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アストライヤー  作者: 星野アキト
第五章

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代表メンバー

『当機はまもなく成田国際空港に着陸致します』

 機内にそんなアナウンスが流れ、淡いオレンジ色の髪に、琥珀色の瞳をしたドイツの代表候補生であるフィデリオ・ハーゲンは窓の外を眺めた。

「ここが日本か……」

 小さく見えてきた日本の風景を見ながら、フィデリオは呟いた。

「確かフィデリオの幼馴染が来てるんだっけ?」

 意地悪そうな笑みを浮かべて、冷やかしを入れてきたのは同じドイツの候補生で、緑色の髪を片方で三つ編みにした少女、アデーレ・カーティスだ。

「まぁ、そうだけど……でも、セツナと会う為だけに来てるわけじゃないよ! 俺だって、ちゃんとドイツの代表生として来てるんだから」

「はいはい。そういうことにしときましょうかね」

 フィデリオの必死の弁解も虚しく、アデーレはフィデリオの言葉を軽く流した。だが、耳まで真っ赤にしたフィデリオが反論できるはずもない。そのためフィデリオは肩を落としながら、溜息を吐く。

 こんなんじゃ、いつまで経ってもセツナとの仲なんて進展するはずないよなぁ。

 セツナが日本に留学してしまってから、フィデリオは少し焦っていた。

 もしも日本でセツナが良い人を見つけてしまったら……そう思うと肩に重いものがのしかかったような気持ちになる。

 いいや。でも、こんな見っとも無い姿をセツナに見せるために、日本に来たわけじゃない。祖国の立派な代表生として、他の四人の候補生と共に明日から開催されるWorld Valor Astraier……通称WVAに参加するために来たのだ。

 しかも今年はかなり注目される大会となるだろう。

 なんせ、開催地がアストライヤー発祥の地、日本なのだから。

 アストライヤーは国家によって、その統括制度が異なる。

 ドイツや大半の国家は軍と同一の組織体系アストライヤーを管理しているが、イギリス等の未だ王室を有する国は、軍は国、アストライヤーは王室、というような形式が取られている。その為、認可を下すのも大変なのだ。

 ドイツは大統領と首相、二人の認可が下りると、政治交渉にアストライヤーを出すという方式を取っているが、イギリスなどは王室の認可を受け、動くというパターンである。

 確か日本は、首相が日本の帝にアストライヤーを動かすことを申告し、帝が認めればアストライヤーを政治交渉の場に持ち出すことが出来ることになっていたはずだ。

 だが日本は自らがアストライヤー発祥国でありながら、アストライヤーを公の場に持ち出さない。

 それは政治的交渉が上手くいっている証でもあるが。ーー日本政府の中で『アストライヤーは最後の砦』とも言われているらしい。

 それにしても、日本がアストライヤーを出し惜しみする態度は過剰だとフィデリオも感じている。

 世界が日本のアストライヤーを見たのは本当に一度だけ。

 日本が国連にアストライヤー制度という案を持ち出した時に、代表者として五人のアストライヤーが国連に姿を見せに来た時だけだ。

 欧米諸国をはじめ、他の国はアストライヤーを民衆に馴染ませる目的で、TV出演などをさせたり、近隣の国同士で交流会をしたりとアストライヤーが外交試合以外にも表に出たりする事は、当たり前になっているため、候補生ですら知名度が高い。

 アメリカなどは日本にも交流会などの話を持ちかけてはいるようだが、今のところ『慎んで、辞退します』とにべもない返答をされてしまったらしい。

 そのため、各国のアストライヤー関係者からは「日本は逃げ腰国家」や「秘匿主義で、何を考えているのか分からない」などの声が囁かれるほどだ。

 それは代表だけではなく、候補生たちにも適用されているようで、これまで幾度も世界各地でWVAは主催されたが、日本が出場したことはない。

 だが今回のWVAでは日本の代表候補生が、出場するのだ。

 日本政府から国際防衛連盟へWVAへの参加表明を示す通達が出されたのだ。

 この通達は各国のアストライヤー関係者からすればまさに青天の霹靂だった。

 BRV開発も日本は独自開発を行い、海外との共同開発すら行わない。そんな国が出場するとなれば目を輝かせたくもなる。

 そのため今回の大会は前回よりも、大会が始まる前から多くの各国関係者たちが注目していた。世界各国のアストライヤーに携わる有名企業、政治家、王室。そんな様々な人たちがこの大会を見にやってくる。

 日本の力量と技術が如何なるものなのか、見定めする為に。

 今回の大会の結果では、代表の候補生から外される者もいれば、その座を確かなものにする者もいる。そういうものを見定める大会だ。だからこそ、フィデリオも含め、選手は自分の力を発揮することに全力を掛けている。

