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青天の彼岸花-regain the world-  作者: 文房 群
二章 防衛組織と前衛部隊
30/79

ーー5


「随分と品の無い輩であるが…………しかし、ふむ…………」



 おれと敵対する様子は全くといって見られない青年を、観察するように眺めるハルムヴェイト。

 おれと青年が話し終えるのを律儀に待っていてくれていたのか。隙があったにも関わらず手を出してこなかった吸血鬼はふっと――――思い立ったようにおれへ目を向けると考え込む素振りを見せ。



「――――そうか。嗚呼、成程! 『そういうモノ』であるのか!」



 耳まで裂けるのではないかと思われるほどに唇を歪め、数十メートル先まで届くような高らかな哄笑を上げた。

 死人のような肌の血色が良くなるほどの愉快と驚喜に震えながら、吸血鬼は頭を抱えて笑い転げる。



「ハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ――――――いやはや、なんと奇妙で数奇な事よ! やはりヒトは良い! この四百年一度も飽くことなく吾輩をこれ程までに愉しませてくれる! 星の巡り合わせと言えようか!? これだから吾輩は人間が好きだ! 嗚呼ああ至極最高に最上に素晴らしい!」

「そりゃあどうも、よッ!」



 『なんだトチ狂ったか?』と冷めた態度で哄笑する吸血鬼を眺める青年と同じ様に、大笑するハルムヴェイトの背後に現れたマスさんが大きく右腕を振りかぶる。

 飛行手段を持たないため、水着さんに運んでもらったらしい。

 爆弾のようにハルムヴェイトの背後に投下されたマスさんの振りかぶった腕。

 その固く握られた拳と連動するように彼の背中から波打つオーラのようなものが現れると、それはマスさんの斜め上に莫大な質量を伴いながら巨大ロボットの前腕と拳の形を形成する。


 山一つを破壊せんばかりに形作られた、高密度のエネルギーと圧倒的重量の握り拳。

 吸血鬼の体躯より巨大なそれは、正面から捉えると鉄鎚に見える。

 何かを潰すための。

 ――――鉄鎚。



『…………オイあれ、このままだとオレらもヤバくねぇか?』



 質量から来る威圧感が半端ではない拳に、青年が言った。

 問いかけるように彼が口を開いたことから、恐らくおれに投げかけたものあろうと判断したおれは、静かに頷きながら相槌を打つ。



「……巻き込まれるな、あれは」

『……………………』

「……………………」



 悟りを開く気配が青年からした。

 そしてマスさんは空気を殴る。

 


「《超☆右拳近距離問答無用発射(グレイテスト・ライトハンズ・ショートビックバン・ハンマー)》ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!」



 聞き覚えのあるセリフを叫ぶマスさんの声が轟くと同時、巨腕の鉄鎚が凄まじい質量の空気を押しながら放たれた。

 その軌道線上にいたハルムヴェイトの顔から笑みが消え、巨腕に負けず劣らぬ量の蝙蝠が彼の背中全体から発生し、空を覆い尽くさんとばかりに巨大な盾が作られる。

 そして不意におれは腕と胴体を一緒くたに纏めていた拘束感が消えるのを感じ、足底から脳天まで体が軽くなったかのような浮遊感に包まれる。

 視線を下へ傾ければ、おれを捕らえる腕を形成した蝙蝠達が全て、ハルムヴェイトの盾に吸収されているのが見え――――一気に視界が反転した。



『おっ?』

「あっ」



 ――――どうやらおれは青年と一緒に、空中に投げ出されたようで。

 あまりに急な展開に、悲鳴すら出なかった。



『我が子ォォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!?』



 頭上には地面。足元には灰色の空。

 おじ様の悲鳴を聞きながら、蝙蝠の次は重力に捕らわれたおれは万有引力に従い、落下する。

 ハーヴァンターという吸血鬼に捕まったと思えば食われかけ、助かったと思えば命綱無しのバンジージャンプ。

 見知らぬ世界に迷い込むといい、侵攻生物という化け物に殺されかけるといい、最近本当に運が無いなと遠退く思考でそう思いながら、目の前に次々とこれまでの記憶が過ぎっていくおれは覚悟した。


