魔法対戦トーナメント開始
さてなんだかんだとありながらもうすぐ魔法対戦トーナメントの開催日が近づいてきた。
今回は本当に規模が違うらしい。
他の国からトーナメントの様子を見に来たお偉いさん方が都市の方に泊まりに来ているらしい。
その為都市部の方も偉く物々しい雰囲気になっている。
学園の方もにわかに活気づいている。学園も言うほどイベント事なんてものはないし。こういうイベントがあると、どうしても盛り上がっていくんだろう。
いつもの体育館の様な場所も作り替えらえていて、かなり大きなスペースになっていた。土魔法を使える魔法使いが沢山いるし、それぐらいはお手の物なんだろう。
今まで百人位が入れるぐらいだったが、今回の闘技場とも呼べる場所は千人規模ぐらいになっている。
学園の生徒だけでも100人を超えるんだ、他のギャラリーが増えるのならその分増設しないといけないだろう。
今は学園の中で皆トーナメントに対しての特訓やら練習をしている。授業もそっちのけだな。
ただ俺達初級クラスは俺達の3人しか出ないから割と落ち着いているんだけどね。
俺たち以外のトーナメント出場者は大変みたいだな。
3人組を組まないといけないが、俺達の上の人達はそれぞれ個別の専門クラスに所属している。しかしその専門クラス内だと基本的に同じ系統の魔法を使える人間しかいない。そうなるとチームのバランスは良くない。だから昔初級クラスで一緒だった人とかとチームを組んだりするみたいだ。それ以外にも一応は交流があったりするからそれぞれチームを組んだりしていってるみたいだけど。
一応対戦する内容の実践的な授業も上のクラスでは行っているみたいだから、対人戦はそれなりに経験している人もいるんだろう。ただ今回はちょっと仕様が変わってるし。魔法具を配布されてから色々と作戦を立てたり、特訓をしてるみたいだ。
魔法具に関してはかなりの数を作らなければいけなかったから大変だった。実際のトーナメントの時に使うよう以外にもこういった練習の時に使う用の分も用意しないといけなかった。
しかし魔石に関しては作れるし、後の物も大したものは使っていない。全て【玩具箱】の中で勝手に作ってくれる。一瞬俺達が使う魔法具だけ細工して物凄く耐久力のある魔法具に変えておいてやろうかと思ったけど流石にそんな不正をしたくはない。そんなことをしなくても俺達が勝つだろう。そう思いながら俺達も特訓を続けた。
最初は文句言いながら特訓していた2人も日を追うごとに慣れてきたのか、Dランク位のモンスターは簡単に狩れるようになっていた。戦えば戦うほどレベルも上がるし、それだけ強くなっているしな。
やるだけのことはやってきたし、後は実際にトーナメントが始まってみないとな。
そうして実際に魔法対戦トーナメントの当日を迎えた。
「今回は今までにはない規模でこの魔法対戦トーナメントを行う事となった。
それぞれの生徒は自身の持てる力を存分に発揮し、魔法使いとしての力を見せて欲しい。」
そう学園長が挨拶した。
今俺達は新しく出来た会場の真ん中にいる。出場するチームのメンバーがそれぞれ並び、学園長が俺達の前の台の上に乗って挨拶している。風の魔法を使って声を拡散しているのか会場中に学園長の声が響いていた。
円形のスペースの周りには階段状の観客席。観客席にはうちの生徒とは別に、それぞれ護衛に守られたお偉いさん方が沢山座っている。いろんな国の有力者達なんだろう。座る位置に少しずつ間が設けられている。そのお偉いさん方は学園長の挨拶に対して拍手を送っていた。
なんだかな、見世物になった気分がする。実際その通りなんだろうけど。
俺達の周りには俺達よりも年上のトーナメント参加者の姿がある。
俺達がこの中では一番年下だしな。正直なんで参加しているんだ?みたいな目で見てくる奴もいる。
まぁそれは俺も聞きたいところだ。何でこんなのに参加することになってるんだろうな。
今回参加するチームは16チーム。
最大4回戦う事になる。どのチームが戦うかは抽選だった。
その抽選も事前に終わっていて、すでにどのチームと対戦するかも決まっている。それに俺達は2番目の組だ。とっとと順番が回ってくるんだろう。
開会式の様なものは学園長の挨拶で終わった。
俺達はこれから一旦このスペースから退場して客席の方へ行く予定だ。
別に客席に行かなければいけない訳でもないんだ。トーナメントに出る人間は別の控室みたいなところも用意されている。そこで試合まで過ごすのも自由だ。魔法対戦なのでウォーミングアップみたいなものはない。ウォーミングアップでMPを使って試合で魔法を使えなくなったら意味ないもんな。
でもまぁ集中力を高めると言う理由で控室に籠るってことはあるかも知れないが。
俺は別にそんな集中する必要はないし。それに今回1番目に対戦するチームの勝った方と次に戦う事になるんだ。それだったらその試合を見ていた方がいいだろう。対策も立てれるかもしれないし。
