迷宮攻略12
ボス部屋の次の部屋に入った俺達は宝箱の方へ進んだ。
「そう言えばバロンさんってこの階層を攻略したことあるんだったら、この先の宝箱に何が入ってるか知ってるんですよね?」
俺は歩きながらバロンさんに確認した。
「まぁな。開ける前に言うのもなんだが、お前たちには必要ないものかもしれないな。」
バロンさんが俺の問いにそう答えた。ってことは俺達が使っていない武器とか防具が入ってるんだろうか。
俺はそのまま宝箱のところまで来た。今回はかなり大きいサイズの宝箱だった。縦横2m位ある。これだけデカいと普通は期待するんだけどバロンさんにさっきそんな事言われたからいまいち盛り上がらないな。
俺は宝箱に手をかけ開いた。
中に入っていたのは1本の槍だった。なるほどね、俺達の中には使ってる者はいないな。ただガイは槍術使えるのでこれもガイ行きかな。一応【鑑定眼】で確認してみると「神がそこそこの力を入れて作った槍」って出た。毎回の事ながらちゃんと精魂込めて作ってくれよと言いたくなる。だが神が精魂込めて作ったりしたら、それこと神槍と呼ばれる神器が出来るんだろうな。そんなものがポンポン世に出回る訳にはいかないよな。
「え~っと、こんなん出ましたけど。ガイ使う?」
宝箱から槍を取り出してガイに見せた。
ガイは渋い顔をしている。最近二刀流にはまってる感じだから今は武器を変えたいと思ってないんだろうな。
「うん、わかった。しまっておくよ。」
俺はそう言って【倉庫持ち】の中に槍をしまった。後で売ってお金にするか。
この階層まで来たけど大して役に立ちそうな感じの報酬がないんだけど。もうちょっと、おぉ!って思わせてくれるものが欲しいところだな。道中のモンスターを倒しても何にもドロップ品はないし。
「そう言えば今出た槍ってギルドで引き取ってもらう時いくらになるんですか?」
そう言えばバロンさんがいたなと思って聞いてみた。
「手放す気満々だな。確か、金貨120だったはずだ。」
呆れた感じのバロンさんが答えてくれた。なんと!120枚だと。かなりの儲けになるじゃないか。50階層から60階層を攻略するのにかかった費用なんて途中で休憩の時に食べたご飯代くらいなもんだろう。怪我もしてないし、装備が痛んだってこともない。ずっとこの階層をグルグル回っていたら億万長者になれるんじゃないだろうか。
「ちなみに数が増えると相場が崩れるから、買い取り額も値下がりするぞ。」
俺の皮算用を見抜いたのかバロンさんが言ってきた。くそう、考えが読まれている。考えが顔に出てしまったんだろうか。さっきの槍も品数が少ないための希少価値っていうのもあるだろうから妥当な話だろう。魔法の袋の方が高値で売れそうだな。あっちの方が需要がありそうだ。でもボスが結構強かったからな。
もしかしたらこの下の階層でもっといい報酬が出るかもしれないし、そっちで稼いでもいいか。ってそんな目的で俺達は迷宮攻略してなかった。危ない危ない、本当の目的を忘れるところだった。
「バロンさんは下の階層に進んだんですよね?次ってどんな感じなんですか?」
思い出したように俺はバロンさんに聞いてみた。
「うん?まぁ厄介な場所だな。モンスター強いとか罠が大量にあって進みにくいとかじゃなく、その階層自体どう攻略していいかわからなかったんだ。だから俺達も先に進むことが出来なかったんだ。」
「そうなんですか?具体的には?」
「言葉で説明するより実際に行ってみた方が早い。それからお前の対応策を聞かせてくれ。」
バロンさんはそう言った。なんだろう?とても気になる言い方だ。対応策がいるってことか。
「じゃあ、61階層を覗くだけ覗いて地上に戻ろうか。」
俺が皆に提案すると、皆は快く了承してくれた。
それから俺達は宝箱があった所から離れて次の階層の階段に行こうとした。
しかし目の前に現れたのは階段ではなく、また魔法陣だった。あぁ~、ホントになんかヤバそうな気配がする。皆に支援魔法をかけてから俺達は魔法陣の上に乗った。
次に見た光景は白一色だった。