 ――――これ、死ぬな。



 逆さまになった世界。

 見下した空の先で、マスさんの放った巨腕と衝突する蝙蝠の盾が見え、空気を伝い雷鳴のように轟く衝撃が肋骨をさらに地面へと体を押していくのを感じながら、軽く現実逃避をする。

 どっしりと、泥のような疲労感を腹腔内に溜め込んだまま吸い込まれるように。

 落ちていく。

 ――――まだ何も、返せてはいないのに。


 こんなところで死ぬわけにはいかない。

 そう思いながら空中で身を捩り、どうにか着地の体勢を取ろうとするおれだが、何せパラシュート無しのダイブは人生初だ。

 間近に寄生虫似の化け物というクッションがあるわけでもなく、固い地面が広がっている荒野を眼下にしたところでどうにもならない。


 ――――高さ的に、着地と同時に脚が弾け飛ぶ感じがする。


 迫る地上を視界に入れながら冷静に分析するが、打開策など元から知的ではないおれから生まれることもなく。

 奈落に落ちていくような絶望感を淡く感じながら、脚から地面と接触できるように体勢を調節するおれは「死ななきゃ良し」と、間もなく襲い来るだろう衝撃と激痛に耐える準備を整えて――――痛みを覚悟したおれの首根っこを、上空から飛来した第三者が攫っていった。

 カッターシャツの首裏の襟を後ろから引っ張られたために、瞬間的に首が締まり「おぐっ」と空気が潰れたような悲鳴が喉から搾り出される。

 そのまま引っ張られた方向にバランスを崩せば、押し付けられるように金属のような硬く冷たい地面に背中から着地した。

 背中を軽く打っただけで大きな怪我もない。人為的な着地だった。



「余計な手間増やしてんじゃねーぞ赤神父! 脳味噌詰まってんのかテメー!」



 起き上がろうとしたおれの背中から攻撃的な言葉が投げかけられる。

 とりあえず上体を起こして背後へ体を捻れば、そこには右手に猟銃、片手に拳銃を構えた班長さんが、険しい顔をして進行方向を睨んでいた。


 ――――どうやらおれは班長さんによって助けられ、彼の操縦する空を飛ぶサーフボートに乗車させられたようだ。


 トラックを出るな、という言いつけを破ったせいか。

 こちらに背を向ける班長さんから不機嫌そうなオーラを目視するおれは忠告を破ったことと、助けられたこと。その二つに罪悪感と申し訳なさを抱きながら謝罪と、助けてくれた礼を言う。



「…………その、すいませんでした。それと、助けてくれてありがとうございます」

「死にてーのかテメーは。あの銀髪野郎がいなかったら確実に殺されてたぞ」

「…………はい、すいません」



 謝罪も感謝も舌打ち一つで跳ね除ける彼であるが、班長さんのいう事は事実である。

 このような事態が起きたのはおれが独断でトラックから出たせいだ。これは全面的におれが悪い。

 正直に非を認め、もう一度謝罪するおれはボードの上で安定した体勢を取るため、班長さんの向いている進行方向へ全身を振り返らせ、片膝をボードにつかせ跪く形で体勢を安定させたところで――――そういえばあの青年はどうしたのだろうと、一緒に空へ投げ出された拘束衣の彼について思い出す。

 おれを吸血鬼から助けてくれた、青色混じりの銀髪で、鼻から顎にかけて犬の轡を着けていた彼。

 班長さんの説明を思い出すからに、侵攻生物(インキュベーター)の中で最も強い倒錯者(ハーヴァンター)という存在である吸血鬼ハルムヴェイトを、おじ様同様にすり抜けた――――生者ではないらしいあの青年は。



『オイそこの銃野郎テメェオレを無視してんじゃ――――』



 ――――今、ドップラー効果と共にボードの真横を落ちていった。


 遥か地上の方で『我がゴフッ―――』『ガフッ――――』という二種類の悲鳴と、非常に痛そうな鈍い衝突音が聞こえ、続いてドシャァッと重いモノが地面とぶつかる音が聞こえる。

 何が起こったのか。なんとなく想像出来たおれは墜落した青年と巻き添えを食らったおじ様の安否が気になりながら「銀髪の青年は助けなくて良かったのか」と、無言で班長さんの背中に視線を投げかけていれば、沈黙からおれの質問を読み取った彼は淡々と。



「亡霊が死ぬと思うか?」



 あっ。班長さんの中では銀髪の青年は亡霊扱いなんだ――――と。

 おそるおそるボードの上から覗き込んだ地上で、ダメージはありそうだがおもっていたより思っていたよりあっさり立ち上がったおじ様と青年に、「確かに彼は亡霊だろう」とおれは確信した。

 数十メートルの高さから落ちてピンピンしているなんて、スタントマンでない限り生きた人間には不可能だ。

 ――――いや。スタントマンでも生きていないかもしれない。この高さは。



「…………ところで、トラックの運転手さんは?」

「先に行かせてる前衛部隊の奴らに預けてきた。テメーが捕まってる間にな」



 数こそおれが最後に視認した時より少なくなったが、しかしまだ群れと言えるほどの数の侵攻生物が地上をさすらっているのをボードから見たおれは、転倒したトラックを運転していた彼は無事かと班長さんに問いかける。

 運転手の彼は班長さんによって、安全な場所に運ばれたらしい。

 先に行かせてる、ということは鋭撃班がこの荒野で侵攻生物達を引き受けているのか。現状を理解したおれは、あの時助けられなかった運転手が無事であって良かったと心から思う。

 気持ちが少し、楽になった。

 運転手はあの後どうなったのか、気にしていたから。



「それで、あの銀髪は何者だ?」

「…………知らないです」



 話題を変えて。

 大人三人は乗ることが出来るだろう、見た目より大きいサイズのサーフボートを我が身の一部の様に乗りこなしながら、地上の侵攻生物を猟銃と拳銃で撃ち抜いていく班長さんは先程落ちていった青年についておれに問う。

 答えたいところだが、彼についてはおれも何も知らない。彼は突然現れて、おれと吸血鬼の間に割って入ったのだから。

 なので正直に返答するれば、目の前を過ぎった白い蝙蝠を撃ち殺した班長さんは半信半疑とばかりに質問を続ける。



「その知らねーヤツはテメーの兄貴らしいが?」

「…………おれの血縁や知り合いに銀髪の人も、刑務所に刑務所に入れられてそうな人もいないです」

「…………全くの赤の他人か?」

「…………はい。彼とは初対面です」

「…………串刺し公の血縁、にしては似ている要素が無さすぎるな」



 じゃあアイツは誰なんだ。

 話題の人物を亡霊と断定し見捨てた班長さんは、疑念を口にしながら次々とサーフボートを上空へ移動させるが、その問いに答えられないおれは胸中で呟いた。


 ――――それはおれも知りたいことなんだけどなぁ…………。


 おれの兄だと名乗った銀髪の青年。

 おれが拘束されている時も全く敵意を向けられることの無かった彼について、おれが知っていることは皆無だ。

 ただ、気になることがあるとするなら――――彼が初めておれと会話した時のおじ様と、同じ反応をしたという事。

 これは憶測しにか過ぎないが、もしかしたら――――


(彼はおじ様と同じ、昔からおれを知っているという亡霊なのだろうか)


 だとすれば彼もおじ様同様におれを知っている者なのか――――と。進んで語りたくない昔話を思い出すおれは、蓋をするように過去の記憶を意識から遠い場所に追いやって、それよりもと班長さんの肩越しにマスさんと吸血鬼の対峙する灰空に目を向けた。

 鉄槌と盾のぶつかった跡地。

 火の粉を散らしながら両腕の翼で滞空する水着さんの足首に掴まるマスさん。

 彼の見つめる先には、巨腕を防ぎ切れなかったか。

 左肩から先の腕が消失したハルムヴェイトが漂っていた。



「――――やはり、巨腕使い。貴様の一撃は脅威よ」



 冷淡な声音で、しかし表情はゆるく綻ばせている吸血鬼は称賛を送る。

 左肩から先が穴が空いたように消滅しているというのに、酷く涼しい顔で痛む素振りすら見せないハルムヴェイトに奇妙な嫌悪感と違和感を抱いていると、おれと鋭撃班が見ている中で唐突にハルムヴェイトの傷口が盛り上がった。

 風船のように膨張し、隆起したのは筋肉か。

 暗い紫色の血管が張り巡らされ、よく見ればそれは無数の蝙蝠が集まっているように見え、隙間なく蠢く白い群れにじとりとした不快感が押し寄せた。

 数秒もしないうちに蝙蝠は混ざり合い、ヒトの左腕を造ると浮かび上がるように色が差して――――損傷など何も無かったように。

 元通り。完治し、修復された。



「そう言うテメーの回復力もこっちにとって脅威でしかねーよ」

「いやいや、昼の吾輩は無力であるぞ? しかしこうして貴様らと戯れるためになけなしの力を防御と回復に回しているだけぞ」

「そのなけなしの力で渾身の一撃消されちゃ、へこむんだけどなー」



 重傷だった傷が数秒のうちに治る。

 そんな現象を見せられて目をまばたかせているのはおれだけで、班長さんやマスさんは高速過ぎる回復に見慣れているとばかりに嫌味や、肩を落とし落胆するという、戦いのない日常と変わりない反応を見せるだけだった。

 驚いているのはおれだけのようだ。



『再生するのか、アレは…………!』

『あ? …………ってことはつまり、解体(バラ)し放題ってことか!?』

『貴様…………』



 一人反応が若干違うが、亡霊も吸血鬼の再生に驚きを隠せないようだ。


 班長さんの嫌味をものともせず無力を自称し、肩を落とすマスさんを称えた吸血鬼ハルムヴェイト。

 確かにおれの知る空想上の存在である吸血鬼と同じ様に蝙蝠に変化し、血を好む彼は「さて」と改めると、班長さんの後ろに隠れる形でこの場にいるおれに狂喜的な視線を投げかけ、言う。



「若き少年、吾輩の(しるし)であり敬愛する串刺し公よ。次に相見える時はさんざめく血肉の宴にて、名を問いに拝謁させて貰おうぞ。

 ――――ああ待ち遠しい再会の時よ! それまで暫しの別れよ! 吾が生の潤い、鋭撃班の兵士共よ!」

「いいから帰れ吸血鬼」

「やれ冷たい挨拶! しかし、それも良し!」



 この世の全てが愉しいと謳うように。

 高々と笑うハルムヴェイトは弾んだ声で別れの言葉を唱えると、全身を無数の蝙蝠の群れへと変化させていく。

 花が散るように人の形から小型生物の群れへ姿を変えた倒錯者はキィキィと、甲高い鳴き声を木霊させながら、灰色の空高く昇っていき――――やがて純白の群れは空と同化し、見えなくなった。


