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様々な色

 突然の代表メンバー発表からあっという間に一週間が経過し、狼たちはWVAが開催される巨大アリーナへと移動していた。

「なんか、怒涛の一週間だったような気がする・・・」

 バスの中で一人、ぐったりとした狼がそう呟いた。

「それにしても、驚いたわよ。いきなりメンバーに選ばれてるんだから」

「あはっ。どんな間違いが起こったのかと思ったよね」

 そう返してきたのは、斜め前に座る根津と季凛だ。

「僕だって、未だに信じられないよ。でも、いきなり九条会長に呼ばれたと思ったら、『貴様は次鋒だ』って言われたんだ。そしたと思ったら、息つく暇もなく身体の寸法を測られて、その後からみっちり、開会宣言の時に見せることになってるデモンストレーションの練習が始まったんだから」

 狼はこの一週間の目まぐるしさを頭の中で反芻させながら、唸った。

 すると両隣に座っていた名莉と小世美が同時に狼の顔を覗いてきた。

「狼、大丈夫?」

「あんまり無理しちゃ駄目だよ」

「うん・・・まぁ、確かにちょっと疲れてるけど、それよりも、これからの事の方が心配だよ。僕に代表なんて務まると思えないんだけど・・・」

 溜息を吐きながら、狼は胸の中で渦巻いている不安を漏らす。

「大丈夫だよ!オオちゃんのことみんなで応援するから。ねっ!」

 小世美の手が狼の頭を撫でた。

「え、あ、うん。ありがとう・・・」

 久しぶりに小世美から頭を撫でられ、気恥ずかしさと照れくささで狼は頬を掻いた。小世美も嬉しそうに笑っている。

「あはっ。ラスボス出現~~」

 そんな季凛の言葉に、狼と小世美が首を傾げる中、名莉、鳩子、根津は微妙そうな表情を浮かべている。

 鳩子にいたっては、小さい声で

「早めに撃退しなければ・・・」

 とさえ呟いている。

 けれどやはり、狼と小世美は四人の会話の意味が分からず、首を傾げるしかない。

 首を傾げていた狼の情報端末に、一通のメッセージが表示された。

 差出人は他のバスに乗車している周だ。

『会場へと到着したら、代表メンバーはA―55ゲート前に集まること。選手用の服装はその場で支給する』という内容だった。

 狼はすぐに周に返事をし、外の方に視線を向けた。

 窓からは、強大な市民公園が見え、その真横には大きなバイパスも通っている。そして、その奥には狼たちが向かっている巨大アリーナ。WVAの会場が見えていた。

 やっぱり、緊張する。

 狼は思わずアリーナから目を逸らし一息、呼吸をした。

 そして狼はもう一度、アリーナをまじまじと見つめた。

 あそこに国を代表する選手がいるのか・・・・

 狼は気後れしそうな、自分を鼓舞するかのように手を強く握った。



 狼たちを乗せたバスがアリーナへと到着し、狼はデンメンバーと離れ、急いで周から指示のあった場所へと向かう。

 周りには色々な国から来た人たちで溢れかえっている。そのため、前へ進むのも苦労だ。狼も出来るだけ人にぶつからない様ようにしながら、先を急いでいると、大銅鑼が叩かれたような大きい音が鳴り響いてきた。

「なんだ?」

 耳を塞ぎながら、狼が思わず立ち止まると、狼の目の前に一台のバスが止まっていた。そこからチャイナドレスを着た少女が、得意げな表情を作りながら降りてきた。

 狼も含め周りにいた人たちも、その姿を凝視している。「あれは中国の万姫(ワンヂェン)か」「今年はリーダーらしいぞ」という声が聞こえてきた。

 有名な子なのかな?

