アンデットカースドラゴン2
今回俺は1つだけオリジナルの魔法具を作った。
それが今使った【退魔結界陣】だ。5つの手の平サイズの箱が1セットになっている。その内の4つは結界を張る為の起点となり、残りの1つが魔法具の起動用のリモコンの様な役目をはたしている。箱の中には魔石と色々な魔法陣を刻んだ基盤の様な板が入っている。そして箱の周りにも魔法陣を刻んでいる。
この魔法具は4つの起点となる箱から伸びた光が立方体を作り、その中のいる敵を認識する。そして認識した敵の魔素、魔力操作を妨害したり吸収する魔法具だ。敵の魔素や魔力を分解して吸収したりするので魔力で動いているアンデットには特に効果が高い。ただ魔力を活動に使う事のないモンスターなんかにはほぼ効果がない代物だ。アンデットや魔素、魔力を使って攻撃をしてくる相手専用の魔法具と言ってもいいだろう。ただ効果は抜群で結界に囚われた【アンデットカースドラゴン】は体の中の魔力を分解されて上手く体を動かせなくなっているのかおかしな動きをしている。作った従者も魔力で動かしているので動きが鈍り自壊していっている。【アンデットカースドラゴン】の周りに広がっていた【死の沼】も同様に徐々に範囲を小さくしていっている。
かなり効果があるみたいで良かった。作ったかいがあったってもんだ。これを作るにはかなりの労力がかかった。頭の中ではこういうものが作りたいとあったんだがそれを実現するまでにまた研究したり、色んなスキルが必要になった。
【退魔結界陣】の魔法具の中には魔石が入っている。そこに俺が光魔法を封じ込めている。まず魔石に特定の魔法を封じ込める技術がなかったのでそれから始めた。
魔素と魔力と魔法の違いからだが、以前に少しだけ話したことがあったが魔素は全ての素となるものだ。この世界には空気の様に普通に存在して俺達の体の中にもあるとされている。その魔素を自分の好きなように動かせる様にしたりするのが魔力。それに火をおこすだったり、風を吹かせると言った方向性を与えるのが魔法ってことかな。俺も何となくしかわかっていないので説明するのは難しいんだけど。
ご飯に例えるなら何もしていない米が魔素、それを食べれるように脱穀したり精米するのが魔力、そして出来たものを炊き込んだり、炒めたり、蒸したりするのが魔法ってとこだろうか。
う~ん、余計に分かりにくくなったかもしれない。
ともかく魔石は純粋な魔素の塊なので魔法を封じ込めるってことは出来ない。魔石は魔素やMPという志向性のないエネルギーしか吸収できないってことだな。そこで俺は魔石に直接魔法陣を刻んで特定の属性の魔法も吸収できるようにした。別に魔石が魔法を吸収できなくても、他の物に魔法陣を刻んで魔石を燃料に魔法を使うことは出来る。でも属性別の魔石が作れるようになったら今後他にも色々と流用が出来そうだから作ることにした。属性の魔石を使うと普通の魔石に比べて属性効果を高めるかもしれないんだ。これも具体的な話をすると、火の魔石を使って火をおこす魔法具を作ると普通の魔石を使った魔法具よりも強い火力を出したりできるんじゃないかってことだ。そして実際に作って検証してみたがやっぱり火力は数段跳ね上がっていた。だから今回は効果が上がる様に光の魔石をそれぞれの箱の中に入れて俺がかなりのMPを使った光魔法を封じ込めている。簡単に言っているがこれがかなり試行錯誤してやっと完成した技術だった。
ただ一長一短の部分もある。魔石は属性が付いていないから火を使う魔法具、水を使う魔法具に使えるけど、火の魔石は火を使う魔法具にしか使えなくなる。その分高威力になったりするんだけど。今までは汎用性がある魔石に用途だった魔石に、使用する内容に特化した魔石を作ったってことになるかな。魔法を封じ込めれるようになったので、ある魔法を使えない人でも属性の付いた魔石封じた魔法を代理で使える感じだ。その代り誰かが魔法をチャージする必要があるけどな。これに改良を加えて行けばMPを注ぎ込むだけで特定の魔法を発動できるの様な魔法具が出来るかもしれない。
