end A おまもり
「ミルクが、魔法練習してるの知ってますよね」
シルキーはぽつりと話し始めた。
「自分の力より上の魔法を練習して、覚えても、一人前に認めてくれないって、言ってました」
「な…何…」
「俺はその手助けをしました、魔力の制御を少し解放してあげる代わりに、ちょっとだけ魔力を頂く呪詛を刻みました」
「……貴様…!!」
「彼女は強くなりました。でも、あなたは家に閉じ込めたままだ」
リートは口を紡ぐ。
「どうして、彼女を認めてあげられないのですか」
「……それは」
リートは胸が苦しくなってきた。
「それは、ミルクまで、こんな事に、巻き込みたくなかったから…」
「それです、ミルクはそれで苦しんでいます。混ぜて貰えない事が不服、ただそれだけなんです」
シルキーはつまらなそうに言った。
リートは、その緑色の瞳に涙を溜めた。
「私は…私は…ただミルクを護りたいだけだ…」
「…それが、ミルクを苦しめているだけなんです」
「シルキー!!」
ミルクの声が響く。
どこからかと思ったが、上空で風が渦巻いている。
真っ赤なワンピースで、ゆっくり下りてくる。
「シルキー!!」
もう一度、その名前を呼ぶ。
「ミルク…どうしてここに」
「シルキー、生きてて良かった!討伐するなんて、お姉ちゃんがっ…あっ……」
ぼろぼろと泣きだすミルク。
触れたいが、魔力を吸ってしまうのでそのまま、見つめた。
リートの氷魔法を解除し、ミルクの目線に合うようしゃがみ込んだ。
「ねぇ、ミルク」
「……うん……えぐっ」
「泣かないで、俺も生きてるし、お姉さんも生きてる」
「……うん…」
「だから、泣かないで」
解放されたリートは、その場にへたり込んで、それでもシルキーを睨みつけた。
「貴様、一つ答えろ。…呪詛って何だ」
「え、あー…」
シルキーは困った。
ミルクにはおまもりとしか言っていない、あの呪詛の事だ。
「…シルキー、いいよ、私、何でもシルキーの事なら何でも。…ねぇ、教えて」
ミルクの無垢な声に、シルキーは一つ溜息をついた。
「前、お守りしてあげたでしょ。それはミルクの魔力を大きくしてあげる代わりに、少し俺にも魔力が入ってくるっていうヤツなんだ」
「貴様ぁぁ!!ミルクに手を出したなあぁぁぁ!!」
リートは這ってでも討ちたいと言わんばかりの殺気で立ち上がる。
「リート姉様、違うよ」
ミルクはツタの魔法でピタリ、とリートを縛り付ける。
それを見て、シルキーは城へ走り出した。
「ミルク!お前何をするんだっ!!」
「…シルキーを傷つけないで、お友達なの。お願いだから…」
「だって、お前、その、呪詛を刻まれたんだろう」
「知らなかったよ。痛くもないし………ちょっとくすぐったかったけど」
ミルクは靴下を脱ぐ。
「このね、足の甲に……あれ?」
ミルクの足の甲から、呪詛は消えていた。
「…ないじゃないか……まさか、もっと別の所か!?」
瞬間的に怒りがこみ上げる。
「違います!消えたんです!」
シルキーは走って戻ってきた。
「さっき呪詛の内容を教えたから、もう効果はないんです」
「じゃあ風で浮いていたミルクと、このきっついツタは……」
「正真正銘、ミルクの実力です」
「………そうか……ミルク、強くなったな」
ミルクはそのツタをほどいた。
「…シルキーのおかげだよ」
その当人は、頬をほんのり赤く染めて、リボンの包装をした包みをミルクに見せた。
「これ、もらって」
「?」
「ぬいぐるみ。作ってみたんだけど…」
ミルクは包装をほどいた。
「わぁ!可愛い!うさぎさんに羽根もついてるー!」
「よかったら、もらって。新しいお守り、ね」
「うん!ありがとー!!」
「おい!そのぬいぐるみに変なもの仕込んでないだろうな!」
すかさずリートは大声を出した。
「入ってません!もう、一々煩いなぁ……」
「煩いだと!?もういっぺんやるか!?」
「もー!二人とも静かにしてよー!!」
ホワイトとヒューリーはやっとの思いで到着した。
「あれ…なんか、終わってるというか」
「…痴話喧嘩…みたいですね」
よく見るとリートに傷が付いている。
「ちょっとは仕事がありそうで良かったわ」
「…でもあまり出番ではなさそうですね、先に帰ります」
ひゅう、と口笛を鳴らすと大きな鳥がやってきた。
「では。…姉さんは大丈夫ですよね」
「まぁね、じゃあと宜しく」
マリスは夕暮れの眩しさに起きた。
外の橙色が、彼の仕事を始める合図だ。
「……あれ、何だっけ。タイマンするんだったか」
ぼんやり起きて、廊下に出るとメシィがいた。
「もう終わっちゃったよ」
「……あ、そう」
「仕事にでも行ったら?もうなんだかハッピーな感じで見ていられないよ、外」
「………ん。今日は行かないと」
マリスは未だぼんやりとしながら、部屋に戻った。
それを見届けると、メシィはうきうきして城の階段を駆け降りた。
「シルキーの回収ついでに白昼堂々ホワイトが見れるなんて、最高の気分よー!」
ミルクの部屋には、ホワイトが入れた書き置きがそのまま、ドアの隙間で所在なさげに放置されていた。
『ミルクへ
これからブラッドリー城に行ってきます。
絶対にあなたのお友達は助けるから、安心してね。
この件が終わったら、私のお友達も紹介してあげる。
悪魔なんだけど、イイ奴だから安心してね。
ミルクのお友達も、きっとイイ子なんだと信じてるわ
ホワイト』
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
end BとCを誠意製作中です。
個人的にハッピーエンドだけじゃ満足できません←




