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召喚された世界はスキルがものをいう  作者: 雷
【魔法大国 スラグスル】編
188/237

邂逅

「じゃあ行きますね。」



 俺はそうゴートさんに告げた。

 ゴートさんと沢山話をした。ゴートさんがどんな人生を歩んでこの場所にいるのかも聞いた。

 このままずっと話していたかった。だけどそうも言ってられない。



「あぁ、わしも長く生きて来たが、お前は出会った奴の中で一番変な奴だった。」



 ゴートさんが笑顔でそう言った。



「そんな、褒められても困ります。」


「褒めてないぞ。」


「どんなことでも一番って言って貰えるのは嬉しいもんですよ。忘れたりしないってことでしょ?」


「そうだな。一期一会、お前との出会いは忘れることなんてないだろう。」


「また会えたりしないですか?」


「それはお前もわかっているだろう?この先お互い会う事はないって。」


「そう・・・、ですね。でも俺は悲しんだりしません。縁を結べただけでも良かったです。」


「あぁ、わしもだ。」


「最後にお願いがあるんですが・・・。」


「なんだ?わしの出来る事ならしてやる。」


「最後にハグして貰ってもいいですか?」


「ハグだって?」


「俺の頭の中読んでどうするのかわかってますよね?」


「そりゃわかるけども・・・。」


「だったらお願いします。」


「う~ん、そうだな。それぐらいはいいか・・・。ただしそれ以上は禁止だぞ。」


「えぇ、わかってます。それ以上の事やろうと思っても、先にわかって阻止されるでしょうしね。」


「その通りだ。」


「じゃあ。」



 俺はそう言って両手を広げてゴートさんに近付く。

 ゴートさんも少し照れて顔を赤くしながら両手を広げてくれる。

 俺達の身長はさほど変わらない。俺は腕を回してゴートさんに抱き着いた。

 ギュッと力を込める。

 ゴートさんの体温と匂いを感じる。

 やっぱりちゃんと生きてるんだ。そんなことを考えてしまう。

 

 ゴートさんの手がおずおずとだが俺の背中に回される。そしてキュッと俺の体を掴む。

 俺にはゴートさんが今の瞬間何を思っているかはわからない。

 このまま連れ去りたいな、そんな事を考えてみるが出来る訳ない。

 暫く無言のまま2人でハグをしていた。



「ありがとうございました。」



 俺はそう言って腕を外しゴートさんから離れた。



「何に対してのお礼なんだ?」


「ん~、元気を貰ったことに対してですかね。」


「そうか、それならいい。」


「じゃあ、本当に行きますね。」


「あぁ、それとわしからも礼を言おう。」


「何に対してのですか?」


「久々に自分が人であったと思い出せたことにだ。」


「だったら人としての営み、具体的に夜の営みをもうちょっと・・・。」


「だーっ、いいからそう言うのは!折角いい感じに締めくくろうと思ったんだが。」


「こっちの方が俺らしいんじゃないでしょうか?」


「そうかも知れん。

 それと、勇者として召喚されたお前はこれから大変な目に会うだろう。

 それをわしは見てる事しか出来ない。だがそれでもお前が少しでも良き人生を歩めることを祈ってるぞ。」


「はい、ありがとうございます。俺もゴートさんの事忘れません。

 いつかまた会える日を心待ちにしてます。

 その時には次の段階へ・・・。」


「あぁ~もう、行った行った。さっさと進め。」



 ゴートさんはそう言ってしっしっと手を振った。



「じゃあ、またいつの日か。」



 俺も部屋の奥にあった扉を開いてからそう言って手を振った。そして振り返らずに扉を閉め、進む。



 ゴートさんの部屋の奥にあった扉を開け進むと驚くべき光景が広がっていた。

 そこは野原と言えばいいのか、緑の地面が広がり、正面に大きな木があった。

 後ろを振り返るとさっきまであったはずの扉が姿を消していた。

 【青龍(せいりゅう)】もこんな感じで空間を繋げていたか。

 地平線が見える程の何もない野原が広がっている。その地面には背の低い草がずっと生えていた。

 ここって地下だったよな?

 それともさっきの扉で別の所へ飛ばされたんだろうか?

