アンジュは配信しててもしてなくても危険人物だと思った僕。因縁はここから始まりました
この作品ではお久しぶりです
夏休みも残すところ後数日。結局恋紋さん達は僕がアンジュと戦い続ける事を止めはせず、かと言って同じ配信者としてアンジュと戦う事を選んだわけでもなく……分かりやすく言うなら傍観者という立場を選んだ。普通ならネット上のとはいえ、トラブルは止めるものなんだろうけど、曰く「私達も軽率な行動してないとは言い切れないから強く止める事はできないわ」との事。水無月ててと違って恋紋さん達はバカじゃないから助かる。それよりも僕、五味陽人には嫌すぎる事が一つある。それは……
「お芝居とはいえ、アンジュに媚び売りたくないなぁ……」
言うまでもなく、アンジュの囲いになる事。フリでとはいえ、アイツの囲いになり、全肯定するというのは怖気が走る。外は快晴で雲一つないはずなのに僕の心は曇り模様。なんなら雨まで降ってる。部屋は暑いはずなのに寒気しか走らない。アンジュを褒め称えるくらいならクラスメイトの女子に無差別で告白した方がまだマシに思えてくる
「こんな作戦考えるんじゃなかった……」
誰にも口外してないから今なら引き返せるし、やらなくてもいい。というか、やりたくない。必ず実行しなきゃいけないわけじゃないからやらなくてもいいくらいまである。やる義務のない事であり、やらなくて済むならどっちを選ぶ? 答えは簡単。やらない。別にアンジュの囲いとしてアイツに近づく必要はない。アンジュに僕の狙いがバレなければそれでいい。と、言う事で……
「作戦を練り直そう」
作戦を練り直す事にした。大前提として、Vtuberは巻き込まない。水無月てては例外として、無関係なVtuberを巻き込んでファンから叩かれるのはごめん被る。もう一つ。アンジュのアンチ────同士の方々への報告なんだけど、これもしない。ウッカリバラされたら計画が水の泡だ。これらを踏まえて今後の行動だけど……
「通りすがりのスタンスでいくか……」
Vtuberに限らずリスナーというのは一種の渡り鳥。リスナーなんて大勢いるんだから一人くらいフラっと現れ、フラっと消えたところでVtuber達は寂しいとか思わないだろ。どうせ大勢いる中の一人なんだから。だから僕は色んなVさんのところへ通りすがる事にする。だけど、その前に……
「それ専用のSNSアカウント作らないとね」
SNSのアカウントを作るところから始めよう。ブジャルでアンジュに近づいても警戒されるのは明白。僕は特に悪い事はしてないんだけど……気が付いたらアンジュに目を付けられ、嫌がらせをされていた。嫌にならないうちに僕がアンジュの配信を荒らしてるのかだけ話しておこうと思う。あれは中二の頃だった────
この頃の僕は所為オタクと呼ばれる人種の友達の方が多く、クラス内で陰と陽を分けたとしたら間違いなく、陰に入れられるタイプ。僕自身は陰キャだという自覚はなかったんだけど、今思えば陰キャだったんだと思う。で、中学生という事もあって夜な夜な遊び歩くわけにはいかない。おっと、僕の中学時代の話はこれくらいにして、アンジュに目を付けられた話だったね。UWОをやっていた中二のある日の事だった
「あー……今日は何しよっかなぁ……」
この日もいつも通り僕はUWОに潜っていた。始めたのが中一の夏だからこの頃には今使ってる機体で必要な任務も全部終わらせてあり、資金もある程度持っていた。で、この日はちょうどいつもやってる宇宙からの狙撃が可能になった日だった
「新機能試すかなぁ……」
ゲームで新機能が追加したら誰だって試したくなる。当然僕とて例外じゃない
「超粒子砲か……」
新機能の欄を開き、ボーっと眺めていると気になる機能────というか、武器を見つけた。そう、僕がアンジュにいつも食らわせている超粒子砲。男子中学生の心理というのは非常に単純でド派手な武器とかに惹かれる習性がある。いや、男子中学生というか、世の男全員か。ド派手な武器で相手を倒す、大勢の人が見ている前で敵に立ち向かっていくあるいは特撮ヒーローに変身する。男のロマンだ。僕はすぐに超粒子砲を選択した。問題はどこに撃つかだった
「誰もいないところに撃った方が後々揉めないか……」
このゲームは何でも破壊できる。破壊できると言ったら語弊が生じるけど、母艦────ファンタジーゲームで言うところのギルドと武器や衣服の装飾に必要なパーツが売ってるショップ以外は破壊できる。UWОはPKが可能ではあるけど、別に新武器を試すだけならプレイヤーを狙う必要はない。その辺にあるビルでもいい。この時からそうだったんだけど、UWОは自由度が高い事で有名だったんだけど、民度が低い事でも有名だった。それでも多くの配信者がこのゲームで配信活動を行っているのは単にリスナーを確保しやすいからだと思う
