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GO TO THE NEXT

言葉を中断した勝利とともに、開かれた扉の方に、全員の視線が向かう。

 そこに立っていたのは何故かびしょ濡れのイレブンスと、見慣れない女性二人。そして隣には真紘と希沙樹にセツナ、そして犬を抱っこした誠が立っていた。

「あらら、人がたくさん」

 そう言ったのは、綺麗なプラチナ色をした髪に、赤い目。そして柔らかそうな雰囲気を醸し出した女性だ。その綺麗な姿からは儚そうな雰囲気も出ているが、その表情は溌剌とした笑顔を浮かべている。

 そしてその斜め後ろでは赤茶の色の髪をした、女性が鋭い視線を狼たちに向けて立っている。

 片方の柔らかそうな女性と違って、きつそうな印象を受ける女性だと狼は思った。

 そしてイレブンスがプラチナ色の髪の女性と少し何かを話している。

 イレブンスの知り合い?ということは、トゥレイターの人ってことなのかな?なんか、そうは見えないけど。

 狼がそう思っていると、プラチナ色の髪をした女性が、優しく微笑んできた。

 うーん、やっぱり見えないな。

「まさか、希沙樹たちだけでなく、齋彬までいるとはな」

 そう言ったのは、部屋を一望した真紘だ。

 真紘の視線に気づいた勝利が、まるでカッコ悪い姿を見せてしまったと言わんばかりに、焦った様子で、答弁をしてきた。

「輝崎、勘違いするなよ。俺は間違っても来たくて来たんじゃない。俺の懐刀がどうしても行きたいと駄々を捏ねるものだがら、俺もついてきたまでだ。決して俺の趣味じゃない」

「あー、勝利様怖がりですもんね」

「死んでも来たくなかったんですもんね」

 勝利の心中をアフレコするかのように、真里と大志がそんなことを言っている。

「そうだったのか」

「ちがーう。断じて違う。・・・・って、彰浩様!?何故、こんな所に?・・・さては、また『暇だ』とか言って、遂にはこんなところまで来ちゃったんですか?はぁ・・・本当に某・・・困りますから、迷惑な・・・おっと、変な思いつきはやめて下さいよ」

 イレブンスを見ながら、勝利がそう言ったが、言われたイレブンスは怪訝そうに首を傾けている。

「勝手に話進めんな。誰だよ?彰浩って?」

「彰浩様とは、九条会長の父君だ」

 そう答えたのは、勝利ではなく真紘だ。だが、いまいちピンと来ていないイレブンスは、顔を眇めている。

 だが、狼はイレブンスとは逆にピンと来てしまった。

「あっ!僕、前から九条会長って誰かに似てると思ってたんだけど・・・そうだ。イレブンスに似てるんだ!」

 狼は初めて綾芽と会った時に感じた既視感の正体がわかった。

 そして狼がそう言うと、綾芽の事を知っている者が一気にイレブンスを凝視した。

「・・・確かに、似てる」

「言われてみるとね」

「似てると思う」

 根津、鳩子、名莉が口ぐちにそう言うと、周りにいる真紘たちが頷く。

「だから、誰なんだよ?そいつらは!?」

 イレブンスが辟易としながら怒鳴る。

 すると、静かな声で誠が答えた。

「公家の方だ。私も黒樹様が言われるまで気づかなかったが、確かに出流と綾芽様は似ている」

「・・・そんな事いきなり言われても、俺は何の反応も取れないぞ?」

「だろうな」

 誠は溜息を吐きながら答えた。

「ちょっと、待て!佐々倉出流が、九条様と血縁者だと?そんな事、普通に考えてありえるのか?」

 左京が少し驚き混じりの声で、そう訊いてきた。

 左京の言いたいことも分かる。

 だが狼はそれよりも先に・・・

「佐々倉?」

 疑問に感じた部分を狼が首を傾げながら、復唱する。すると、イレブンスはきまりが悪そうな表情を作った。

「どういうことだ?」

 真紘が誠とイレブンスの方を見て、訊ねた。

 すると誠が落ち着いた声で、はっきりと答えた。

「私と出流は、血は繋がってはいませんが、姉弟なんです。そのため、左京も昔から出流の事は知っています。同じ道場に通っていましたから」

 誠の言葉を聞き、狼はようやくイレブンスが左京や誠の事を知っているのかがわかった。

 血の繋がらない・・・か・・・。

 狼は内心でその言葉を呟きながら、口を噤んだ。

 デンのメンバーや、真紘たちが驚きで絶句する中、一人、何かを思い出したかのように、口を開いた。

「あ、そういえばここにいる人に私の自己紹介をしてなかったわね。皆さん、初めまして。私はヴァレンティーネ・フラウエンフェルトです。こう見えて東アジア地区のボスをやっています。そしてこっちはマイア・チェルノヴォーク」

