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『拗ねる忍びとお守り袋〜疑いとすれ違い〜』

 翌朝、目が覚めても気分はまだ沈んだままだ。毎朝の桜音の日課である水汲みの手伝いに行きたいところだが、なんだか気まずい。別に桜音のことが嫌いになったわけでもないし、気持ちは変わらない。変わったのは桜音なのかもしれない。人との関わりをこんなに気にするのは人生で初めてだ。ウジウジしていても仕方がないので、水は重い腰を上げた。


 井戸で待っていたが、桜音はなんと姿を見せなかった。寝坊か、それとも何かあったのだろうか。もしかして、体調が悪いのか。水は迷ったが、部屋に行く勇気もなく、代わりに水汲みをして厨房まで水を運んだ。


 厨房でお千代と顔を合わせたが、特に変わった様子もなく、いつも通り挨拶をされた。昨日の水の態度も気にしていないらしい。


 厨房から出ると、桜音と鉢合わせた。焦って出てきたのだろうか、髪が乱れていた。桜音は水に頭を下げた。


「水さま……!申し訳ありません、お水……」

「……いえ別に……」


 昨日の夜、先に帰ったことは怒っていないらしい。顔をあげた桜音の顔をよく見てみると、隈ができていた。


「……体調、お悪いんですか」

「え?いいえ、そういうわけでは。最近ちょっと寝不足で」

「寝不足?」


 桜音は「あっ」と声を出した。それが、酷く癪に触った。こんな怒りを感じたのは初めてだ。


「私に言えないことですか」

「あ、いえ、その……」


 いつものように優しく言葉を伝えることができない。桜音が何も言わないので、思わずため息をついて目をそらしてしまった。


「分かりました、もう良いです」

「あっ、あの、水さま……」


 怒りの矛先が分からず、水は早足にそこを去った。桜音は追いかけてきてくれなかった。


 自分が情けない。これでも一応、伊賀の忍びの教育を受けた身であるのに、感情に振り回されるなど、未熟だ。そうと分かりながらも、可能な限り水は桜音を避けた。


 とはいっても、ともに千姫に使えている身のため限界もある。水は、なるべく桜音の顔を見ないようにした。桜音も、水のそんな態度に気付いたのか、少し気まずそうではあった。


 夕暮れ、水が城内の見回りで一度千姫の部屋から離れた。そして、遠目で見てしまった。


 長身で、肩幅のある、逞しい男。そして、それと言葉を交わしている桜音の姿。


 会話の内容はさすがに聞こえない。水は、その男が誰なのかを確かめたくて、壁に身を潜めて目を凝らした。昨日から、自分は何をやっているんだろう……。結局、桜音が気になって仕方がない。


 その男がはにかんで桜音の顔を見たーーそれは源治だった。


 桜音殿、どうしてーー。


 源治はほんのり顔を赤くしているようだし、桜音もそうだ。水はその場面から目をなんとかそらした。足が鉛のように重く、その場から動けなかった。


 馬鹿みたいだ、桜音は、自分のことを深く想ってくれていたのではないのかーー。

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