ゴート
「とりあえずなんですけど、ちょっと座って話しませんか?」
俺はそんなことを提案した。
ゴートさんと仮想の戦闘を行うっていう事だけどこのまま立ち話するのもなんだし。
時間がかかるかどうかもわからない。少し落ち着きたいんだ。
折角のタイプとのトークなんだしゆっくりしたい。
魔法も使えるこの場所なら座る所を作るなんて簡単だし、なんだったら【倉庫持ち】からイスとか出してもいい。
おっとこの考えも読まれているんだっけ。
ゴートさんが凄く微妙な表情をして俺の方を見ている。
「別に立ったままボディトー・・・『わかった。』」
俺の言葉を遮ってゴートさんがそう言った。
ちぃっ、残念だ。
しかしながら思ったことが全部伝わるって言うのも変な感じだな。
「相手の心を読む読まないって切替できないんですか?」
俺は気になったことを聞いてみた。
よくあるファンタジーモノの話でも出てくると思うが、相手が変な事を考えてたから心を読むのを止めたら、その隙を突かれて負けるとか。
「そうだな、わしには出来ない。この部屋にいる者の心の声は必ず聞こえる。」
「ふむっ、そうなると心を読むって能力もゴートさんのスキルの能力じゃなく、この部屋の力というかこの場所で使える能力って可能性もあるんですね。」
「それは勘繰り過ぎだ。心を読むのはわしの力で間違いはない。」
「それってやっぱり知識と知恵の神に貰った力なんですか?」
「少しでも情報を得ようとしてるのか?」
「ん~、半々でしょうか。半分は単純に興味です。ゴートさんへの。」
「うっ、いや、まぁそれはわしに勝ってから話してやることにしよう。」
ドギマギしながらゴートさんが答える。やっぱりこういう事言われるのに慣れてない感じがする。
もうゴートさんには色々バレてるんだからこのまま楽しませて貰うのも俺的には大歓迎なんだけど。
「いや、ともかくさっき言ったようにわしをどう倒すか聞かせて貰おうか。」
ゴートさんがゴホンと咳ばらいをしてそう言った。
ゴートさんが手を軽く振ると近くにテーブルとイスが現れた。
【倉庫持ち】から出したって感じじゃないな。
やっぱりこの部屋の中ではゴートさんが色々と自由に出来る物があるんだろう。
そう言った点でもゴートさんはこの部屋での戦闘行為に自信を持ってる気がする。
ゴートさんが俺に勝てるか聞いてきたが、それは逆にゴートさんも俺に勝つ自信があるってことだろう。
ゴートさんは俺の【八百万のスキル】の名前を口に出して言ってきた。俺のスキルを見たのか、心を読んで知ったのかわからないがかなりチートなスキルだ。神である【青龍】でも手を焼くようなモノを生み出したんだ、そのスキルを持ってる俺を相手にして勝てる自信があったんだ。
いくら神から貰った力があるとしても、チート勇者の俺に勝てると思う自信はどこから来るのか。何となく心を読むって能力以外のものがある様に思う。
それがこの場所じゃないのか?この場所であれば自分に優位な立場で戦えるとか。
戦闘モノの漫画やアニメでありそうな、この場の法則を捻じ曲げられるとかあったりするんじゃないかと思った。
しかし俺の持つ【絶対防御】を破る攻撃方法を持ってないんだったらもしかしたら防御寄りな力かもしれないとも思った。
それは俺が知識と知恵の神の門番がバリバリの戦闘系とは思えないっていう意識があるのかもしれないが。
どちらかと言うと持つとしたら知識だったり知恵を使って相手を圧倒するような戦い方になるんじゃないかと思う。俺の勝手な思い込みだけど。
俺はゴートさんが出したイスに座りながらそんなことを考えていた。
「本当にお前は面白い奴だ。さっきまで変な事を考えてたと思ったら、すぐにわしのことを考察する。」
「なんと言うか性分ってものでしょうか。色々と考えてしまう性質なんで。」
「まぁそれは悪いことだとは思わない。考えるのを止めると勝てる勝負も負ける可能性がある。」
「ありがとうございます。ゴートさんに勝たない事には先に進めそうにないですしね。」
「それでお前はわしにどう挑んでくるつもりだ?」
「そうですね、とりあえず一番最初に考え付いたのは避けれない攻撃を放つってことでしょうか。」
「具体的には?」
「俺はオリジナルの魔法で【凍てつく庭園】と言う魔法があります。
この部屋位であれば氷の蔦で埋め尽くしてゴートさんの避けるスペースを無くして凍り付かせることが出来ると思うんですが。」
「あぁ、そいつは無理だ。」
「どうしてですか?」
「わしには魔法の攻撃は通用しない。」
「そうなんですね。どんな魔法もですか?」
「そうだな、お前が考え付く魔法でも通用しないと思ってもらった方がいいだろう。」
「う~ん、闇魔法で空間自体を削り取ると言う防御不可の魔法もですか?」
「そうだ。この部屋での魔法の使用がわしの許可なしに出来ないと思ってもらった方がいいだろう。」
「なるほど、そういう事ですね。となるともしかして【必殺の魔槍】とか言う勝手に目標に当たって倒すスキルなんかも通じないとか?」
「そうだな。わしには当たらないだろう。その理由はわかるな?」
「俺が認識できていないと言うかなんというか。追尾性能が働かないってことですよね?」
「そういう事だ。」
元々この部屋に入った時点でゴートさんはいたはずだが俺のスキルでは発見することが出来なかった。今も目視でゴートさんの事を認識できてるだけだ。【索敵】ではゴートさんの事を確認できない。
