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最後のほう少しだけ麗視点です…
それからは毎日が夢のように楽しかった。
柊の傍にはいつも麗がいて、優花がいた。
優花が自分の傍に居るのには少し戸惑いも
感じたけれど、半心、喜んでもいた。また昔みたいに三人でいられる事が、何よりも嬉しかったのだ。
優花は、誠と色が付き合い始めたと聞いてとてもびっくりしていた。そして、誠にはどこか怒っているようにも見えた。
麗はいつも通り優しくて、たまに意地悪な時もあるけれど、それは逆に柊をとてもドキドキさせた。何だか、たまに柊の知っている麗ではなくなる時があるような気がするのだ。
明は相変わらず、自分の好きな人について一切語ろうとはしない。明が何を考えているのか、どういうときに困っているのかが、柊にはわからず仕舞いのままだった。けれど、明はそれで良いのだと言っていた。
翔のほうも相変わらず掴みどころがなく、けれど少し吹っ切れたような顔をして笑うようになっていた。
掴みどころが無いのは雄太も同じで、たまに柊と二人で話しこむようにもなっていた。彼と話していると、少しほっとするのだ。
ただ一つだけ。それだけ柊にとってどうしても気になる事があった。
色と誠だった。
付き合い始めの頃の周りの反応は、大半の人が二人の組み合わせに驚き、けれど何か特別に非難するわけでもなかった。
普通の日々を過ごしているように見えた。
普通のカップルと同じく、一緒に帰ったり、たまにデートにも行っているようだった。
これには目撃者もいるので間違いはない。それなのに、当人の色が、楽しそうではない。と、柊は感じている。
柊がそれに気づいたのは、二人が付き合い始めて半年経ってからだった。学年も一つ上に上がり、柊たちは二年生になっていた。
笑顔で過ごすその時間の中で、どこか違和感を覚える時がある。
そして、それに気づいた途端、柊はその原因が気になって仕方がなかった。色なら、誠と楽しく過ごす事が出来ると信じていたのに、色はもちろん、誠もあまり嬉しそうではないのだ。
けれどそこで理由を聞くのは、どうして気が引けてしまう。
自分がまだ、誠を好きなのだと思っているから。そうでなかったとしても、好きだったから。それが色に知られてしまうのが、柊にとっては何よりも怖かった。
「……柊?どうしたの、急に黙り込んじゃって……」
その日柊は、麗と一緒に夕ご飯を食べていた。
麗の両親が出張で不在の上、優花は友達の家に泊まりに行っているので、麗の分の夕ご飯を作りに来ていのだ。ほっとくと麗はコンビニの弁当などで済ませてしまうので、優花は出かける前に、柊にくれぐれもと頼み込んで行ったのだ。
「え……?」
「何か考え事してた?俺、黙ってたほうが良かったかな」
と、麗ははにかんだように笑う。
「う、ううん!そんなことないよ。ただ、ちょっと考え事してただけ……」
柊はそう言いながらも自分で作った手もとのパスタをフォークでつつく。
「何を?」
「みんな、何だかんだ幸せそうだなって」
「……それだけ?」
麗は柊がまだつついていたパスタに手を伸ばすと、皿を取り上げた。
「あっ!」
「食べないんなら俺がもらうよ?」
「だめ!まだあんまり食べてないんだから!麗君にはおかわりあげるから!」
と、柊は急いで立ち上がると、いつの間に食べてしまっていたのだろうか、空になった麗の皿を持ってキッチンへと向かった。
「……で、他には何を考えてたの?」
「――え?」
柊がキッチンから顔を上げて聞き返すと、いつの間にか隣に立っていた麗は、満面の笑みで見つめ返してきていた。
「……色がね、あまり元気無いの」
「色ちゃんが?そう言えば、青柳と付き合い始めて結構経つよね?」
「うん。だから、どうしてなのか聞きたいんだけど、聞いちゃいけないような気もするの。」
「何で?」
「……私ね、青柳君の事が好きだったんだ」
そう言って寂しそうに笑う柊を見て麗の表情が固まるのを、パスタをよそっていた柊は全く気付く気配もなかった。
逃げたくても……聞きたくなくても、それを伝える事が出来ない。
そんな思いが、柊の中をぐるぐるといつまでも這いまわっている。
「でも、それを色に知られたくないの……」
柊はそんな麗の心境を何も知らず、話を続ける。
麗は、ゆっくりと息をついた後、自分を落ち着かせるように目をつぶった。
「柊は、今でも青柳の事が好きなの?」
「そ、そう言うわけじゃ……」
焦って柊が見上げた先の麗の顔には、自分にはもったいないくらいの笑顔が広がっていた。
それは、麗が必死の思いで柊の為に作った笑顔だった。
「別に聞いても良いと思うよ……。それとも、柊は今、どっちを心配してるの?親友の色ちゃん?それとも、好きだった青柳?」
麗は、あえて、『好きだった』と過去形の言葉にして聞いた。その思いに、柊は気付かない。
