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召喚された世界はスキルがものをいう  作者: 雷
【魔法大国 スラグスル】編
185/237

手記

 俺が見付けた本はある人物の手記だった。

 勇者と魔王という項目が書かれた本はほとんど見つからなかった。

 だから次に俺は神レスティアに関わる書物を読み漁ることにした。

 勇者はレスティアの使いとか、レスティアによってこの世界に呼ばれた者とか言われているはずだから何かしらの情報があるんじゃないかと思ってな。

 そうやって探していた時に見付けたんだ。


 見付けた本はとあるレスティア教の司教が書いた手記だった。

 その人物はかなり前の時代に生きた人物でレスティア教の教えを知り、入信して司教にまで上り詰めた。しかしいつの日にか疑問を抱いた。

 神の使徒である勇者の文献や伝記が世の中には少なすぎるのではないかと。

 俺もそう思う。世界を救ったとされる人物の情報があまりにも少なすぎるのはおかしいと思わないのかと。

 そこで司教は旅に出て勇者の情報を集めようとした。そして世間に知らしめるのが自分の務めであると思ったようだ。

 そこから司教の旅の内容が綴(つづ)られていた。

 色々な町や村へ行き、そこで勇者に関しての何かの言い伝えや情報がないかを地道に聞いて行くと言った旅だったらしい。

 しかし思うように情報は集まらなかったみたいだ。


 だがその時ある有力な情報を手に入れた。

 たまたま聞いた話だったそうだがエルフの里に勇者が残した言葉が伝えられているという事だ。

 エルフは寿命が長く、もしかすれば先代の勇者と魔王の戦いも実際に知っているんじゃないかという事だ。

 それはそうか、人より長生きで前の勇者と魔王との戦いを直に経験していたのであれば何かを知っていてもおかしくないよな。

 ただ問題は人の身でエルフの里に行けるのかという事だ。

 まず大陸が違う。

 この人が住む【アルメデ】からエルフの里があると言われる【ウィクルーア】と言う大陸に行くなんてどれだけ大変な事か。

 今の世の中でさえ殆ど大陸を移動するという事がない。

 それぞれがそれぞれの大陸で生活できているし、交易を結ぶと言うのもない。

 エルフは他の種族が嫌いだと言うし、【ウィクルーア】に住む獣人や精霊も独特の文化を持っていて人とあまり交流しないという事だ。そんなこちらの事を良く思っていない者しかいない大陸にわざわざ行くなんてもの好きしかいない。

 ただエルフや獣人にも変わり者はいるみたいだから、そう言う者が大陸を渡り【アルメデ】に来ているみたいだ。

 後は商人なんかはこの大陸にはない物があるかも知れないと言ってわざわざ【ウィクルーア】まで行っている。そこは個人の自由らしいそうだ。

 シータもそういう商人の船に乗ってこちらの大陸に渡ってきたんだろう。

 そう言えば冒険者も向こうの大陸に行ったりするのか。シータの父親も冒険者だったか。

 何かを求めて向こうの大陸に行ったのか、それとも商人とかの護衛で行ったのか。

 新しい大陸の開拓とか冒険者らしいっちゃらしいけどな。向こうの大陸に近い町だったら冒険者ギルドで護衛の募集とかしているのかもしれないな。

 ただ普通の人間が簡単に行けるようなところではないという事だ。


 だからその司教はこの大陸に来たエルフに話を聞く為に探したらしい。

 そして何とか1人のエルフと知り合うことが出来たという事だ。

 そのエルフはある貴族の奴隷だった。

 なんかと頼み込んで少しだけ話をさせてもらうことが出来、話を聞いたという事だった。

 勇者の事を何か知らないか?エルフにそう問うた。

 するとエルフの里には勇者が書き残したという言葉があると言う話を聞けた。勇者が岩の板に彫り込んで残したものらしい。

 司教はなんと書き記してあったか聞いたが書かれていた文字はエルフたちでも知らない文字だったらしい。

 この世界では【アルメデ】で人族が使っている言語と、それ以外にエルフ語や獣人語みたいなものがそれぞれあるらしい。しかし勇者が書き残した文字はどの言語とも違っていたらしい。

 恐らくだが召喚される前の世界の言葉なんだろう。

 言葉自体そう長いものでもなくエルフは憶えていたみたいだ。

 その言葉は



『まおうをうつためにじしんをみつめろ』



 と書かれていたらしい。司教もその言葉をそのまま手記に記し内容は理解できていないみたいだ。

 手記に書かれていた言葉は思いっきり日本語、ひらがなだった。

 俺達の先代の勇者も日本人だったってことか。しかし言葉が現代だな。百年以上前だったら言葉もその当時のものだと思うんだけど。

 俺達が召喚される時にレスティアは時間から切り離された場所に俺達を置いて話をしていたな。そう考えると時間の概念はこちらと元いた世界では違うのか。進むスピードが違うとかそう言うのがあるのかもしれない。


 それにしてもこの文章の意味っていったい?

