迷宮攻略11
結局バロンさんとも奴隷契約をしてしまった。あまりやりたくないって思ってても関係ない気がするな。この世界の人は色んなスキルを憶えれるってことと、奴隷になるってことを天秤にかけた時はスキルの方を取る気がする。それだけこの世界ではスキルが重視されてるってことなのかもしれないけど。俺が悪い人間だったらどうするんだろう。俺自身、自分は清廉潔白な人間だなんて思ってもない。かなり欲深い方だと思ってるんだけどな。本当に皆俺と奴隷契約なんてしていいんだろうか。
またこんなことを考えていたらブランやガイにまたかと思われてしまうかな。全部が終わった後ってどうなるんだろうか。まだまだ先の話だろうけど、その時の皆との関係って想像もつかないな。駄目だ、駄目だ。今すべきことに集中しないと。
俺は契約が終わって部屋から出る皆に続いて迷宮の通路に出た。
52階層も出てくるモンスターも特に変わらずでモンスターを倒すのにバロンさんが加わったので早いスピードで進めた。モンスターも俺達にかかったら大したことなかった。動きもそんなに早くないし、打たれ弱いしな。俺達が魔素を介して攻撃出来てるからなんだろうけど、普通の冒険者だったら十分脅威な感じなんだろう。俺は戦闘には参加してない。HPが減ってきたバロンさんに回復魔法をかけるくらいしかしていない。このままだったら60階層までは楽に進めそうだ。
そう思っていたら本当に60階層まで簡単に到達してしまった。途中で何かトラブルとか起こったりするのかと思ったけどそう言うのも一切なかった。ただこれまでよりは大分時間がかかってしまった。迷宮の外はもう夕方ぐらいにはなっているだろう。さっさと魔獣を倒して地上に戻りたいな。
「60階層の魔獣ってどんな奴なんですか?」
ボス部屋の前まで来た俺がバロンさんに聞く。
「今回の魔獣はゴーストタイプの中でも厄介なレイスだ。」
「レイス?」
「そうだ、ゴーストの親玉っていえばいいか。並みのゴーストを遥かにしのぐ力を持っている。普通のゴーストとは違って魔法も使ってくるぞ。」
「そうなんですね、その時はどうやって倒したんですか?」
「とりあえずここの場所で一晩明かしてHPとMPを回復してから挑んだんだ。
後は魔法や、魔法具の様な武器で少しずつダメージを与えて行ったんだ。かなりの時間がかかって、もう駄目かと思ったがな。何とか倒すことが出来たんだ。」
「そうか、でも今回は俺が光魔法を使えるので俺が魔法で相手すればまだ簡単に倒せるかもしれませんね。」
「「駄目だ!」」
俺の提案にガイとバロンさんが声を揃えて言った。
「折角特殊な武器でもないのにゴーストと戦えるようになったんだ。今回は俺に任せてもらうじゃないか。」
「そうだ、ゴーストですらこの迷宮以外ではほとんど見ないのに、その上のレイスなんて滅多に戦う機会なんてないだろう。これを逃したら次いつ戦えるかわからないじゃないか。」
ガイとバロンさんがそれぞれ俺に詰め寄る。俺変な事言いましたっけ?
「え~っと、じゃあとりあえず2人に任せて危なくなったら手を貸すっていうのでいいですか?」
「あぁ、それでいい。」
2人が頷く。おかしいな?このパーティのリーダーは俺だった気がするんだけど。でもこの2人にこれ以上何か言うのは止めておこう、本能がそう言ってる。
俺の後ろを見るとやれやれっと言った顔でブランとマリアが俺達のやり取りを見ていた。2人もそれでいいみたいだ。シータにいたってはあくびをしていた。ゴーストタイプのモンスターはあんまり好きじゃなく興味もないみたいだな。
「ただ支援魔法はかけさせて下さいよ。何があるかわからないんですから。」
俺はそう言って皆に色んな支援魔法をかけていった。今回も掛けるだけ無駄かもしれないけど。
準備が整った俺達はボス部屋の扉を開けて中に入って行った。部屋の中はそんなに広くなかった。今回のレイスは大きさはないのかもしれない。いつもの様に全員が入ると扉が閉まり、目の前の魔法陣が輝く。
魔法陣の光が収まった後に現れたのは空中に浮いた1体のゴーストだった。ただ今まで出てきたゴーストは薄い人の形をしていただけだったが、今回は豪華なローブの様なものを着て、頭には王冠もあった。しかもゴーストよりも実体がある様に見えた。体の色が濃いって感じなんだろうか。ゴーストだと後ろの背景とかもしっかり見えたけど、所々しか透けてないんだよな。