「……心配なのは、色だよ。だって、ほんとに何かあったんじゃないかってくらい、浮かれてないんだもん。付き合ってる人たちって、もっと浮かれるものなんじゃないの?優花ねえみたいに……」
「いや、基準が姉さんって言うのも間違っている気がするんだけど……」
と、麗は少し遠い目をして呟いた。
「でも、そうだね。やっぱり何かあるんじゃないの?それを親友として心配しているのなら、聞いても構わないと思うよ。何より、柊が青柳を好きだったって事は、色ちゃんは今も知らないんだろ?」
「うん……」
「それは機会を見て言うといいよ。今何よりも大切なのは、どうして柊が色ちゃんを心配しているのか、だからね。思っている事を、そのまま聞いてきな。もし喧嘩したりしたら、いつでも俺の胸を貸してあげる」
麗が笑顔でそんな事を言うものだから、柊は思わず笑ってしまった。
「何が面白いの……?」
「だ、だって麗君、胸を貸してあげるなんて……今どき普通に言う人いないよ!」
と、柊は笑い転げた。
そんな柊を、麗は複雑な表情で見ていた。
「麗君、お変わりこのくらいで良い?」
漸く笑いも引いたのか柊は山盛りにパスタを乗せた麗の皿を掲げた。
「うん、そのくらいで良いよ」
「良かった。麗君、食べ盛りだもんね。少し多めに作っといたんだよ」
「そうなの?」
麗は目を丸くして聞き返してくる。
「うん、最初についだぶんでまだ足りないなんて、私だったら絶対に有り得ないけど、麗君は食べちゃうんだろうなって思ったから」
柊はニコニコしながらそう言って楽しそうに笑っている。
「……ありがと」
麗は柊を後ろから優しく抱きすくめてきた。
「――れ、麗君?」
柊は麗の腕の中で固まったまま、動こうとしない。と言うよりも、下手に動けないのだ。麗のパスタを両手に抱えているせいで。
「……柊は、小さくて柔らかいね」
「小さいって、麗君が大きいんだよ!私、女の子の中では標準より上なんだから!」
「……そう?俺も割と標準なほうだと思うんだけど……」
「中三で一七五センチ超えてたら、大きいほうだよ!」
「そうかなぁ……」
と、麗は柊を抱いたまま考え込む。
「も――!いいから放してよぅ!」
「だって、柊抱きしめてると落ち着くんだもん」
「私が落ち着かないの!」
「え……?」
麗は自分の聞き間違いだと思ったのか、柊が自分に抱き締められたくらいで落ち着かないなんて、絶対にないと思っていたのか、目を丸くして聞き返してくる。
「柊、落ち着かないの?……何で?」
「な、何でって……」
改めて聞かれると、柊にもわからない。
「だって柊、前に俺の事お兄ちゃんみたいって……」
「――?でも、麗君はお兄ちゃんじゃないでしょ?」
その言葉を聞いて、麗は固まった。
無意識に、柊を抱く腕に力が入っている。
「れ、麗君、痛い!」
「えっ……?」
「締めすぎ――!」
「あ、ごめん!」
思わず麗は柊から離れた。
「……麗君?どうしたの?」
麗の方に向きなおった柊は、顔を覗き込むようにして聞いた。
「……え?」
「顔、真っ赤……」
「あ、……え?」
覗きこまれたことによって麗はますます真っ赤になって思わず片手で口を覆っっている。
「ふふ、なんか、珍しいものが見れた気分だな」
柊は麗のパスタを手に踊るようにキッチンを出て行った。
ご機嫌な柊の後ろ姿を見て、麗はヨロヨロと後ろの壁にもたれかかる。
「……やばい……」
今、自分がどんな顔をしているのかが鏡を見なくてもわかるような気がした。気をつけていても、つい、顔がほころんでしまいそうだった。
「柊は、俺の事を意識してくれている……」
それだけで、ずいぶんな進歩だ。
麗は自分に羽が生えた気分で、柊の後を追ってキッチンを出た。柊はすでに自分の席に落ち着いている。
「麗君、早くしないとパスタ冷めちゃうよ?」
柊は麗の席の前に置いた皿を指差しながら口をとがらせている。
「うん、わかってる」
「何だかご機嫌だね、麗君」
「柊の作ってくれたご飯がおいしいから」
「褒めても何も出ないよ――」
「わかってるよ。……柊、今日は泊って行かない?」
「え……?」
「明日はどうせ休みなんだし 、それに姉さんも明日帰ってくるから、二人で待ってようよ」
「でも……」
柊は不安そうに俯く。
「……何もしないよ?」
「そんな心配してないよ!」
「ははっ」
今度は柊が真っ赤になっている。
そんな柊を横目に、麗は笑っていた。
心配されなさ過ぎても、悲しいんだけど、柊がそれで安心できるならそれでいいか。今日はもう、充分良いものもらえたしね……。
麗は少し心が軽くなったような気がした。
絶対に、青柳には負けない。
そう、心の中で呟いた。
最初から負けるつもりなんてないんだ。柊は、絶対に誰にも渡さない……。
誤字脱字などがあれば、教えていただけると光栄です…