 吸血鬼を名乗るヒトと違わない侵攻生物ハルムヴェイトは、戦場から退場した。

 再会を宣言して。



「あいっ変わらず暇なヤツね、あの吸血鬼」

「来られる側としちゃ迷惑だ」

「まあ…………これでも平和な方なんじゃねぇか? ここはさ」



 鋭撃班の班員は退場するハルムヴェイトを追いかける様子はない。

 交わされる疲れ混じりの言葉の節々に、どうやらあの吸血鬼がことある事にちょっかいをかけてくる存在であると認識したおれは、逃げた倒錯者を放置する鋭撃班の事情を察し、無言でいることにする。

 脅威になりえるものは全て駆除する――――班長さんから受けていた説明からそのようなイメージを組織に抱いていたが、そうでもないようだ。

 現に、消えたハルムヴェイトの後を追うように大移動を始めるた侵攻生物を倒すつもりも彼らにはないらしい。


 ――――いや。

 まだ数百はいるだろう侵攻生物を倒す気力と体力が残されていないと、いうべきだろうか。

 なにせ戦っていないおれでも、倒錯者という吸血鬼がいなくなっただけで安心感と泥のような疲労感を覚えているのだから。


 圧力をかけてくる存在が消えたこと、最大の命の危機が消えたこと。その危機を与えてきた存在があっさりこの場から離脱したこと。

 緊張が解けたことと、自分の理解の外にある不可解なことが多過ぎたことから、気疲れのようなものが重く身体に押し寄せきたおれはボードの上で重く腰を下ろす。



「あーもう、疲れたわよまったくっ!」



 静けさを取り戻しつつある荒野をぼんやりと眺めるおれの心境を代弁するように、溜めてた言葉を吐き捨てる水着さんは「荷物も重いし」と足首にぶら下がるマスさんに文句を零した。

 水着さんのSF(サイドフェイス)についてほとんど何も知らないおれだが、両腕を炎の翼にし飛行し続けていた彼女の疲労は相当なものだろう。

 「オレのせいかよ!」と反論するマスさんを無視し、気怠げな様子で班長さんと向き合った水着さんは面倒そうに。



「班長ぉー」

「報告書は夕方までに提出しろ。おれは赤神父を連れていく」



 淡々と告げる班長さんに「もうちょっと期限を延してくれても…………」と不貞腐れる水着さんだったが、文句を言ったところで無駄だと判断したらしい。

 「分かったわよ、やればいいんでしょ。やれば」と不服そうな表情で渋々応えた彼女は、最後に「じゃあまた後でね赤神父」とおれに友好的な言葉を残すと、マスさんをぶら下げて飛び去っていった。



「うるせーヤツもいなくなったし、亡霊共回収してさっさと帰るぞ」

「あ、はい」



 残った班長さんはおれにそう声をかけると、ほとんどの侵攻生物のいなくなった荒野にボードを下降させていく。

 移動は急ではなく、乗っているおれのことを考慮して緩やかだ。

 戦闘中は逆さに飛んだり高速だったりと、水着さんに負けず劣らず自在に空を飛び回っていた班長さんは、言動こそ自分勝手に思える。

 だが質問には全てきっちり答えてくれたり、今のようにサーフボードの操縦に気を付けていたり、細かい所に気を配る人なのかな――――と。

 疲れて滞る思考でそんなことをぼーっと思っていれば、班長さんは顔だけおれに振り向く。



「ところで、人命救助とはいえテメーが俺の言いつけを破ったことに関してまだ話しが済んでねー」

「…………え?」

「ここから本部までトばせば五分弱だが、テメーに合わせりゃ三十分――――たっぷり話す時間はあるしなぁ?」

「……………………」



 ゴーグルで目元こそ隠れているが、引き攣った口角からして相当お怒りのようである班長さん。

 帽子の影も相まって、不機嫌なその表情が凶悪なものに見えたおれは、班長さんについての認識を改める。


 ――――細かい所まで気が付くんじゃない。

 ――――この人、ただ神経質なだけだ。


 おじ様がおれを呼ぶ声が足元から聞こえる。

 若干涙混じりなその声を聞きながら、おれは今日一番の災厄に遠い目をした。


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