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最強陰陽師の異世界転生記 ~下僕の妖怪どもに比べてモンスターが弱すぎるんだが~  作者: 小鈴危一
九章(死者と帝国編)

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第二話 最強の陰陽師、帝都に戻る


 アミュの居場所が露見した。

 皇帝は帝城への招聘(しょうへい)を望んでいる。

 近く勅使がそちらに向かう。


 フィオナからの手紙は、おおむねこのような内容だった。


「それで……素直に従ってよかったわけ?」


 揺れる馬車の中、正面に座るアミュが、そんなことを遠慮がちに訊いてきた。


 ぼくたちは今、使者の用意した馬車に乗り、帝都へ延びる街道を進んでいた。

 この馬車に乗っているのは、御者を除けばぼくたち四人だけだ。

 前後には使者の乗る馬車や護衛の乗る馬車が走っているものの、ぼくたちに監視などはついていない。

 連行ではなく、あくまで招聘。形式的にはそうなっているようだった。


 アミュが続けて言う。


「あんたのことだから……あの使者をどうにかしてでも、逃げ出すんじゃないかと思ったけど……」

「フィオナが、従っても問題ないと手紙に書いていたからな」


 ぼくは自然な声音で答える。


 一年半前にアミュが連行された一件以降、首謀者であったグレヴィル侯爵は完全に失脚しており、反勇者の派閥も勢いを失っているとのことだった。

 どうやらそれには皇帝の意思も働いていたようなので、少なくとも今回の呼び出しにも、アミュを排すという意図はないだろうというのがフィオナの推測だ。


「強引に逃げ出すような無茶はしないさ」


 何より……今逃げたとしても、この先のあてがない。

 冒険者として生きていくことはできるだろうが、常に追っ手に怯えることになる。逃亡先で、誰かと交流を持つことすらためらうようになるだろう。

 そんな生活を送るくらいなら、まだフィオナの庇護下に居続ける方がいい気がした。


 それに、皇帝の目的こそわからないものの……どう転んだとしても、これで逃亡生活は一度終わりになる。

 向こうの意思次第にはなるが、うまく事が運べば、このまま逃げ隠れせずに済む立場に戻れるかもしれない。


「でも……なんなんだろうね。アミュちゃんを、帝城に呼び出すなんて」


 イーファが恐る恐るといった調子で言う。


「皇帝陛下が、それを望んでるってことなんだよね……? どういう用件なんだろ……」

「うーん……。フィオナの手紙にも、それらしいことは書いてなかったのよね?」

「ああ」


 ぼくは短く答えてアミュにうなずく。

 使者に先んじられるように急いでしたためたのか、フィオナの手紙は前回に比べるとだいぶ簡素なものだった。最低限の事実だけを記したような印象だ。

 できればもうちょっと詳細がほしかったのだが、実際のところタイミングがギリギリだったので、あれ以上を望むのは酷だろう。


 皇帝の目的については使者にも訊いてみたが、教えてくれなかった。というより、そもそも知らされていない気配がある。


 アミュが難しい顔になって言う。


「見当もつかないけど……案外、勇者を一度見てみたかった、とかなんじゃない? ほら、お貴族様って珍しいものとか好きでしょ? 皇帝もそうだったりして」

「じゃあ、がっかりするかも」

「なんでよ」


 メイベルの言葉に、アミュが怒る。

 少し笑ったぼくは、そのままイーファの言った心配事に思いを巡らせる。


 権力者が勇者に求めることといえば、やはり魔族の討伐だ。

 だが、現時点で魔族とは休戦状態が継続している。各種族の王どころか、ここにいる魔王すらも人間とことを構える気はないので、おそらくこの先も帝国への侵攻は起こらないだろう。なので、防衛の必要はない。

 逆に、人間側から攻め入るような状況も考えづらい。

 魔族領は堅牢だ。森という地形がまず攻めづらく、そこに住まう魔族は一人一人が剣呑な戦士。帝国が発展途上だった昔ならまだしも、成熟した今、そのような危険を冒してまで領土を広げる理由はなさそうに思える。


 そしてそもそもの話、勇者は戦争に使いづらい。

 以前にフィオナも言っていたが、ただ一人が強いだけではできないことが多すぎるのだ。都市の占拠に、攻城戦、橋や拠点などの構築、敵軍位置の探索ばかりか、夜通し見張りを立てる程度のことすらも負担が大きい。捕虜を抱える余裕もないから、敵は皆殺しにするしかないだろう。

 軍のような扱いができないからこそ、過去にも勇者は、少人数で魔王を討たせるなどという暗殺者まがいの運用しかされてこなかった。


 いろいろ考えてみたが、皇帝がアミュに求めるものの見当がつかない。

 意外とアミュの言うとおり、勇者を一目見たかっただけなのだろうか?


