ヒーロー
【岩の城壁】によりディーンは岩の檻に包まれた。
前回はアリアが水の檻を作って閉じ込めたが【魔法攻撃無効】【魔素分解】なんかのスキルによって、ただの水に変えられて破られた。
しかし今回は単純に岩の壁に囲んだだけだ。いくら岩の壁の魔素を分解しても瓦解するという事はない。
ただ作る時にも魔素の分解は行われていたようだからそこまでの岩の壁の強度は上げれていないし、岩の中の魔素を吸収すればさらに脆くなりしばらくすれば岩の壁も壊されてしまうだろう。
今回の岩の檻も時間稼ぎにしかならない。元よりそのつもりなんだが。
【岩の城壁】の魔法を使ったのは当然俺だ。
そうして奴を閉じ込めたのには理由がある。
今闘技場は逃げる観客が出口に殺到して大変な事になっている。混乱の極みだな。
しかし今【岩の城壁】の魔法でディーンを閉じ込めたことにより、観客達の混乱も少し和らいだ。ディーンという未知への恐怖が目に見えないものとなり、今起きた事態に驚いたからだろう。
とりあえず今この瞬間だな。
俺はかけていた【天狗の隠れ蓑】の魔法を解いて、飛び上がる。
俺は観客席にいてそこから闘技場へジャンプしたんだ。
そしてアーサー達3人の前に綺麗に着地した。
「仮面のヒーロー、オオヤマン推参!」
俺は大声を張り上げ、ビシッとポーズを取った。
いや~っ、周りの目線が痛い。
「えっ?何こいつ?」っていう視線がビシビシと飛んできてるんだけど。心折れるから。
「ダイゴ様、何をやってらっしゃるんですか?」
【念話】でアリアが冷静に聞いてくる。
「いや、お前まで。細かい説明は後だ。俺が今から伝える内容を大声で会場に伝えるんだ。」
「えっ!?わかりましたわ。」
俺は【念話】でアリアにそう伝える。
「あ~っ、あれは。まさか!?謎のヒーロー、オオヤマン・・・?ではありませんか。
善良なる民がピンチになると現れると言うヒーロー。
超絶カッコいい・・・はっ?本気ですか?はい、まぁわかりました。
え~っ、超絶カッコいい、そして超絶強いオオヤマンが来て下さればもう安心ですわ。
皆様、もう何も恐れることはありません。我らがオオヤマンが必ずや敵を倒してくれるでしょう。」
俺が伝えた内容にアリアは納得いっていないのか、あまり安心出来なさそうな感じでそう言った。
「君たち。もう大丈夫だ。後は俺に任せろ。」
俺はアーサー達に親指を立てながらそう言った。
しかしアーサーとベックは無言で胡散臭そうなものを見た時の目をしてる。
え~っと、その目で見るの止めてくれないかな。
とりあえずどうしてこうなったのかを説明しよう!
ディーンが現れてステータスを見た時に俺が何とかするしかないと思った。
ここにいるのは魔法使いが殆どだ。アリアに関しても戦闘するとなると基本的には魔法を使って戦う。しかしディーンには魔法はほぼ通じない。【魔法攻撃無効】なんてもの持ってるし。俺みたいに闇魔法のオリジナル魔法で【魔法攻撃無効】も関係なくダメージを与えられるなら問題ないが、そんなの使える人間はここにはいないだろう。
アリアの武器も今はアプサラスしか持ってない。あれは鞭の部分が完全に魔法で作る物だから奴には通じないだろう。こう言う事もあるんだな、ちゃんと鞭の部分に物理的な何かを付けておけばよかったか。それは今後の課題だ。
でもアリアが本気出して魔法を使って水の最上級の魔法を使ったりすれば【魔法攻撃無効】があっても倒せるとは思う。何かしらの物理攻撃を魔法の中に組み込めばいいだけなんだし。例えば水の竜巻を作り、その中に氷で鋭い刃物のような物を作って攻撃するとか。その場合相手の【魔素分解】なんかのスキルがあるからそれを上回る出力を出さないといけないからかなり大掛かりな魔法になる。ここでそんな魔法使えば確実に周りにも被害が及ぶことになるしな。
そう言った点でもアリアがいるからと言ってディーンの相手を任せるわけにはいかない。
ただ問題は俺がこの場で子供の姿のまま戦う訳にもいかないってところだ。
そこで俺はまず【深淵の霧】を使って会場一体の視界を奪った。
その瞬間に【分身体】を使い、子供の姿の分身を作った。
今アーサー達の隣に立っているナイトは俺が分身体で作ったものだ。今の状況なら少しぐらいの間であれば騙すことが出来るだろう。
そして俺は【天狗の隠れ蓑】を使ってから客席に移動して【岩の城壁】を使ったという事だ。
そしてディーンを閉じ込めて今の状況を説明して、観客達を安心させようとした。
まぁ一番の問題は俺の今の姿かもしれない。
俺は今は元の姿に戻っている。
服装や武器はいつものを装備してる。
ただ顔には顔全部を覆うマスクと仮面を足した様な物を被っている。覆面プロレスラーが付ける様なマスクをもう少し立体的に色々付け加えたものだ。