 これだけの文字数であれば学者であっても意味を理解するのは難しいだろう。言語を理解するのにはある程度の法則性なんかを見付けないといけないだろうし。言葉が少なければ50音あって、それぞれこちらの言葉ではどれに当てはまるかとか考えられないだろうし。

 『魔王を討つ為に自身を見つめろ』、漢字に直すとこうなんだろうか。

 しかし残した言葉はこれだけなのか?自身を見つめろって意味がよくわからない。

 自信?地震?ってことなのか?それでも意味が分からないけどな。

 だが勇者がわざわざ残した言葉なんだ、絶対に意味がある言葉なんだろう。もしかして縦読みにしたら他の読み方が出来るとか?ただ言葉だけを写したからわからなくなっているとかの可能性はどうだろう。

 う~ん、そればっかりは実際に見てみないと分からないか。

 エルフの里に行ってみるか。書かれたそのものが残っていないか、なければそのものを良く知った人物がいないか探す。そうすればもしかすればもっと情報を集められるかもしれない。


 エルフの里か。シータも里帰りできるか。しかしエルフは純血を守るとかだったか。それでシータと母親は里から出されたんだろうし、あまり歓迎されないかもな。

 いや、しかしそう言えばシータが俺達の仲間になったのってアリアの【天啓(リベレーション)】で見えたヴィジョンがあったからだったよな。

 シータを仲間にすることによって後々プラスになるって言ってたはずだ。

 シータがエルフの里の場所を知っていて、簡単にエルフの里に着けるようになるとかなんだろうか。シータに今度会った時に聞いてみよう。

 もしかしてアリアはエルフの里で俺がその先代の勇者の言葉を見てる光景でも見えたとかかもしれない。何となくだが俺達はエルフの里に向かう事になりそうだ。


 結局のところ勇者についての有力情報はそれが一番のものだった。

 司教もエルフの里までは行くことが出来ず他を色々当たったが何の情報も得られなかったと書き記していた。

 しかしわざわざこの世界の言葉を使わずに、元いた世界の言葉で書き残すなんてな。やっぱり情報規制されていた可能性が出てくるな。そうなると神が絡んできているのか。でも何の為に・・・。

 この世界の人に知られたくない事実があるとか?

 ファンタジー小説とかでよくありそうな話だったりするのか。

 悪落ちとか。

 どっかの神様が悪心に目覚めて魔王になったとか。この世界の神が悪になったことを住人に知られたくないとかなんだろうか。

 そう考えると割と腑に落ちる点も出てくる。

 情報規制は神が悪に落ちたとは言えない、知られたくないってことだろう。

 今の俺では魔王を倒せないって言うのは今回の悪落ちした神がかなり強い神だったとか。

 勇者が倒し方を残していないって言うのが毎回悪落ちした神が違うから対策がその時によって違うからだとか。

 ただそうなると勇者がわざわざ残した言葉が今度は引っかかるな。

 自身を見つめろとかいう言葉が分からない。

 もしかして自分の神『自神』とか、次の神『次神』とかってことか?

 そうなると言葉的には『見つめろ』とかじゃなくて『知れ』とかになりそうなもんだけど。

 だけど、どの神が悪落ちしたかなんて召喚のタイミングで分かるだろう。俺が勝てないかどうかなんてその時にわかっていそうなものだ。レスティアがその時には何も言ってなかったし。後から協力する別の神が出て来たとかあるのかもしれないけど。

 また俺の想像の域を出ないな。知識の神に会ったら教えてくれるか。


 この図書館で得られる情報はこんなもんか。

 【完全記憶(パーフェクトメモリー)】【速読《ラピッド・リーディング》】のおかげで本を読むスピードはかなり速い。一応勇者、魔王関連以外の情報もちょこちょことは入れてある。モンスターの情報や他にも役に立ちそうな情報もだ。

 後はこの図書館にやってきた一番の目的、知識の神を探すか。

 ただどうやって探すかなんだよな。

 ここでは【探索(サーチ)】が使えない。となるとやっぱりこれだな。

 俺はそう思って【倉庫持ち(アイテムボックス)】から黒い箱を取り出した。そしてその箱についているボタンを押した。すると箱が開き中から小さなネズミが飛び出してくる。

 俺が取り出したのは【探索鼠(サーチングラット)】の魔法具だった。

 この図書館でも魔法は封じられているが魔法具は使えるみたいだ。館内の照明も魔法具のようだし、入り口にも使われているみたいだから魔法具も使えないようにすると面倒なことになるんだろう。

