ヒーローズ
狼たちがゲートを潜り、観客からの声と眩しいほどのライトに照らされたグランドが目の前に広がる。
「おーっと、ここで遂に!!開催国である日本の登場だ!!まさに未知の国、日本!!他の国とは大きく違ったBRVの開発として、各国の開発チームからも大きく注目されているぞ!!それに対抗するのは、前回二位のアメリカだー!!アメリカといえば、世界に誇る工業国!
これは面白い戦いになるぞーーーー」
狼たちが自分たちの陣地に来ると、向かい側から帝国のマーチが流れ始めた。
「これって・・・」
狼が思わず呟きながら、向かい側のゲートを見つめると、そこから現れたのは・・・
白を基調とした衣装を身に纏ったライアンに、スーパーマンのような格好をした黒人の選手に続いて、アメリカを代表するヒーローの格好で、登場してきた。
「統一性なさすぎだろ!!第一、なんでヒーロー登場のBGMが帝国マーチなんだよ!?」
狼が思わずそう言うと、ライアンがフッと鼻で笑った。
「おいおい、このパフォーマンスは喜ぶべきだぜ?なんせ、世界でも有名なヒーローたちの活躍が臨場感たっぷりで見られるんだからな」
「ライアン、止せよ。自分たちの平凡すぎるコスチュームの所為で、俺たちに嫉妬してるのさ」
そんな事を黒人選手であるビリー・グレンジャーが笑いながら、そんな事を言っている。
そんなアメリカ選手を見ながら、狼は呆気に取られた。
こんなふざけた登場の仕方をする国が前回二位で、さっきもイタリアに圧勝しているというのだから、驚きである。
「すごい、パファーマンスだね。しかも実力も確かだし、使用BRVも選手全員が第三世代機みたいだよ」
そう言った慶吾は、涼しい顔で微笑んでいる。
「えっ!そうなんですか?」
狼が小声で訊ねると、慶吾も狼に合わせて小声で答えてきた。
「そうだよ。他の国もけっこう、第三世代機の開発には力をいれているからね。・・・ちなみに、俺たちが使っているのは、言ってしまえば、日本には世代機っていう概念自体がないんだよね。だから俺たちが使う日本のBRVは、世代別じゃなくて、ランク制度を取っているんだ。でもまぁ、強いて世代別で言うなら・・・黒樹君のは、第一世代機になるのかなぁ・・・」
條逢慶吾という人物は、最後の最後でとんでもない事を言う人だとつくづく思う。
それにしても、自分が使っているBRVが世代別で言うと、第一世代機だったとは・・・そんな事、考えても見なかった。
狼が微妙に気を落としていると、慶吾がポンと肩を叩いて
「古きを重んじて新を知る・・・それを見せつけてきなよ、黒樹くん」
にっこりと笑ってきた。
言葉の意味は理解できても、それを体現出来るかは別問題だ。
狼は溜息をぐっと喉もとで堪え、顔を前へと向けた。
そこで試合会場にある巨大なモニターが試合開始のカウントダウンを開始した。
10、9、8、7・・・・・・
ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
試合開始を告げるホイッスルが鳴った。
するとすぐに動き出したのは、狼の隣にいた真紘だ。
真紘は相手へと一気に疾駆する。だがそれを
「輝崎、下がれ!!」
そう言ったのは、狼たちの後ろで腕を組み威圧を放っている綾芽だ。
真紘は少し驚いた顔をしながら、足を止めて綾芽を見る。
「貴様は不要だ。下がれ」
「なっ」
「今後貴様の試合参加は認めぬ。良いな?」
突然の綾芽の言葉に、真紘だけでなく狼たちも目を丸くし、アメリカの代表であるライアンたちも困惑したような表情で仲間の顔を見ている。。
「なっ・・・なにをいきなり・・・」
「のう、輝崎・・・妾に何度同じ事を言わせる気だ?・・・後ろへ下がらぬか!!愚か者」
最後の言葉はアリーナ中に響き渡る声で怒鳴った。
その所為で観客からざわつきの声が上がり始めた。
怒鳴られた真紘は唇を噛みながら、静かに後ろへと下がって行く。
狼は茫然とした顔でその姿を見てから、綾芽の方を向いた。綾芽は舌打ちをしながら「一条め、余計な真似を・・・」と呟いていた。
「えーっと、これは・・・いったいどういうことなのでしょうか?」
恐る恐るマイクが綾芽の方を向きながら、訊ねる。
すると代わりに周が頭を下げ
「申し訳ありませんが、急遽選手交代申請致します。なので、輝崎に代わり小椙を選手に加えます」
マイクにそう伝えると、周は後ろで待機していた柾三郎に合図を送る。
真紘に代わりに狼たちの所まで来た柾三郎は、黙ったまま周の脇へと立った。
そこで状況説明でも受けているのか、何かを話している。
「はい。では、選手交代も済んだようですので、試合を開始したいと思います」
マイクがそういうやいなや、会場中の目が狼たちへと集中してきた。
「まったく、開始直後に選手替えなんて意味わかんないことするな。これも日本のパフォーマンスの内か?」
目の前にいるライアンがニヤニヤ顔で茶化してきた。
今の状況が呑みこめていないのは狼も同じだ。出来れば今すぐにでも真紘を下げた理由を綾芽に訊きに行きたいくらいだ。