 とりあえずこの空間に目印になるようなものは目の前の大きな木しかない。

 そっちに進んでみるか。

 

 俺はゆっくりと歩いて進み始める。

 【索敵(レーダ―)】のスキルで辺りを確認するが何もない。

 ここには知識と知恵の神がいるはず。ただ神だから俺の【索敵(レーダ―)】なんかには引っかからないんだろうな。

 さてどう言う展開になるんだろうか。

 実力を見る為とか言っていきなり敵が現れて襲ってきたりはしないだろうか。

 でもそれは恐らくゴートさんの役目だろう。ここではそう言う事はないだろうな。

 しかし。

 目の前の木はかなり大きい。種類はわからないが、10階建てのビルぐらいはあるだろう。

 それ以外に目に付く物もない。周りを用心しながらその木に向かって進んで行く。

 木に近付いていくと頭の上に枝や葉が差し掛かり、少し暗くなる。

 ゆっくりと歩いてきたがもうすぐ木の根元まで行けるだろう。これからどうするかだな。


 木の根元までやってきた。大きな幹が目の前にある。

 上を仰いでみても幹が続き、途中から枝葉が出ているのしか見えない。

 なんだろう?この木を登れって言うのか?

 そんなことを考えていると声が掛かった。



「遅い到着だ。」



 その声に聞き覚えがあった。

 声がした方に視線を動かすと見知った人物が立っていた。



「学園長?」



 視線を送った所には魔法学園ニルヴァースの学園長が立っていた。

 漫画やアニメでよくある学園長が神だったり黒幕だったりするあれか?

 しかし学園に着いた時に【鑑定眼(アナライズ・アイ)】で学園長のステータスは確認した。

 その時におかしな点はなかったはずだが。ちゃんとステータスも確認できた。学園長が神であればステータスが見られないはずなんだけど。



「気付いていると思うが?」



 学園長がそう言った。学園長も人の心が読めるのか。だとしたらやっぱり目の前にいる学園長が知恵か知識の神なんだろう。



「【偽装(イミテーション)】の様な力を使ってステータスを偽装して見せたってことですか?」


「その通りだ。」


「じゃあ俺が学園に訪れた時にすでに俺が子供でもなく、勇者であるってことは知っていたんですね?」


「それもその通りだ。」


「なるほど。それで学園長は知恵の神?それとも知識の神なんですか?」


「私は知恵を司る神だ。知識を司る神も目の前におるぞ。」


「もしかしてこの木ってことですか?」


「そうだ、と言っても私達は同一存在であり、私はこの木から別れた枝葉の様なものだ。」


「それで知恵と知識の神は別々であり、同一の存在ってキュクロさんが言ったたのか。」


「知恵とは物事を適切に判断することを言う。物事にはそれぞれの道理があり、絶対的なものとは言えない。それこそ無数にある。その為この木の様に数々の枝の様に分岐する。」


「う~ん、それって知識の神がこの木で、そこから伸びる枝葉の様に何人?いや何柱もの学園長みたいな知恵の神がこの世界にいるってことですか?」


「そうだ、その様に思ってもらっても構わない。」


「わかった様な、わからない様な・・・。」


「私がどういう存在かと言うのは理解しなくても問題ない。私を知るのが目的ではないだろう?」


「それはそうですね。そう言えば知識と知恵の神それぞれお名前とかあるんですか?お呼びする時どうすればいいんでしょうか?」


「名前か・・・。そうだな、私の事はオモイカネと呼べばいい。こちらも同一存在の為同じ名だが。。」



 そう学園長の姿をしたオモイカネは木の幹を触りながら言った。



「それで俺がなぜここに来たのかはご存じなのですね?」


「あぁ、知っている。しかしここを訪れる者は皆同じ目的しかないと思うぞ。」


「そう言えばそうですね。知識と知恵の神を訪ねる目的なんて1つしかないですね。」


「そういう事だ。お前も知りたいことがあってここを訪ねたのだろう?」


「えぇ、神レスティアに言われまいした。知りたい真実に出会えると。」


「その為には試練があることも聞いているだろう?」


「はい、神は試練を課すことも知っています。」


「そう簡単な試練ではないぞ。それでも知りたいことがあるという事だな?」


「はい、勇者の事、魔王の事。そしてどうすれば勝てるかという事もお聞きしたいんです。」


「しかしそれは私に聞く様なことなのか?」


「えっ?それはどういう事でしょうか?」


「そのままの意味だ。勇者や魔王の事を私から聞きどうする?

 そして私がお前に魔王の倒し方を教えるとでも?」


「それは・・・、今のままでは俺は魔王には勝てないと言われました。

 だから勇者と魔王の事を知って対策を立てようと思ったんです。それに知恵の神であれば勝てない様な相手であっても倒し方を知っていらっしゃるかと思ったんですが・・・。」


「先程言ったようにこの世界に様々な道理がある。この世界の知識なら持っているので事実は教えてやることは出来るだろう。それがお前にとっての真実となるかも知れない。

 だが魔王をどう倒すかなどはお前が考えるしかあるまい。


 あまり好きではないがお前達ヒトが言う例えの話をしてやろう。

 例えばだ、魔王を倒す為には人柱が必要だと言えばどうする。魔王を倒す為に仲間の命を捧げるのだ、そうすればお前でも魔王を討つことが出来るだろう。私がそう言えばお前はそれを実行するのか?