 俺は周りが本棚に囲まれた部屋の隅の方で【探索鼠(サーチングラット)】を放った。黒色のネズミ達は本棚の影なんかに隠れながら館内に広がっていった。誰かに見つかっても単なるネズミだと思われるだろう。

 館内をくまなくネズミ達が駆け巡る。

 そして一匹のネズミが違和感がある所を発見した。

 俺は【探索鼠(サーチングラット)】を回収してからそこに向かってみることにした。

 着いたそこは本棚と本棚の間にある壁だった。こちらもかなり部屋の奥の方にあって周りから見えない死角になっている。しかもその本棚に置かれた本もおおよそ魔法に関係ない様な本ばかりだった。ここは一応魔法学園の中の図書館だ。こんな本の並べてある所に学生が頻繁に来たりしないだろう。


 目の前にある壁を叩いてみる。すると他の壁を叩いた時と違った音がした。奥に何か空洞があるのか。

 こういう場合は何かしらの仕掛けがあるんだろうな。

 そう思って俺は【観察眼《オブザベーション・アイ》】を付けて周りを見回した。

 すると本棚に違和感を感じる。本の並びがおかしい。ここの図書館も名前順であったりで本を並べてある。しかし1つの本棚だけその並び順がおかしい。

 そこで俺はちゃんと綺麗な並び順になる様に本を並び替えた。最後の本を本棚に並べ終えた時に違和感のあった壁が音もなく横にスライドした。そしてそこには地下にのびる階段が見えた。

 なるほど、こういう仕組みだった訳か。よく目にする仕掛けを自分で解くとちょっと感動するな。

 いや、今はそんな事置いておくとして。

 どうする?このまま進むか?しかし今は俺1人だ。

 ここは一旦引いてアリアと一緒に再度訪れた方がいいか?

 この場所では【念話(テレパス)】は使えない。一度図書館から出て呼びに行かないといけないだろう。しかしこの階段もいつまで開いているかわからない。もう一度同じ方法でも問題ないのか?今このまま進むのと、アリアと合流してから進むのとどちらがいいのか。

 ここは一発勢いで行った方がいい気がする。

 俺はそう思い目の前に現れた階段を下っていくことにした。

 俺が階段を数段下ると後ろでまた音もなく壁が閉まった。

 これで引き返せなくなったってことだな。

 迷宮も攻略できたんだ。何とかなるだろう。というか結局は何とかするしかないんだ。

 そう思って俺は階段を下っていく。

 結構な長さの階段だった。地下に続く階段のようだがかなりの距離を下っていくようだ。

 周りは暗いという事もない。明かりがついていた。魔法具の一種なんだろう。俺が進む先の明かりが少しずつ灯って行くのが見える。

 これは歓迎されているのか。それともそういう仕様なんだろうか。


 階段をどれだけ下ったんだろうか。時間にすれば30分程下りっぱなしだ。

 そう言えば俺はこのまま子供の姿のままでいいんだろうか?体的には元の姿の方が楽なんだけど。

 ここだったら誰かに見られることもないだろう。

 しかしこの先に誰かいたら子供の姿のままの方がいいか。

 今回この階段を出現させる仕掛けは解こうと思えば誰にでも解ける様な仕掛けだ。

 何か不味いことがあったらたまたま本を並び替えたら階段が出てきたので進んでみたという事で通じるだろう。

 ただ考えてみたらこの階段の先に知識の神がいるかどうかもわからない。

 図書館の中の違和感を調べたら階段が出てきたから進んできただけだ。

 誰も知識の神に続く階段だとは言ってないもんな。

 これで進んだ先が全然関係ない場所だったらどうしよう。

 こんな隠して地下にある場所なんてどう考えてもヤバい感じしかしない。

 何かヤバい実験をしてる施設とか、凶悪なモンスターが封じられているとか。ゲームとかでありそうだからなんかやだな。まぁそんな場所に通じてるならもっと複雑な仕掛けにするか。

 そんなことを考えながら下っていくとやっと階段が終わった。

 しかし階段が終わった先には扉があった。

 うわ~、悩む扉だな。大きさ的には普通の玄関扉位の大きさ。それが2枚あり押して開ける様だ。

 よく見たが罠なんてものはないみたいだ。

 扉を開けていきなり戦闘になるとかないよな?

 そう言えばと思って俺は簡単な魔法を唱えてみる。すると目の前に小さな明かりが灯った。

 この場所では魔法は使えるようになったみたいだ。

 だとしたらと思って俺は支援魔法を幾つか自分に掛けた。

 ふーっと息を吐き扉に手を掛けた。鬼が出るか蛇が出るか。俺としたら素敵な出会いがあったらいいだけど。

 そんなことを考えながら俺は手にした扉を押し開けた。

お読み頂きありがとうございます。


まだ暫くは謎多き展開になっていくと思います。

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