ベックとアーサーも俺に付いて来て観客席に付いた。
2人共今更控室に行く必要もないんだろう。それに実際に対戦をしているのを見るのは初めてだから見ておいた方がいいと俺が先に言ってあったんだ。
席について待っていると会場にアナウンスの声が響く。
会場全体に聞こえる声、魔法具を使っているんだろう。風の魔法か何かを使っているんだろうな。
「さぁ皆さんお待たせてしております。今回トーナメントの実況をしますのは私、魔法戦闘学教師のフィリップです。そしてゲストとして最近この学園に来られた男子生徒に大人気のアリア先生にも来ていただいております。」
そう言って目をやると、観客席の一部分にプロレスなんかでありそうな実況席が設けられていた。そしてそこにはアリアと1人の男性が座っていた。
男性の方がフィリップという教師なんだろう。
しかしながらなんでこんなことしているんだろう。アニメや漫画でよく見た実況なんてわざわざやる必要があるんだろうか。
そんなことを思ったが確かに必要なんだろう。
仮にカバディの凄い大会が開かれるとして、それを素人の人が見に行くとする。どんなに凄い技や技術が使われていたとしても見に行った人にはわからないだろう。実況というのはそう言う事なんだろう。
今回の様に魔法学園の生徒以外のお偉いさん達にとっては魔法なんての戦闘なんてよくわかってないんだ。そうすると見てても何が凄いのかわからないんだろう。それを親切丁寧に教えてあげる存在が必要ってことだ。
学園もわざわざ見に来たお偉いさん達を無下に出来ないからこういう事になっているんだろう。
それにしてもアリアが実況席にいるとはね。
なんでも実況以外の仕事も頼まれているという事らしいけど。
アリアはフィリップ先生とやらに紹介され皆に手を振っていた。
「では1回戦目ですね。
チーム【赤の鷹】とチーム【緑の狩人】です。選手入場。」
フィリップ先生がそう言うと闘技場のそれぞれの入口から3人ずつ生徒が姿を現した。
【赤の鷹】と言うチームは全員赤いマントを。【緑の狩人】と言うチームは皆緑色の帽子をかぶっていた。一応色とかを合わせてチームカラーにしてるんだ。なんか前にも冒険者グループで色を付けてる所があったな。そう言うのが流行ってたりしてるんだろうか。この世界のお決まりとか。
しかしキツネとタヌキじゃなくてよかったな。
とりあえずザッと【鑑定眼】でそれぞれの選手をチェックしていく。
見た目通りというか名前通りというか。
【赤の鷹】の選手たちは火魔法を、【緑の狩人】の選手たちは風魔法の使い手みたいだ。
同じ専門のクラスでチームでも作ったんだろうな。他のもそう言うチームがありそうだ。
まぁありと言えばありなんだろう。俺達の様に攻撃、防御、サポートなんかの役割分担をするとなると連携はかなり難しくなる。相手の動き、仲間の動きをわかっていないといけない。
攻撃魔法を得意としたメンバーを揃えればそれぞれが独立して動く事も出来るし、そこまで連携を組まなくてもいいかもしれない。火魔法や風魔法の中にも防御系の魔法はあるし。
恐らく2チームとも戦い方は同じなんだろう。
「さて、アリア先生。両チームともそれぞれ火魔法と風魔法を得意としたメンバーが集まったチーム構成の様です。」
解説のフィリップ先生がそうアリアに言った。まぁアリアに言ったというより会場にいるお偉いさん達への説明だろう。
「そのようですね。やはり同系統の魔法を使う方がお互いの詠唱などで、どういう行動をするかわかりやすいでしょうし。連携という部分ではそこまで密にとらなくても問題ないのかもしれませんね。」
アリアも俺と同じ考えの様で、そう答えていた。
「選手の紹介もしておきましょう。」
そう言ってフィリップ先生は選手の名前やどういった得意魔法なんかを説明していった。
必要あるのか?と思うがこれもまたお偉いさん方に顔を憶えて貰う為なんだろう。しかしここで得意な魔法を言ってもいいのか?とも思う。ここで聞いたところでそれに対応できるとは思ってないからなのかね。得意な魔法を聞いてもそれをどう使ってくるかとかはわからないしな。
「選手の紹介も済みましたので、アリア先生お願いします。」
フィリップ先生がそう言うとアリアは魔法を唱える。
「【闘技場】」
アリアの唱えた魔法が発動する。
俺達の目の前の円形のスペース全てを覆い囲む膜が出来上がる。
この魔法は俺が【決闘場】をいじって作った魔法だ。
【決闘場】はタイマン用だったがこれは中に入っている人の数は問わない。ただ中から外への干渉と、外から中への干渉を受け付けない。
単純に支援魔法の魔法の壁を使っても良かったが光っていて見にくくなるし、中で魔法が壁に当たった場合にどこへ飛ぶかわからない。この魔法だと魔法の壁に当たった魔法はそこで四散するようになっている。
「素晴らしいです。無詠唱でなおかつ今までになかった魔法を使うとは!
これはアリア先生がご自身で作られた魔法なんですよね?」
「えっ?えぇ、そうですわね。これによって闘技場の魔法が見ている方に害を及ぼすこともございませんのでご安心ください。」
一応俺が作ったんだけどね。アリアが作ったことにしておいた方がいいだろう。
「では準備も整いました。選手の皆さんも準備よろしいですか?
第一試合開始です。」
そうフィリップ先生が宣言し、トーナメントの第一試合が開始した。
正直言って別に見なくても良かったのかもしれない。
試合が開始して両チームとも魔法の詠唱をして、魔法を撃ち合いだした。それが試合の内容だったからな。
俺が考えて通りの試合内容だった。いわゆる魔法での力押し。
威力の高い魔法を相手に当てて魔法具の防御を削りきるっていう戦法だ。
それを両チームともやっていた。
確かに一番に考え付くのがその方法だよな。魔法使いとしては間違いじゃないのかもしれない。
火魔法は基本的に威力が高い。火の属性がそう言う要素を含んでいるからかもしれない。だから高火力の魔法を唱えて相手チームに向けてぶつけていた。
一方風の魔法はそこまで威力が高くない。威力の高い魔法は存在するが制御が難しいんだ。風をまとめ、刃にしたりするとなると攻撃範囲が狭くなるし、圧縮するのに魔力が高くないといけない。圧縮しないで放っても単なる強風だしな。ただ防御に関しては相性の兼ね合いで火魔法には分がある。空気の層なんかを作ったり空気の壁でも火というのはかなり防げるからだ。
それでお互い決定打がなく魔法をただ撃ち合っている感じだった。
その間も放たれる魔法をフィリップ先生やアリアが一々解説していた。
そのままでは埒が明かないと思ったのか【赤の鷹】チームが同じ魔法を詠唱して勝負に出た。広範囲に炎を撒き散らす魔法だ。それによって闘技場の半分が炎に包まれた。そんな中風を上手く操れなかった【緑の狩人】チームは炎に飲まれた。
「今【緑の狩人】チームの全員分の魔法具が壊れました。勝者は【赤の鷹】チーム。」
そうフィリップ先生が大声を上げた。
解説席には選手の魔法石が壊れると分かる魔法具を設置してあった。これも俺が作った。
「【闘技場】、ブレイク。」
アリアがそう言うと闘技場を覆っていた魔法の膜が消え、それと同時に炎も消える。
【闘技場】の魔法を発動を止めると中で使われていた魔法もその時点で霧散するようになっている。ただ高レベルの魔法はそうはいかないが、ここの生徒が使う程度の魔法なら問題なく効果を発揮するだろう。
消えた炎の中には倒れている【緑の狩人】の3人の姿があった。外見的には全くの無傷だ。
魔法具も余力を残して壊れるようになっている。ホントに壊れた瞬間に魔法の鎧の効果が消えたら大変な事になるだろうし。そう言った安全面も考えて作っている。
闘技場には担架の様なものが運び込まれてきて【緑の狩人】の3人はそれに乗せられ退場していった。
第一回戦は終了した。まぁこんなもんだろう。俺達が勝って次に当たるのは【赤の鷹】ってことだな。
そう言えば。
「2人とも試合見てどうだった?」
俺はアーサーとベックにそう聞いた。
すると2人はお互いの顔を見合わせている。
「どうって言われてもなぁ。」
「うん。」
「いや、試合を見て自分達もこれなら戦えそうだとか、勝てそうだとか思わなかった?」
「正直言うと本気でやってるのか?って思った。」
ベックがそう答える。
「うん、そうだよね。実はまだ本気を隠しているんじゃないかとか思ったよね。」
アーサーも同調する。
「僕が見た感じだったら両チームとも本気だったと思うよ。」
「そうなのか?それだったらなぁ。」
「うん、魔法の詠唱速度もナイトの方が断然早いし、飛んでくる魔法もそこまでのスピードじゃないって言うか。」
「だよな、あれだったらモンスターとかの方が断然早いよな。」
「そうそう、あの特訓の日々に比べたら全然大したことないよね。」
「あぁ、あの地獄の日々に比べたら子供の遊びだよな。」
「うんうん。」
「えっ?地獄って、特訓そんなに大変だった?」
俺が笑いながら2人にそう言うと、2人に無言なった。
えっ?そんなに大変だったの?
いや、そりゃモンスターの群れの中に突っ込ませたり、回復できるからってこれでもかってくらい魔法を当てたりしてたけど、ねぇ。
あれ?2人共俺の目を見てくれないんだけど。
「え~っと、じゃあ僕たちの試合だから下に行って準備しようか。」
俺は何とか話題を変えて2人を連れて試合の準備へと向かった。
お読み頂きありがとうございます。