「……まあ、さすがにそれは楽観がすぎるか」


 とはいえ、ここまでくればぶつかってみるしかない。

 幸いにもぼくたちには、皇族の協力者もいる。



****



 ラカナへ来た時とほぼ同じ日数をかけて、ぼくたちは帝都にたどり着いた。


 都市の規則で、来た馬車のまま街の中に入ることはできない。

 そのため前回と同じように、城門前で馬車を降りてから入城することになったのだが――――門をくぐってすぐに、出迎えがあった。


「ああ……お久しぶりです。みなさん」


 城門のそばで衆人の目を集めるようにしながら、水色の髪の聖皇女、フィオナが立っていた。

 両脇にランプローグ領で見た侍女姿の聖騎士二人と、その周囲にも従者を侍らせている。

 かなりものものしい雰囲気なこともあってか、彼女らを遠巻きに見つめる人だかりができていた。


 フィオナは一瞬破顔しかけた表情をすぐに戻すと、余裕を感じさせる微笑とともに言う。


「ご無事でなによりです。帝都まではるばるご足労いただき、感謝申し上げます。ラカナからの旅程は大変だったことと存じますが、わたくしはみなさんに再び相見えることができてうれしく思いますわ」


 いかにも高貴な血筋の少女らしい、隙のない振る舞いだった。

 フィオナは次いで、ぼくたちをここまで連れてきた使者に顔を向けて言う。


「勅使としての務め、ご苦労様でした。ここからはわたくしが、勇者様とそのお連れの方々を歓待いたします」

「お言葉ですが、フィオナ殿下」


 使者の男が一歩前に歩み出る。

 その表情は険しい。


「それにはおよびません」

「まあ、うふふ。なぜ?」

「招聘した勇者を謁見の間までお連れするのが、私の務め。皇族である殿下のお手をわずらせるなどもってのほかです。滞在場所の手配も抜かりなく」

「そんな、意地悪なことをおっしゃらないでください」


 フィオナは悲しそうに目を伏せながら、胸に手を当てて言う。


「彼らはわたくしの友人なのです。なにぶん窮屈なこの身、こういった機会でもなければ、親しい者をもてなすことさえままなりません。ここは一つ、どうか目をつぶってはいただけないでしょうか?」


 フィオナの懇願にも、使者の男は表情を変えることなく言う。


「心中お察しします。ですが……」

「それとも」


 男の返答を、フィオナは遮った。


「どなたかに、何か申しつけられているのですか?」

「……。何か、とは?」

「おや、この場で申し上げてもかまわないのですか? うふふっ」


 くすくすと、フィオナは笑う。

 使者の男が顔を引きつらせる様を眺めながら、愉快そうに続ける。


(ねずみ)は、沈みそうな船を見定めて逃げ出すそうです。あなたも乗る船は選んだ方が賢明ですよ」

「……」

「大丈夫。聖騎士を伴った皇女に迫られたと言えば、言い訳も立ちます。どうせわたくしのほかにもたくさんの妨害があったでしょうし、大した失態ではありません」


 沈黙を保つ使者の男に、フィオナは続けて言う。


「わたくしに親切にしていただけるのであれば、悪いようにはいたしません。よぉく、考えておくことです。うふふふふ」


 使者の男は、会話が途切れてからもしばらく黙ったままだった。

 だが、


「……では、お任せいたしました。フィオナ殿下」


 無表情のままそう言って軽く一礼すると、勅使は踵を返し、どこかへ足早に歩き去って行った。

 その後ろを、彼の従者たちがあわてて追っていく。


「セイカ様」

「うわっ」


 間近で名前を呼ばれ、ぼくは驚いて後ずさった。

 いつのまにか近くに来ていたフィオナが、どこかうずうずとしたような、満面の笑みとともに言う。


「思っていたよりも、ずっと早い再会になりましたね。またお会いできてうれしいですわ」

「……」


 にこにこと機嫌よさそうなフィオナだったが、ぼくはなんと返したものか迷っていた。

 なんといっても別れ際が別れ際だ。アミュを助け出すためとはいえ帝城を破壊し、彼女が善意でした事態収拾の提案を、ぼくは拒絶した。さらにはそれにもかかわらず逃亡のための馬車を用意してもらったうえ、諸々の後始末まですべて押しつけてしまった。

 本来なら警戒すべき為政者側の人間とはいえ、恩のある……というより、引け目を感じる相手だ。手紙のやり取りは一度あったものの、どんな態度で接していいかわからず、微妙に気まずい。


「なんというか、その……」


 迷った末に出てきたのは、先ほどの素直な感想だった。


「……やっぱり、君は政治家なんだな」

「おや、うふふ。(まつりごと)を為す女はお嫌いですか?」


 いたずらっぽく微笑むフィオナに、ぼくは渋い表情で正直に答える。


「まあ、あまり得意ではないな……。騙し合いなどは苦手だから、どうしても身構えてしまう」

「うふふふふ」


 しばらく空虚な笑みを浮かべていたフィオナだったが、唐突にぽつりと言った。


「なんだか、急にやめたくなってまいりました。政治家」

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