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二台のスマートフォン

 振袖をサクヤにそれとなく勧めてみたが。

「持ってない!」

 と一刀両断されてしまった。

 まあ、初詣に行くわけではないから、正装する必要もないのだが。

 男心の分からない彼女だ。

 終いには。

「じゃ、あたし、初ランニング行ってくるから」

 と午前五時になる少し前に家を飛び出してしまった。ちゃんと日の出までに帰って来るんだろうか。彼女なら初日の出の時間を一時間くらい勘違いしてた、なんてこともありそうな気がしてしまう。

 というか。

「サクヤ、ランニングとかしてたの?」

「毎日ね」

「毎日!?」

 誘ってくれよぉ。と、運動不足が気になり始めていた俺は嘆いた。

 毎日同じ部屋で過ごしていて気付かない俺も俺だが。

 彼女がバタンとドアを閉めて出て行くと、部屋は静かになった。

 リビングのテーブルに転がったみかんを剥いて、一房口に放る。甘い。

 しばらく、眠気に対抗するように、みかんを口へ放り続けた。

 寝室の窓は、カーテンがしっかりと閉められていた。

 ベランダに出て、先日ホーム・センターで買った植木鉢を確認する。

 植物の名前は、あまり気にしないで買ったので忘れてしまった。鉢の中には小型のカメラが隠してある。ベランダ全体と、裏野ハイツの敷地に面している道路がわずかに写るように設置してあった。この数日のうちは、怪しい陰は写らなかった。

 部屋に戻って、窓の鍵と、買ってきて取り付けたサブのロックをしっかりと掛け、カーテンを閉める。

「そうだ」

 何で忘れていたのか、と、思い出してみれば思うが、カーテンを閉めた時に些細な出来事について思い出した。

 二ヶ月ほど前。この部屋の下見に来たときに、カーテンレールの上に見つけた、グレーの指輪ケース。洋服ダンスの奥にしまっていたそれを取り出す。

 それを探しに、以前の住人が来ることはなさそうだな、と思った。

 何となく、あけてしまうのには抵抗があったけれど、警察に届ければ、どのみち誰かが、中身をチェックするだろうし、もしかしたら持ち主の手がかりがあるかもしれないから、一度あけてみようかと考えた。単純にそれは、ただの好奇心だったのかもしれない。

 けれどそれは、スマートフォンの着信によって遮られることになった。

 考え事をしていたら、かなり時間が経っていた。

 ランニングに行ったサクヤかな、と画面を見ようとした。

 サクヤの他にもランニングをしているヒトがいるのか、静かな朝の道路に靴底の叩きつけられる音が、響いて聞こえてくる。以前、近所でランニングをする若い二人組がいたのを思い出した。鍔付きの帽子を被って走る姿が印象的だったのでよく覚えていた。

 振動音を鳴らす俺のスマートフォンの隣には、サクヤのスマートフォンが並べて置いてあった。

 こんな時間に誰だろう。

 年越しの挨拶だろうか。

 画面には知らない番号が表示されていた。

 通話ボタンを押すと、相手は刑事を名乗った。

 その連絡で、一連の通り魔事件の十九人目の被害者に、サクヤが選ばれたことを知った。

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