第五十一章 焦り
よろしくお願いします
本来なら迷宮へ行く日だったが、今日は休みにしてマリーと組合へ向かう。
受付で組合長への面会を求めると、若い職員が困った顔をした。
「組合長ですか? 面会のお約束の無い方はちょっと……」
うろたえるマリーを見て無理そうだと思い、俺が前に出た。指輪で姿を変え、受付に言葉で圧をかける。
「マリーはここでは最高ランクと聞いているが、最高ランクとは受付が適当にあしらう程度のものなのだな」
そう言うと、慌てた若い職員は少々お待ち下さいと言い残して奥へと引っ込んだ。
「ツヨシさん、言い方が悪いですよ」
(この程度のために無駄な時間を使うこともない。無理なら出直す)
しばらくして、組合長との面会の許可がおりた。
若い職員に案内されて建物の奥へと進む。
二階の一番奥の部屋に通された。広い、シンプルだが品のある部屋で、良い髭を蓄えた初老の男が、机の向こうで書類に目を通している。組合長だ。こちらに一瞬目線を向け、また書類仕事に戻ると、
「はじめまして最高ランクのマリー君。家は気に入ってもらえたかね」
とややトゲのある言い方でこちらに話しかけてきた。
「はい。とても良いお家でした」
「それは良かった。で、相談というのは何かな。受付では詳しく聞かなかったそうだが」
マリーが少しだけ緊張した面持ちで口を開く。
「バロメア伯爵家の方に、お会いしたいんです」
その瞬間、組合長の手が止まる。書類から顔を上げ、こちらを見る目がわずかに細くなった。
「……伯爵家に、ね」
声のトーンは変わらない。だが、さっきまでと雰囲気が変わった。空気に鋭さが増す。
「マリー君、貴族との付き合いがどういうものか、分かっているのかね」
少し呆れたような口調。馬鹿にした、という訳ではないが、明らかに一線を引いた喋り方だった。
「『会いたい』と言って会えるほど、貴族は暇じゃない。まして君は冒険者だ。こちらから会いに行くなど、普通は考えん」
確かにその通りだ。今まで呼び出されることはあっても、こちらから出向いたことは一度もない。
マリーが小さくなって俯く。そこへ畳み掛けるように、組合長が続けた。
「で、何の用だね? 伯爵家に」
「ダンジョンで、魔法剣が手に入ったんです」
マリーが答える。
「先日の召集では伯爵様に良くしていただいたので、魔法剣を伯爵家に献上したいと思いまして」
「魔法剣ね」
組合長は腕を組んだ。値踏みするような目で、マリーを見ている。
「それで献上して、どうしたいんだね? まさか献上して終わりではないだろう」
「その……ダンジョンのことで、少しお話を伺えればと思いまして」
言い切る前に、組合長の眉が僅かに動いた。
「先ほども言ったが貴族、それも伯爵家ともなると気軽に会えるものではない。確かにバロメアダンジョンで魔法剣が出たことは喜ばしいが、魔法剣の一本で面会など叶うものではない」
「そのあたりが、よく分からなくて……」
マリーが困った顔をすると、組合長はさらに眉間の皺を深くすると、わざとらしく大きなため息をついた。
会話の雲行きが怪しいので割って入る。
「今、組合長へ話しているのは義理立てに過ぎない」
組合長はこちらに訝しげな視線を向けた。
「君はツヨシ君だったか。話に割って入るのは礼儀として…」
「組合の受付前で、魔法剣が出たから伯爵様に献上したいと大声で言えば、伯爵家の耳にまで届くだろう。こちらは組合長に気を使っていたつもりだが、要らぬ気遣いだったか?」
組合長の言葉を遮って話を続けると、組合長は黙り込んだ。
おそらく組合には伯爵家の手の者が紛れ込んでいる。組合長もそれを分かっているはずだ。
しばらくの沈黙の後、組合長は口を開いた。
「……分かった、伝えてみよう。伯爵家に顔の利く心当たりが一人いるんでね。そいつに話を通してみよう」
俺はそのまま聞いていた。
「ただ、返事には時間がかかる。三日後、またここに来てくれ」
「はい。お願いします」
マリーが頭を下げる。俺は念話を飛ばした。
(剣の事は、光る剣が手に入った、とだけ伝えるように言え)
「あの、剣のことは」
マリーが、俺の言葉をそのまま伝える。
「『光る剣が手に入った』とだけ、伝えていただけないでしょうか」
「……光る剣、ね。分かったよ」
組合長は頷いた。
部屋を出て、一階へ降りる。
マリーが小声で聞いてきた。
「ツヨシさん、少し変ですよ。大丈夫ですか?」
俺は大きく息を吐き、気持ちを切り替えた。攻略が思うように進まず、少し焦っていたのかもしれない。
(あぁ、大丈夫だ)
ひとまずこれで何かが分かれば良い。ダメなら次の手を考える。
家に帰り、マリーのメモを見ながら次の攻略について考える。
俺は何も感じないが、マリーは昨日と同じように唸っている。
「ツヨシ、暇なら訓練に付き合ってくれ」
唸るマリーを見ていたら、ラナが声をかけてきた。了承して庭で相手をする。今、ラナは蹴りを練習中だ。手数を増やす方向で鍛えている。
みんな成長している。一度切り替えたはずの焦りが少しだけ胸ににじんだ。
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