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第6話



 真昼の海辺は活気に満ちている。港はもちろん海岸でも漁が行われており、得た魚や貝、海藻などを()り分け運び、空になった網や籠を再び戻しに来る、が繰り返されていた。


 私はいくつかの区画を歩き、お昼休憩に入っている人たちを見つけては件の歌と水浸しの人について尋ねて回る。その結果、知っている者も知らない者いたが、圧倒的に知っている者の方が多かった。


 その内のひとり、真っ赤な髪の筋骨隆々な男性から、私は今話を聞いている。というのも、彼が水浸し被害者のひとりであると分かったからだ。


「でな、向こうの岩場を歩いていたら急に子守唄みたいのが聞こえてきたんだ。すげー眠くなって膝をついたら、その直後に海に引きずり込まれて、なんかぐんぐん引っ張られた。不思議だったのはあれだな、水の中なのに息が出来たこと。周りがキラキラしてたから魔法か何かだったのかもな。それで次に水から出された時、周りから『こいつじゃない』みたいな声が聞こえてきて。そしたらそのまま置き去りだよ。少ししてからはっきり目が覚めて、周りを見たら元の場所から随分離れた所だったんだぜ」


 帰るの大変だったよ、と言いながら、男性はポケットから小さい袋を取り出し、中から割れた水晶のようなものを取り出した。


「安物だけどさ、これ一応守りの宝石なんだよ。多分俺が完全に寝なかったのはこいつのおかげじゃないかな。今までぶつかったりしても割れなかったのに、目が覚めた時には割れてたから。――ところでこういうのってどうやって処分するのか知ってる? そのまま捨てると呪われそうで怖くて手放せないでいるんだよな」


 守りの宝石とは、悪意の込められた魔法や呪いから所有者を守るものだ。値段はピンキリで、効力もそれに合わせて変わってくる。私も職業柄持っているが、私が回収してきた原石を父が加工してくれた最上品だ。つまり、私は同じ状況になっても正気でいられる可能性が高い。


 男性にお礼と壊れたお守りの処分の仕方を教えてから、私は男性が襲われたという岩場に向かった。


 人気がなく、歩ける場所を選んで進むと少しもしない内にさっきまでいた海岸が見えなくなる。これは犯人もさぞ襲いやすかろう。周囲への警戒を強めながらさらに進む。


 それからしばらく歩き続けたが、結局何も起こらない内に逆側の海岸がちらりと見えてきた。やはり昼間は襲われないか。だが、襲われる人がいるのはよく分かった。これは弟に報告して見回りを――。


「! 歌」


 突然聞こえてきた美しい、しかし不思議な響きの声を聞きつけ、私はすぐさま臨戦態勢を取り――かけたが、力を抜いてしゃがみこむ。


 そうだ、最初からかかっていない様子を見せてはいけない。せめて犯人が姿を見せるまでは。


 頭に手を当て眠気に抗っているふりをして、私は表情を隠した。そのまま気配を探っていると、目の前の海面が揺らめきだす。それは徐々に大きくなり、やがて水面下には魚影――ではなく、人影が揺れながら映し出された。


 人だ。なら、私でもどうとでも出来る。そのまま待つこと数秒。水面に近付いてきた犯人が白い手を勢いよく伸ばしてきた。


「捕まえた!」


 私はそれを片手で捕まえ一気に引き上げる。手の主は抵抗しようとしたようだが、軽すぎて何の意味もなさなかった。そう、軽すぎる。


「って、女の人!?」


 腕の細さからまさかと思ったが、引き揚げた相手は金色のミディアムヘアの女性。細い上半身には小ぶりな膨らみを覆う下着のような丈の服のみが身に付けられている。


 女性は顔に張り付いた髪の間から憎々しげに私を睨みつけてきた。輝かしい青の双眸はそれでもなお綺麗なままで、何かが引っかかった私は思わず女性の髪をかき上げる。


 そして出てきた美貌に、思わず呟いてしまった。


「ノーマさん、と、似てる……?」


 彼女じゃない。彼女ではない。けれど、その面差しはノーマさんにそっくりだ。驚いていると、女性も衝撃を受けたような顔をする。そしてすぐに、ギリッときつく歯噛みした。


「私の妹を惑わした人間はお前か……っ!」


 低く唸るように呟いた言下、女性は思い切り体をよじる。直後水が大量に顔にかけられ、咄嗟に目を細め手を顔の前にかざした。


 その間から見えた、彼女の下半身――人間の足ではない、鱗を帯びた魚の尾に衝撃を受けている間に、今度は私が掴まれ海に引きずり込まれる。うわちょ待って私浮かないから泳げない!


 陸に戻ろうともがくが、それが叶う前に女性に首根っこを掴まれぐんぐん陸から離されてしまう。先ほどの男性が言った通りのキラキラに包まれ息が出来るのだけは幸いだった。


 とはいえ、叫ぼうとすると口に水が入って来て音にならない。許されているのは呼吸のみのようだ。そうなっては出来ることなどなく、私はただただ拉致されるのを受け入れるしかなかった。



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