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召喚された世界はスキルがものをいう  作者: 雷
【魔法大国 スラグスル】編
174/237

教え

 次の日からは本格的に学生生活が始まった。

 朝起きて身なりを整えてから食堂で朝食を食べる。それから部屋に戻って準備をして登校。

 教室についてからは真面目に授業を受ける。

 昼食は学園に食堂があり、そこで食べる。

 午後からも授業を受けて夕方には下校することになる。特に部活やなんかはないみたいだ。

 そして寮に帰ってからは自習したリ、夕食を食べたり、思い思いの時間を過ごすことになる。

 うん、とても健全な学生生活だな。何だろう、なんか面白みがない。今までは冒険者で冒険なんてものをしていた。刺激的な毎日を過ごしていたがここでの生活はかなりのんびりしている。

 こんなことでホントに良いのだろうか。

 しかし魔法学園ってどんな所かと思っていたが何とも言えない感じだ。

 今いるクラスが初級クラスって言うのもあるかも知れないが。

 教えて貰っている事柄も大した内容ではない感じだな。魔素だったりMPだったりの説明やら、どんな魔法があって使い方なんかのレクチャーがある。ただ言葉や文字で教えているだけだ。正直俺が教えた方がもっと魔法を上手く使える様になるんじゃないかと思う。

 基本的に魔法はどちらかというとイメージで使用する。感覚的にって部分が大きい。

 詠唱を憶えて魔力を込めたからと言っても使えるかというとそうでもない感じだ。

 それに人によっての得意不得意がはっきり分かれる。勉強ならある程度補えると思うが、魔法に関しては素質だったりに大分左右される。だがその点を見抜いてその人にあった教え方だったりをしていけばちゃんと成長していく。こんな感じの皆集めて同じ様な話を聞かせた所で皆が皆一定の成長をするとは思えないんだが。

 前で教えているディーン先生は普通に勉強を教える様に魔法を教えている。それだと理解力が低い子なんかは魔法についてわからないことが多いだろう。だからアーサーなんかは魔法が苦手とかになるんだと思う。ステータス値だけを見るとアーサーも他の子供と大差ない値を持っている。だから他の子に劣るっていう事はないはずだ。後はアーサーにあった教え方をすればいいと思うんだが。

 そこまでの個別的な教え方をしていないのか。一元的な教え方をしてるって言うのが俺のいた世界と大きく異なっている。でもそれも最近そうなった感じがするし、この世界ではこれが当たり前なのかもしれないな。


 座学以外にも実習的な授業もあった。魔法は基本的に使わない限りスキルを憶えたり、レベルが上がるってことがないからな。とりあえず使える魔法を使ってみたり、新しい魔法に挑戦してみたりというのは必須事項なんだ。

 場所は体育館の様な場所と言えばいいんだろうか。しかし作りは大きく異なっている。

 外壁は全て岩の様な物で囲まれていて、中央に円形のスペースがある。その周りにも2m位の壁なんかがある。その後ろには階段状の座る所もあった。うん、どちらかというと闘技場とかそんなイメージだな。ここで何か武術大会でも行われたりするんだろうか。いや、この学校なら魔法大会なんだろう。

 実際にあるみたいだけどね、そういう感じの催し物。魔法もほとんどが攻撃魔法とかになるし、実際に模擬戦とかした方がいいだろう。モンスターと戦うって言うのはかなりのリスクもあるしな。ここで戦っても回復魔法使える生徒や先生もいるし、よっぽどでなければ死ぬことはないだろう。

 結局のところ普通の魔法使いならこういう所で魔法を使って戦ったりしなければスキルレベルを上げるなんて難しいだろう。

 そう考えると理に適ってるという事だろう。

 魔法を使った戦闘行為をすればスキルレベルアップが見込まれる。人間ただダラダラと魔法を使い続けていてもなかなかレベルは上がって行かない。しかし怪我を負ったり、死ぬかもしれないと思った方が真剣にもなるし生存本能というか潜在能力というか、そういうものが発揮されるみたいだ。普通に魔法使っているよりもレベルが上がりやすくなるようだ。モンスターと戦った方がレベルが上がりやすいって言うのもそういうことかもしれないな。