「適当に東京のビルでいいか」
僕は特に考える事をせず、新武器の威力を東京の適当なビルで試す事に。今思えばこの時、東京エリアじゃなく、宇宙エリアの適当な隕石群にしておけばアンジュに目を付けられる事はなかったのではないかと若干後悔している
東京エリアの適当なビルを爆撃するのは決定したけど、どのビルにしたものか……。超粒子砲は無差別に爆撃する事が可能だけど、狙いを定めて爆撃するのも可能。新しい武器で二パターンあるなら両方試すのがゲーマーの性。最初に狙いを定めて爆撃する方を試す事に
「あのビルでいいか」
照準に大量のプレイヤー名とビルの数字が表示され、その中からビル1をチョイス。超粒子砲を発射した
「おお~! これは凄い」
ログには出ないけど、爆撃したビルが大破したのを確認した僕は驚嘆の声を上げた。派手な攻撃が当たると清々しい気分になる。それが例え動かないものでも
「さて、次だ」
照準モードを解除し、次は機体を日本エリアの方へ向け、武器一覧から超粒子砲を選択。照準モードとは違い、今度はどこの誰に当たるか分からない。プレイヤーに当たるのは仕方のない事で僕的には誤射。だから謝れば許してくれるはずだと思っていたし、超粒子砲が当たった相手がアンジュでこれがキッカケで粘着された挙句、嫌がらせを受ける事になろうとは思ってなかった
「こんな感じでいいよね……」
的確な角度に調整し、超粒子砲を発射
「よっし! 当たった!」
結果は見事命中。何に当たったかは分からないけど、とりあえず何かには当たった事に喜びの声をあげる。だけど、その喜びもログを見てすぐに消えた
“アンジュを撃破しました”
「あちゃ~プレイヤーに当たっちゃったかぁ……」
たかがゲームで実際に人を殺したわけじゃないから別にどうという事はないけど、やってしまった感はある。別に爆撃したプレイヤーに対して悪いとは思ってない。このゲームはそういうゲーム。何気なく撃ったものが他のプレイヤーに当たってしまう事もあれば逆に僕が当てられる事もある。故意にしろ事故にしろ不意討ちは避けられず、お互い様。こんな事で目くじらを立てる方がどうかしている
「とりあえず、謝らないと……」
わざとではないにしろ、爆撃したのは僕。念のため謝ろうとメッセージを開いた時だった
“死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね”
“自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ”
死ぬ事を促すメッセージが大量に届いていた。送り主はアンジュ。死ねと自殺しろだけのメッセージはちょっとした恐怖。普通に遊んでいたところへいきなり爆撃されたら怒りたくなる気持ちも理解できなくはないけど、死ねとか自殺しろはやり過ぎだし、ゲームくらいで大袈裟だ
「うわぁ……」
ドン引き。アンジュからのメッセージはこの一言に尽きる。たかがゲームだよ? 爆撃してしまったのは悪いと思ってるけど、死ねとか自殺しろって言われる謂れはない気がするのは僕だけ? とはいえ、先に撃ったのは僕。一応、謝罪はしておく事に
「“誤射してすみませんでした”っと」
あのオバサンから送られてきたメッセージにドン引きしながらどうにか簡潔な謝罪文をアンジュに送信し、この日はログアウトした
アンジュに超粒子砲を誤射した次の日。UWОで同級生を待っていた時の事だった
「ん? アンジュさん?」
暇を持て余していたところにメッセージの通知が来た。差出人はアンジュ。謝罪文への返答かな? と思い、メッセージを開くと────
“死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね”
“自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ自殺しろ”
“慰謝料100万払え!! 訴えるぞ!!”
誤射した日と同じく死を促すメッセージに加え、金まで要求してきた
「うわぁ……しつこいなぁ……謝ったのに……」
たった一回誤射しただけなのに死ねと言われた挙句、金まで要求してくるだなんて……。中学二年生ながら僕はアンジュの粘着質で金に汚い性格に言葉が出なかった。これが僕がアンジュに目を付けられたキッカケだった。ちなみに、この当時Vtuberなんてものは存在せず、彼女が配信者だと知ったのはこの出来事があった一年後。配信しててもしてなくてもあのオバサンは進歩しないから危険人物って認識はこの時からあったんだけどね
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました




