新たなる脅威
俺達もゾランさんの後を追って扉をくぐり、階段を下りていく。結構な長さの階段を下りたと思ったら廊下と扉があった。廊下の長さも結構あるようでいくつかの扉が並んでいるのが見えた。
先を歩いていたゾランさんが1つの扉を開き中に入った。俺達も続く。
扉の先にはかなり広い空間が広がっていた。そこはまるで工房と言った感じで何かを焼くようなかまどや色んな道具が置いてあった。
「適当なものに座って下さい。」
ゾランさんがそう俺達に言った。俺達は手近にあった椅子を持ち寄って座った。
「ここは俺の工房です。今日は誰もいないので、ここで話したことは他の者には聞かれることはないでしょう。」
ゾランさんは気を使ってくれたようだ。
「まずはわしの話からしようかの。」
そうブランが切り出した。
「わしが冒険者をやっておったのは手紙で書いた通りじゃ。それからある依頼を受けた時に偶然に魔獣に出くわしたんじゃ。そしてわしらのパーティは魔獣に襲われ皆死んだ。わしは何とか生き延びることが出来たが両腕をやられてな、肘から先がなくなったんじゃ。」
その言葉をゾランさんが青い顔をして聞いていた。
「そして腕がなくなったわしは生活費を稼ぐことでも出来なくなり奴隷になった。あの時のわしはもうどうでもよかったんじゃ、生きるという事に絶望しておった。その内にこの主がわしを買ってくれたんじゃよ。そして回復魔法でわしの腕を元に戻してくれた。じゃからわしはこの方を主と呼んで仕えておるんじゃよ。」
「でも腕が元に戻ったんだったら金を稼げるようになったんじゃないのか?それで返済したら奴隷じゃなくなれるかもしれないだろ。」
「ゾラン、この方はとても心優しい方でいつでもわしらの奴隷契約を破棄してもいいと仰ってくださる。じゃがわしの方がこのまま奴隷としていさせて欲しいと頼んでおるんじゃよ。わしはこの方に生涯を捧げようと心に決めたんじゃ。」
「そんな、でも・・・。」
兄が奴隷でいるなんてゾランさんには耐えられないんだろう。気持ちはわかる、だから俺も別にブランと奴隷契約をいつでもやめていいだけどな。でもブランが納得しないんだよな。
しかし生涯を捧げるって・・・。プロポーズ?ってアリアがめっちゃニヤニヤしてこっち見てるんだけど。シリアスな場面なんだからそんな顔するんじゃない。俺だってニヤニヤしそうなのを必死で堪えてるんだよ。
「わしがそれでいいと言っておるんじゃ。何も問題ない。
そう言う事があったから手紙が出せんかったんじゃ、心配かけてすまんかったの。主にお前に無事な姿を見せたいと言ったら喜んでここまで連れてきて下さったんじゃ。じゃからわしたちはこの町に来たんじゃ。」
ブランがそう説明するとゾランさんが俺の方を向いた。
「兄貴が世話になりました、ありがとうございます。」
そしてまた深々と頭を下げて言った。
「いや、俺もブランには色々お世話になってるので。でも俺も別にブランの事は奴隷とは思ってません、信用のおける仲間だって思ってます。奴隷契約してるには訳があるって言うか、言い訳に聞こえちゃうかもしれませんが一応説明させてください。」
俺はそう言ってゾランさんに今までの経緯を説明した。何故ブランを仲間にしたのか、何故奴隷契約をしたままなのかなんかを説明した。当然俺が勇者であることも言った。ブランの弟さんだし問題ないだろう。
「そうだったんですか。いや、なんて言うか、話についていけないというか。」
全てを話し終わったらゾランさんは呆気にとられた様子だった。
「すべて本当の話じゃよ。だからわしらはAランクの冒険者並みの強さはある。」
ブランが俺の話を肯定してくれる。
「わしらの話はそんなとこじゃな。それよりもわしは町の事を聞きたいんじゃ。
一体この町はどうしてしまったんじゃ?人も少ないし活気がない。見た所お前の所も何も作っていない様だが?」
ブランが聞いた。確かに今いる工房ではしばらく人が入った感じがしなかった。少し道具に埃が積もっている。
「あぁ、そうなんだ。
実は山にAランクの魔獣が現れたんだ。」
「なんじゃと!」
ゾランさんの言葉にブランが驚いて声を上げる。ただ俺達にはあまり何のことかが分からない。
「あぁすいません。俺達の言う所の山と言うのは近くにある鉱山の話なんです。」
俺達の様子を見てゾランさんが説明してくれる。
「この町はその鉱山から武具の原料になる鉱石や、魔法具の動力源になる魔石を採掘したりしているんです。ただAランクの魔獣が出てからはその山へ採掘しに行くことが出来なくなってしまったんです。材料がなければ新しい武具や魔法具は作ることが出来ず、それを目当てに来る商人や冒険者の数が減りました。冒険者に至ってはAランクの魔獣が出たということで結構なパーティがこの町から姿を消しました。だから今この町はこのような沈んだ雰囲気になってしまっているんです。」
なるほど、そういう事なんだ。
「しかし、ザールであればかなりの高ランクの冒険者も訪れるであろう。そう言った冒険者に頼めばAランクの魔獣であっても討伐出来るんじゃないのか?それにこの町の者でも戦える者はおるじゃろう?」
ブランがそう聞いた。そうかドワーフの武器を求めて高ランクの冒険者もこの町に来たりするんだな。だったらAランクのパーティとかもいるかもしれないな。
「今回出た魔獣はAランクはAランクなんだがたちが悪い。
魔獣は【アンデットカースドラゴン】なんだ。しかも山にあったSランクのドラゴンの死骸にとりついているんだ。」
「なんじゃと・・・。」
ゾランの言葉にブランが言葉をなくすほど驚いている。
「すまない、俺達はどちらの話も知らないんだ。説明してもらえるか?」
俺はブランに言った。
「あぁ、すみませぬ。
まず【アンデットカースドラゴン】なんじゃが。この世界にはアンデットと呼ばれる死んだ者に取り付き、その死骸を使い自身の新たな器とする者がおるんじゃ。【アンデットカースドラゴン】もその1つでドラゴンの死骸に宿るとされておる。元々がどういう存在かはわかっておらんようじゃが、それに取り付かれたドラゴンの死骸は腐った肉と、残った骨でまた体を作り活動を始める。そして生あるものを喰らい己の力にしてどんどんと強くなっていくという。またその取り付いたドラゴンの死骸に残った力も吸収するので、そのドラゴンの使っていた力が使えるらしいんですじゃ。」
そうなんだ。この世界にはドラゴンがいたり、その死骸に取り付く魔獣がいるんだ。今まで出会ったこともなかったし聞いたこともなかったな。元の世界で言うドラゴンゾンビみたいなもんか。
「そして山にあったS級のドラゴンの死骸と言うのが、昔その山に住んでおった【ガイアドラゴン】なんですじゃ。大地の力を持ち精霊並みの土魔法を操っていたと伝えらえております。その【ガイアドラゴン】は死んだ後も体から魔素を出し、それを山が吸収して良質の鉱石や魔石が取れるようになっておったのです。だからわしらドワーフはここに町を作り、そのドラゴンの死骸を守っておったのです。
しかし【ガイアドラゴン】の死骸は【アンデットカースドラゴン】が取り付いたりしない様に土の精霊が守っておったはずじゃなかったのか?」
「それが・・・、【アンデットカースドラゴン】が現れてから土の精霊は姿を見せないんだ。
何故そんなことになっているか誰もわからない。
そして【アンデットカースドラゴン】が【ガイアドラゴン】の死骸から出来上がっているから誰も手出しできないんだよ。
土魔法は一切効かないし、人形を突っ込ましてもその体に吸収されてしまうんだ。
他の魔法もほとんど効果はない。武器で傷付けてもすぐに再生してしまうから倒しようがないんだよ。
【アンデットカースドラゴン】がドラゴンの死体に取り付いた場合は知恵とか攻撃方法が幾分弱くなるからランクは1つ落ちるんだけど。今回元となったのが【ガイアドラゴン】だからSからAになっても【ガイアドラゴン】自体がSランクの中でもかなり上位の魔獣だから、普通のAランクの魔獣じゃない強さがあるんだ。」
なんか聞けば聞くほど胡散臭い話になってきたな。都合よくドラゴンの死骸を守っていた土の精霊が姿を消して、そこに【アンデットカースドラゴン】が来るってなんだか誰かの策略か?とか考えてしまう。
まぁでも話は何となく分かった。この町が何でこんな寂れた雰囲気になっているかもわかったしな。だったら俺達のやることは1つしかないだろう。
「じゃあ俺達で【アンデットカースドラゴン】を討伐しようか。」
「あぁ、やっぱり。そう仰ると思いましたわ。」
俺の言葉にアリアがため息を漏らす。
「なんかやっと骨のあるやつが出てきたっぽいな。」
ガイがそう言った。なんか笑ってるからやる気なんだろう。
「そうですな。主でしたらそう言ってくれると思いましたぞ。」
ブランも問題ないようだ。ゾランさんの事もあるしな。
「シータもやるよ。」
皆の言う事を聞いてか、シータもそう言ってくれる。ちゃんと空気を読んでくれるんだ。
「いや、しかし、先程言ったように普通のAランクの魔獣ではないんですよ。」
ゾランさんが俺達の言葉を聞いて焦って言う。
「えぇ、分かってます。でも俺達だったら出来ると思います。皆それだけの力は持ってると思ってます。
あぁ、でもすぐにじゃないですけどね。ちゃんと準備はしますよ。」
俺はゾランさんにそう言った。Aランクの魔獣か。今回は本当に慎重にならないとどうなるかわからないな。しっかりと用意してから挑むか。俺はそう考えてこれからのプランを練った。
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