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召喚された世界はスキルがものをいう  作者: 雷
【魔法大国 スラグスル】編
175/237

撤回

 翌日実習の時間になった。



「どうするアーサー?僕がまた腕でも切ろうか?」


「えっ!?いいよ、そんなの。ナイトって加減知らないんだもの。」


「だって治してくれるだろうし関係なくない?」


「大丈夫だから見てて。」


「うん、昨日の感覚を思い出してね。」



 俺はアーサーにそう言ってク・・・先生の所に送り出した。



「さぁでは魔法が使えるようになった所を見せて貰いましょうか。」



 そう言って奴はナイフで指に小さく傷をつけた。

 う~ん、ちょっと心配だ。アーサーはちゃんとあいつの傷を治したいと思えるかだな。



「わかりました。この世に満ちる力よ。我に癒しの力持つ光を与えよ。【治療の光(リカバリー)】。」



 アーサーがそう唱えると昨日と同じように光がその手に集まり、そして奴の傷に流れて行き癒す。傷が治っていく様を見て奴の顔色がドンドンと曇っていった。



「どうですか?ちゃんと魔法が使える様になりましたよね?」



 俺は奴の傷が完全に治ったのを見てそう言ってやった。



「じゃあ、ちゃんとアーサーに謝罪してもらってもいいですか?落ちこぼれだと言う言葉も撤回してください。」


「な、な、何を、言ってるんだ。

 さては君たち先生を騙していたんだな?実は魔法を使えるのにそれを黙っていて私を(おとし)めようとしていたのだな?」



 はぁ?何言ってんのこいつ。お前なんて(おとし)めて俺達に何の得があるって言うんだ。



「何をおっしゃってるんですか?僕たちが先生を騙しても得になることなんてありませんよ。」


「い~や、そうやって教師を騙して陰で笑いものにしたいんだろう?」


「そんなことはしません。じゃあ謝罪しろとは言いません。落ちこぼれという言葉だけは撤回してください。アーサーはちゃんと回復魔法が使えました。それは事実です。だから落ちこぼれなんかじゃありません。立派な魔法使いという事です。」


「それは・・・、しょうがありませんね。元々使えていたのを隠していたとしても、使えると言うのは事実の様ですしね。」



 なんだその言い方は。しかも自分から撤回するという言葉も言わない。自分から謝ったら負けとか思ってるんじゃないのか、こいつ。あ~っ、もう(はらわた)が煮えくり返る。ホントにこいつどうしてやろうか。こっちには嫌がらせに使えるスキルいっぱいあるんだぞ。

 具体的には【悪夢(ナイトメア)】と言うスキルがある。寝ている人間の脳に作用して悪夢を見せることが出来るスキルだ。支援魔法の中の幻覚を見せる魔法とか別のスキルを加えて作ったんだ。

 何故そんなスキルを作ったかというのは、まぁ自分で好きな夢とか見ることが出来ないかなって色々と研究した結果に出来たスキルなのだよ。夢ぐらい自分の好きなこと出来る夢を見たいじゃないか。

 


「それにしても、もしですよ、もし昨日まで使えなかった魔法が使える様になるだなんてどうやったんですか?」



 奴が俺に聞いてきた。



「それは内緒です。僕の知り合いには回復魔法のスキルがレベル10ある人がいるので、その人に色々と教えて貰ったんです。」


「なんですって?それはもしかして最近赴任したレスティア教の神官だと言う彼女ですか?」


「そうです、同じ村の出身で結構仲が良かったんです。」


「それでなぜ内緒なんですか?それを教えてくれたら私も・・・。」


「そんな、生徒である僕が先生に教えるなんて滅相もない。僕らは先生に教えてもらう立場ですから。アーサーは同じ生徒同士、こういう風にすればいいよってアドバイスをしただけですよ。

