第五十一話 やよい、静かなる最期の道へ
第五十一話
やよい、静かなる最期の道へ
——これは、わたくし曲直瀬やよいが、
自らの命の残りを悟り、
弟子たちへすべてを託した日の記である。
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◆ 【序章】灯が揺れる
安命院の夜は静かだった。
やよいは布団の中で、
自分の脈にそっと触れた。
(……細い……
弱い……
そして……
揺れている……)
医として、
命の灯がどのように消えていくかを
何度も見てきた。
だからこそ分かる。
(……わたしの灯も……
もう長くはない……)
しかし、
恐れはなかった。
(最後は静かに……
灯を消す……)
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◆ 【第一幕】弟子たちを呼ぶ
翌朝。
やよいは弟子たちを枕元に呼んだ。
お凛と弥助は、
不安そうに座った。
やよいは静かに言った。
「二人とも……
わたしの身体は……
もう長くは働かれへん」
お凛は涙をこらえた。
「そんな……
そんなこと……!」
やよいは首を振った。
「泣かんでええ。
命は……
尽きるときは尽きる。
それが自然や」
その声は、
孔明が五丈原で語ったように
静かで揺らぎがなかった。
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◆ 【第二幕】最後の教え
やよいは帳面を開き、
弟子たちに向けて語り始めた。
「医は……
書だけでは救えへん。
匂い、火、汗、脈……
命の声を聞くんや」
「お凛。
あんたは匂いを読む医になりなさい。
産の汗の温度、
血の匂いの変化……
全部、命の言葉や」
お凛は涙を流しながら頷いた。
「はい……
やよい様……
必ず……」
やよいは弥助を見た。
「弥助。
あんたは脈を読む医になりなさい。
脈は嘘をつかへん。
命の流れそのものや」
弥助は拳を握った。
「やよい様の脈の読み方……
全部、覚えます……!」
やよいは微笑んだ。
「二人とも……
わたしの医を……
継いでほしい」
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◆ 【第三幕】尼僧との対話
夜。
尼僧が静かに部屋に入ってきた。
「やよい殿……
覚悟が決まった顔をしています」
やよいは微笑んだ。
「尼さま……
わたし……
もうすぐ灯が消えるのが分かるんです」
尼僧は頷いた。
「最後は静かに灯を
消すのですね」
やよいは目を閉じた。
「……わたしは……
医として……
最後まで命を見つめていたい」
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◆ 【第四幕】静かな覚悟
弟子たちが眠ったあと、
やよいは天井を見つめた。
(……わたしの命は……
もう長くない)
(でも……
あの子らが……
わたしの医を継いでくれる)
(それなら……
わたしは……
もう十分や)
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◆ 【終章】静かなる最期へ
やよいは深く息を吸い、
静かに目を閉じた。
(……わたしの灯は……
もうすぐ消える)
(でも……
この院には……
新しい灯がある)
(……それでええ……)
外では、
郡山の冬の風が静かに吹いていた。
——こうして、
わたくしは、
静かに、澄んだ心で、
最期の道を歩き始めたのである。




