑談する暇さえある。
「…仮にこの後もう一体来るとして、同じランクのを続けて出されると消化試合感がすごいな」
「わかる」
「だからなのかわからないけどさ、最近の漫画で四天王とか出てくると、三人目位で一回敗北イベントあるよね」
「それは知らん。具体的には何の漫画だ?」
「ごめん、雰囲気と思い込みで言った」
ゴトーはこういう事を平気で言う。
ちなみに三人は今、宿のロビーに居る。
例によって女将の無言の圧力を感じるが、若い三人にとっては既に慣れたものだった。
女将の圧力はどうでもよいが、宿に留まる必要もない三人が外に出るために靴を履くと、外から、前に聞いたような声が聞こえた。
ゴーレムが出た。と。
三人は思った。またか。
「…既視感」
「これは、クエストの続きかな? それとも別のイベントかな?」
「クエストの続きだろ。ポーション支給されたし」
「…今から買いに行く暇は、……無いか」
外に出ると、またゴーレムで溢れていた。
今度は二段の雪だるまだけでなく、森から出てきたように多種で溢れている。
しかし大体が雪だるまのようだ。
二段と三段。
大した違いはないが、三段の雪だるまの方が強い。
それよりも大きく、前回と違った部分がある。
「…村人、戦えるんだな」
「予想とちょっと違ったね」
村人が農具――武器を持って、ゴーレムに立ち向かっている。
明らかに危なげだが、それでもなんとか戦う事が出来ているようだ。
これで村人が上等な立ち回りをしていたら、それはそれで三人のやる気が削がれていただろう。
なんとか体裁を保てたようだ。
「最低限の抵抗位してもらわないと、世界終わるしな」
「…いくらなんでも三人で世界のゴーレム一掃とか」
「きっとあれなんだろうね。物語終盤のNPCは序盤のボス位なら倒せそうな強さなんだよねきっと」
レベルの概念があるRPGというのは基本的に、最初に出てくる敵は弱く、徐々に強くなっていうという暗黙の了解がある。
その為、最後の方に出てくる敵は最初とは比べ物にならないほど強い。
そしてNPCが敵に対抗できる場合、終盤に出てくるNPCも釣られて驚きの強さを持っていたりする。
「…これ、ずっと見てたらいつまでも戦い続けんのか?」
「どっちでもいいだろ」
「とりあえず加勢しよっか」
三人が手近なところに加勢しようとした所で、一際大きな悲鳴が聞こえた。
女性の声だ。
どうやら方向的に村の一番広い場所、中央広場のようだが。
「…また面倒臭そうな悲鳴だ」
「あっちは広場だよね。ボスかな? スケールコング? それとも?」
「どーすんね」
「…その辺の雑魚をやってからでいいだろ」
「え? なんで? こっちは放っておけばいいじゃん」
「…HP減ってる雑魚狩って、手軽に経験値と札を回収するのもありだろ」
いわゆる横殴りである。
NPCは助けを求めているので、悪いことをしている訳ではないが、かすめ取る行為は邪である。
二人はサトーの案に賛成し、手近なゴーレムへと向かおうとした。
するとまた聞こえてくる、一際大きな悲鳴。
そしてもう一度。
「……」
「……」
「…これは何度でも聞こえてくるやつだな」
催促するように聞こえてくる悲鳴にウンザリしながら、三人は悲鳴の方へと足を向けた。
なんだか『いいえ』を選ぶと会話がループするゲームをしている気分だった。
いつかの強制力を感じた。
無視をしようと思っても、聞こえてくる悲鳴は耳障りだ。
不快な音というのは我慢する事が難しい。
時には殺人事件に発展する騒音問題のように。
三人が悲鳴の出処へ駆けつけると、案の定、スケールコングが居た。
その足元には妙齢の女性が尻もちをついている。
そして、スケールコングが腕を振り上げ、妙齢の女性へと……。
三人の位置からはもう間に合わない。届かない。
しかし、その腕が妙齢の女性を襲う事はなかった。
どこからか現れた、二段の雪だるまが腕も無くスケールコングへとぶつかって、そのまま何処かへと去っていった。
「??」
「なんだ、アレ?」
雪だるまがぶつかった隙に妙齢の女性は逃げたようだ。
取り残されたスケールコングが三人へと向き直る。
「なんだ? この導入」
「普通にやったら天邪鬼な自分らが助けに入らないかもしれないから、こうやって間に挟んだのかな?」
「まあ、あれか。カッコつけて飛び出すヤツが全てでもないからな」
「…じゃあ、此処はもういいな」
「あ、やらないの」
「…緊急性なくなったし」
「道具屋に補給してるヒマもねーし、今のウチにやった方が良くねーか?」
「…これを見越してのイベントか」
宿で回復をしてからの。
90ポーションを貰ってからの。
補給の間もなく、二匹目のスケールコング戦が始まった。
今度は三人で。
――そう、三人で。
前回はイトー一人でした事を、今回は三人でやるのだから簡単なハズ。
と思ったらそうでも無かった。
まず、パターンが変わった。
離れた位置に立つゴトーが増えた所為か、遠距離攻撃が増えた。
「散弾はずるいって!」
スケールコングは自分で摘んだ脇腹の雪を、散弾のように投げつけてくる。
ゴトーはもちろん避ける事ができずに、ダメージを受ける。
その数値は9。
一粒でも多数でも同じだが、当たってしまえば9のダメージを受けた。
防具を用意しなかったゴトーには大きなダメージだ。
「…一応、自分で使った分の雪もダメージになるんだな。長引かせれば自滅もありそうだ」
しかも三人に増えてターゲットが飛ぶようになり、行動のランダム性も高くなった。
