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カカオにシュガーを  作者: hi-ra
エピローグ
52/52

52 side:???

今回少し長めです。


分けようかとも思ったのですが、内容的にやめました。

楽しんでいただけると嬉しいです(*^_^*)

 よく晴れた快晴の空は、とても気持ちが良かった。嫌な事は何もかも、すべて忘れさせてくれるような陽気な天気の日、飛行場はいつも以上にごった返していた。長かった冬がようやく終わり、季節は春。彼女はここに居るのが自分一人だという事がどうしても信じられなかった。

 ……どうして誰も来てないの?今日は、みんなにとっても大切な日なんだと思ってたんだけど……。

 あたりをきょろきょろ見回してみるが、やはり、知っている人の姿は全く見当たらなかった。一人不思議に思って、日にちを間違えたのは自分の方なのかと焦りと共に思案していると、後ろから肩を叩かれて飛び上がるほど驚いた。

「……迎えに来てくれたんだ?」

 彼の姿を見て、思わず泣きそうになるのを堪えた。

「うん――。でも、みんなが来てないの……。てっきり、来るものなんだと思ってたのに」

「俺が今日帰ってくることは、明ちゃんにしか伝えてないからね」

 麗はそう言って笑った。目の前に居る、少し大人びた明を見据えて……。

明は驚いたように目を見開いて、口をポカンと開けていた。

「どうして?だって、みんな麗先輩が帰ってくるのを心待ちにしてたんですよ?」

「うん……。そうだね」

 と、麗は明の手を掴むと歩き始めた。

「れ、麗先輩?何処に行くんですか?」

 明は慌てて麗について行く。

「俺の家に。荷物はもう姉さんに運んでもらってるんだ」

「……じゃあ、今度こそ日本に帰って来たんですね?」

 明はその顔に満面の笑みを浮かべて思わず麗の手を強く握り返した。

「うん。もう向こうでしなければならない仕事はすべて終えたからね。あとは、こっちでも出来る事ばかりだし……」

 麗は帰りのタクシーの中で、イギリスでのありとあらゆる話を明に聞かせた。明はその一つ一つをとても楽しそうに聞いて、始終目を輝かせていた。

麗がこれから過ごすことになるマンションの部屋に入ると、そこは流石の優花の腕前で、とてもシンプルかつ快適な空間がつくられていた。麗の好みに合わせて派手なものは何一つない。

麗は満足そうに部屋を見て回り、何が何処に置いてあるのかを確かめていった。明はというと、まだ目の前に麗がいることに実感が湧かず、部屋に着いた瞬間リビングにあったダークブラウンのソファに腰を落ち着かせて麗を見つめていた。目の前にあるガラス作りのテーブルには、麗の淹れてくれた紅茶があるのに全く手に付けていない。

「明ちゃん?どうしたの……」

 麗は放心状態の明の顔を覗き込む。

「……どうして私だけに連絡をくれたんですか――?優花先輩にはここまでしてもらってるのに……何も話してないんですか?」

 麗はその質問に微笑むと、明の隣に座りなおしてソファにもたれかかった。

「……柊は元気?」

 自分の質問の答えではない、麗からの唐突な質問に、明は少し驚きながら答える。

「はい、相変わらずですよ。この間中学の同窓会があったんですけど、益々綺麗になってました」

「……そっか」

 明は少し心配になって麗の顔を覗き込んだが、麗は悲しむのではなくとても嬉しそうに笑っていた。

「それならいいんだ……。で、誠は?」

「そっちも相変わらずです。柊と飽きずに喧嘩ばかりしてるみたいですよ」

 と、明は喉を鳴らしながら笑った。

「二人とも、変わらず一緒に居るんだね」

 と、麗はどこかほっとした様に息を着いた。そんな麗をみて、明は思わず麗に触れたくなった。けれどその衝動を抑えるために、膝の上できつく握りこぶしを作った。

「麗先輩……」

「ん……?あぁ、どうして明ちゃんだけに連絡したかだったね」

 明は自分自身で聞いた質問を思いだして、忘れかけていた事にはっとなった。

「明ちゃんは、どうしてだと思う?」

 麗のその試すような言い方に、明は思わずむっとなる。

「そんなの私にわからないから聞いてるんですよ。私には、麗先輩の考えている事が全く分からないんですから」

「俺は、わかってほしいけどな――」

 麗のその真剣な声と瞳に、明は顔をそむけることが出来なくなった。

「ずっと、考えてたんだ……。俺はどうして柊じゃなくてキミがいる時に目を覚ましたんだろうって。やっぱりただの偶然なのかなって……。でもどんなに考えても、そうは思えなかったんだ。俺は、本当は心のどこかで、俺を心から愛してくれる人を求めていたんじゃないかって……。もちろん柊がそうじゃなかったって言いたいわけじゃないんだ。でも、結局は柊も俺じゃなく誠を選んだ。俺は、キミが必要だと感じたから目を覚ましたんだよ」