 狼が呑気にそんなことを考えていると、目の前に万姫が歩いてきた。万姫は綺麗な黒髪をハーフアップにした、可愛らしい少女だ。そんな万姫が狼の前で足を止めると、手を払った。

()―(ー)、障碍(邪魔よ)。清孩子返(子供は帰りなさい)回」

 中国語で何かを言われているようだが、狼には理解ができない。そのため、狼が首を傾げていると、万姫がため息を吐いた。

「もう、あたしの道を塞ぐんじゃないわよ。退きなさい」

 万姫はそう言うと、ふんと鼻を鳴らして去って行った。

 それに続くようにバスから続々と人が降りてきて、狼の横を通り過ぎて行った。

「なんだったんだ・・・あれ」

 呆然としながら、狼はそう呟いた。

 すると丁度その時、狼の情報端末にメッセージが届いた。それはたった一言。

『遅い!!』

「あーーーッッ!」

 端末の画面を見て、狼は叫んだ。

 きっとこれを打ったのは、綾芽だろう。これは大変な事だ。

 狼は慌ててA―55ゲートへと急行した。

 集合場所に狼が辿り突くと、腕を組み仁王立ちしている綾芽と、その横に周、真紘、慶吾が立っていた。

「すみません。遅れちゃって・・・」

「すみませんではない!この愚か者!!妾を斯様な場所で待たせるとは!!黒樹・・・この報復は必ず享けよ。良いな?」

 そんな事言われても・・・。狼は内心で理不尽さを感じたが、遅れたのも事実だ。

 それに綾芽の睨みの利いた目でそう言われ、狼は何も反論することができなかった。そしてそのまま綾芽はズンズンと進んで行き、アリーナの中へと入って行く。

 狼たちもそんな綾芽に続いて狼たちも中へと進む。

「それにしても、黒樹が集合時間に遅れるとは珍しいな」

「ちょっと、色々あって・・・」

「そうだったのか。それは大変だったな」

 真紘はそう言いながら苦笑を溢した。

「それにしても、すごい人の数だね。まぁ、色んな国から人が来てるから当たり前だけど・・・」

「ああ、確かに凄い数の人だな。だが、俺たちはそんな数に圧倒されず、俺たちの全力を出すだけだ」

 そう言った真紘の顔は、すごく晴れ晴れとしている。

 きっと世界の強者と戦えることが嬉しいのだろう。今回のWVAの話を聞いたとき、狼は正直驚いたが、真紘は綾芽と同じくらい乗り気になっていた。

 いつも冷静な真紘にしては珍しい反応だと狼は思ったが、向上心の強い真紘なら当然の反応かもしれない。

 そう思いながら歩いて行くと、「選手控室」と書かれた紙が貼られた更衣室の前で綾芽が足を止めた。

 そこにはWVAを運営するスタッフが立っており、袋に入った選手着を配布していた。

 まず綾芽に配られ、周、慶吾、真紘、狼の順で選手着を受け取る。

 配られた選手着を見ると、かつて、日本海軍で使用されていた大礼服のようなデザインで黒をベースとした物に赤いライン線が入ったデザインだ。

 だが、先に配られた真紘の選手着を見ると、デザインは狼と一緒だが多少違っている。真紘の物はライン線の色は狼と同じだが、黒ベースの狼とは違い紫ベースとなって装飾が施されている。

 みんな、其々違うのかな?

 狼はそう思い、周や慶吾の選手着を見ると、二人の選手着は狼と一緒の物だ。

「ねぇ、真紘。なんで真紘だけ配色とかが違うんだ?」

 狼が真紘に訊ねると、真紘が首を横に振った。

「違うのは俺だけではないぞ。九条会長も黒樹とも俺のとも違っている。会長の選手着は赤ベースに金が入っているものだからな」

「へぇー。でも、なんで二人だけ?」

「ああ、それは、会長は公家の者だし、俺は九卿家の者だからな。そこで配色を変えているのだろう」

「なるほど」

 狼は納得して、狼たちは男子更衣室へと入った。着替え終わってから、狼は周たちの方を一瞥して、真紘に小声で話しかけた。

「そういえば、九条会長には訊いた?イレブンスのこと」

「ああ、訊いたぞ。だが、会長はただ笑みを浮かべただけで、それ以上の反応は取らなかった。だから、実際関係があるのかは分からないな」

 狼に合わせて、真紘が小声でそう答えた。

「そっか」

 狼は綾芽だったら、何か知っているかもと思っていただけに、期待して損した気分になった。そのため、狼は更衣室にあった椅子に腰かけ、ぼーっと天井を眺めていると、そこに慶吾がやってきた。

