第三十五章 幕間・バロメア伯爵家にて
これで第一部完となります。
――バロメア伯爵領、領主館。
「二十階の門番を、たった二人で……」
執務机に広げられた報告書を前に、バロメア伯爵――ハインリヒ・バロメアは、白髪の交じった眉を寄せ、低く唸った。恰幅の良い体に、目つきには長年ダンジョン都市を治めてきた者特有の鋭さが宿っている。
「はい。メイス使いの娘と鎧の大男、それと従魔を連れています。――組合に潜らせている者の報告によれば、他の冒険者たちとの衝突もなく、むしろ人気も高いそうです」
そう告げたのは、初老の側近だった。長年伯爵に仕えている側近で、感情を表に出さない静かな声が特徴だった。
「ならば放っておけ。領に利益をもたらす貴重な存在だ。それに戦力は多いに越したことはない」
伯爵の手には、ツヨシ達の事とは別の報告書が握られている。
「東の方で何かございましたか」
「国境の緊張が、日を追うごとに増しておる。先月も、哨戒隊同士の小競り合いが数件あった。あちらの動きは、もはや小競り合いの域を超えつつある。このまま激化すれば、王家からバロメア領にも出兵の要請が来るやもしれん」
「少しずつ備えておきます」
側近が頭を下げる。
「街の者たちには悟られぬようにな。さて、無駄な備えになれば良いが……」
戦になれば魔石も武器も売れるが、支出も大きい。バロメア領の兵士は迷宮で鍛えてはいるが、戦争のような大集団での運用には慣れていない。……過去の失敗から、まだ立て直しきれていないのだ。
続いて、他の領からの兵士訓練の受け入れ計画の調整や、商人組合からの要望をこなしていく。一息つく頃には、日が傾いていた。
「少し休憩なさいますか?」
肩を回している伯爵に、側近が声をかけた。
「そうだな、茶を貰おう」
社交に出ている息子が帰って来れば、新たな情報も入るだろう。窓から見える東の空には、遠く暗雲が垂れ込めていた。
第一部完となります
来週より第二部スタートします




