42 side:yuka・hiragi
少し足りなかった部分を編集しました。
ご迷惑おかけしました(・_・;)
と、その時、優花は急に腕を掴まれたかと思うと、翔の方に引き寄せられていた。会えなかった一年で翔の方も変わっており、その顔はより凛々しく、背も高く体つきまでたくましい。優花は気づけば翔の左腕に抱え込まれるようにして寄り添っていた。見上げればすぐのところに翔の顔がある。
「な、何を――!」
優花はあわてて押しのけようとしたが、翔の胸はびくともしなかった。
「いい加減にしろよ」
翔に間近で睨まれると、さも言えぬほど迫力があった。思わず優花は身をすくめる。
「人の気も知らずによくそんなこと言えるよな。俺がまだ大人しくしてるうちに帰れ」
と、そう言うと翔はあっさりと優花を解放し、背を向けた。けれど優花の方もそう簡単には引き下がれなかった。まだ、優花の中の怒りは収まってはいないし、むしろ翔の意味のわからない行動が余計に頭に来たのだ。
「人の気も知らないのはあなたの方よ。本当はもう気が付いているのでしょう?私がこうしてあなたに会いに来た理由も、何もかも全て!」
優花がそう叫んでも、翔が振り返る事はなかった。ただじっと黙って立ったまま、優花に背を向けている。
「どうして私を見ようともしないの。そんなに私の事が嫌いなの?思わずそうやって背を向けてしまうほど……会いたくないと思ってしまうほど……」
優花の声は話すごとに小さくなっていく。泣きそうなのを必死に堪えて、それでも声を絞り出す。
「……わかったわ」
優花は諦めて肩を落とすと、振り返ってドアの方へと歩みを進めた。これ以上話していると、自分で自分を見失うような気がして怖かったのだ。
「……あなたにとって、私はただの部活での先輩の姉でしかなかったって事よね。私が……どこの誰と何をしていようが、あなたにはどうでもいいこと……なのよね」
と、そう呟きながら優花はドアノブに手をかけた。その瞬間、翔に後ろから抱きすくめられた。
「い、いた……」
その力が強すぎて、優花は苦しくて今度こそ泣きそうになった。けれどそれはただ、痛いだけじゃなく、翔が抱き止めてくれたということが嬉しかったのもある。
体中の血が熱くなる。思わず翔のほうを振り返ってしまうほど、今の翔の姿を見たかった。
「せっかく……」
と、小さい声でそう呟いたかと思うと、辛そうな顔で翔は強引に優花と唇を重ねた。何も考えられなくなるようなその激しいキスに、優花は立っているのもやっとだった。必死に翔にすがりついて答える。どのくらいそうしていたのか、翔は気がおさまると、そっと唇を離して優花を抱き締めなおした。
「俺だって、ずっと好きだったんスよ」
と、翔はぽつりと呟く。
「でも、優花さんとは年も離れてるし、何より真咲先輩と付き合ってたくらいだから、俺にとっては高根の花の以外の何ものでもないと思って……」
「どうしてそんな事勝手に決め付けるのよ。私は別に緑の外見が好きで付き合っていたわけじゃないのよ?あなたが気後れすることなんて何もないのに」
優花は翔の胸に額を押し付けたまま呟く。
「年の差が何?そんなの関係ないって言えるくらい、あなたがいい男になればいいだけの話よ」
「優花さんはもういい女っスからね」
と、翔は笑いを含んだ声で話す。それが優花にはとても心地よかった。
「俺なんかを選んで、本当に良かったんスか?はっきり言って、俺は真咲先輩や誠みたいにかっこ良くはないっスよ」
翔は優花の耳元で囁くようにして呟く。その耳に触れそうなほど近くで話すものだから、優花は思わず体中の力が抜けそうになり、必死に翔に縋りついていた。
「……そうね。でも、あなたがいいの。あなたでなきゃ……だめなのよ」
と、優花は嬉しそうに翔の胸に顔をうずめたまま抱きしめ返した。すると今度はさっきとはまるで違うとても優しいキスが返って来た。もっとも雄弁なのは、一度始まると中々終わらないそれなのかもしれない……。優花は心の中でそう考えていた。
柊が気持ちよくうたた寝をしていると、いきなり身体を揺さぶられてせっかくの心地よさが吹き飛んでしまった。何が起こったのかと慌てて目をあけると、そこには嬉しそうに笑う優花と、何だか罰の悪そうな顔をしてそっぽを向いている翔が立っていた。
ふと見ると柊を思い切り揺さぶって起こしたのは、隣で同じくうたた寝をしていたはずの明だった。
「まったく、人の一大事だって時に、二人して心地よさそうに寝てるんだもの。びっくりしたわ」
と、優花はクスクスと笑いながら話している。その笑い声は、どこか二人を落ち着かせるようだった。
「それで、上手くいったのね?」
柊は興奮を隠しきれずに尋ねた。今にも、優花に飛びかかりたいくらいだった。
「ええ。結構強情だったけれど」
と、優花は意地悪く翔の顔を覗き込む。けれども翔はそっぽを向いたまま何も答えようとはしなかった。
「よかったね、優花ねえ」
と、柊が心からそう言った。幸せそうに寄り添う二人を見て、柊は羨ましくなった。自分ももう一度麗の隣で歩きたい。そう思ってしまうほどだった。