いやね、俺も色々と考えた訳だ。
普通の姿でもいいかと思った。しかしいきなり勇者としてこの場で自分の姿を晒していいのか悩んだ。色々な所のお偉いさん方もいるし下手に顔と名前を憶えられて、と思うと止めておいた方がいいかと思ったんだ。
そうなるとやっぱりこういう時には謎のヒーローが登場するべきだろうと頭に浮かんだ。
【偽装】で他の姿になってもいいけど、とっさだったし。イメージが固まってないと別人になるのは難しい。知った顔でやると後後問題になりそうだしな。
そこで【玩具箱】の中で今付けているマスクを作った。
色々と【倉庫持ち】の中には入っているし、魔法具とかではなければ作るなんて一瞬だ。今付けてるマスクには特殊な効果なんかはついてない。ただ顔を隠してるだけのマスクだ。
そしてこのマスクを付けて謎のヒーローとして登場してディーンを倒せば問題ないだろうと思ったんだ。
一応アリアにもちょこっと説明して貰ったら行けると思ったんだけどな~。
それが今の惨状だ。
ほとんどの人間がポカーンとした顔して俺の事を見てる。
いや、しかしここまで来たら後には引けない。やりきるのみだ。
丁度良い所でディーンを囲っていた岩の壁が崩れ出した。恐らく中から何かしらの方法を使って岩の壁を壊したんだろう。
さっさと片を付けてしまった方が良いだろう。
「さぁ、君たちは危ないから下がっているんだ。」
俺はアーサー達に向けてそう言った。
「うん、オオヤマンありがとう。アーサーとベック、オオヤマンに任せて僕達も避難しよう。」
俺の分身体であるナイトがそう言って2人の手を引いた。
2人は怪訝な顔をしていたがナイトが一緒に逃げるのであればという感じで扉の方へ走り出した。
あの2人は分身体に任せておけばいいだろう。それよりも。
そう思い俺はディーンと対峙する。
ディーンはキョロキョロと辺りを見回す。
「ナイトは、ナイトはどこだ!どこへ行ったー!」
ディーンが吠える。先程の様なブツブツと言った呟きではなく闘技場いっぱいに響く声でだ。
「残念だがお前の相手は俺だ。」
俺はそう言って腕を水平に上げ、手の平を上に向けクイクイと指を動かし挑発した。
「お前に用はない!」
ディーンがそう叫ぶと。体の周りにあった緑色の液体が俺の方へ伸びて向かってくる。
俺は腰の北斗を引き抜き、後ろに下がりながら飛び来る液体を斬る。
不定形のスライムの様な液体が触手の様に伸びてくるが、スピードもそこまで早くないので俺の体に到達する前に全て斬ることが出来る。
斬られた液体はその場で地面に落ち動かなくなる。
本体から切り離されるとその部分は動かなくなるのか。
俺は冷静な分析をしながら、闘技場を円を描く様に走りながら伸ばされた液体を対処していく。
俺がディーンの側方に回り込むとディーンは俺ではなくアーサー達が逃げて行った扉の方を向き進もうとする。
あくまで狙いはナイトらしいな。しかしそうはさせるか。
「【絶対防御壁】」
この間作ったばかりのスキルを発動させる。闘技場丸々【絶対防御壁】でドーム状に覆ってやった。
【絶対防御壁】は魔法ではない、スキルの1つだ。【魔素分解】を持ってようとそもそもの【絶対防御】には通じない。奴にはこの壁を越えることは出来ないだろう。
しかしかなり大きな【絶対防御壁】を展開した為かMPの消費が激しい。あまり長い時間は使ってられないな。
申し訳ないがケリを付けさせてもらおう。
ただその点で俺も思う所はある。
目の前のディーンを倒すと言うのはディーンを殺すという事だ。
どういう理屈でディーンが魔人という存在になったのかは俺にはわからない。
元の人に戻せるのかどうかもわからない。
本人が魔人になるのを決めたのかどうかもわからない。
今のディーンを止めるという事はそれしかないと思っている。
なぜこんなことになったのか、それはわからない。今俺に取れる行動は限られている。
もしかすれば後で後悔することになるかも知れない。ディーンを止める方法は他にもあったんだって。
しかしこの場で取れる俺の選択肢の中で最善と言える道を選ぶ。
そうしなければ他で後悔するかもしれない。
ディーンには恨みなんてものはない。怒りなんてものもない。
俺が今から行う行為は一体なんだろうな。
わかりきった悪役相手だったらどれだけ気持ちが楽なんだろう。ヒーローっていいよな。相手は悪の限りを尽くす敵なんだから。
いや、止めておこう。
最初の1人を手に掛けた時に決めたはずだ。
無数の選択肢の中選んで俺はここにいる。そしてこれからもそういう選択肢は出てくるだろうし、選ぶことになる。後で後悔しても仕方がない。その時にはそれが最善だと思ったんだ。
