第四十九話 回復思わしくなく——やよい、命の残り火を悟る
第四十九話
回復思わしくなく——やよい、命の残り火を悟る
——これは、わたくし曲直瀬やよいが、
安命院で療養する中、
自らの命の残りを静かに悟った日の記である。
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◆ 【序章】回復しない身体
安命院に運ばれてから数日。
やよいの容体は、思うように回復しなかった。
・足の腫れは引かず
・肩の痛みは増し
・熱が上がったり下がったりを繰り返し
・食も細くなっていく
お凛が心配そうに言った。
「やよい様……
少しも良うなってへん……」
やよいは微笑もうとしたが、
唇が震えた。
「……大丈夫やよ……
ただ……少し……疲れが……」
しかし、
その声は弱かった。
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◆ 【第一幕】外部から医員が呼ばれる
安命院の医師・お蓮は判断した。
「これは……
わたしらだけでは足りへん。
外から医員を呼ぼう」
郡山の医師、
奈良の医師、
さらには京からも一人、
やよいの名を聞いて駆けつけてくれた。
診察は慎重に行われた。
脈を取り、
舌を見て、
腹を触り、
匂いを嗅ぎ、
熱の上がり下がりを記録する。
しかし——
「……原因が……分からぬ」
「外傷だけでは説明がつかぬ」
「熱の動きが……妙だ」
「内から力が抜けていくような……」
医員たちは首を振るばかりだった。
お凛は泣きそうな声で言った。
「なんで……
なんで治らへんの……」
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◆ 【第二幕】やよい、自分の身体を読む
夜。
やよいは一人、布団の中で静かに脈を取った。
(……弱い……
細い……
そして……消えかけてる……)
医として、
何百人もの脈を読んできた。
その経験が、
自分の脈の“行き先”を教えていた。
(……これは……
長くは……続かへん脈や……)
胸の奥が、
静かに冷えた。
しかし、
恐怖はなかった。
(……ああ……
わたし……
命が……少なくなってきてるんやな……)
医としての直観が、
淡々と告げていた。
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◆ 【第三幕】尼僧との対話
深夜。
尼僧がそっと部屋に入ってきた。
「眠れませんか」
やよいは弱く微笑んだ。
「……尼さま……
わたし……
自分の脈が……
分かるんです」
尼僧は静かに座った。
「あなたは医です。
自分の身体の声も……
誰よりも深く聞こえるのでしょう」
やよいは目を閉じた。
「……命が……
少なくなってきてる……
そんな気がするんです」
尼僧は驚かず、
ただ優しく言った。
「命は……
長さではありません。
灯の強さです」
「あなたの灯は……
誰よりも強かった。
だから今、少し揺れているだけです」
やよいの目に涙がにじんだ。
(……揺れてる……
わたしの灯……)
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◆ 【第四幕】弟子たちの気づき
翌朝。
お凛と弥助は、
やよいの顔色を見て悟った。
「……やよい様……
ほんまに……
しんどいんですね……」
やよいは頷いた。
「……ごめんね……
心配かけて……」
お凛は首を振った。
「心配なんて……
当たり前です。
でも……
やよい様が……
うちらの前で弱っていくの……
見てられへん……」
弥助も涙をこらえながら言った。
「やよい様……
どうか……
どうか……」
やよいは二人の手を握った。
「……ありがとう……
でも……
わたしは大丈夫やよ……
まだ……やることがあるから……」
しかし、
その声は細く、
風に消えそうだった。
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◆ 【終章】やよい、静かに覚悟する
夜。
やよいは天井を見つめながら思った。
(……命は……
いつか尽きる。
でも……
尽きる前に……
わたしが残せるものが……
まだある)
(……弟子たちに……
医を……
託さなあかん……)
(……それが……
わたしの最後の仕事や……)
外では、
郡山の冬の風が静かに吹いていた。
——こうして、
わたくしは回復の思わしくない身体の中で、
自らの命の残り火を静かに悟ったのである。