あれ?でも今ある魔法具もそんな感じか。特定の魔法の効果を出してる感じだしな。違うな、魔法具は1つに付き同じ効果しか発しないが1つの魔法具で封じ込める魔法の種類を変えれるようになるのか。そうしたら拳銃タイプで弾に色んな魔法を詰めて発動できるようにするのも面白いかも。
退魔結界陣の話の続きだが後は中に入れた敵の魔素、魔力、魔法の判別する方法。これは手近にあったギルドカードに使われている技術に注目した。ギルドカードは持ち主のMPを吸収する。その持ち主か別の人かをちゃんと判別しているってことだ。それは多分魔素か魔力かに人それぞれのパターンか何かが存在して、それを判別していると考えられる。それを解析して使わせてもらった。解析する為に色んなスキルが必要になったんだけどね、結構大変だった。後一緒にMPを吸収するっていうのも解析した。それで退魔結界陣は敵を特定して、その敵の魔素や魔力、魔法だけを認識して分解、吸収する様にすることが出来た。
正直退魔結界を張るだけなら俺が光魔法でこうした結界を張ることは出来る。ただ物凄く労力を使う。範囲の設定だったり、敵の判別、魔素の分解吸収とその魔法を使っている間に全て自分で制御しないといけない。そんなの中々出来たもんではない。【並列思考】のスキルがあるから出来ることは出来るんだが、その他のことが出来なくなる。その為今回魔法具でそれぞの効果を発動するように魔法陣を刻んだりして魔法具に制御を任せている。
ただ問題があって魔法具に込めたMP分しか効果は続かない。効果時間は結界の範囲に反比例して短くなる。範囲が狭ければそれだけ長時間効果は続くが、大きくなれば効果時間は短くなる。今回も事前に試したりしてみたが今【アンデットカースドラゴン】を囲んでいる規模だったらおおよそ3分ぐらいが限界だろう。後結界と言うが光の壁自体に障壁としての機能はない。簡単に素通り出来る。壁を作ってしまうとこちらからの攻撃も出来なくなってしまう。この結界は相手の魔素なんかを奪ったりは出来るがそれで倒すことは出来ない。こちらから手が出せなかったら使う意味はない。
今回は相手の動きを封じて、なおかつ攻撃も封じる為に使っている。アンデットならこの結界の中にいるだけで体をほぼ動かせなくなるから結界の外に逃げられる心配はない。ただ効果時間は少ないからその間に確実に相手を仕留めないといけなくはなるがな。
それが皆わかっているので勝負を決めに入る。
「【光龍演武】」
俺が唱えると空中に光が集まり、東洋の蛇の様な形をした龍が姿を現す。これも俺のオリジナルの魔法で【水龍演武】を元に作った。単純に光魔法で龍を作る魔法だ。ただ水龍と違って実体はない。どちらかと言うと魔素を光に変えて寄せ集めて作ったようなものだ。だから空中に浮いていられる。しかしこの魔法はかなりのMPを使う、体全てを俺のMPだけで作り上げている様なものだ。退魔結界と一緒には使っていられない。
「行け。」
俺が命令すると光の龍は【アンデットカースドラゴン】向かって行き、口を大きく開けて喰らいつく。光の龍に喰らいつかれる【アンデットカースドラゴン】だが実体のない光の龍が喰らいついてもその部分の肉はなくならない。しかし光の龍が喰らいついた部分はボロボロになって崩れ落ちる。
光の龍は喰らいついた部分の魔素を喰らったんだ。喰いつかれた部分の魔素がなくなり、形を保てなくなって腐った肉が崩れ落ちた。退魔結界陣のおかげでその部分の修復も出来ない様だ。そのまま光の龍は口を開けて【アンデットカースドラゴン】の体に突進する。そして体を突き抜けて向こう側から出現する。実体がないからそんな事も出来る。光の龍は縦横無尽に飛び回り【アンデットカースドラゴン】に口を開けたまま突進を繰り返す。突進を受けた【アンデットカースドラゴン】体の部分がボロボロと崩れ去っていく。最初からこれを使えばいいんだけど、今退魔結界陣で相手の魔素を吸収してるから出来てる事なんだよな。多分弱らせてないと光の龍が突進しても土魔法で体を覆っている部分に弾かれてしまうだろう。魔力で土の部分を補強するだろう。だが土魔法で補強に使っている魔力も当然分解している。【アンデットカースドラゴン】の体がボロボロと崩れ落ちているのは土魔法で体を覆った土の部分が崩れ落ちてるんだろう。