 その言葉を聞いて、明は溢れる涙を止める事が出来ななかった。

「俺には明が必要だったんだ。正直に、俺の事が好きだと打ち明けてくれた明が好きだよ」

 その麗の真剣な目に、明は抗う事が出来なかった。抗うつもりもなかった。けれど明は少し戸惑ったように麗が明を抱きしめて顔を近づけて来るのを腕を突き出して止めた。

「……明?」

「ご、ごめんなさい……。私、麗先輩が自分を選んでくれるなんて思ってなかったから……。だから……」

 明はもてないわけではなかった。麗が日本に居ない間も、それなりに彼氏がいた時期もあった。

「言わなくていいよ。わかってたから……。でも、それはお互い様だしね」

 麗のその言葉に、明は勝手だと分かっていても胸が苦しくなった。やっぱり、麗だってそれなりに他の女の人がいたとしてもおかしくはないのだ。

「この年になれば、お互いに少しの経験があったっておかしくはないよ」

 そう言って麗は微笑むが、明は納得できずに麗の腕の中でもがいた。心を傷つけられたそのすぐ後に、麗を受け止めることなんてできないと思ったのだ。けれど麗はお構いなしに明の顎を掴んで上を向かせ、自分の唇を明の唇に押し付けた。それは少し乱暴で、独占欲をむき出しにしたキス。そんなキスは、麗は柊にでさえしたことがなかった。

「俺が怒ってないとでも思ってるの?言っておくけど、俺はとても嫉妬深いよ。他の男の所になんか、行かせないから」

 そう言って、麗はまたキスを続けた。

 明は何も考えられなくなって、ただ、それを受け止めた。自分がこの人のものであると同時に、この人は自分のものなのだと、言って聞かせたかったけれど、麗はそんな事はもう既に知っているのだろうと、明は思った。

 自分と麗はようやく、心から信頼できる相手を見つける事が出来たのだ。今はただ、この流れに身をまかせたかった。

 お互いの心が癒えるまで、ずっと……。




―---------------------------------------


 「あ、明からメール……」

 柊は携帯を手見したまま車の助手席へと乗り込んだ。

 今日は久しぶりのデートだった。少し遠出をしたいと言う柊の要望に、誠は車を出してくれていたのだ。柊はそのメールを見て目を見開いた。

「どうした……?」

 驚きを隠せない柊を見て、誠は少し心配になって聞いた。

「麗君が昨日帰ってきてたって……」

「帰ってきてた?……昨日?」

 それには流石に誠も驚きを隠せなかった。

「どうしてそれを水城が知ってんだ?」

「ずっと連絡を取り合ってたみたい。……多分、お互いに必要だったんじゃないかな」

「……へ?」

 嬉しそうに遠くを眺める柊の考えが、誠にはまったく理解できなかった。

「私ね、麗君の事で嫉妬なんてしたの、明にだけだったんだ。だって、麗君が私を好きだったのは、誰が見てもわかるでしょう?だから、どんなに綺麗な人が相手でも、自信を持って麗君の隣に居る事が出来たの。それなのに、明が少し麗君の近くに居るってだけで、私の心は危険だって叫びまわっていたのよ」

 柊は懐かしくなって目を細めた。けれど誠はおもしろくなさそうに黙り込んでいる。それからはお互いに何も話すことなく車を走らせる。

「……着いたぞ」

 誠は柊が一人暮らしをしているアパートの前に車を止めると、無愛想にそう言った。

「泊まって行かないの?」

 柊は誠がいつものように自分の部屋に泊まって帰るのだと思っていたので、誠のその言葉に驚いて聞き返した。けれど誠は黙ったまま柊の顔を見ようともしない。

「……やきもち?」

 柊のその言葉に、誠は余計に不機嫌になって車の背もたれにもたれかかった。柊はそんな誠が可愛くてしょうがなかった。やきもちを焼いてもらえるのがどうしようもなく嬉しくて、柊は助手席のシートベルトを外し、身を乗り出して誠にキスをした。誠は目を見開いて柊を見つめ返す。

「泊まって行かないの?」

 柊は微笑んでもう一度聞いた。

「……毎回こんなんで機嫌が治るわけじゃないからな」

 と、誠の方もシートベルトをはずすと、柊を抱きしめて唇を重ねた。

 二人は今、幸せだった。お互いに、心から大切な人と一緒に居られることが、この上なく嬉しかった。

「私を手放さないでね……」

「あぁ……」

 誠は心からそう言ってうなずく事が出来た。この愛する人を手放す気なんてさらさらなかった。

「それから……ずっと待っていてくれてありがとう――」

 柊は麗と別れた後も、一年ほど誠と付き合う事が出来なかった。その間、誠は約束通りずっと待っていてくれたのだ。その事で柊は誠に誤りはしていたものの、あらたまって御礼を言った事はなかった。

「俺こそ、俺を選んでくれて嬉しかった……」

 柊たちはすでに二十歳になっていた。お互いに九年越しの思いを胸に、ほほ笑みあう。

 柊と誠ほどではないが、それは麗と明。優花と翔。色と雄太。誰もが大切にしている想いだった。

 愛してる……。

 この言葉は、相手といつまでも一緒に居られることを願う言葉なのだ。

「そうそう、明のメールの中にね、面白い事が書いてあったんだ」

「面白い事……?」

「麗君ね、イギリスで緑ちゃんに会ったんだって」

「真咲先輩に――?」

「うん。今ごろイギリスの美人さんたちと一緒にサッカーでもしてるんじゃないかな」


ようやくエピローグまで投稿することができました。

ここまでお付き合いくださった皆様、本当にありがとうございました。


最後、私の都合により最後の最後で長期不在になってしまい、申し訳ありませんでした・・・

それでも、ようやくここまで書き上げることができてほっとしております。

中々登場人物たちが動いてくれない時期もありましたが(特に誠とか誠とか誠とか・・・)、無事に終わりました。


この作品が、少しでも愛されればそれだけでうれしく思います。


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