 怪我をすれば回復魔法を使える奴の練習台にもなるしな。自分で怪我して治すって言うのは嫌だろう。勝手に練習台が出来るんだし。支援魔法を使う奴も他の戦っている時に観客の為に壁を作ったりするみたいだ。そこでも修行みたいな感じになるんだろう。自分も使っておかないと怪我する恐れがあるから身の入り方が違うだろう。

 アニメとかでは魔法学校にこういう施設や魔法を使って対戦するとかって見たことあったけど、まさか自分がすることになるとは思ってもなかった。でもちゃんとした理由があるんだな。ただの都合で、魔法を使って戦うシーンとかあった方が盛り上がるよね、とかかと思ってたよ。

 俺達ももう少し勉強したら対戦の授業とかも出てくるのだろうか。

 それまでに俺も自分の方向性を考えておかないといけないよな。とりあえず今は水と土魔法を使って実習を乗り越えてる。スキルレベル2ぐらいが使える魔法だな。【魔法作成(マジッククリエイト)】で何か作っておいた方がいいんだろうか。でもいきなり複合魔法とか作りましたとなってもおかしいんだろうか。そんなに目立ちたい訳じゃないしな。

 しかしそうも言ってられない事態になる。



「どうして君はそんな事も出来ないのでしょう?」



 ディーン先生がアーサーに向かってそんなことを言った。

 今アーサーは回復魔法の練習中だ。ディーン先生が手に針を刺して、小さな傷を作った。それを回復魔法を使って治す様にと教えているみたいだ。

 アーサーは血を見るのが嫌なのか傷口から顔を背けて落ち込んでいる。

 というかそもそもあんたの教え方に問題があると思うんだけどな。どうして出来ないかを考えて教えてあげるのが先生ってもんじゃないのかねぇ。



「全く、こんな事も出来ないのはクラスで君1人ぐらいですよ。そんな事だから他の生徒に落ちこぼれと言われるのです。」



 おいおい、この教師何言ってんだ?



「そうだ、そうだ。落ちこぼれがいるってだけでクラスの品位が下がるってもんだぜ。」



 そこになぜかベックが乗っかっていく。お前の発言の方が品位がないと思うぞ。



「全くです。ただ魔法の才能があるからと言ってこの学園にいることは出来ません。それなりの努力も必要なのですよ。その努力を怠っていることが悪いのです。」



 はぁ?何言ってるのこいつ。アーサーが努力してないって勝手に決めつけて。そう言う問題じゃないだろ。お前の教える能力が低いだけだろ。

 ただそう言われたアーサーは目にいっぱいの涙を浮かべて俯いていた。

 はぁ、駄目だ。こんなとこ見てられない。



「先生、すいません。アーサーは落ちこぼれなんかじゃありませんよ。」


「君は?ナイト君だったね。最近この学園に来たばかりの君に何が分かるっていうのかね?

