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8.どこにあったのか、わかったよ

 駅前にあるお菓子屋さんの女の子をかたどった人形は、サンタクロースの衣装を身につけていた。

 端に白く綿が縁取られている赤いコート。

 同じく赤い帽子の先には白くて丸いポンポン。


 そうだ、これがサンタクロースの格好だよな、とぼくは改めて考えた。

 青い作業着や黒いジャケット、ジーンズをはいた青年がサンタクロースと呼べるだろうか?

 だけど彼はずっとまじめな顔をしていた。

 冗談を語っている風ではなかった。


「何やってるの? 早く来なさい」


 入り口の自動ドアの向こうで母がそう言った。

 まだ外で人形の様子を観察していたぼくは、母へ首を横に振ってみせた。


「ねえ母さん、向こうの方へ行ってていい? クリスマスツリーが見たくて」


 ぼくが指さした方向には駅前の広場があり、中心にはツリーが飾ってあった。

 ぼくの家のものとはまったく違う、本物の木が。

 ただしもみの木かどうかはわからない。

 一年中青々とした葉が生えているけれど、たぶん違う種類の木なんだろう。


 母さんはいぶかしげな顔をした。


「あなたがクリスマスケーキを買いたいからって来たのに。選ばなくていいの」

「……チョコレートのなら、何でもいいから」

「あ、ちょっと」


 ぼくが言い捨てて歩き出し、母が何かいいかけているときちょうど自動ドアがしまった。

 歩く速度をあげながらぼくは笑顔を浮かべて母に手を振った。

 母は一瞬ぼくを追いかけようとしたものの、家族連れがお菓子屋の方に近づくのを見てその場に留まった。

 たぶん、さらに待たされるのを嫌がったのだろう。

 母よりも先に入っていた何組かの客がすでに、店のレジの前に列を形成していた。


 駅前の広場にはたくさんの人がいた。

 クリスマスイヴの土曜日は、遊びに出るのはこれ以上ない日のようだった。

 待ち合わせをしているらしい、若い男性や女性が白い息を吐きながら、ツリーのそばや駅の壁際に立っていた。

 彼らの前を、数多くの両親と数多くの子どもたちが横切っていた。


 そしてぼくは一人できょろきょろとあたりに視線を向けていた。

 あまり心配はしていなかった。

 彼は、駅前あたりにいるといっていた。

 そして彼の言葉を信じるのならば、ぼくには彼の探している「袋」の気配があるはずだった。


 ツリーのそばに立ち止まり、大きなその木を見上げる。

 四メートルぐらいあるんだろうか。

 学校の二階の窓より高いように思う。

 そのへんに生えている木でもこのぐらいの高さは珍しくない。

 だけど木の幹の太さが違う。

 両手を回しても届かないこの木は、駅前に生えているにしてはやけに立派だ。


「……なんだ、君か」


 ふいに隣に気配がした。

 声を聞いて顔をあげると、そこには彼がいた。

 ぼくに、サンタクロースと名乗った人。


「たぶんそうだろうとは思ったけどさ。僕に会いに来たのかい? それともただ通りかかっただけ?」

「……ケーキを買いに来たんだ。母さんと」


 ぼくはそう言い、お菓子屋の方へと目を向けた。

 まだ母の姿はない。


「へえ。予約してなかったんだ。珍しいね」

「母さん、予約とか嫌いだから。……それに、今年は何人でクリスマスが出来るかわからなかったし」


 ん? という風に彼は眉をしかめ首をかしげた。

 彼と目を合わせないよう、ぼくは視線を落とした。

 そのことについてはあまり説明する気はなかったからだ。

 彼は何も口には出さなかった。

 何も聞こうとはしなかった。


 やがてぼくの方から口を開いた。

 ここに来たそもそもの目的のために。


「ねえ、あなたの探してたもの……ぼく、わかったよ。どこに行ったのか」


 そういってからぼくは顔をあげた。

 驚いた彼の顔がそこにあった。


「本当に? 見つけたのかい? でも、君はいま袋を持っていないんじゃ……」

「そう、そうなんだ」


 一度彼の目を見つめ、それからぼくは頭を下げた。


「ごめんなさい。あれ、……捨てちゃったんだ」


 返事はすぐには来なかった。

 ぼくは頭をあげなかった。

 彼の反応が怖かったし、どうしていいかわからなかったから。

 やがて彼が言った。


「捨てちゃったって、どこに?」


 声がすぐそばから聞こえてきたせいで、ぼくは驚いて顔をあげた。

 彼は腰を落としており、ぼくと視線の高さを合わせていた。

 その顔にはぼくの想像していた失望やあきらめは見当たらなかった。


「え、えっと、……うちのゴミ箱に」

「いつ頃だい?」


 なぜ彼がそんなことを聞くのかわからない。

 だけどぼくは記憶をたぐりよせながら答えた。


「たしか、半月ぐらい前、だったと思う。本当にごめんなさい、あれ、大切なものだとは知らなくて……道で拾ったんだ。ただのゴミかと思っちゃって……」


 すまなそうな顔をしたぼくに、彼は興奮した面持ちでぶんぶんと音が出そうなほど首を横に振った。


「いいよ。いいんだ。そんなことはいい。それより、確かだね。君の思い当たるものはそれしかなくて、それで、それは半月前ぐらいにゴミ箱に捨てられた」


 戸惑いながら、ぼくはうなずいた。


「さっきの話を聞く限り、君の母親はあまり几帳面じゃなさそうだけど、半月前のゴミぐらい、すでにごみ収集車に放り込まれている。そうだろう?」

「たぶん……」

「そうに決まってる。そうじゃなかったら、君の家に行ったとき、僕にはわかったはずなんだ。それで、この辺のゴミは……いや、君に聞いてもわからないか。ゴミ処理場の焼却炉か、最終処分所、そのあたりか」

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