 それは、隣で眠たそうにしているアデーレも同じだろう。

「おい、フィデリオ。おまえ、セツナに日本の候補生の事は訊いたのか?」

 後ろの席からフィデリオの頭を小突いて訊ねて来たのは、ドイツの代表候補生メンバーのリーダーであるデトレス・ゲルハルトだ。デトレスは焦げ茶色の短髪で、頼れるお兄さんというような男だ。デトレスはフィデリオより二つ年上だが、昔からの知り合いでセツナの事も知っている。

「いや、何も……」

「そっか。そうだよな。先にどんな奴らか訊いたら意味ないもんな」

「うん」

 そう答えて、フィデリオはデトレスも自分と同じ考えを持っているのだと思った。

 そう、先に訊いてしまったら意味がない。

 だからこそ、フィデリオはセツナに何も訊かなかった。訊いてしまったら楽しみが無くなるような気がしたからだ。

「それにしても、他の国はどんな対策を練って来るんだろうな?」

 デトレスは遠くを見るような目で、そう呟いてきた。

「分からない。でも、それでも俺たちは……」

「勝たないとな」

 フィデリオの言葉をデトレスが続け、満足そうに笑った。

 そんなデトレスにフィデリオは「うん」と静かな声で頷いた。

 するとデトレスの横に座っていた藍色の髪の少女、ヤーナ・アイクがおずおずと顔を覗かせてきた。

「わ、私も精一杯頑張るね」

 愛らしい目を向けながら、少し恥ずかしそうにそう言ってきた。

 彼女らしい仕草に、デトレスとフィデリオが笑みを零す。するとヤーナは顔を赤らめてから、小さく微笑んだ。




「ふぅー、やっと嫌なテストが終わったー」

 鳩子が高らかに腕を伸ばしながら、そう叫んだ。

 明蘭では期末テストには二種類あり、一般的な筆記科目とBRVを使った実技テストがある。だが、以前、九条綾芽が主催した『サマー・スノウ宣戦』で勝ち抜いたデンメンバーは、根津以外のメンバーが実技科目の免除を要請した。そのため、今回のテストは筆記科目のみ。

「どうせなら、実技じゃなくて筆記を免除してくれればいいのに」

 根津がそんな不満を漏らす。

 そんな鳩子と根津を見て、季凛が笑った。

「あはっ。みんなテストの話で気を紛らわせてるとかないよね?」

 率直な季凛の言葉に鳩子と根津は一気に息を詰まらせる。季凛が何について言っているのか、分からないはずもないからだ。

 根津の隣にいる名莉も俯いたまま沈黙している。

「みんな、集まって何話してるの?」

 そう声を掛けて来たのは、無邪気な笑みが似合う狼の義妹……黒樹小世美だ。

 そうこの小世美こそ、ここにいるメンバーが気にしている話題の人物。

 狼は周囲に小世美と自分の関係を簡単に説明した。

 小世美は不慮の事故で両親を失ってしまったのだが、親戚筋達は幼子である小世美を誰も引き取りたいと手を挙げなかった。そして彼らは擦り付け合いの争いをした挙句、最終的に小世美を施設に預ける、という薄情結論で合意したのだ。そしてそのまま小世美は施設に入れられてしまった。

 生まれた頃から小世美を知っていた狼の父親が、小世美の置かれた状況を知り憤慨し、彼女を養子として迎え入れ黒樹家の一員になったのだ。

 そのため妹とは言っても歳は狼と同じで、ただ誕生日が狼の方が早いという理由で兄妹となっている。

「いや、テスト終わったからねぇ。良かったって話」

「そっか。みんなは学期末テストだもんね。私は学期末が出来ないから代わりに転入試験をやったよ」

 小世美が少し口を尖らせながらそう言った。

 だがすぐに小世美は、彼女らしい笑みを見せ、少し畏まりながら頭を下げた。

「でも、無事にこの学校に転入できました。改めまして黒樹小世美です。これからお友達としてよろしくお願いします」

 そもそも、小世美が何故、明蘭に来ることになったのかと言うと……。



「何で? 小世美がここに?」

 狼が驚愕しながらも絞り出したような声で小世美に訊ねると、小世美は少し困ったような表情をしてから、驚きの言葉を口にした。

「んー、実は私が通ってた高校が、壊れちゃったの」

「えっ? 学校が壊れるって?」

「それが、驚きなんだ。私にもよく分からないんだけど、夜の間に学校が壊されちゃったの! 朝登校してみたら、学校が瓦礫の山みたいになってたんだ。でもね不思議なんだ……音とか全然聞こえなかったって周辺に住んでる人たちも言ってるの。学校の先生たちもすごく驚いてて、生徒はみんな帰宅する様にって言われちゃってね。それで帰り道私もこれからどうしようかな? って思ってたら、ここの理事長さんが何故かその場に居て『明蘭に来ちゃいなYO』って、言ってくれたの」