 そう言いながら後ろにいたマイアの自己紹介も済ませたヴァレンティーネは満足そうに微笑んでいる。

「「「「えっ!ボス?」」」」

 ヴァレンティーネによる発言に、狼たちは目を丸くさせる。トゥレイターの関係者とは思っていたが、まさか、ボスとは思っていなかった。

 そんな空気を読み取ったイレブンスが、半ば呆れたように頭を抱えた。

「今のこの空気でおまえ、いきなり自己紹介なんてするな。しかも余計な事まで言うな」

 イレブンスがそう言うと、ヴァレンティーネがきょとんとした表情を見せている。

「だって、名前を言わないと私の名前を呼んでもらえないでしょ?」

「いや、そういう問題じゃなくて・・・」

「では、今までの行動は全てあなたが命令していたと?」

 真紘がヴァレンティーネとイレブンスの会話に割って入り、質問する。

「そうね・・・私はここにきてまだ少ししか経ってないから、今まで何をして来たかは記録でしか見てないわ。私が来る前に東アジア地区の行動を決めていたのは、確か・・・幹部クラスの男の人だもの」

 そう言ったヴァレンティーネの目を見ながら、真紘が鋭い視線をしながら、見定めるように見つめる。

 すると、イレブンスとマイアが真紘を牽制するように、ヴァレンティーネより少し前へと出た。

 そしてそれに応じて、真紘の横へと並ぶ左京と誠。

「うわぁ、まさに一触即発って奴ですか?」

 狼の横で真里が、小声で勝利にそんなことを話している。だがそれでは困る。こんな所で戦闘沙汰にでもなったら、間違いなく狼たちも巻き込まれるだろう。

「ちょっと、こんな時に戦ってる場合じゃ・・・・あ」

 そう言って走りだそうとした、狼の足が床の一部を凹ませた。

「へっ?」

 狼が素っ頓狂な声を上げる。

 するとそれを見ていた鳩子が目をぱちくりとさせて

「それきっと、トラップのスイッチだ」

 と呑気な声で言ってきた。

 次の瞬間、床がバコッと開き、筒状のなった道を狼たちがまるでウォータスライダーのようにすべりおちて行く。

 どんどんそのまま加速していき、すべり落ちた先には今までにないくらいの大きさの扉があり、上にはクレヨンで幼稚園児が書いたような字で『ゴール!!最高のBRVはこの中だ!』と書かれている。

 それを見た狼は思わず叫んだ。いや叫ばずにはいられなかった。

「絶対、これ書いたの理事長だろ!!」

「きっとそう」

 名莉が狼の言葉にそう返した。

 周りの人もこれを見て、みんながドン引きの顔を作っている。温厚なセツナまで。唯一引き顔をしてないとしたら、ヴァレンティーネだけだろう。マイアにいたっては、嫌悪感を表している。

 イレブンスがヴァレンティーネを。そして真紘が左京を見て・・・

「おい、ヴァレンティーネ。いったいこれはどういうことなんだ?」

「ああ、俺も説明を頼む。左京、これはいったいどういうことだ?」

 真紘とイレブンスから問い詰められた二人は、お互い顔を見合わせてから、再びイレブンスと真紘の方に向き、にっこり。

「「さぁ?」」

「さぁじゃないだろ!さぁじゃ!!こっちがどんだけ、苦労したと思ってんだよ?」

「ほら、イズル。心を落ち着かせて。はい、深呼吸!!」

 ヴァレンティーネが少し誤魔化す様に、深呼吸をし始める。

「左京、貴様の言い分を聞こう」

「いや・・・その、私もリサーチ不足と言いましょうか・・・。ですが、これも良い経験になったのでは?」

「左京・・・」

「申し訳ありません」

 真紘の威圧に左京が申し訳なさそうに、頭を下げた。

「輝崎も大変だな・・・」

 勝利がそんな真紘と左京のやりとりを見ながら、呟いた。

「ですよね。まったくあんなの懐刀の風上にも置けないっていうか」

「大志、おまえが言うな」

「えっ?なんで?」

「貴様・・・」

 勝利と大志がそんなやりとりをしていると、マイアが扉へと近づき、徐にドアを開いた。

「見ろ。外だ」

 マイアの言葉に、全員の視線が集まった。

 全員の視線の先には、ちょっとした丘になっており、その奥には壮大な大海原が広がっていた。

「あはっ。もしかしてこの景色が最高のBRVとかないよね?」

 そんな季凛の言葉に皆が沈黙。

 それは大いにあり得ることだからだ。

「でも、まさかこの保管庫の反対側が海だったとはねぇ・・・」

 鳩子がそう言いながら、外へと飛び出した。

 狼たちもそれに続いて外へと出る。

 いつ振りの外気だろう。それはその新鮮な空気を思いっきり肺へと流し込む。

「これこそ、まさに骨折り損の草臥れ儲けだな」

 イレブンスが脱力しきったように、そう吐き棄てながらヴァレンティーネを抱えた。

「よし、行くぞ」

 そう言って、ヴァレンティーネを抱えたイレブンスとマイアが海へと飛び降りた。

「え?ちょっと!!」

 狼が慌てて、海の下を覗き込むとイレブンスたちの姿はもうない。

「相変わらず、逃げ足の速い奴らだな」

 狼と同じように海の下を眺めている、真紘がそう言った。

 少し残念な気持ちになりながら、狼は穏やかに波を立てている海原を眺めた。




 イレブンスたちがいなくなった後、狼たちは勝利たちと別れ、左京が呼んだ車に取り込み、帰路についていた。人数が増えたため、車を二つにわけ乗車した。狼は真紘、セツナ、季凛、希沙樹、誠と乗っているのだが、すぐに希沙樹は疲れ切って、真紘の肩に寄り掛かりながら眠っている。