 先生も流石に生徒に魔法の使い方を教わったりする訳ありませんよね?そんなことになったら先生がここにいる必要性なんてなくなりますもんね。」


「えっ?あぁ、そうですね。そんな事する訳がありません。勿論ですとも。」



 そう言ってるディーンの顔はかなり引き攣っている。そして凄い目で俺の事を睨んでいる。

 はっはっはっ、俺は売られた喧嘩を買っただけだ。言い返されるのが嫌だったら最初から態度を改めるべきだったな。まぁただこれでディーンとの関係は最悪の物になっただろう。仕方ないか。いざとなったらそれこそスキルを使ってどうとでもなるだろうしな。


 そんな感じでアーサーもクラスメイトからの評価も変わった。もちろん俺のもだけど。

 それからちょこちょこと俺とアーサーの所には魔法の事を聞きたいとクラスメイトが集まってくるようになったんだ。

 俺はちゃんとそれぞれアドバイスをしていく。そしてそのアドバイスを聞いたクラスメイト達はメキメキと魔法の腕が上がっていった。

 それに対して面白くないと思ってる人間が何人かいた。ディーンとベック、後その取り巻きの連中だな。表だって何かしてくることはないけど、なんだが裏でこそこそとしてる感じがする。でも今回の件俺がムカつくって言うのもおかしな話なんだけどな。当のアーサーに聞いてみたが別にもう気にしていないと言っていた。俺が勝手に謝罪しなくてもいいって言ったのも謝っておいた。それも気にしていないと言っていた。本当に人がいいんだろうな。

 だけど今度何かあったら本気で俺が叩き潰すけどな。



「ってことがあったんだよ。」



 俺は【念話(テレパス)】でアリアにこの話をした。



「それは何というか、ダイゴ様らしいというか。」


「もしかしたらアリアの方にもとばっちりが行くかもしれないから一応言っておこうと思って。」


「それは仕方ありませんわね。聞いた話によるとその教師の方に問題があるようですし。」


「うん、とりあえずムカつく。そう言えばアリアの方はちゃんと教えられているの?」


「そうですわね。私の所のクラスは回復魔法のみに特化したクラスですし。でも師弟契約を出来ればもっと効率がいいのでしょうけど。」


「そうだよね。この学園か、それかこの都市ぐらいに刻印師いるだろうし。ただ冒険者ギルドがないから情報がここまで回って来てないのかもね。今の所師弟契約も冒険者ギルドでちょっとずつ広まってる感じだし。」


「えぇ、そうですわね。でもレスティア教にも教えたので、その内には広まるとは思いますけど。ただあの司教がそう簡単に情報を渡すとは思えませんわね。まだ先になると思いますわ。」


「レスティア教内で流行らせてからってこと?」


「でしょうね。もしかすればレスティア教内で魔法を教えていけるようになるかもしれませんし。そうなったらわざわざこの学園に頭を下げて神官などを入れなくても済むでしょうしね。」