 その話を聞いていた、全員があの理事長だったら、周囲の大人達が混迷極まった中絶妙なタイミングでそういうことを言いだしかねないと思った。

 そしてきっと、その内『一夜にして学校が破壊!! 地元の住人も気がつかず……』とニュースになりそうだ。

「ですが、明蘭に入る為には、色々条件がありますよ。第一条件にゲッシュ因子を持っていなくてはいけないとか」

 そう言ったのは、一緒に話を聞いていた左京だ。

「そうそう、それがびっくりなんです。私、その何とか因子を持ってないと思ったら、実は地味に持っていたみたいで……だから、何とかその条件はクリアしました」

 小世美は初めて話す左京に対して、人見知りをすることもなく照れ笑いを浮かべながら、そう答えた。

「……嘘だろ?」

 狼が唖然とした表情でそう言葉を漏らした。すると小世美は少女らしい無邪気さで頬を膨らませた。

「こら、私が来たっていうのに、オオちゃんは喜んでくれないだね」

「うっ、別に喜んでないとかじゃなくて、この学校は普通の学校と違って変わってるから」

 狼が慌てて、小世美にそう言うと、小世美はケラケラと笑っている。

 狼はそんな小世美を見て、困り顔はしていたものの、やはりどこか嬉しそうに微笑んだ。



 その光景を思い出していた鳩子は溜息を吐き出すのを堪えた。

 小世美が良い子という事は分かる。これがとてつもなく意地悪な子だったらと何度考えたことかわからない。

 それに小世美が狼の家族だということも知っている。

 だが、だがしかし……。

 狼の妹として処理するのは難しかった。実際には血が繋がっていないと知ってしまった所為なのか、妹というよりは仲の良い男女という方がしっくりきてしまう。悲しい事に。

 しかも小世美も自分たちと同じクラス。これは理事長の計らいだろう。これも実に恨めしい。

「それにしても、オオちゃんどこいったんだろ?」

 小世美がそう言いながら、キョロキョロと周りを見回している。

 それにつられるようにして、根津や名莉も周りを窺っている。

「テスト中はいたんだけどね……」

 根津が唸りながらそう言った。

 そんな根津の言葉に、季凛がまたくすりと笑った。

「あはっ。テスト中にチラ見ですか」

 確かに。

 鳩子は黙ったまま、頷いた。

「なっ、別に違うわよ!!」

 顔を少し赤らめて根津が慌てている。

 はぁー。ネズミちゃんってバレバレ。

 鳩子はそう内心で呆れながら、横目で小世美の顔色を見た。小世美は目をぱちくりとさせているだけで、特に変わった表情はしていない。

 気にならないのかな?

 鳩子は内心で唸った。

「でも、小世美はここに転入してきたんだから、BRVとかは決まったの?」

 根津が話を切りかえる様に、小世美に訊ねた。

 すると小世美は首をふるふると横に振った。

「それがね、私はBRVを持たなくても良いよ、って理事長さんに言われたの? なんか、私に合うBRVがないんだって。それくらい因子が少ないってことなのかな? だから実技科目も全部免除……というより普通の学校の体育レベルの参加で良いよって」

「へぇー。でも最初は狼も合うのがなかったわよね。まぁ、狼の場合はもうイザナギで適合してたからみたいだけど」

「じゃあ、私もそういうのがあるのかな?」

「あるかも」

「わぁー、そしたらどんなのかな? 気になる〜〜」

 名莉の言葉に小世美が嬉しそうな声を上げた。

 するとその声に重なるように、教室にあるスピーカーから放送が流れた。

「これより、一週間後に開催されるWVAの代表5名を発表する」

 スピーカーから流れた声は周の声だ。

 その内容に生徒たちがざわついた。

「WVAに出るの初だっけ?」「誰が出るんだ?」「どうせ、一軍生だろ」などの声が飛び交っている。

 そんなざわつきを押しのけて、スピーカーからの声は続く。

「WVAに出る代表は……大将、九条綾芽。副将、條逢慶吾。中堅、行方周。次鋒、黒樹狼。先鋒、輝崎真紘。以上5名とする」

 その放送に、その場にいた全員が目を見開いた。

 そして、皆の驚きを小世美が先陣を切って呟いた。

「オオ……ちゃん……」


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