あっちに行ったり、こっちに行ったり。
イトーは一人でやった時に比べ、パターン化できない動きにストレスを感じたが、それでも大分楽な戦いにはなっている。
「モヤモヤするぞ、チクショウ」
「どうどう」
「オメーはもっと、オレのストレスを減らす立ち回りを覚えろ」
「無茶言わないでよ」
二人を尻目にサトーは、新しく手に入れた杖を構えながらの立ち回りを試みる。
と言っても、既に雑魚戦で何回も使っているので慣れた物だ。
杖を構え、敵の間合いを計り、そのギリギリ内側に立ち、そして敵の攻撃に合わせて――。
例のスケールコングの雄叫びに合わせて、攻撃を避ける。
その攻撃線上に杖を残しつつ。
残した杖がスケールコングの腕に当たり、そのままダメージへと変換される。
これがサトーの目指したスタイルだった。
相手の攻撃を避け、カウンターを入れる事でダメージを与えながらチャンスを待つスタイル。
相手の攻撃してきた部分を狙う事で、間合いの深い所に入る必要が無く、リスクを極力減らした戦い方。
とてもサトーらしい戦い方。
間合いのギリギリに立つ、攻撃を避ける、その攻撃して来た部分を叩く。
そういうルーチン。
それを何度か繰り返すと、スケールコングの腕が壊れた。
「…ようやく壊れたか」
「なんか、壊れる部分おかしくない? おかしくない?」
先端に近い部分を叩いていたハズなのに、肘よりも深い部分で壊れ、落ちる腕。
これで主力である片腕がなくなった。
そこから先は早かった。
手段をひとつ失ったスケールコングに、もう驚異は無く、三人でタコ殴りにする。
スケールコングとの戦いは思ったよりもあっさりと終わった。
一人から三人に増えた事で、攻撃を加える機会が増えた事と、前回はイトーがパターンを見るために観察と回避に注力していたからだろう。
「…あー終わった終わった」
「札も回収したし、村の方の雑魚集団行こっか」
「メンドくせー、ボス倒した後に雑魚戦とかやる気でねー」
「…スイッチ切り替わってるからな」
結果から言うと、雑魚戦は特になかった。
どうやら三人がスケールコングと戦っている間に撃退したようだ。
勘繰るような事を言えば、そういうシナリオだったのだろう。
「…雪だるま程度は撃退出来てもおかしくないか」
「そういや、アレって何だったんだろうな? スケールコングにぶつかったヤツ。バグか?」
「違うでしょ。あれでしょ? あの、最初のクエストの。
子供達が保護した、雪だるま。人間側に寝返ったんだよ」
「…いや、あれはきっと」
「きっと?」
きっと、の続きをサトーは言わなかった。
何だか急に恥ずかしい話を言おうとしている事に気づいたからだ。
そう、あれはきっと、寝返りとかじゃなくて、ただ――。
――オニさんこちら、手の鳴る方へ。
#####
「うむ、ごくろうじゃった」
クエストを終えた三人は、村長の所へ趣いた。
別にクエスト報酬の事がなければこんな所には来ないのだが、報酬を貰う為に来た。
そして、村長からねぎらいの言葉と報酬を貰う。
サトーは安全な場所でぬくぬくしていた村長に上から物を言われてムッとしたが、態度には出さなかった。
こんな事でいちいちイライラしていたら、これから先やっていけない。
「それから、これも渡しておこう」
「…?」
「時計?」
お金のやり取りが終わった後、村長からまた別の何かを貰う。
それは何か、腕時計のような形状をしている。
だが、時計として機能する為の針はなく、デジタル時計というわけでもない。
時計盤の部分には丸があるだけだ。
「これはオーパーツという物で、装着者の体力がわかるという物らしい」
「…ようやくHPが自力でわかるようになるのか」
「円グラフ式なんだね」
「細かい数値はわからないんか」
ぐちぐちと文句を言いつつ、三人は体力計を受け取り、装着する。
それからオーパーツがなんなのか聞いてみると、『作る技術が残っていない物』らしい。
つまりどういう事なのかよくわからなかったので、三人はとりあえず、『店売りしていない物』として認識した。
しかし、そんな貴重な物をこんな簡単にもらって良いのだろうか。
それも3つも。
「さて、今回の事は感謝を言おう。君たちのおかげで村は助かった。だが、村の被害は甚大じゃ」
「数の暴力には勝てないですよ」
「…助けに入ろうとしたら止められたしな」
「シナリオにな」
村長宅の応接間。横に長いソファ。
貴重なアイテムを受け取った三人は、ソファに深く腰を掛けた。
どっこいしょ、と。気安い感じで。
いま、村長は村に被害が出たと言うが、どのみち、あの数を――なんて三人には無理だが、そもそも助けに入ろうとしたら悲鳴によって止められたのだ。
「それでじゃ。これまでの依頼から君たちに、ゴーレムを倒す力がある事がわかった」
これまでの依頼はゴーレムに対抗する力があるかどうかを見ていたらしい。
発端からして、ゴーレムと戦う力があったので依頼という形で座敷牢から釈放されたのだが、戦うよりも上の段階で認められたようだ。
スケールコングを倒したからだろうか。
「村民からの要望も大きく。心苦しいことじゃが」
村長のその言い方には何かを含んでいた。妙にもったいぶった言い方だ。
何やら、気が乗らない事があるらしい。
だが、村人からの声が大きく、無視もできなくなったようだ。
「最後の依頼を頼もう」
そして三人はナヴィ討伐の依頼を受ける事になった。