「どうかした?黒樹くん」

「いえ、どうもしてませんよ。どうしてですか?」

「君がどこかぼーっとしてたからね。少し気になっただけだよ」

 そう言って慶吾が苦笑を溢した。

 なんか、どこか不思議な人だよなぁ。狼は苦笑を溢す慶吾を見てそう思った。慶吾から出る雰囲気はよく言えばミステリアスな雰囲気だが、悪く言えば変わっている。

 どこか掴めないというか、読めない性格をしていると思う。

「條逢先輩って、変わってますよね・・・」

 思わず内心で思った事を慶吾に言ってみた。普通なら怒る人もいるかもしれないが、慶吾は気にする素振りもなく、あっけらかんと答えた。

「親が親だからねぇ。よく言われる」

「親って・・・そんなに條逢先輩の親って変わってるんですか?」

「俺の親が可笑しいのは、黒樹くんも重々知ってると思うけど?」

 柔らかな笑顔を浮かべた慶吾に、そう言われ狼は頭を捻った。

 僕が知っている人の中で可笑しい人って・・・・いたかな?

 そう思いつつも、狼は思考回路を巡らせる。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いた。

「もしかして、なんですけど・・・・・・、間違ってたら全然否定していいですから」

 そう念入りに前置きをしてから。

「理事長とか言わないですよね?」

 恐る恐る狼がそう訊ねると、慶吾はにっこりと笑顔で頷いた。

「ご名答。俺は正真正銘、宇摩豊の一人息子だよ」

 狼はそんな慶吾の言葉に、目を見開く。

「え、えーーーーーーーーーーーーーー!?嘘だろ?」

「あはは、本当なんだな。これが」

「え。だって、條逢って・・・」

「ああ、それは母方の苗字だね。母方は情報操作士の家としては名家だから。それでね」

 慶吾の言っている事は理解できる。

 だがそれを、受け入れられるかと言えば微妙だ。あんなふざけたノリの理事長に息子がいたことにも驚いたが、それに加えて、その息子が慶吾だったことに驚きだ。

 そんな困惑した狼を余所に慶吾は話し続けた。

「まぁ、僕はアストライヤー関係の家の中では珍しいかな」

「え?どうしてですか?」

 狼は混乱した頭を落ち着かせるように、慶吾の話へと意識を移した。

「まぁ、俺は一人っ子だからね。普通、アストライヤー関係の家で兄妹がいないなんて、珍しいから。現に明蘭に通っている人で、一人っ子なんて、中々いないと思うよ」

「そうなんですか?でも、どうして?」

「それは、より良い因子を持った子供を家に置いとくためさ。それに良い競い相手になるだろ?兄妹なんて。その競い合いの中で劣ってしまった方は、もう一人の方の影武者にできるしね。まぁ、言わば保険っていう意味を兼ねてるんだよ。・・・それ以外にも色々と用途はあるけどね」

「影武者って・・・・」

 狼はその言葉に思わず、渋い顔を作った。

 そんなの親の傲慢じゃないか。

 狼は内心でそう毒づいた。

 それに影武者なんて用意したって、どんなメリットがあるというのだろう?狼には、まるで理解できない。

「まっ、その話は一先ず置いといて・・・もうそろそろ、開会宣言が始まるみたいだよ」

 そう慶吾に促され、狼は辟易とした溜息を吐いて、立ち上がった。


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