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精霊の担い手  作者: 天剣
1年時
22/261

第13話 早朝の訓練 ~1~

ども、天剣です。


いや~遅れてすいません……。昨日更新しようと思っていたんですが……。


……睡魔には勝てんかった……

アイギットとの決闘から数日後。

部屋の窓から注ぎ込まれる朝日が、とある一室を明るく照らしていた。その部屋の主は、明るくなったことに不快感を覚え、布団のなかに潜り込んだ。

理由ーーまだ眠いから。何とも説得力のある理由だろう。彼にとって、睡眠の妨げになる物は忌むべき存在なのだ。


「もう朝だぞ。さっさと起きろ」

「ぅぬ~~~」


訳わからん寝言と共に、ますます布団のなかに潜り込んむ少年タクト。ぱたぱたと翼を動かしながら空に滞空する精霊コウはそれを見て、ふうとため息をついた。


「全く……朝に弱すぎだな、お前は」


呟くと同時にコウは、タクトが被っている布団に降りてきてちょこんと止まる。そのまま首を傾げるという愛らしい動作をした後、コウの足下に魔法陣が展開した。展開した陣の色は黄色、つまり雷属性の変化術。


「……早く起きろ」


コウにとっては最終警告的な物なのだろう。再びタクトを起こそうと無愛想に声をかける。が、


「ぅにゅ~~」


全く起きず、それどころか布団を引っ張り上げすっぽりとくるまる。先程とは違い、完全に布団に隠れてしまった。と言うか、寝顔も寝言もある意味かわいらしい物がある。それを見て聞いて、何でこんなふうに育ってしまったのだろう、と言う考えが頭をよぎった。


「………」


これではまるで保護者ではないか。一瞬、そんなことを考えた事を頭を振って追い出し、コウは陣に流れ込んでいる魔力を解放した。


「うぁぁぁぁぁぁ!!!」


タクトの全身に雷が走り、タクトはその痛みのあまり絶叫する!

……ちなみにこの寮、しっかり防音対策を取っていたりするので叫んだり騒いだりしても大丈夫なのだが、限度という物をコウは理解して貰いたい。


「う……あ……」


ピクピクと痙攣を起こしながらタクトはベットから転げ落ちる。彼が転げ落ちるさまを、空中からぱたぱたと翼を動かし、飛びながら見たコウはやっとかとため息をついた。


「いい加減私に起こして貰うな。いつもの時間になったらさっさと起きる!」

「……今何時?」

「ちょうど朝日が昇ったところだ」

「……盛大に考えたら、遅すぎだよね……?」


落ちた姿勢からゆっくりと半身を起こし、寝ぼけ眼でタクトはコウに聞いた。まだ眠いのだろう、言っていることがめちゃくちゃである。また、少しばかり覚醒しそのことに気づいたのか、後半は首を傾げて言っていた。

タクトの眠たそうな声を聞き、コウは呪文を唱えた。

浮かび上がる魔法陣は半透明。つまり、詠唱系の魔術を行使するのだろう。実際、魔術をかけるまでの時間が長めである。


「はっ!」


気合いの入った一言と共に、陣から光があふれ出す。あふれ出した光に触れ、タクトは急速に覚醒していく。

目を見開き何度か瞬き。頭をぶんぶんと横に振ってその場にさっと立ち上がる。手を後ろに伸ばし、伸びをした後、コウにいちゃもんを付けた。


「あのさ、コウ。起こすとき、術を使うのやめてくれない?」

「とは言え、実力行使でないと起きないだろう、お前」

「う……それはそうなんだけど」


頭の後ろをポリポリとかきつつ、うーんと唸って彼は顔を伏せた。

と言うか、第三者からしてみれば、朝日が昇ったと同時に起こされる方を非難するべきだと思うが。しかも今日は学園の休校日である。そちらの方は気にならないのか、と言えばそうなのだ。


「出来れば、今度からはなるべく優しめに起こしてよ」

「今日のアレも、優しめだったのだが……」

「アレが!? アレが優しめ!?」


などと動きやすい私服に着替えながらコウと会話し、タクトは自室を出た。

まだ朝日が昇ったばかりのこの時間帯には人っ子一人おらず、シーンとしている。そこをタクトとコウはなるべく音を立てずに通り過ぎ、エレベーターを使い一番下の階の玄関ホールに降り立ち、外に出た。