でもそれは認められないだろう。
もうすでに、試合は始まっている。
狼は静かに息を吐き、そして。
「セット・アップ」
そう言って、イザナギを復元した。
「今度はコケないように気を付けるんだな。キッド」
むっとしながらも、狼は何も反論をしない。ここで相手の挑発に乗るわけにもいかないからだ。
そんな狼の横を柾三郎が疾走し、アメリカ選手へと疾走する。
「おお、こいつが噂の忍者か。よし、俺が忍者を仕留めてやるぜ」
そう言ったビリーが背中に着いたマントを棚引かせ、宙へと浮いた。その姿に狼も思わず「嘘だろ・・・」と呟いてしまった。
宙を浮いて移動する姿はまさに映画の中のスーパーマンだ。ビリーは気分がいいのか観客に手まで振っている。
「飛行術か」
そう呟いた柾三郎が、素早く手を動かし印のような物を組んでいる。それを見た観客からは口笛が吹かれ、大ウケしているようだ。
「Hey、ニンジャ、俺のスーパーパワーを受けてみな」
ビリーが一気に柾三郎の頭上へと急降下し、右手を突き出す。
その瞬間、何が起こったのか分かる暇もなく、グランドが大きく抉られ、柾三郎が蹴られたボールのように吹き飛ばされる。
「先輩!!」
吹き飛ばされた柾三郎を見ながら狼がそう叫ぶのと同時に、狼の脳内に慶吾の声が聞こえてきた。
「黒樹くん、心配しなくても柾三郎なら大丈夫だよ。彼にはああするように最初から言ってあったから。それより、黒樹くんはそこの地点を離れて、C座標に地点に移動」
狼は返事するよりも先に、慶吾に指示された場所へと移動。
そして狼が先ほどの地点から離れた十五秒ほど後、に巨大な砂柱がそこから突き出る。
その砂柱が右回りに回り始め砂嵐を起こす。グランド内の視界は吹き荒れる砂嵐のせいで一気に悪くしている。
「目眩しか。意外にやるな。だが、俺たちアメリカの選手には効かないぜ」
そう叫びながら、ライアンたち率いるアメリカ選手が狼たちの元へと向かってくる。
「無駄な事を!」
そう言ったのは、嬉しそうに顔を歪める綾芽だ。
綾芽は吹き荒れる砂嵐など元からないように、綾芽が突き進む。
それに続くは周だ。
すぐにお互いがぶつかり合う音と、暴風が会場中に溢れる。
「おお!」
そう簡単な声を上げたのは、慶吾だ。
狼も因子を視覚神経へと流し、視界を強化する。
強化された視界で見えた物は、アメリカ選手に防御をさせる隙も与えない程の、綾芽による連打攻撃。
「クソ。この女は摂取型か。・・・すぐにこの連打なんて止めさせてやるぜ」
そう言ったライアンが、自身のBRVを復元し構えた。
ライアンが持つBRVは、アーク放電で出来た光の刃だ。
その光の刃を纏ったライアンの第三世代のBRVは、綾芽へと振りかざされる。高温すぎる刃は、綾芽の肉体を斬り刻み、灼き殺さんとする。
だがその刃を宙に舞う砂たちが集い、綾芽の盾となる。
その光景を見ながら、狼の足はもうすでに別の敵選手へと動いていた。
ここまでの事が、全て脳内に伝達される慶吾の言う通りになっているというのが驚きだ。
未来予知能力でも備わっているのではないか?とも思ってしまうほど、慶吾の予測は完璧だ。
狼はイザナギから斬撃を自分の真上へと放つ。観客から見たら無意味な攻撃にも見えるだろう。だがそれは違う。
狼が放った斬撃は、目には見えない何かと衝突し、爆発を引き起こす。
そして次の瞬間、狼の目の前に身体を逆さ吊りにした男の拳が突き出される。
狼はそれを後ろへと跳び回避するが、そこに待ち受けていたのは西部劇を感じさせるような格好をした、アメリカの女性選手だ。
「あらあら、けっこう可愛い顔してるじゃない。試合中でなかったら、私がもっと良い事・・・教えてあげてもよかったのに」
そう言って、服の上からでも分かる、かなりデカめの胸を揺らしながら、テレサ・キャンベルは狼にウィンクをしてきた。
完全に子供扱いされている気がする。
そう思いながらも、視線は微妙にテレサのあらぬ方へと目が泳いでしまう。
「あー、やっぱりこれ目立つ?」
無邪気な声でそう言いながら、テレサが腕で胸を持ち上げる。
その仕草の所為で、さらに強調された胸に狼は思わず絶句してしまった。
「黒樹くんも、男の子だね。意外に黒樹くんも巨乳好きなのかな?」
笑いながら、慶吾がそんな事を言ってきた。
「條逢先輩まで、この話に便乗しないで下さいよ!」
「そんな恥ずかしがる事じゃないだろ。男性として当然なことだと思うし。でも、残念ながら羊蹄さんや、大酉たちには乏しい部分でもあるよね」
「だーかーら、試合中にそういうこと言わないで下さいよ」
「ははは。ほら、あと二秒後に弾が狼くんに被弾しちゃうよ?」
「わかってますよ!!」
狼はそう言いながら、テレサから弾丸が狼に撃ち込まれる。
それを狼がイザナギで薙ぎ払おうとした瞬間、テレサの放った弾丸の描いていた軌道が直線から曲線の軌道を描いて、狼の元へと飛んできた。
「・・・シュート」