しかし光の龍の目的は【アンデットカースドラゴン】の体を壊すだけじゃない。光の龍が【アンデットカースドラゴン】の体の中をすり抜ける瞬間に弾かれるところがある。恐らくそこに核がある。核を守る為そこは重点的に魔力で保護していると俺は踏んでいた。その核の位置を探す為に光の龍を作ったんだ。
「皆場所が分かった。」
俺は言葉と共に【念話】でその位置をみんなに伝えた。
ガイが高く跳んだ。そして俺が指定した場所に剣を振るう。剣が当たった所が爆発する。この間考えた必殺技の1つだな。当たった所で溜めていた気を爆発させる技だ。当たった部分は肉が吹っ飛びクレーターの様になっている。ただまだ核は見えていない。
そこ目掛け今度はブランが懐から出した赤い箱を投げつける。その赤い箱がクレータの中心に落ちた瞬間に大爆発が起こる。
今回の戦闘用に俺とブランが一緒に作った魔法具だ。火の魔石を使い、【大爆発】と言う魔法を封じている。退魔結界陣と同じような箱なんだがそこから一本のピンが出ている。それには魔法陣が書いてあってそれを引き抜いて箱を投げると、次に何かに触れた瞬間に【大爆発】が発動するようになっている。元の世界でいう所の手榴弾だ。使い捨てでもったいないが火の魔石を使っているので普通に魔法を使うよりも高威力になっている。
魔法具が投げ込まれたクレータは更に大きさと深さを増していた。そこでやっと【アンデットカースドラゴン】の核である真っ赤な丸い石が見えた。ただ今の魔法具の一撃を食らっても傷ついていないみたいだ。やっぱり魔力で障壁か何かを作っているんだろう。ただこの機会を逃すわけにはいかない。周り肉が核を覆い隠そうとしている。
アリアが鞭を振るい、その鞭が核に巻き付く。そして鞭を上に大きく振り上げる。核が空中に持ち上げられるが、核には触手の様な物が【アンデットカースドラゴン】の体から伸びていた。持ち上げた時に何本かは引きちぎった様だが残っている触手が核を【アンデットカースドラゴン】の体に戻そうとして引っ張っているみたいだ。
そこにシータが空中から突進して触手を全て切り裂く。空気の壁を作ってそこを足場にして空中から突進していった。そして下からはまた飛び上がったガイがシータと入れ替わりに核に向かって行った。
ガイが剣を一閃する。すると【アンデットカースドラゴン】の核は空中で真っ二つになった。今回はガイがいいところを持っていったな。
それを機に【アンデットカースドラゴン】の体が全て崩れ落ちていった。俺は【鑑定眼】を使って【アンデットカースドラゴン】をしっかり倒せているか確認をする。今回も問題なく倒せてるみたいだ。何とか俺達でAランクの魔獣を倒すことが出来た。考えてみたらあんまり危ない場面もなかったし快勝って言ってもいいんじゃないか。
そんなことを思いながら皆の所に行った。そしてシータに風の障壁を解除してもらう。
「やったな、何とかAランクの魔獣を俺達だけで倒せたな。」
「そうですわね、本当に倒せるとは思いませんでした。」
俺の言葉にアリアが答える。アリアもそんな怪我をしたり、疲れている様子もないし良かった。
「俺はもう少し歯ごたえがあるかと思ったんだけどな。割とあっさり倒せてなんか物足りないな。」
ガイが言う。まぁ今回は最後に美味しいところ持っていったしいいんじゃないか?
「わしは魔法具を試せて良かったですわい。もう少し改良すれば冒険者に喜ばれるものになるでしょう。」
ブランは今回の魔法具が上手くいって上機嫌だった。
「シータお腹減った。」
はいはい、シータはもう魔獣の事はどうでもいいんだよね。
「皆怪我もないようだし、これで目的達成かな。これで少しはゆっくりできるよね。」
「でしたらいいですわね。」
「アリアなんでそんな不安になるようなことを言うんだ?」
「いえ、なんでもありません。」
「もしかしてまたなんか天啓とか見えたのか?」
「私の口からは何も申し上げられませんわ。」
「むぅ、じゃあ考えないようにする。町に戻って報告しよう。皆喜んでくれると思うし。」
俺はそう言って帰る準備を始めた。
お読み頂きありがとうございます。




