12 煤かぶり姫、風邪をひく
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朦朧とする意識中、身体の痛みにより目が覚める。
(………さいあく)
くまちゃんをぎゅっと抱きしめたベルティアは、久々というか、10歳を超えてから初めて感じる体調不良に苛立ちを隠せなかった。
滅多に体調を崩さないベルティアは、正直熱に弱い。
我慢強い性格ではあるが、それとこれとは別である。
「………けっせきれんらく………………、」
靄のかかった思考の中で導き出した次にやるべき事を頭の中で何度も反芻しながらベッドから這い出るが、そこで初めて気がつく。
(………だれも、してくれない)
誰もベルティアの状況の連絡なんて学校に回したくなんてないだろう。
元貴族である未亡人の寮母にさえも嫌われているベルティアに、外部との連絡手段なんてない。
噛み締めたくちびるからうっすらと鉄の味がするのを感じながら、ベルティアはなんとか身支度を始める。
くまちゃんを専用の椅子に座らせてブラシをかけてお洋服を着せ替えて、けれど、そこで1度力尽きた。
視界が緩く回っており、相手から自分の瞳を見えづらくする為に掛けている伊達眼鏡をかけるのすらも、気持ちが悪い。
髪に櫛を通すのでさえもやっとなベルティアは、結局今日は髪を結うことさえもできず、重くて持ち上げることさえも厳しい鞄をどうにか手に持ち、部屋を出る。
1番奥の部屋は他の部屋と違い薄暗い分物静かでとても気に入っているが、こういう時、入り口から遠い事が欠点であるという事を初めて知った。
(おふろ、さぼるんじゃなかった………)
昨日、コーヒーまみれで帰宅したベルティアに激怒した寮母は、玄関先で真冬にも拘わらず花の水やり用に貯めていた雨水をベルティアにぶちかけた。
ベルティアの部屋には風呂が付いている為にコーヒーも寒さもなんら問題ないと甘い判断を下していたのだが、いざ部屋に戻るとあまりの疲れに湯船を張る元気もなく、シャワーでいいやと思ってしまったのだ。
おそらくそれがまずかった。
冷えた身体をそのままに水に近い状態でシャワーを浴びたのも、髪を乾かすのを面倒くさがってサボってそのまま眠ったのも、全部が不味かった。
ぶるりと震える身体をそのままに、ベルティアは寮を出て校舎に向かおうと歩く。
何も結っていない髪がうざったらしく前に出てきて、ふわふわと暴れている。
「ベル、ティア?」
不思議そうに呼ばれたベルティアは、なんでこんな時も相手をしなくちゃいけないんだと思いながら、振り向く。
今日も今日とて美しい男エドワードの顔が二重に見える。
(あ、たおれる………、)
「ベルティアッ!!」
地面にぶつからなかったことに呆然としながら顔を上げると、そこには4人のエドワード。
「あつっ、これヤバいだろ」
なんかワーワー文句を言ってるのが五月蝿い。
「侍女は?」
なんか言ってるが、音がガンガン聞こえて頭が痛い。
「あぁー、くそっ」
身体が宙に浮く感覚と揺籠に乗せられたような心地の良い揺れ具合に、意識がふわふわと遠くなる。
「………けっせきれん、らく………………」
心残りを呟いたベルティアの意識は、深く沈んでいくのだった―――。




