end B 薔薇の魔女
アナザーエンドです。
窮地。
目の前が真っ暗になりそうな、状況。
シルキーは更に何か仕掛けるのか、詠唱を始めている。
彼女には祈りを捧げる事しか出来なかった。
『フロライト家を護りたい…護って、いつまでも繁栄させたい…お願いだから、私に力を……!!』
胸の花が光る。
紅色の花弁がどこからともなく空間に増えていく。
濃緑のいばらが地面から次々と発生し、身を包む氷を壊し、更にリートの体に纏わり包みこんでいく。
シルキーは三歩四歩と下がり、冷や汗をかいていた。
―こんな状況、見た事も聞いたことも読んだこともない。
包まれたリートに、何か恐ろしい魔力が充満していくのが肌で感じられる。
シルキーの視界が紅の花弁で眩む。
そこには、真っ赤なドレスと長い髪をなびかせ、風に浮くリートがいた。
いや、リートではないのかもしれない。
瞳が、狂っている………!!
「あはははは!やっと体を手に入れたわ!なんて素敵なのかしら!」
側に居る、羽根に傷がついた悪魔を見つける。
その狂気に、シルキーの体は力を失い、膝から崩れ落ちる。
「うふふ、あなたのお陰よ」
「あんた………誰だ………」
「お礼に、私の美しい魔法で苦しめてあげる」
『彼女』の周囲に紅の花弁が舞い、地面から棘の鋭いいばらがわき出る。
シルキーの下半身がいばらで覆われ、その棘は彼の足を刺し、傷つける。
真っ赤な血液がじわり、と流れ出る。
「教えてあげるわ、私はリート・フロライトではないわ。昔ヴェラ・ブラッドリーに敗れた魔法使いよ」
彼女の口端は引きつるように笑っている。
その狂気じみた顔は、恐怖以外の何者でもない。
「体、めちゃくちゃに切って殴ってまた切られたのよ?この恨み…ずっと花のブローチに潜んで、晴らす時を待っていたのよ…もう200年経ったわァ……」
くすくすと笑いながら、彼女は髪をかき上げた。
刹那、次はシルキーの両腕が囚われ、自由が利かなくなると同時に、出血が増えていく。
「ただただ悪魔を壊したくて、ずっと持ち主の魔力を溜めこんだのよ?」
彼女の狂気の瞳は、悪魔をぎろり、と見つめた。
「さよなら、おやすみなさい、悪魔さん」
大気の魔力が彼女に集中する。暗雲が、この空間を更に恐ろしいものにする。
「待ってぇぇぇーーーーーーー!!」
大きな風の圧力とともに、その暗雲を晴らして赤いワンピース姿の彼女は降り立った。
「ミルク………」
シルキーは、力なく彼女の名前を呼んだ。
「シルキーに何するの!!止めて!!」
狂気はくるりと向きを変え、ミルクを睨みつけた。
「別にィ。ただ眠ってもらうだけよ?全然、ぜぇんぜんっ………足りないんだから……!!」
狂った魔力が増幅していく。
「絶対だめ!絶対!シルキーに怪我させて……許さないからっ!!」
互いに風圧を起こす。
ぶつかり合う点には気圧差と魔力が生じ、見えない壁があるように周囲には何も近づけない。
「それだけじゃ、勝てないわよォ?」
狂気の魔法使いはミルクの周囲にいばらの蔦を発生させ、増殖させる。
「!」
その殺傷意図に満ちた蔦に戦慄を覚える。
―囲まれた!
ミルクは咄嗟に身を護るように、自らも蔦を出して編む。
しかし重複で固める前に、棘はミルクを襲う。
「いやーっ!!」
蔦を丸く編む。
編む。
編む。
それだけを願い、目を瞑る。
「何ぃぃぃ!この悪魔ごときがぁぁぁ!!」
狂気の声が叫ぶ。
目を開けるミルク。
編んだ蔦はどこも傷ついていない。
ほんの少しほどくと、周囲の棘は凍りついていた。
あの恐怖も、脚と手を凍りつかせ地面に繋がれ、動きが取れないようになっていた。
「……好きな人がいれば……誰だって出来る」
シルキーの勝った頬笑み。
それとほぼ同時に、狂気の魔法使いを囲む3つの影。
「遅くなったわね、ミルク」
「……ホワイト姉様、どれから手を付けましょうか」
ホワイトとヒューリーは、ようやくこの場に入り込む事が出来た。
「つーか何、この大騒ぎみてぇな状況」
マリスが半分寝ぼけたような顔で城から出て来る。
「マリス兄……ごめん」
続いた流血に、シルキーはぐらりと地面に崩れ落ちた。
「「シルキー!」」
ミルクは蔦の護りを戻し、彼に駆け寄る。
マリスも危機を感じ、彼に駆け寄る。
「……畜生ぉぉぉぉぉぉっ!!」
狂気の魔力が増幅する。
―また来る…!
その場の誰もが身構える。
「煩い」
マリスが腰から拳銃を取り出した。
そして躊躇いなく、「リートだったもの」に撃ち込んだ。
パン。
パン。
パン。
その静かな幕切れに、空気が一瞬止まる。
「……寝かせただけだ、お前らさっさと持って帰れ」
マリスはシルキーを持ちあげて、城に戻る。
「シルキー!シルキーっ!」
ミルクはその愛しい人を追いかけるが、マリスがくるりと彼女に向いた。
「こっちで助けるからお前らは、その魔女をどうにかしろ。……これ以上関わってくるな」
その冷酷な言葉に、ミルクはその場を動けなかった。
ホワイトとヒューリーがリートに駆け寄る。
「ヒューリー、アレ出して」
「はい」
彼女が取り出したのは、フロライト家が皆持っている、淡いピンクの花のブローチ。
そっと胸に置く。
「さぁ、二人で押し込めるわよ」
彼女たちは、風を起こし、それぞれの花弁が舞う。
「「鎮まって下さい。いつか、その無念を晴らすまで」」
ブローチは赤い花弁となり、棘がその花弁を包む。
『その棘に触りなさい、いつでも私は戻ってくるわ……!!』
恨みの声が二人の耳を通り抜ける。
「……とりあえず、持ち帰って家にしまいましょう」
「はい、自らの家の事は自らの家で、解決する。ですね」
シルキーは応急処置を施されて、ベッドに寝かされていた。
今どこで、どうなっているのか、意識がぼんやりとする。
そのぼんやりの中、彼は、大事な友人の事を思い出していた。
「……呪詛を解いて…それから、俺の作ったぬいぐるみを渡すんだ」
「今度は本当に、大切な友達として」
ようやく完結です。
拙い文章にお付き合い頂き、ありがとうございました。