「なるほどね。そう言う可能性もあるのか。レスティア教が独自に魔法を教える様になったらこの学園の必要性がなくなるかも知れないか。」


「えぇ、信者は多いですし。それに教える代わりにお布施として教会の収入もかなり増えるでしょう。」


「そっか、じゃああいつに教えなかった方が良かったのかな?」


「いえ、いずれは知ることになるでしょう。ダイゴ様がこの学園に入れただけでも価値はあったと思いますわ。」


「そうだね、知った後だと大して価値のない情報ってことだもんね。

 それにしてもさっさと試験とかになってくれないかなぁ。」


「もう学園生活に飽きられたんですか?」


「う~ん、なんかこんなにのんびりしてていいのかって気分になる。ブランやガイ達はやることちゃんとやってるだろうし。」


「そうですわね。皆さんどうしてらっしゃるんでしょうね。ダイゴ様ならスキルを使えば一瞬で会いに行けるのでは?」


「まぁね。でも行ったり、戻ってきたりするところを誰かに見られると大変な事になるだろうし。

 それになんか会うと戻りたくなくなりそうだから止めておく。」


「そうですか。まだ暫くの我慢ですわね。また何かありましたらいつでも呼んでください。」


「うん、また何か報告ある時とか言う事にする。」



 俺はそう言ってアリアとの【念話(テレパス)】を終わらせた。

 まだ暫くは退屈な日々が続くと思っていた。

 でもそんな事もないらしい。



 ある日俺達は学園の外にいた。

 いや、それだけじゃない。都市の外と言った方がいいかもしれない。

 学園を出て、更に都市に張り巡らされている他の町よりも更に大きな壁を抜け森の様な所にいる。

 俺の周りにはクラスメイト全員、当然の様にディーンの姿もある。それ以外に3人の大人がいて俺達の前を歩いていた。

 俺達がなぜこんなところにいるか。一言で言うと課外授業に出ているという事だ。


 魔法学園には一応学園の外に出て行う課外授業の様なものがあった。

 先生が引率に付き、ある特定の課題をこなすという事だ。

 今回は都市の近くにあるモンスターの巣の駆除の様子を見るという事だ。駆除は俺達学生がする訳ではない。魔法師ギルドに登録している魔法使いがする。俺達はその様子を見学するという事だ。

 この国には冒険者ギルドはなくあるのは魔法師ギルドだ。だから冒険者ギルドが請け負う様な仕事は魔法師ギルドに所属している魔法使いがすることになっている。都市の近くのモンスターを退治するのもその魔法使い達の仕事なんだ。

 今俺達の前を歩いている3人の大人が今回魔法師ギルドから依頼を受けた魔法使い達ってことだ。

 

 そして俺達はこれからこの近くに出来たゴブリンの巣を目の前の魔法使い達がぶっ潰すのを見ると言うのだ。

 なぜこんなことをしなければいけないんだろうとは思うが、学園を出た何人かは目の前の3人の様に魔法使いになって魔法師ギルドに所属することになるかも知れない。そうなった時にどういう仕事をしているかを知る為の行為らしい。仕事場訪問みたいな感じか。

 ただしかし普通は俺達の様な初級クラスがこうして課外授業をすることなんてないんだ。攻撃魔法を専門的に学んだりするクラスになってからするのが普通だ。

 そこにはディーンの思惑があった。

 最近はクラスのほとんどの生徒がディーンではなく俺とかに魔法の事を聞くようになっている。そこで俺も断ればいいんだろうが、俺のところに来てくれる人を邪険にしたくない。だからついつい教えてしまっていた。だがそうなると面白くないのはディーンの方だ。教師としての威厳も何もあったもんじゃない。そこで今回の課題授業を思いついたらしい。今の生徒たちの実力なら問題ないと学園長に進言したとかなんとか。それでホントに課外授業をやることになったのはどういう訳なのか。

 ディーンは恐らく今回の課外授業で魔法使いに交じって活躍の1つもして威厳を取り戻そうとしているみたいだ。全くそんなことに付き合わされるとは。ちょっとぐらい俺が花を持たせてやっていたらよかった。まぁもうここまで来てるんだし仕方ない。俺は別に見なくてもいいんだけどな。今更ゴブリンなんかを倒すところを見た所で何の役にも立たない気がする。

 しかしクラスの面子は違うみたいで皆緊張してるみたいだ。

 一応【鑑定眼(アナライズ・アイ)】で3人のステータスも確認しているが冒険者ランクで言うとBに近いC位の力はあるだろう。ゴブリンぐらいなら簡単に殲滅できるだろう。



「皆さんは緊張せずについて来て下さい。何かあっても先生が必ず皆さんの事守ります。」



 ディーンがそんな事言ってる。何かあったらねぇ。いったい何があるんだよと思う。何かあったら確実に問題になるだろうに。

 そう何かあったら問題になる。その問題がありそうなんだよ。

 一応俺は【索敵(レーダ―)】を使って周りの様子を確認している。

 でだ、どう考えても俺達が進む方向にゴブリンではないモンスターがいる。

 多分そのゴブリンの巣とやらにそのモンスターがいるんだ。ゴブリンはそのモンスターの餌にでもなってるんじゃないか?ゴブリンの巣があるとされるところにゴブリンの反応は一切ない。

 かなりヤバいよな。ゴブリンを一掃して、餌に出来るぐらいのモンスターがいるところに俺達は向かっているんだ。

 でも俺から進むのを止めましょうと言ったところで引き返すとは思えない。

 何故こんな厄介ごとばっかりが起こるんだ?どうするかな~。まぁ魔法師ギルドから来ている3人がそのモンスターさえ倒してくれたら問題ないんだけど。様子を見るか。もし駄目なら仕方ない、俺が何とかするだけだ。