「気功弾!」
俺がステータスでも確認しようかと思ったら、バロンさんが叫んで剣から気の球をレイスに向けて放った。レイスは空中をスイっと動いてバロンさんの気弾をかわした。そしてかわされた気弾が奥の壁に当たって大きな凹みを作った。
「なにを叫んだんだ?」
ガイがバロンさん聞いた。
「技に名前を付けて叫んだんだよ。魔法とかでも名前あるだろ?だったら俺達が使う技にも名前があった方がいいだろう?誰かに伝える時に便利じゃないか。」
「なるほどな。」
バロンさんの説明に納得するるガイ。ガイは必殺技を作っても名前を付けてなかったみたいだ。俺は密かに名前付けてたんだけどね。でもガイにそれを言って変な目で見られてもやだなって思って言わなかったんだけど。バロンさんが教えてしまったようだ。
「だったら俺は斬鬼刃だ。」
そう言って今度はガイが剣撃を放つ。それも空中のレイスは簡単にかわしてしまう。あ~ぁ、ガイも一線を越えてしまった気がする。後の技にどんな名前を付けるだろうか。
それよりもレイスは2人の気の攻撃をかわしている。かわすってことは受けるとダメージが入るのが分かってるんだろう。HPを消費して繰り出す気の攻撃も大本は多分魔素を使ってるんだろう。HPを変換とか還元して魔素にしてるのかもしれないけど、あまり他に使う人がいないからよくわかってないんだよな。
2人の攻撃に気を悪くしたのかレイスが目の前に炎の矢を何本か出して2人に向かって放った。無詠唱で魔法を使った?やっぱり結構強いのかも。
しかし炎の矢が迫ってくるにもかかわらず2人は回避行動に移らなかった。
目の前まで来た炎の矢をガイは剣で斬り、バロンさんは大剣を盾にして防いだ。剣で魔法って斬れたんだ。まぁゴーストが斬れるぐらいだから魔力で作られたものを斬れるかもしれないけど。
「こんなもんで俺達がやれるとでも思ったのかよ。」
バロンさんがそう言ってレイスに向かって走り出した。その後にガイも一緒になって向かって行く。
それを見たレイスがまた目の前に何本も炎の矢を作り出す。
「おせぇんだよ。衝爆破!」
バロンさんが大剣に気を乗せて大きく振る。振られた剣からは気の壁の様なものが放たれた。気の壁はレイスの前に作られていた炎の矢に当たり全てを吹っ飛ばす。広範囲に気を飛ばして相手の攻撃を打ち消すみたいな感じの技だな。
炎の矢を吹き飛ばされたレイスに焦った様子はなく次は自分の周りに土の槍を何本も生やして、ガイ達の近づくのを阻止しようとした。火の属性以外にも土の属性の魔法も使えるのか。しかも無詠唱っぽいから魔法の打つスピードがかなり速いな。
床から何本もの土の槍が生えて来てガイ達は仕方なく後ろに下がる。
「斬鬼連刃。」
ガイがそう言って剣からいくつも刃の様な気を地面スレスレに放っていく。その刃の様な気は床から生えた土の槍を切り取っていった。
「よし!」
そう言ってバロンさんが障害物の無くなった地面を走ってレイスの下に向かう。しかしレイスもまた風
の刃を何本も出して2人に向かって放った。風の魔法も使えるのか。もしかして光魔法以外全部使えるんじゃないだろうか。ただ使ってる魔法を見ると低レベルみたいだが。
ガイもバロンさんの後を追って走りながら飛んできた風の刃を剣で切り裂いていく。バロンさんは目の前に大剣を盾の様に構えてそのまま突進している。飛んできた風の刃は大剣に当たって霧散してる。
「気功散弾!」
バロンさんがそう叫び剣を横一線に振るう。すると大剣からは人の拳大の気の塊が何十個とレイスに向かって放たれた。大きな気弾だとかわされるから小さな気弾をバラまいたのか。
レイスはかわすことも、魔法で防ぐことも出来なかった様で目の前に細い腕をクロスに合わせて防御の体勢に入った。ドドドと音を立てながらバロンさんの放った気弾がレイスに当たる。しかし威力はあまりないようでレイスもダメージを受けていない様だ。
その気弾の後ろからはガイが迫っていた。気弾をガードするのに気を取られたのか、その場から動かない。
ガイがかなりのスピードで地を駆け、レイスへ向かって跳んだ。
「十字斬!」
空中で止まったままだったレイスに向かい、ガイが両手の剣を縦横と振るう。