【必殺の魔槍】のスキルも【目標設定】などのスキルを使って相手を追尾するようにしている。その中に使われているスキルがどれか働かないのであればいくら槍を投げつけても避けられて終わりだ。
そんな力もあるのか。【索敵】で確認できない時に何となく通用しないことはわかってたが。
「結局目視で直接ゴートさんに攻撃を当てない限りどうしようもないってことですよね?」
「そうだと言える。」
「ちなみに【断罪】のスキルを付けた剣を当てれたらどうなります?」
「当てらるとしたらそれを防ぐ方法はない。」
「という事はやっぱりどう直接攻撃を当てるかっていう事ですね。」
「そういう事だ。」
「そうなるとやっぱり心を読まれるって言うのは厄介ですね。俺が全速力で剣を振ったとしたら剣筋を先に読んでかわしたりする身体能力はあるんですか?」
「あぁ、それぐらいにはついて行けるだろう。」
「ん~、高スペックですね。」
「どうした?やっぱり降参か?」
「いえいえ、だったらこちらは数で押します。」
「?」
「俺は【分身体】が使えるんでかなりの数の分身体をこの場に出します。
それを一斉にゴートさんに襲い掛からせます。
分身体って指示を出して動かす事も出来ますが、スキルの【自動制御】を付けて作ります。そうすると多分思考は単一で、ゴートさんに襲い掛かるってことしか考えないから思考を読まれたとしても問題ないんじゃないでしょうか。
かなりの数の俺が切られる恐怖や痛みもなく襲い掛かる。全員分の思考を読めるのかはわかりませんけどさばききれないんじゃないですか?
ちなみにゴートさんに襲い掛かることが出来たら服を脱がして・・・。」
「うわーーーーっ。そう言うのはいいから。
わかった、わかったから。わしの負けだ。そんな方法を取られたらわしも対処できん。
分身体が全員【断罪】のスキルを持って襲い掛かられたら防ぐ方法などないだろう。」
「いや~、そんなことはしませんよ。俺がしたいのは・・・。」
「だからいいって言ってるだろうが。そんなこと考えなくても負けを認めてやるから。」
「ありがとうございます。」
「全く。今までにここに着た奴にそんな考えをした奴なんていなかったぞ。」
「そうなんですか?
まぁ俺みたいに分身体をいっぱい作って、しかも皆凄いスキルを持ってるなんてこと出来る人間なんてなかなかいないでしょうしね。」
「そっちの話じゃない。」
「えっ?じゃあもう1つの話であれば、具体的には・・・。」
「何度も言わすんじゃない。もういいから!」
「残念。そろそろ自重して真面目な話をしましょうか。」
「あぁ、そうしてくれ。」
「ゴートさんは門番の役割をしているって言ってましたけど、今までは実際に戦ったんですか?と言うかこんなところに来るのは前の勇者とかですか?」
「ん?いや、戦ったことは今まで一度もない。
来た者はお前が言ったように勇者だ。」
「戦ったことはない?」
「あぁ、わしの役目はここに来た者の考えを読み、もし悪しき理由でここを訪れたのであれば相手をするって言うのが役目だ。」
「なるほど。だったら俺とも戦闘する必要はないってことですよね?」
「まぁな。」
「暇つぶしとかってことですか?」
「そういうことだ。言っておくが、わしは自分からは倒さないと通さないとは言ってないぞ。」
「えぇ、分かってます。話をしていて何となくそう言う事かなって思ったんで。」
「お前もわかってて話を振ったってことか?」
「そうですね。最初から人をくったような感じをしてたんでそう言う事だろうと思ったんです。」
「だったらなぜそんな話を自分からした?」
「ん~、まぁ心を読む相手と戦うとどんな感じかを知っておきたかったというのと。言ったようにタイプの人とゆっくり話が出来たらなって思いまして。
なんか普通に通して貰えたらあんまりお話が出来ないかと思って。」
「本当におかしな奴だ。」
「後はゴートさんの暇つぶしに付き合おうと思って。」
「どういうことだ?」
「何となくの予想なんですけどゴートさんって不死とか不老とかそういう存在で、ずっと1人でここにいるんじゃないかって思ったんです。」
「何故そう思う?」
「俺の元いた世界ではそう言うお話が多いと言うか。想像上の話ですけど、門番って呼ばれる人が不老不死の存在になってずっとその場を守ってるとか。そう言う話が結構あるんですよ。」
「なるほど。お前はわしの境遇を勝手に想像して、その境遇に同情したってことか?」
「そう言われるとそうですとしか言えないですね。
同情とはちょっと違う気がしますけど。」
「違うとは?」
「ゴートさんがそう言う立場だったとしても自分で受け入れたんだろうなって。
自分の今の役に悲壮感がないと言うか、受け入れているというか、そんな感じがしたんですよね。
だから無理やりその役目を負わされたとかじゃないんだろうなって。それだったら別に同情することもないって思ってます。」
「そうか。全くその通りだ。わしは望んでこの役に付いた。」
「それでやっぱり長い間ここにいるんですか?」
「それもお前の想像通りだ。どれぐらいいるかはわからない。」
「同情って訳じゃないんですけど、ただそうなるとやっぱり1人でこの場所にずっといるのって寂しくないですか?
