表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】ヴェルヴェーヌは枯らさない-悪魔憑きの咎で追放された令嬢は、ただ一人の侍女と最果ての村を蘇らせる-  作者: 舎 まゆ
最終章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
80/80

最終話 令嬢と侍女


 アレクシア様、()(ぐし)を。


 そう呼びかけられ、アレクシアはそっと目を開いて顔をあげた。同時、王都全域を巡る回路が静かに応答する。――正常。


「……今日もお変わりはありませんか?」

 

「ええ、調子がいいわ、デルマ」

 

 そう答えれば侍女――デルマは小さく笑い、ドレッサーに座るアレクシアの白く柔らかな長髪を手に取った。真珠貝の(くし)を通せば、それはなんの抵抗もなく整えられていく。

 

「……それ……王妃様からいただいたものよね」

 

「はい、朝に見つけました。まだ残っていたのは幸いでしたね」

 

 窓から差す朝の光が、櫛を(あわ)く輝かせている。それを持つデルマの手は、アレクシアの髪をよどみなく整えていく。

 

 身支度をすませ、アレクシアはいつものように大聖堂へと向かった。

 その内部、大祭壇はすっかり元の美しい空間に戻っている。(けが)れのない床、柱、そして()()(まど)。全てが調和し、(せい)(ひつ)な雰囲気を漂わせていた。

 

 大祭壇の中央には、ヴェルヴェーヌが(しげ)っていた。柔らかな緑の葉を生い茂らせ、愛らしい白い花をつけている。それがあの浮き彫り(レリーフ)――その円形にそって、薔薇窓からの光を受け止めていた。

 

「……封印も異常なしね。この下の万物素(アルケー)も、少しずつ王都の外へと流れていってる……」

 

「王都の万物素を全て外へ逃がすまで、どれほどかかるでしょうね」

 

「……分からないわ。王都の人たち……石像に閉じ込められていた万物素も少しずつここへ集めて、それを浄化して、王都の外へ流す。そうすれば外の世界の万物素と混じり合って……万物素の本来の(じゅん)(かん)へと戻っていく。水源から(あふ)れた水が川を流れて海へと向かい、そして海から空へ(のぼ)り、また陸に降り注ぐように……」

 

 アレクシアはしゃがみ、目の前のものを眺めた。アレクシアの白い手が葉に触れ、それを揺らす。

 

「……気の遠くなるような事業です」

 

「そうね。百年……いいえ、もっとかかるかも……でもこのまま、王都の人たちを苦しみのままにしておけない。どれだけ時間がかかっても、彼らを世界に(かえ)さなきゃ」

 

「お付き合いしますよ」

 

 デルマが笑うのに、アレクシアは静かに振り向き、彼女を見上げた。黒く艶やかな髪、金色の目。彼女は何も変わっていない。それ故に、アレクシアには罪悪感があった。

 ――巻き込んでしまった、と。

 

「……外に出ましょう」

 

「はい」

 

 大聖堂を出て、街を歩く。未だ石像はそこかしこにあったが、それらの殆どが機能を停止していた。今は少しずつ、内部の万物素を抜いている。やがて彼らは、ただの石像になり、そして少しずつ雨風に削られ、大地へと還っていくだろう。

 

 まるで散歩をするような(のど)()さで、二人は歩いていく。穏やかな陽光を受けてアレクシアの白い肌は、淡い輝きを放っていた。

 

 二人は階段を上り、城壁に登った。そこからは向こう側を一望することができる。一日のうち、必ず一度、アレクシアはこの城壁から外を眺めた。デルマも、必ずついていった。

 城壁からは外が見渡せた。冬を耐えた原野の向こうに、ヌッツロースや別の地方がある。

 

「春ね」

「ええ、雪解けの水が流れてきていますよ。……あれを見てください」

 

 こちら側と向こう側を(へだ)てる深い谷に、水が流れ込んでいる。遥か下で、水面がきらきらと輝いているのが見えた。いつかこの谷が、水で満たされる日は来るのだろうか。アレクシアはふとそんなことを考えた。

 

「皆、元気にしているかしら」

 

「ちゃんと冬を越せていますよ。クラリス様にはツチラトも、フェリクスも、サーラもいるんですから」

 

「……そうね、きっとこれからも大丈夫よね」

 

 アレクシアの声はどこか寂しそうだった。隣で立つデルマは目を細め、そして静かにアレクシアの手に触れた。色と温もりを失っても、彼女の手は柔らかだ。

 

「デルマ?」

 

「…………」

 

 デルマは黙して、アレクシアを見つめた。

 金色の目は穏やかで、確かな充足を(たた)えている。黒髪が風に吹かれ、靡いている。そこには、アレクシアが贈った白いヴェルヴェーヌの髪飾りがついている。

 

 思わず、アレクシアはそれに手を伸ばした。柔らかな白い花弁。自分が触れれば、落ちてしまいそうで、すぐに指を引いた。これがデルマを、自分の隣に留めている――そんな気がする。

 

「……きれいね」

 

 代わりにアレクシアは微笑んで、そう呟いた。

 デルマはそっと目を細め、やがて気恥ずかしげに口元に笑みを浮かべ、遥か地平へと眼差しを向けた。

 

 大聖堂から、鐘の音が響いてくる。二人は頷きあい、歩き出す。

 羽ばたきの音に、アレクシアはふと立ち止まった。街から飛び立った鳥の群れが、城壁を越えて飛んでいく。

 彼らは自由だ。そう思った。

 

「アレクシア様」

 

 デルマが呼ぶ声に、アレクシアは振り返る。デルマは小さく首を傾げて、自分を待っているようだった。

 すぐ行くわ。小さく笑みを返し、彼女の元へ足早に歩いて行く。





ここまでお読みいただきありがとうございました!

ブックマーク、評価、リアクション、感想、励みになりました!

このお話を気に入っていただけましたら、評価していただけますと嬉しいです!


ではまた別のお話でお会いしましょう:)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