それで勝負が決まるかと思ったらレイスとガイの間で爆発が起きた。レイスが自分の目の前で火魔法の【大爆発】を使ったようだ。あのままだったらやられると思い切ったことをしやがった。
「ガイ!」
俺が心配になって叫ぶ。
レイスとガイは爆発に押し出されるようにそれぞれ後ろに吹っ飛んだ。レイスは空中でスッと止まってこちらを忌々しく睨んでいる。ガイも空中で一回転して勢いを殺して地面に着地した。
ガイを見るが傷は追っていない様だ。部屋に入る前に支援魔法をかけておいて良かった。何とか魔法が守ってくれたみたいだ。
「味な真似をしやがる。」
ガイがそう言って剣を構える。
「おい、俺達も手伝ったほ・・・。」
「バロン、俺が奴の動きを止めるから後は任せるぞ。」
「おしっ。だったらとびきりのをくれてやる。」
俺が手伝おうか声を掛けようとするが、その前にガイの言葉にかき消された。えぇ~、あぁ、うん。もう勝手にしてくれ。
「行くぞ!」
ガイはそう言って床を蹴って一瞬でレイスの後ろの壁に現れる。そして壁を蹴って今度は天井、そしてまた天井を蹴って別の床に現れる。【瞬行】を使ってるな。【瞬行】って壁とか天井とかでも行けるんだ。でもそんな移動してるだけでどうするんだろうと思ったがガイが通った後に光る線が出来ていた。ガイが移動するたびにその光る線は増えていく。
もしかしてあれって剣撃か?
【瞬行】のスキルは目に見える場所への一瞬で移動するスキルだったはず。移動中は攻撃は出来ないはずなんだが。しかしガイは【瞬行】の移動中に剣撃を繰り出している様だ。それが線になってガイが通った所に残っているみたいだ。
光の線はドンドン増えていきレイスを囲んでいく。さながら光の檻の様だ。
レイスを中心に四角い光の檻が出来上がる。レイスもその間何もしなかったわけではない。いくつかの魔法を放つが全て光の線によって、その魔法は斬られ消滅した。
「これで、最後だ。光刃・斬鬼牢!」
そう叫んだガイはレイスの前後左右に【瞬行】を使って現れ、剣から大きな斬撃を放った。放たれた斬撃が光の檻に当たると、その檻の面がズズズッと押され四方から檻が小さくなっていく。前後左右から光の格子がレイスに殺到する。
それを見たレイスは狂ったように迫る光の格子に向け魔法を放つ。しかし迫る光の格子は少しスピードを遅めたぐらいで依然としてレイスに向かっていた。
「バロン、今だ。」
「おう、今の俺の考え得る一番をくれてやる。」
声を掛けられたバロンさんが吠える。
先程ガイがレイスを捕えようとしている間もずっと気を練っていたようだ。その気を手に持った大剣に全て乗せた。バロンさんの持つ大剣は今まで見たことない様な凄まじい気を纏っていた。
「奥義・龍牙穿!」
バロンさんは叫び手に持った大剣を大きく振りかぶり、そして一気に振り下ろした。
その瞬間に大剣からは東洋の龍を模った気の塊が放たれた。気で出来た龍は一直線にレイスに向かって飛んでいく。それに気付いたレイスは今度は龍に向かって魔法を連打する。しかし龍は飛び来る魔法を全て飲み込む。そしてレイスの胸の辺りに飛び込んだ。龍はレイスの体に牙を立て、食いちぎる。レイスの胸には大きな穴が空いた。そしてキィィーーーンと音を出しながら苦悶の表情を浮かべレイスの体が塵の様に消えていった。
「こんなもんか。」
バロンさんが勝ち誇ったように言った。
いや~、色々突っ込みたいんだけど。奥義って何だよ。ついさっき憶えたばっかりじゃねぇのかよ。そして気の塊を龍とかに変化できるのかよ。しかも勝手に喰らいついたように見えたんだけど。なんでもありだよな。
「まぁ色々と楽しめたからよしとするか。」
ガイも剣を収めながら言った。楽しんでたのかよ。いや、最初からわかってたことなんだけどね。波長が合う2人が揃うとこうなるんだろうな。とりあえずこの階層のボスも倒せたみたいだから良しとしよう。
奥の扉も開いたみたいだ。
「2人のおかげで攻略できたみたいだし先に進もうか。」
俺は後ろにいたブラン達に声を掛けた。なんかシータが興味ありそうな顔をしてガイ達の事を見ていた。さっきの必殺技が面白かったんだろうか。このままだったらシータもあの2人の仲間入りかな。そんなことを思いながら俺達は次の十字になった部屋に進んだ。
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