俺は北斗の鞘を腰から引き抜き剣の柄の部分に差し、魔力を通す。
すると北斗は剣から槍へと姿を変えた。
試すようで悪いけど。
俺はそう思いながら槍を構える。そして飛び上がり一気に槍をディーンに向かい投げる。
「【必殺の魔槍】」
俺が叫びながら投擲した槍は真っ直ぐにディーンに向かって行く。
ディーンから伸びた緑の液体が飛び来る槍を防ごうと槍へと殺到するが、槍は緑の液体に包まれても速度を変えずにディーンに迫る。
緑の液体は槍を止められないことが分かるとディーンの体をその場から動かそうと、ディーンの体を持ち上げ地面を滑る様に移動する。
しかし槍は軌道を変えディーンに向かって行く。
何をどうやっても槍を止めることも、かわす事も出来ない。俺がそう言う風に作ったスキルなんだから。
槍はとうとうディーンの胸に吸い込まれる様に刺さった。
ディーンの体がビクンと大きく揺れる。そして後ろに直立したまま倒れた。体の周りに纏っていた緑の液体も力を無くしたように地面に落ち、広がっていった。
俺はそのまま近づき、ディーンの胸から槍を引き抜いた。槍には血が付いていなかった。ついていたのは緑色の液体だけだった。
その液体をブンと槍を振って地面に落とした。そして槍を剣に戻し腰に差す。
ふと気になったので【鑑定眼】で自身の称号を確認してみた。そこには人を殺した様な称号はなかった。ディーンは人ではなかったらしい。
ディーンを葬った【必殺の魔槍】は新しく作ったスキルだ。【神槍・改】をバージョンアップした【八百万のスキル】によって改良して作ったスキルだ。
投擲した槍が必ず相手に当たる。それは前に使った【赤の猟犬】の仕組みとあまり変わりはない。ただスキルをいくらでも乗せることが出来るので更に追尾性能は上がっている。というか必中だな。
そして槍が刺さった敵は絶命する。
当たった槍の部分から影の枝の様な物が広がり、そこから毒が撒かれる。毒はシータの武器の月詠に使われているのと同じものだ。それが一気に体内に放出される。
【神槍・改】の時に使ったスキルの数倍のスキルを使って作ったスキルだ。この槍を受けて生き残れる奴はSランクの魔獣でもそういないだろう。
今の所俺が使える技の中で一撃で敵を必ず倒すことが出来るのは【必殺の魔槍】だろう。
ディーンがどういう存在かが分からない。胴体を真っ二つにすれば倒せるのか、頭を打ち抜けば倒せるのか。それとも緑の液体を何とかしなければいけないのか。そう言うのが分からなかった。
だから【必殺の魔槍】を使った。
ふとディーンに目を向けると体が溶け始めていた。人ではないからか。死体すら残らないっていうのか。
っといつまでも感傷に浸ってる場合じゃないな。
「はっはっはっ、このオオヤマンが見事敵を討ち取った。またピンチの時には駆けつけよう。」
俺はそう大声を上げてマントをバサリと翻した。
その瞬間に【天狗の隠れ蓑】を使い姿を消す。周りには一瞬で姿を消したように見えただろう。そしてそのまま闘技場から出て行く。アーサー達に合流しないとな。後は頼んだとアリアに【念話】で告げて俺は走った。
俺が闘技場を後にする時にはアリアがまた声を上げ危険が去ったことを観客に伝えていた。
残っていた観客は安堵していた様だが、闘技場から離れた観客達は騒ぎが収束したことを知らないだろう、暫くは混乱が続くはずだ。
しかし混乱してくれているのは助かる部分もある。分身体はアーサー達と一緒に逃げている間に人込みに紛れてわざとはぐれる様にした。
分身体と人気のない場所で合流してから分身体を消し、スキルを使って子供の姿に戻った。
それから【索敵】を使ってアーサー達と合流した。
アーサーは俺の無事な姿を見て泣いた。
そんなに心配しなくてもいいのに。
それにしても今回の魔法対戦トーナメントはもう終結だろうな。こんなことが起きてまだ続けるとは思えない。
しかしトーナメントとかやってる最中に乱入者があるとかまたベタな展開だったな。
いや、もしかしてそのトーナメントに俺がいたからか?
勇者である俺を狙って魔王が画策したとか。
ただディーンはナイトという人物を狙っていたように思う。ナイトが俺であることがバレているとか?
そんな感じはしなかった。それに勇者に対して送り込む刺客としてはあっけない感じもした。
俺の力量を知らないという可能性もある。
他の可能性もある。
各国の要人が集まっている所だ、その要人を狙って送り込まれたとか。その場合ナイトという人物を執拗に狙おうとしていたのが分からなくなるが。
今回も謎が多いな。結局ディーンがなぜああなったのかもわからないままだし。
いつかはこの謎もわかる時が来るんだろうか。
お読み頂きありがとうございます。




