表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/53

第四十七話 帰り道の大怪我——尼僧に救われ、安命院へ

第四十七話

帰り道の大怪我——尼僧に救われ、安命院へ


——これは、わたくし曲直瀬やよいが、

京から大阪を経て大和郡山へ向かう帰り道、

思いもよらぬ大怪我を負い、

尼僧に救われて“自分の産院”へ運ばれた日の記である。


---


◆ 【序章】生駒山の山道

大阪を離れ、

やよいは生駒山を越えて郡山へ向かっていた。


冬の風は冷たく、

道はぬかるみ、

旅の疲れが足に重くのしかかっていた。


(……あと少しで郡山……

 安命院に……帰れる……)


しかし、その“あと少し”が遠かった。


---


◆ 【第一幕】足を滑らせる

山道は、前日の雨でぬかるんでいた。


やよいは慎重に歩いていたが——


足元の石が、

ぐらりと動いた。


(あ……)


次の瞬間、

身体が大きく傾き、

斜面を転げ落ちた。


枝が頬を裂き、

岩に肩を打ちつけ、

足首が激しくひねられた。


「……っ……!」


声にならない痛みが走る。


(……動かれへん……

 足が……)


冷たい土の上で、

やよいは息を荒げた。


---


◆ 【第二幕】尼僧の声

どれほど時間が経ったのか。

遠くから、澄んだ声が聞こえた。


「……もし……

 誰か……?」


やよいはかすかに目を開けた。


薄茶の衣をまとった尼僧が、

道の端に立っていた。


その顔を見た瞬間、

やよいは息を呑んだ。


(……郡山の寺の……

 あの尼さま……)


尼僧は驚き、駆け寄った。


「やよい殿……!

 どうしてこんなところで……!」


やよいは弱々しく答えた。


「……足を……

 滑らせて……」


尼僧はすぐに状況を理解した。


「ここでは治せません。

 安命院まで運ばねば……

 でも、わたし一人では……」


尼僧は周囲を見渡し、

声を張り上げた。


「誰か……!

 誰かおりませぬか!」


---


◆ 【第三幕】農夫たちの協力

しばらくして、

荷車を押した農夫たちが現れた。


「どうされました、尼さま!」


尼僧は深く頭を下げた。


「この方を……

 安命院まで運んでいただけませんか。

 命に関わります」


農夫たちは迷わず頷いた。


「任せてください!」


荷車の上に布を敷き、

やよいをそっと乗せた。


やよいは痛みに顔を歪めながらも、

尼僧の手を握った。


「……ありがとうございます……

 尼さま……」


尼僧は優しく微笑んだ。


「助け合うのは当たり前のこと。

 あなたは……

 郡山の女たちを救ってきた方でしょう」


やよいの胸が震えた。


---


◆ 【第四幕】安命院へ帰る

荷車は揺れながら、

郡山の町へ入った。


見慣れた町並み。

見慣れた道。

そして——


安命院の門が見えた。


(……帰ってきた……

 わたしの……院に……)


尼僧が声をかける。


「誰か!

 やよい殿が戻られた!

 大怪我です!」


院の弟子たちが飛び出してきた。


「やよい様!?」

「どうしてこんな……!」

「すぐに治療室へ!」


やよいは荷車から抱え上げられ、

自分の院の布団に寝かされた。


(……わたしが……

 治される側……)


胸が締めつけられた。


---


◆ 【終章】患者としての始まり

その夜、

安命院の静かな部屋で、

やよいは眠り続けた。


医としてではなく、

患者として。


——こうして、

わたくしは帰り道で大怪我を負い、

尼僧に救われ、

“自分の産院・安命院”へ運び込まれたのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