 とりあえず俺達はそのまま進んでいった。

 流石にゴブリンの巣が近づいたら音を出来るだけ立てない様にと言われた。息をひそめ皆で歩いて行く。【気配察知(サインシーカー)】を持ってるやつ誰もいないのか。ここまで来たらヤバいことわかると思うんだけど。ゴブリンの気配が一匹たりともないんだぞ。それにかなり大きめの気配もあるだろうに。



「おい、何かおかしくないか?」



 3人の内の1人がやっと異変に気付いた様だ。しかしもう後20m位しか離れていない。

 ゴブリンではなく何かの影が動いているのが見えたからだろう。

 今ならゆっくり確認できるか。そう思って俺は【鑑定眼(アナライズ・アイ)】でモンスターを確認する。



名前:デビル・ジョー

レベル:24


スキル:

【噛み付き LV.6】

【突進 LV.3】

【威圧 LV.3】

【食再生 LV.3】

【消化液 LV.3】

【異常状態耐性】

【物理攻撃耐性】

【魔法攻撃耐性】



 う~ん、最近これぐらいの相手がどの程度の強さなのかわからない。

 見た目はデカいトカゲの様な感じなんだけど、大分違う部分もある。体に対して頭の大きさがかなりデカい。というか口の大きさだな。ワニとも違うが顔の半分ぐらいが口の様だ。スキルとかを見るとその口が攻撃手段のようだな。予想的には雑食でなんでも食べるんだろうな悪食タイプってところかな。今も目の前でゴブリン達をその大きな口で喰らって行っている。



「おい、あれって【デビル・ジョー】じゃないか?」



 別の魔法使いBが目の前にいるモンスターがなんであるか分かったみたいだ。



「えっ?【デビル・ジョー】だと!?Cランクの魔獣じゃないか。」



 魔法使いAが答えた。Cランクの魔獣なんだ。へぇ~。



「なぜこんなところにあんな奴が?ゴブリン目当てに寄ってきたのか?」



 魔法使いCが慌てた様子で言ってる。



「わからない。しかしあいつ相手なんて俺達じゃ無理だろう。」



 魔法使いBがそう答えた。えっ?無理なの?じゃあどうするの?



「奴は食い意地が張ってる。ここにこれだけの人間がいると分かればすぐに襲ってくるぞ。

 今はまだゴブリンの死体を食べているが、見つかった瞬間に襲ってくるだろう。」


「ここは早く来た道を戻りましょう。」



 魔法使い達はそうディーンに言った。



「えっ?えっ?えっ?どういうことですか?」



 ディーンは少しパニックになってるみたいだ。そんな場合じゃないと思うんだけどな。



「何言ってんだ?魔獣なんて俺にかかれば余裕だろ。」



 ここで空気の読めない子ベックが登場した。どっからその自信が出てくるんだ?



「俺に任せておけよ。」



 そう言ってベックは【デビル・ジョー】に向かって走りだした。おいおい、どこまでお約束を守る奴なんだよ。ベックも今回の課外授業に対しての意気込みが違っていた。ベックもディーンと同じ様に今ではクラスで浮いた存在になって来ていたからだ。ディーンと同じような事を考えていてもおかしくはない。今回の事で皆を見返してやりたいという考えがあったのかもしれない。



「馬鹿っ!戻れ」



 魔法使いAが叫ぶがすでに手遅れだ。ベックは走りながら魔法を詠唱していた。



「【炎の槍(フレアランス)】」



 ベックは一本の炎の槍を作り出してデビル・ジョーに向かって解き放つ。

 炎の槍は真っ直ぐに進み【デビル・ジョー】にぶち当たる。



「どうだ!見たか」



 ベックが俺達の方を見てそう言った。しかしその後ろにはベックの炎の槍を受けても平然としている【デビル・ジョー】の姿があった。

 なぜこんなトラブルが舞い込んでくるんだろうか。


お読み頂きありがとうございます。

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