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*2

 対象に接触してから完全に撤退するまでの時間は二十五秒以内。

「クールだ」と口癖を繰り返しながらCはそういうルールを提示してきた。

 初め聞いたとき、それはあまりにも短いのではないかと疑問に思った。

 ヒトをひとり殺す時間にしては。

 あまりにも短い。

 そういう印象を受けた。

 しかし、Cは俺よりもずっと頭の切れる奴だった。まさにクールだ。

 やってみれば簡単なことだった。

 ナイフで刺す。

 財布から現金を抜く。

 走る。

 角をひとつ曲がれば、もうただのジョガーだ。

 俺たちは平然とポケットに現金とナイフをしまい、本当にジョギングをし、ファミレスで食事をしながら現金を配分してそれぞれ帰って行く。

 簡単なことだ。

 初めは金に困って始めた事だったが、「こんなに簡単なら」と、定期的に繰り返すようになった。しかし、それももう止め時だろう。こういうものは大抵、罪悪感がなくなってきた頃に失敗する。初めの内はあった罪の意識がなくなると共に、そこに共存している不安や警戒、注意も一緒になくなってしまう。それの証拠に、最初は必要以上に、突き刺したナイフを捻ったり、引き裂いたりして致命傷を負わせていたが、今はそれもしない。金が欲しいだけで、ヒトを殺したいわけではないからな。

 しかし今回は話が違う。俺はこの女にトドメを刺す。自分たちがジョガーに扮装しているのに対し、この女はまともにジョギングをする本物のジョガーだった。走っていく女を追うために、俺たちはある程度姿をさらすことになってしまった。

 だからとどめを刺す。

 腹部のナイフを抜けば、それでも十分に死ぬだけの出血をするだろうが、念押しだ、心臓を狙ってもう一刺しくらいしておくべきだろう。

「……」

 そのことに気付いたのは、ちゃんと自分の油断が始まっていることを自覚したからだろう。俺は無言を感じ取った。

 呼吸をする音もだんだんと小さく、弱くなってきた女が、意識朦朧として喋れないのではなくわざわざ何も言わないで倒れていることに気が付いた。

 その違いをうまく説明しろと言われれば言葉に迷うだろうが、俺はその無言に意図を感じ取ったのだ。喋らないということをしている。とでも言えばいいのか。……しかし、だからといって、この女に何ができるとも思えない。おとなしく死んだフリでもしていれば見逃されるとでも思っているのだろうか?

 警戒をしながら、倒れる女の背中に近づく。のぞき込むようにしてナイフを抜こうと手を伸ばした。だが女の腹部には、俺の刺したナイフの柄は見あたらなかった。

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