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「よーS、今夜はヒトが多そうだよな」
「そうだなC。最近警戒されてやりづらくなって来たが、今夜はボーナスステージだ」
気分がいい。冷たい空気ってえのは、最高にクールになれる。何をするにもクールにやるのが最善手だぜ。クールな俺が相棒に選んだだけあって、Sも相当クールに仕事を決めてくれる。
このクールなやり方と、クールな生き方を理解できねえ凡庸なメディアどもは、適当なこと言って俺たちをクルクルパー扱いだけど、そんな評価もクールにスルーして、あたりめえに金を稼いでやるってえの。
「今日も信条は変わらねえぜ、S」
「ああ」
ここはふつうの住宅街、通行人もまばらにいるが、どいつもこいつも歩きスマホにご執心。誰も他人の戯れを真剣に聞いちゃいないらしい。
ごく普通の会話のトーンでSから始める。
「金を奪うのにわざわざ面倒な工夫や手続きはいらない」
「隠そうと手を掛けるから証拠が残る」
「さっと殺してそこに放っておけばいい」
「車もバイクも使わねえ」
「住宅地にはそうそうカメラもありはしない」
「バッグの中から現金抜いたらさよならよ」
「条件はひとつ」
「相手は赤の他人だけ」
ジャージのポケットで揺れるナイフの重みが、クールな夜のストーリーを起草させてくれんぜ。




