心当たり
心当たりは、完全に的をはずしてしまった。
そのかわり、名探偵の如く、この裏野ハイツの謎をひとつ解明してしまったのだが、それは本当に拍子抜けする結末だった。
俺が解明したのは202号室の謎だ。
柏木さんの言った通り、俺とサクヤは、転居後一月経っても、隣人が外出する姿を見たことがなかった。
しかし、これも柏木さんの言った通り、この建物は壁が薄く、隣の部屋でも、勢いよく水道を流したりする音は、微かに聞こえてくることがあった。
サクヤの、誰かに見られている気がする、の犯人は、冷静に考えればひとりしか思いつかない。
それこそ、壁一枚でベランダのつながっている隣の住人だ。
壁があるといっても、柵から身を乗り出せば、簡単に隣の部屋を覗くことができるし、やろうと思えば柵の外側から隣の部屋へ忍び込むことも難しくはない。幸か不幸か、ベランダの正面はマンションの壁が聳えているので、外から目撃される心配も少ない。
犯人が幽霊でないと言うなら、これ以上に疑わしい人物は考えつかない。
それが俺の見解だった。
サクヤは、その後も視線を感じる機会は減らないと言った。むしろだんだん増えてきていると。
だから俺は、十二月の初め頃。サクヤが会社の付き合いで、帰りが遅くなるという日に、作戦を決行した。
いくらスイッチの切れたインターホンを鳴らしても、当然なんの反応も返してこない202の住人と直接話を付けるために、俺は自分の部屋のベランダを越え隣のベランダに入り込んだ。「落ちても死なない」と割り切ってしまえば、そんなに難易度の高いアスレチックではなかった。
ガーデニングが趣味なのか、ベランダにはかなりの数の植木鉢がある。
少なくともその中に、俺の知っている種類の植物はなかった。
カーテンは閉まっているが、電気がついているのが分かる。ちょうど中で物音が聞こえた。窓の鍵は閉まっていないのが、外から確認でき、ガラスをノックしようか、いきなり開けてしまおうか迷った。ちなみに、このとき一応、「やっぱり引き返す」という選択も浮かんだが、俺はあることに気が付いて、犯人の目星がついてしまった。
そっと窓枠に手を掛け、スライドして開き、カーテンを少しよけて中を覗く。202の住人も、窓が開く音に気付いたのか、こちらを見ていて、ちょうど目が合う形になった。
そこにいたのは、俺とサクヤがよく知る人物だった。




