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カカオにシュガーを  作者: hi-ra
中学生編
14/52

14


 次日のお昼休み、柊はいつものベンチで明と一緒にお弁当を開いていた。

 外は清々しい陽気に照らされて、丁度この時間校舎の影になるこの場所はお弁当を食べるのにうってつけの穴場だった。そんな中、柊と明はいそいそとお弁当を広げていた。

「……色は?」

 柊はいつもなら一緒にここでお昼を食べているはずなのに、見当たらない色の事が気にかかった。

「青柳に呼び出されてどっか行った」

 と、明は淡々と柊の質問に返答して箸を進める。

「呼び出されたって……やっぱ昨日の返事とか?」

「十中八九そうでしょ」

 明はそう言ってにやりと笑ってお弁当から顔を上げて柊を見上げる。

 と、その時、「柊ちゃん、明ちゃん!」と、色の嬉しそうな声が響いた。満面の笑みで二人の方に手を振りながら小走りで駆け寄ってくる。

「……そのテンションからすると、上手くいったみたいね」

 と、明は呆れてそう言う。

「……そう見える?」

 色はなぜか本気では喜べてないみたいに物悲しそうに笑っている。

「ダメだったの?」

 柊は内心複雑な思いで聞いた。その問いに、色がプルプルと首を横に振る。

「ううん、付き合ってもらえる事になった」

「なら良かったじゃない。どうしてそんなに浮かない顔してんのよ」

 明は目をパチクリさせながら少し意外そうに首を傾げた。色のリアクションが、その状況に合っていない事が不自然でたまらなかったのだ。

「ふふ、ちょっとね……」

 と、色は少し意味ありげに答える。

「ま、何はともあれ、ね」

 明はそう言ってほっとしたように笑った。心から、色の報告を喜んでいるのだろう。

「うん、おめでと、色」

 と、柊は明に合わせる。

 私の完敗……かな。行動に移さなかったのは、私の落ち度だし……。潔く身を引かなくちゃ……。

 柊はそう自分に言い聞かせた。けれども心は全くその反対に悲鳴を上げていた。偽善的な自分に、本気で嫌気がする。

「で、明ちゃんは好きな人とどうなってるの?」

 色は急に、無邪気な顔で話を切り出してきた。その手は、お腹が空いていたらしく先ほどからせっせとお弁当を口に運んでいる。

「え、私?」

 今度はさっきまで忙しく動いていた明の方の箸が止まった。聞かれた事が中々頭に入ってこないように目を丸くしている。

「うん。だって明ちゃんに好きな人がいるとは聞いてたけど、その相手が誰なのかは聞いてないんだもん。気になるよ」

「あ、それ、私も聞きたかったのよね」

 柊は自分の心を必死に閉ざし、思い出したように明に詰め寄った。

「……わ、私の場合は長期戦と言うか……。時間をかけないといけないみたいなのよね……」

 明は珍しく歯切れ悪く少し寂しそうに笑っている。

「そうなの……?」

 柊はそんな明に驚きを隠せなかった。それは、色も一緒の様だ。さっきまで忙しそうに動いていた箸が止まっている。

「うん。私は、少し片思いの時間が長引きそうかな……」

と、明は俯いて、「また……」と、小声で付け加えた。

「また?」

 色はその言葉を聞き逃さなかった。

「私の初恋は、青柳だったから」

「あ……」

 と、今度は色が黙り込んでしまった。

「気にしなくていいよ。もう何とも思ってないし、私にはちゃんと好きな人が他に居るのよ?」

「……でも、初恋は特別でしょう……?」

 柊は思わず横から口を出してしまった。

「あ……うん。でも、ほんとに、今はその人しか見えてないんだ。その人の傍に居たいし、その人が笑っているだけで、私まで嬉しい気持ちになれるの」

 と、明はとても可愛らしく笑っていた。

そんな明が、柊にはとても眩しく見えて仕方がなかった。自分もこんなふうに、誠の事を一途に思う事が出来たなら、どんなにいいかと思ってしまう。

 柊は、色が誠と上手くいってくれればいいと本気で思っていた。そうすれば、そのうちに自分の気持ちなんか無くなってしまうと、そう考えていた。いつか、諦めがつく日が来るはずだと――。

「……明も色も、かっこいいね……」

 柊は心からそう思って口に出していた。

「……え?」

「一生懸命に恋愛してる二人が、羨ましいよ」

 そう言って微笑む柊に、二人はなんだかとても複雑そうな顔をして微笑み返してきた。

 柊はそのちょっとした二人の顔色の変化に気がつかなかった。

その言葉が二人を苦しめていたのだと気づいたのは、もう少し、時間がたってからだった。


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