前後左右見ても全て白。魔法陣で連れてこられたのは一面の銀世界だった。しかも上からはしんしんと雪が降り続いている。ざっと周りを見渡すが一面、白しかない。砂漠の時と似た感じだな。しかしこっちの方がヤバい気がする。とりあえず物凄く寒い。皆を見るとガタガタ震えている。吐く息も白いし、もしかして氷点下とかなんだろうか。
「とりあえず皆さっきの部屋へ帰るぞ。」
俺はそう声を掛けて一旦魔法陣から降りる。皆もそれに習い魔法陣の外に出た。それからもう一度皆で魔法陣に乗った。一瞬にして先程の部屋まで戻ってこれた。
俺は火魔法を使って俺達の周りにいくつか小さ目の炎の塊を作った。そこから熱が出て俺達の体を温める。しばらくそうしてるうちにやっと体の震えが止まった。
それにしても。
「厄介ですね。」
「だろ?」
俺の言葉にバロンさんが答える。
61階層からは雪原の階層になるみたいだ。しかもただの雪原だけじゃなくてかなり寒い感じだな。
この世界にも雪が降ったり、寒い地方はあるみたいだ。ただそれは本当にごく一部の高い山だったり、人の入らない奥地だったりするみたいだ。だから俺以外のブラン達は雪も見たことないんじゃないかな。でも魔法で雪とか氷とか作れるか。それにしても一瞬だもんな。こうしてずっと寒くて雪原を行くってことはないだろう。
雪原で厄介なのは、雪で足が取られるってことだよな。そこに住むモンスターは雪に慣れてるだろうけど俺達は動きずらい。しかも寒さで体力が落ちたり、身体もまともに動かせなくなるだろう。防寒着を着こんでいくとそれはまた動きが制限されてしまうだろうしな。
流石に火の魔法をずっと使って暖を取りながら進むって訳にもいかないし。
「あそこの階層良く次の階層まで進めましたね。」
俺がバロンさんに言った。
「まぁな。それこそ色々着込んでいったが流石に途中で休憩する訳にもいかない。次の階層を見るだけ見て直ぐ帰ってきた。」
バロンさんが苦い表情をして言った。そうだよな、途中休憩するのも大変だよな。休憩するだけでもあの寒い中体力を奪われ続けるだろう。それで10階層行けだなんて攻略できなくて当たり前だ。
しかし俺達は何とかしないといけないんだよな。前に勇者は70階層まで攻略したんだよな。どうやったんだろう。いや、それが俺達に出来るかどうかわからないし、俺達は俺達の攻略法を考えた方がいいだろう。
「とりあえず一旦ギルドまで戻りましょう。70階層までどう進むか考えてみます。」
「あぁ期待してるぞ。」
俺はそうバロンさんに告げる。バロンさんは笑顔でそう返してくれた。
俺達は帰還用の魔法陣に乗ってギルドまで帰った。
扉を開けてギルドの中に入ると歓声が起こった。何事かと思ったら皆俺達が一日で帰ってきたことに驚いたみたいだ。途中で引き返してきたとか思わないのかな?そんなことを思ったが皆がバロンさんに当然の様に60階層まで攻略したんですよねっと話を振っていたからバロンさんが途中で引き返してくることはないって思ってたんだろう。そうだね、バロンさんってそんな感じだもんね。
バロンさんは楽しそうに皆に60階層まで攻略したことを語っていた。それを聞いた人達がさらに盛り上がって歓声を上げる。正直50階層よりも簡単にボスを倒してしまったんだよね。キュクロさんそう言うの計算に入れてなかったんだろうか。
でも考えてみたら俺と違って今までの勇者は一緒にいたであろう仲間は普通の冒険者だったのかもしれない。だったら攻略するのはかなり大変だったんだろう。だから相性が良いスキルとか持ってない限り深い階層まで攻略しようという気にならなかったんだろう。でも攻略しなくても魔王って倒してこれたんだよな?だったら俺の時もわざわざ全部攻略しなくても魔王は倒せるってことなんだよな、って思うんだけど。しかし神レスティアが遣わせたアリアが攻略しなければいけないって言ってるし。基本的に色々考えるにはピースが足りなさすぎる。このモヤモヤすっきりしないもんかな。