それがあって俺に対してあんな態度と言葉を言ったんじゃないかと思ったんですが。」
「その点はお前の思っている事と違う点もある。」
「違う点ですか?」
「あぁ、わしは別にここにずっといなければいけない訳ではない。たまにだがここから離れその時代の世に出る事もある。」
「そうだったんですね。すいません、勝手に寂しがってるんじゃないかなんて思ってしまって。」
「いや、まぁそれはないと言えば嘘になるだろう。」
ゴートさんはそう言って今までに見たことのない顔をした。今まではずっと笑みを浮かべたり、焦ったりとどこか軽い感じの表情をしていた。憂いと言うか、切なげと言うか、そんな目の色をしていた。
「この場所から離れて人の世に出たとしても結局はこの場所がわしのいる場所だ。」
「あぁ。」
「人と交われば縁が結ばれる。良縁、悪縁あるだろうがその縁はすぐに途切れることになる。
こちらが幾ら想おうが、相手が幾ら想ってくれようがそこは変わらない。
それに心が読めてしまうんだ。
お前も【読心】を使ったことがあるんだろう?だったらわかるはずだ、全ての人の心が読めるという事が。」
「えぇ、わかります。」
「辛くないと言えば嘘になるかも知れない。だがわしはそれを望んで手に入れ、そしてこの場所がわしのいるところだともわかっている。この場所でしかいられないという事も。
ここには沢山の本があるんだ。本であればゆっくりと読むことが出来る。ここには内容を先に話してしまう様な奴もいない。
わしは昔から色んなことを知るのが好きだった。ここにいればどんなことだって世の中の事を知ることが出来るんだ。だから今の役割に悔いはない。
って何故お前は泣いているんだ?」
「わかりません。同情してるとかそういうのではないんです。」
「あぁ、それはわしもわかっている。ただお前がなぜ泣いているのかわからないことは、わしが心を読んでもわからない。本当に変わった奴だ。今までにそんな奴とは出会ったことがない。」
「そうなんですか?」
「あぁ、大体の人間は心を読んでくる奴の事なんて嫌いだろう。必要な話が終わればさっさと先に進んで行くものだ。お前みたいにわしとゆっくり話がしたいなんて言った奴は初めてだ。」
「それは何度も言うようにゴートさんが俺のタイプの人だからじゃないですかね。」
「それは、わしにはわからないが、まぁこうして心を読むと知っても普通に話をしてくれるのは、その、ありがたいと言うか。こんな事初めてだからよくわからんが。
正直嫌な感じはしない・・・、いや、別に受け入れるとかそういう事じゃないぞ。」
「はい、わかっています。」
「そんなお前だからわしの知ってることは全部教えてやりたいところだが、そうもいかない。
わしは単なる門番だ。知りたいことはこの先にいる神に聞いてくれ。」
「はい、わかりました。」
俺がそう答えるとゴートさんは座っていたイスから立ち上がった。
しかし俺はイスから立ち上がらない。
「どうした?話は済んだだろう?これ以上わしから伝えられることはないぞ。」
「そうかもしれませんね。でもゴートさんの事なら聞いても問題ないでしょう?」
「わしの事か?」
「はい、どんな人で、どんな人生を歩んできたか、何が好きで、何が嫌いか。
ゴートさんの事だったら聞いても問題ないでしょう?」
「それは、まぁ。そんな事本当に聞きたいのか?
あぁ、愚問だった。そう言えばお前はそう言う奴だったか。」
「えぇ、愚問だと思います。
急いで神に会いに行かないといけない訳でもありませんし、どちらかと言うとゴートさんの事を聞く方が俺にとっては重要な気がします。
それとも縁を結ぶのは嫌ですか?」
「いや、構わない。もう結んでしまった後だ。今更お前と結んだ縁を忘れたりは出来ないだろうし。」
「俺としては縁だけじゃなくて契りを結んでも・・・。」
「バカ野郎、なんてこと考えるんだ。全く。」
ゴートさんはそう言いながら笑って一度立ったイスに座り直した。
お読み頂きありがとうございます。