 一応アーサー君とは同室だと思うが、それだけでアーサー君のことが分かるとでも?」


「はい、先生よりはわかっていると思いますよ。」


「教師に対してなんという口の利き方をするんですか?」


「僕は事実を言ったまです。他意はありませんよ。」


「ではアーサー君はなぜこれぐらいの傷を治すことが出来ないんでしょう?」


「それは先生の教え方に問題があるからじゃないですか?」


「何を言っているんです。ではあなたであればアーサー君が回復魔法を使える様に出来るとでも言うんですか?」


「はい、出来ます。じゃあ明日までにアーサーが回復魔法を使える様にして見せましょう。」


「そんなことが出来るとでも?いいでしょう、では明日を楽しみにしておきましょう。」


「そうですね、もしアーサーが回復魔法を使えるようになったのなら先程の言葉を撤回してもらいますよ。」


「よろしいですよ、もし出来るのであればね。」


「ここにいる皆が証人ですからね。ではまた明日のこの授業で。」



 俺はそう言ってディーンに対して啖呵を切った。

 あぁ、やってしまったな。教師と事構える気はなかったんだけど、流石に見過ごせないしな。

 ふとアーサーを見ると話について行けないのかビックリした顔のまま固まっている。

 可愛い子の為だったらしょうがないか。





「ど、ど、ど、どういうことなの?」



 午後の授業も終えて寮に帰って来てすぐアーサーにそう言われた。



「何が?」


「明日までに僕に回復魔法を教えて使える様にするって話だよ。」


「そのままだよ。回復魔法を使えるように教えるってこと。」


「えっ?そんなの無理に決まってるよ。」


「何故そう思うの?」


「だって僕どんくさいし、今までだって成功した試しもほとんどないんだ。」


「今出来ないからって明日出来ないとは限らないじゃない。」


「そんな、いきなり出来る様になったら苦労はしてないよ。」


「やっぱり苦労していたんだね。」


「えっ?いや、その、だって。皆は魔法使えるのに僕だけ使えないなんて・・・やっぱり。」


「大丈夫、すぐに使える様になるから。」


「なんでそんなに自信たっぷりなの?」



 それは俺が何人も弟子を取って教えたからだよ。まぁでも今回は師弟契約はしないつもりだ。流石にあれをやると色々と問題も出てくるだろう。まだまだこの世界には認知されていない契約だしな。



「アーサーなら出来ると思ってるからだよ。」


「そんな、僕・・・。」



 まぁスキルも持ってるんだし、ステータス値にも問題ない。普通だったら回復魔法を使えるはずだからな。使えないとしたらどう使っていいかわかってないか、もしくは別の原因だな。

 手っ取り早い方法を使うか。大分荒い手段になるけど問題ないだろう。



「じゃあとりあえず。」



 俺はそう言って【倉庫持ち(アイテムボックス)】から小振りのナイフを取り出した。

 そして自分の左手にナイフをぶっ刺した。



「えっ?ナイトいったい何を?」



 俺の行動を見てアーサーが慌てた声を出した。俺は手からナイフを引き抜き【倉庫持ち(アイテムボックス)】にしまった。手にはかなり大きな傷が出来て血が溢れてきた。



「じゃあ、この傷を治して。」



 俺は落ち着いた感じでアーサーにそう言って左手を突き出した。



「そんな、無理だよ。医務室に行こう?」


「駄目、俺は行かないよ。アーサーが治してくれるまでここから動かない。」


「そんな、僕には無理だって。血がいっぱい溢れてるし。早くしないと死んじゃうよ。」


「そうだね、僕死んじゃうかもしれない。だからアーサー助けてよ。」


「だから、そんなの無理だって。僕が助けることなんて出来ないよ。」


「じゃあ僕死んじゃうかもね。アーサーは僕が死んじゃってもいいと思ってる?自分で自分の事刺したんだも、当たり前だって。」


「そんなの思う訳ないじゃないか。出来る事なら僕が助けてあげたいよ。」


「そう思ってくれてるのなら大丈夫。こっちに来て。」



 俺はそう言ってアーサーを近くに呼んだ。アーサーは恐る恐る俺の近くまでやってくる。



「じゃあ、魔法の詠唱をして。」


「えっ、うん。この世に満ちる力よ。」


「さっきの僕の事を助けたいって気持ちを思い出して。」


「我に癒しの力持つ光を与えよ。」



 アーサーの手に光が集まる。

 もうひと押しだな。



「僕の手が元に戻るイメージをして。そしてナイフを差す前の僕の手を強く頭に思い浮かべるんだ。」


「うん、【治療の光(リカバリー)】。」



 アーサーがそう唱えると、アーサーの手に集まっていた光が俺の手に流れて来た。そして俺の付けた傷口に集まり治していく。数秒で俺の腕に付いた傷はなくなり、血も止まった。