それにまた61階層から下をどうやって攻略するかを考えないといけなくなったんだし。どうしたもんか。
そんなことを考えながら俺達はギルドでの60階層攻略の手続きを終わらせた。バロンさんには攻略の案が出来たらまたギルドに顔を出すと言っておいた。今回は色々と考えないと、とてもじゃないが先にも進めない状況だからな。
俺は宿に戻って皆と話をした。
「そう言えば皆今回の61階層みたいな、寒いところに行ったことや。雪の中戦闘したことある人?」
そう聞いたが皆首を横に振った。だろうとは思ったけど。
「今回は支援魔法でどうにかなるようなもんでもないから対策を考えない限り下に進めないな。
どうしたらいいか案とかある?」
俺が質問するが皆難しそうな顔をするだけだった。そうだよね、今までこんな状況になったことなかったらどうしたらいいかわからないよな。
「俺はいくつかの案はあるんだけどね。」
俺はそう言って皆に説明した。
1つは風でドームでも作ってその中を温めながら進む方法。ププに頼めばそれぐらいの事は出来るだろう。俺が火魔法で温めればいいことだし。ただこの方法は何らかのトラブルがあった時それぞれ対処が出来ないってことだよな。皆1つの場所に固まってるからモンスターに襲われた時に困る。相手はどんな攻撃を仕掛けてくるかもわからない。個別で風の障壁を張っても少しは効果があるだろうけどその中を温めるのって難しそうだし。
もう1つは防寒用の魔法具を作るってこと。幸い手元には魔石が少なからずある。それでそれぞれの防寒用の魔法具を作ったら別々に動けるから色んなことに対処しやすくなるだろう。
後はスキルの中には【冷寒無効】と言うスキルもあった。それを俺が使って皆に憶えて貰うっていう手もあったが、博打に近い。自然と憶えるスキルは相性があるから全員が憶えれるとは限らない。だから憶えるまで待っても憶えないこともあるんだ。それだったら別の方法の方がいいだろう。
皆にはそう伝えた。俺の中ではとりあえず魔法具が一番可能性がありそうなので、それで行こうかと思っていることも言った。その間に他に良い考えが浮かんだらまた言って欲しいとも伝えた。
それから俺はしばらく宿に籠って色々と実験や魔法具の制作に取り掛かった。
寒さを無効にするとなると対になる暖かさを得ることが出来ればいいんだけど。
そう思って服とかに火の魔法を組み込めないかを考えた。しかしそれがなかなか難しかった。火の属性の魔法は基本的に全て火や炎を作り出したりする。後は溶岩だったりもあるだけど。だから着る物に火の魔法を組み合わせても燃えるだけなんだよな。威力をどれほど抑えても火は火なんだよな。
だからまず俺は【魔法作成】で熱の魔法を作り出した。この世界にはないんだよな、使い道が限られてるし。また使ったスキルは【魔法作成】だけじゃなかったんだけどね。結局どう熱を起こしているかよくわからなかった。魔素を絶えず動かして熱を作っている様な感じだろうかとは思った。しかし今後使うことはないんだろうな。いや、魔石にこの熱の魔法を刻んだら暖房具になるかも。って普通に火をおこして暖炉とかでいいだろってことになるか。でもカイロみたいなもので寒い地方にでも持っていったら重宝がられるかも。外を出歩く時とかに持っていくとか。
その事はまた後で考えよう。色んな事を思いつくんだけど今やらないといけない事とはあまり関係ないんだよな。
とりあえず作った熱の魔法をこれまた作った火の魔石に刻み付けた。これで熱を放つ魔石は出来たんだけどその魔石の部分だけ熱を放っても仕方ないんだよな。そこだけ火傷しそう。その放出した熱を何とか循環というか、身体の周り全体に流すとか出来ないといけないんだよね。
そこからは試行錯誤するしかなかった。
服に縫い付けてみて服を焦がしたり。アクセサリーの様にしてみたけど意味がなかったりと散々な結果もあったけど2週間後やっと俺は1つの魔法具を完成させた。
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