 別の道を模索するのではないか?」


「それは多分そうすると思います・・・。」


「そうであろう。私にとっての最良と呼べるの道がお前にとっての最良とは限らない。道理は1つではないという事だ。それは自分以外に求めるものでもない。

 私の課す試練を乗り越えたとしても、お前に教えることが出来るのは事実だけだ。

 それはこれからお前がこの世界を調べて行けば知り得るかもしれない事だ。

 それでもお前は試練を受けるのか?」


「・・・、そう・・・ですね。

 俺にはそれしかないと思います。

 たとえ事実しか教えて貰えないとしても、それは俺がこれから先に進む為の指針になるでしょう。

 ここで試練を受けないと言う選択はありえないと思っています。

 それにただ俺が事実を知ると言うだけの事ではないでしょう。」


「どういうことだ?」


「それこそ神レスティアは知りたい真実に出会えると言いました。その言葉を考えると俺が教えてもらえることは、俺が必要としている情報に違いないと思います。

 今まで俺も勇者や魔王についての情報を集めようとしましたが殆ど何もわからないままでした。

 俺の予想ですが情報自体が隠蔽(いんぺい)されている可能性があります。恐らく勇者か神の手によって。

 今後俺が情報を集めようとしても集まらない可能性が高い。

 実はあなたもその事実を俺に教えたくない理由でもあるんじゃないでしょうか?」


「ほうっ、そう思ったのか。まぁいい。お前が試練を受ける意思があるのでれば、私は試練を課すまで。

 その後のお前が何を思うかはお前自身の問題だ。」


「はい、試練を乗り越えた後に考えることにします。

 それで試練の内容とはいったい?」


「お前も大方の予想はついているんではないか?

 私が課す試練は心の試練だ。」


「心の試練?」


「そうだ、お前の心に入り込みそこで様々な問いを出す。その答えを見つけるのが我が試練だ。」


「それってもしかして答えが見つからなかったりすると・・・。」


「あぁ、心は取り残され、二度と目覚めることのない眠りにつくことになるだろう。」



 あぁ、やっぱりか。

 何となくは予想していたけどここまでよくある試練も珍しいな。漫画やアニメの世界だけど。

 自分の精神世界に行って課題をクリアする。それに失敗すると精神が死んだり、その世界から出れなくなって起きることのない眠りに入る。

 知恵と知識の神の試練と聞いた時に一番最初に思いついたのがこの試練だった。

 どう考えても戦闘系にはならないだろうなとは思ってたけど。今までに何度も漫画なんかで見た展開だな。こういうお決まりのってよくあるからお決まりになっているんだろうか。

 こういう試練だろうなと思って、アリアが一緒じゃなくてもいいかと連れてこなかった。

 あれだよな、多分トラウマ見せられたり色々するんだろう。

 そして大抵はどんな力を持っていても関係ない、精神世界だからスキルとかも使えないから心の力で何とかするとかしかないんだろう。



「考えている通りだ。」



 オモイカネがそう言った。そう言えば目の前の神も人の心が読めるんだった。



「それを知ってもなお試練を受けようと思うのか?」


「えぇ、色んな話でもそれを乗り越えられるような人間じゃなければ魔王なんて倒せない、って感じですし。まぁ色んな話って言うのは空想上の話ですが。

 多分この試練を乗り越えないと前には進めないんでしょう。神レスティアもそれを分かって俺に言ったんだと思います。だから俺は乗り越えるだけです。」


「そうか、ならば私からは伝えることは試練を乗り越えた後だ。」


「ちなみにどういう問いかを教えてもらうことは出来ないんですよね?」


「当然だ。」


「じゃあ実際に試練を受ける時にしかわからないんですね。

 合格率は・・・、いや止めておきます。そんなのを聞いても仕方ないですね。」


「その通りだ。他の人間と比べても仕方がない。」


「ふーっ、わかりました。じゃあ早速ですが試練を開始してもらってもよろしいですか?」


「もういいのか?もしかすればこの後目覚めることがないのかもしれないぞ。」


「はい、わかってます。でも俺も今は試練を乗り越える事しか考えてないので。絶対に帰ってきます。」


「その心意気は良し。では始めようか。」



 オモイカネがそう言って右手を俺に向け伸ばした。

 その瞬間から俺は急激な眠気に襲われる。瞼(まぶた)が下がる、眠くてどうしようもない。

 膝をつき、手を地面に着く。それから倒れる様に地面に転がる。

 意識がなくなる前に考えたのは仲間たちの事だった。

 絶対に帰ってくる。

 そう思ったのを最後に俺の意識は闇に飲まれた。

お読み頂きありがとうございます。

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