向かう先は寮の近くにある森。その少し奥に、木が生えていない開けたスペースがある。彼はだいたい週三のペースでそこに行き、一人修練をしていた。

理由は簡単。霊印流の修練と、魔力制御の訓練。そのどちらも、彼の弱点を補うからだ。彼の最大の欠点、不反応症候群。これにより、タクトは属性変化術、詠唱魔術どちらも使うことは出来ない。だからこそ、使える物はなんでも使う。

魔術の基本となり基礎となる魔力。そして、詠唱がまったく必要ない精霊魔術。幸い、霊印流の基礎は、魔力だけでこと足りる。そのほとんどが、魔力による部分強化なのだから。

だが、魔力の方はそうも行かない。

部分強化というのはどこを、どの程度強化するのか中々難しいのだ。

いくら魔力を生成する魔力炉が半永久機関といえども、その人個人が一度に扱える魔力量は決まっている。故に、同じ魔力量だと全身強化と部分強化では、部分強化の方が強く強化できるのだ。


「集中を切らすなよ」

「わかってる」


目を閉じ、タクトは例の開けたスペースの中心に立ち、一つの大きな石を両手で抱え込むように持っている。いや、持って”いた”。

いま、その石はタクトの手から数センチ浮いたところで止まっている。タクトは相変わらず目を閉じたまま、汗を流している。

するとコウが近くにやって来て、タクトの手と石の間の隙間をじっと見つめる。


「……三ミリ上がっているな。下げてみろ」

「……っ……」


三ミリ。すさまじく細かい。が、これが出来なければならないのだ。

彼らが行っている修練。それはある石を同じ一定距離を保ったままずっと浮かしているという、中々困難な修練である。ずっとそのまま、というのは、簡単そうで実はかなり難しい。

ちなみに石が浮いているのは、彼が魔力をその石に流し込んだせいだ。魔力というのは、ホントに応用が利く。

魔力はイメージで動く、とある。それは間違っていない。属性変化術で生み出した物が形を取るのは、本人のイメージによって魔力がそのとうりに動いたからである。

だから、魔力制御などは甘く見られがちなのだ。やる意味がないと言う理由で。

しかし、これを極めれば呼吸のように魔力を扱うことが出来るのだ。現にタクトは今、精密な動きをなしにすればほぼ無意識のうちに魔力を扱うことが出来る。

これは霊印流においてはかなり重要な要素である。タクトに霊印流を教えた彼の叔父は、そのことにおいてはとても褒めていた。そのせいか、彼は霊印流の基礎である五つの太刀を最年少で使いこなせるようになている。


「よし、もう良いぞ」


言われた通り三ミリさげ、さらに数分後、コウから終了の声がかかった。

するとタクトは、浮いたままの石に籠もっている魔力を、そのまま上に上げた。当然、それに引っ張られる形でその石も急上昇する。

十数メートル上がったところで一旦停止させ、タクトは刀を抜いた。抜くと同時に、石に籠もった魔力を破裂させる。するとーー


ーーバンーー


上空で石が砕け、大小様々な破片が真下に降り注ぐ。そしてその真下には当然、刀を抜き払ったタクトがいる。


「霊印流参之太刀、瞬牙」


呟き、片手で構えた刀で、タクトは降り注ぐ全ての破片に一太刀ずつ与える。風切り音が間に合わない音速超えの斬撃は、難なくその全てをはじき飛ばした。


「お見事」


それを見ていたコウは、ぱたぱたと飛んできてタクトの肩に止まる。一方刀を振り切った姿勢で静止していた彼は、ふうと息を吐くと刀をだらりと下げた。


「アレをやった後にこれをやると、結構きついね、相変わらず」


流れ落ちる汗をぬぐいながら左手でぬぐいながら、はじき飛ばした破片に目をやった。何となくそのまま眺めていたが、いきなり右の方から拍手が聞こえてきた。


「いや~、朝っぱらからご苦労さん。良い運動ではないか、うん」


その軽そうな声を聞いて、タクトはばっとそちらの方を向いた。そこにいたのは、見事な赤毛をしたいかにも軽そうな男がいる。

彼は知らない。その人こそが、この学園の会長を務めていることに。そして人知れず、”学園最強”と言う二つ名を持っていることにーー。

彼はまだ、知らなかった。

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