「出来た・・・。」



 俺の腕の様子を見てアーサーの口から言葉がこぼれる。



「うん、出来たね。ありがとう。お陰で死ななくてすんだよ。」



 俺はそう言って笑った。



「良かった~。ホントにどうなっちゃうだろうって思ったよ。でも僕本当に魔法が使えたんだ。」


「そうだね、僕は使えるって信じてたけどね。」


「ホントに?もし僕が使えなかったどうしてたの?」


「だから使えないなんてこと考えてなかったもの。

 それからさっき魔法を使った時のイメージと気持ち、それに感覚を忘れないようにね。」


「うん、忘れないよ。今でもドキドキしてるもの。」



 アーサーは大分興奮している様で頬が赤い。俺は【浄化(クリーン)】を使って血で汚れてしまったところを綺麗にした。



「これで明日からは大丈夫だね。」


「うん、ありがとう。でもナイトってなんでこんなこと出来るの?ナイトって回復魔法は使えないよね?なのにどうして回復魔法の使い方を教えたりできるの?」


「えっと、まぁそれはなんて言うか、姉みたいな人がいて、その人に色々聞いたんだ。」


「そうなんだ。凄い人なんだね。」



 まぁある意味ブレなくて凄い人なんだけどね。この学園にいるし、アーサーが回復魔法の勉強していたらその内会うかもしれないけどね。

 そう言う設定にしておこう。俺とアリアは一応同郷という設定だ。だから一緒にこの学園に来たという事になっている。



「魔法はイメージが大事ってね。ただ使おうとするんじゃなくて何の為に使おうとするか、どういう風に使いたいかを具体的にすることが重要なんだ。

 今までって魔法を使う時ってそうしないといけないとか、そういうものだと思って使おうとしてなかった?」


「そう言われると、そうだったかも。」


「さっきは僕の事を助けたい、僕の手を治したいって思って魔法を使ったと思うんだ。ただ目の前の傷を治しましょうってことだとなかなか難しいんだよ。」


「そうだったのか。」


「だからこれから魔法を使う時はその人の事を助けたい、治してあげたいって気持ちを持って。傷をどうやって治すか、治した後のイメージを持てば使えると思うよ。」


 

 俺はそう説明する。

 アーサーに足りなかったのは治したいという気持ちと、傷を治すという具体的なイメージ。後自信だったんだろう。自分には出来るはずがないってことを思って力を抑え込んでいたんだろう。でもこれからは大丈夫なはずだ。かなりの荒治療だったけど上手くいった。



「でもナイトって本当に凄いな~。そんな事教えてくれる人今までにいなかったよ。」


「そんな事もないよ。僕にもわからないことはいっぱいあるしね。」


「そっか。ナイトにもわからないことあるんだ。」


「そりゃね、早く図書館に行ってみたいな。」


「図書館ってなんか本がいっぱいあるっていうあの?」


「そう、ここの図書館にしかない資料とかあるみたいだし。そこに言ったら僕の知りたい事が分かるかも知れないんだ。」


「確か学園長に認められた人だけが入れるんだったっけ?ナイトだったらきっと入れるようになるよ。」


「うん、ありがとう。」


「なんだか安心したらお腹が減っちゃった。そろそろ晩御飯の時間だね。食堂に行こうか。」


「そうだね。その後はまた夜食かな。」


「うん、ナイトがくれるご飯とっても美味しいもの。食堂のご飯より美味しいかも。」



 それは俺が料理系のスキルを付けて作ったご飯だからな。なかなかレベル10の料理人なんていないだろう。好きな人に手料理振舞ったりとか夢だよな。あっ、でも皆には食べて貰ったりしているか。そうなるとその夢は叶ってるってことになるのだろうか。

 だとしたら次は裸エプロンか。なんかベティーさんに提案したら嬉々としてエプロン作ってくれそうだよな。でも俺が付けるっていうよりは付けてる所を見たいって言うか。



「ナイトどうしたの?」



 アーサーに呼びかけられてはっとする。すでにアーサーは部屋から出て扉から顔を覗かせていた。

 いけない、いけない。妄想が暴走していた。

 またその件は追々考えるとしよう。

お読み頂きありがとうございます。

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