表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/53

第十八話 やよい、“脈”と“産”と“血”の声を知る——命の道へ歩み出す日

第十八話

やよい、“脈”と“産”と“血”の声を知る——命の道へ歩み出す日


——これは、わたくし曲直瀬やよいが、

脈の奥に潜む“命の言葉”と、

自らの“血の宿命”を知った日の記である。


---


◆ 子どもの死の痛みと、玄道の静かな導き

あの子を救えなかった日から、胸の奥がまだ痛んでいた。

叫びも匂いも、忘れられない。


そんなわたしに玄道は何も言わず、ただ見守り、

ある朝、静かに告げた。


「やよい。今日は“脈”を学ぶ」


玄朔様も千代さんも言っていた——

“脈は命の流れ”だと。


---


◆ 玄道の脈——揺るがぬ命の音

玄道は自らの手首をわたしに触れさせた。


「脈は血ではない。命の声だ」


触れた瞬間、胸が震えた。

強く、深く、静かで、揺るがない。

まるで玄道そのもの。


「やよい。おまえは“感じる”子だ。脈を学べる」


---


◆ 初めての脈診——心の疲れを読む

農作業で疲れた男の脈を取ると、

強いのに、奥が沈んでいた。


「体は元気やけど……心が沈んでます」


男は驚き、玄道は頷いた。


「それが“脈の極意”だ」


---


◆ 冬の朝、妊婦の脈に揺れる“産の兆し”

霜の降りる朝、青白い妊婦が訪れた。

脈に触れた瞬間、胸がざわめいた。


(……揺れてる……命が動こうとしてる……)


「玄道様、この方……“産の兆し”が来ています」


玄道は目を細めた。


「やよい。それは“産脈”だ。読める者は少ない」


---


◆ 産の始まり——命の揺れが深くなる

湯を沸かし、薬草を刻み、妊婦の手を握る。


(千代さんの料理も、玄朔様の産科も……全部ここに繋がってる)


脈の揺れが変わった。


「玄道様……“今”です。産が始まります」


「やよい。おまえが取り上げよ」


震えながらも、わたしは命を迎えた。

小さな産声が響いた瞬間、涙が溢れた。


(この揺れが……命の声やったんや……)


---


◆ 天満の市場での再会——“血”の匂い

薬草を買いに天満へ向かった帰り、

堺屋宗兵衛が声をかけてきた。


「やよい殿……生きておったか!」


涙の再会ののち、宗兵衛はふとわたしを見つめた。


「……あんた、自分の“血”を知らんのか?」


「曲直瀬の家は“命を読む者”の家系や。

 あんたも、その血筋やろ」


胸が大きく揺れた。


(わたしが……曲直瀬……?)


---


◆ 玄道、真実を語る

医家に戻ると、玄道が火鉢の前で言った。


「やよい……おまえは曲直瀬家の“分家筋”の娘だ」


母は玄道の遠縁で、

わたしを玄朔に託して亡くなったという。


「曲直瀬の血には“命を読む才”が宿る。

 脈を、匂いを、火を、兆しを読む。

 おまえは……その血を継ぐ者だ」


涙が止まらなかった。


(玄朔様……わたしを見つけてくれたのは……血の縁やったんや……)


---


◆ やよいの決意

その夜、自分の脈に触れた。


(……揺れてない……迷ってない……

 “進め”って言ってる……)


「わたし……命を読む者として、この道を歩く」


火が静かに揺れ、

その決意を照らした。


---


◆ 老いたやよいの一行

——あの日、

わたくしは“脈”と“産”と“血”の声を知った。


脈は命の言葉であり、

産脈は未来の声であり、

曲直瀬の血は宿命であった。


わたくしはその日、

命の流れを読む者としての道を

確かに歩み始めたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