 それを見て、季凛が渋い顔をし、セツナが目をぱちくりとさせ、誠が気まずそうな表情を作っている。

 そんな可笑しな空気を変えるべく、狼は少し大袈裟に腕を伸ばしながら言葉を吐いた。

「結局、連携の訓練にもならなかったし、本当に意味なんてなかったじゃないか」

「確かにな。俺も久しぶりにこんなに疲れた」

 隣に座る真紘が苦笑気味にそう答えた。

「ねぇねぇ、マヒロとロウはあそこで一晩過ごしたんでしょ?何か幽霊とか見たりした?」

 前に乗っていたセツナが目を輝かせながら、訊いてきた。

「いや、僕たちは見てないけど・・・というか、むしろいるの?」

「なんか、そういう噂があるみたいで・・・」

「あはっ。噂じゃなくて、実際いたかもしれないし」

 セツナの言葉を遮って、助手席に座っていた季凛が声だけで返事をしてきた。

「うそっ!?見たの?どんな感じだった?」

「ただの仕掛けとかじゃなくて?」

 セツナと狼は驚いてそう聞き返した。

「あはっ、みんなが想像してる通りって感じ。何かするっていうより、こっちをただ凝視してるだけって感じだった」

 そんな季凛の話を聞いて、狼は未だに半信半疑の気分だった。確かに幽霊が出てきそうな雰囲気は存分に出ていたし、最初に真紘が見た人影に、独りでに動く日本人形などはあったが、それも全て豊が仕組んだ仕掛けだと狼は認識していた。

 だがそんな狼の考えを打ち砕くように、隣にいた真紘が口を開いた。

「確かに、あそこにはいたと思う。俺は姿は見なかったが、ずっと天井を掛けているような気配はあったしな」

 狼は絶句したまま、そのまま後ずさった。

「本当にいたんだ・・・」

 セツナはそう呟きながら、未だに驚きを隠せずにいる。

「まぁ、何事もなかったんだ。それなら大丈夫だろ」

「あはっ。季凛たちめちゃくちゃ怖かったんですけど。てかむしろ、なんで季凛たちの前に出て来たんだし」

「何故蜂須賀たちの前に出てきたのかは分からないが、引き寄せられる何かがあったんだろ」 落ち着いた声で真紘が答えると、季凛は呆れ顔で

「あはっ。絶対、左京さんと勝利さんの所為だと季凛思うんだけど」

 そう言った。

「それにしても、イレブンスが誠さんの義理の姉弟っていうのは、驚いたな。それに加えて九条会長とも何か関係があるかもしれないなんて・・・・頭の中が可笑しくなりそうだよ」

「確かにな。会長には、学園に戻ったら話を伺ってみよう。何か知っているかも知れないからな。だが俺も誠に義理の弟がいることは知らなかった。左京には双子の弟がいるということは知っていたんだがな」

「黙っていたわけではないのですが・・・申し訳ありません」

 誠が申し訳なさそうに、真紘に頭を下げると、真紘は「気にするな」と言って、頭を下げる誠を制している。

「まさか、左京さんにまで双子がいたなんて、なんかイメージ湧かないな~」

 狼は見たこともない左京の片割れを頭で想像してみたが、やはり上手くイメージがつかない。しかも男性となれば、尚更だ。

「あはっ。面倒くさそう~~」

 狼の言葉に、季凛のそんな言葉が続く。

「ああ、俺も顔は見たことがないがな。・・・その者が俺の家に奇襲を仕掛けたんだ」

 平然とそう言った真紘を、狼、セツナ、季凛が目をぱちくりと瞬かせ、顔を見合う。誠は神妙な面持ちで黙っている。

「まぁ、その所為で色々と問題もあったが、今のところは何もない。大丈夫だ」

「大丈夫ならいいけど・・・」

 狼が冷や汗を浮かべながら、そう言った。

 それから、だんだんと皆の口数が減っていた。疲れているというのもある。

 そして、狼の眠気がピークに達したとき、皮肉にも車が明蘭学園へと到着してしまった。

 二つの車から降りてから、東雲色に染まった学園。

 そんな学園の前に、大きなキャリーケースを持ち、亜麻色の綺麗な髪を夏の風に揺らされながら、立っている少女がいる。

 狼はその姿を見て、一瞬息が出来なくなった。

 そして、狼たちの視線に気づいた少女がゆっくりと振り向き、大きい目をさらに見開いた。

「オオちゃん!」

 歓喜の声を上げた。


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