13 said:makoto
『で、話し戻すけど、色はいつ、青柳君の返事を聞くつもりなの……?』
柊のこの言葉を聞いて、誠は愕然とした。何の感情もこもってない、自分には関係ないと言っているような冷たい言葉に聞こえた。
確かにあまり接点はなかったし、あれ以来口も聞いていなかったからあたりまえだと言われればそうなのだが、いざ、柊の口から直接聞くととても重い言葉だった。
誠はその時ズボンのポケットに手を突っ込んでケータイを取り出すと、そこに着いているキーホルダーを震える手ではずした。
昔、小学校の修学旅行で柊がこれを買っているのを見かけて、思わず自分でも買ってしまっていた。けれどこの頃になって、偶然麗が携帯を使っているところを見てそれは麗へのお土産のプレゼントだったという事に気がついたのだ。
力なく持っていた手から、それは簡単に滑り落ちた。
「……誰?」
その瞬間、キーホルダーの落ちた音に気付いた柊が、教室の中から声をかけてきた。
もちろん答える事など出来はしなかった。誠は一目散にその場から逃げだした。あのまま柊に会うことなんてできなかった。自分自身があまりにもみじめに思えてしまった。
ただ、無我夢中に走り続けていた。
ショックだった。自分は、柊に何とも思われていなかったという事に。そして、柊がずっと気にしていたという相手が、麗かも知れないという事実に……。自分の中から、どうしようもない悔しさが溢れだしてくる。
その時、誠は前方から麗が歩いてくるのが見えて、とっさに近くの教室の中へと飛び込んだ。
すると、すぐに「柊?」と言う麗の声が聞こえた。
柊が自分を追って来ていたという事に、誠はその時初めて気づいた。
伊吹……追って来てたのか?
誠はその場に凍りついた。
「……麗君」
自分は何もしていない。ただ、色を追いかけてきていただけなのに……柊の声を聞くと、やっぱり震えてしまう。好きだからこそ、相手の言葉に一喜一憂するのだ。
そしてそのまま柊と麗の一部始終を、ずっと聞いていた。何も言えずに、ただ声を押し殺して――。
……やっぱり、二人は付き合ってる……?いや、例え付き合っていなかったとしても、俺に勝ち目がないことは……麗先輩相手に勝てないってことは、目に見えて分かるか……。
同じ人からの、二度目の失恋……。それは誠の心をずたずたに引裂いた。
音もなく、柊と誠の間の亀裂が深くなった瞬間だった。
誠の足元に、ただ、小さな水滴が点々と落ちていく。一人、肩を震わせて、誠は声もなく泣いた。誰よりも柊を思って――。
この時の柊と誠の心は、まったく正反対の方向を向いていた……。




