↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/46

教室で溜息を吐いてしまった僕。甲谷をこちら側に引き込もうかと思います(1)

学校で溜息吐いてる陽人が色んな意味で悪いと思います

 夏休みに関係なく長い休みを明けの学校というのは恐ろしく憂鬱だ。休み中は勉強関係の事を考えず、ただただ部活だったり、自分の思い通りの過ごし方ができたりと自由だった。しかし、一度学校が始まるとどうだろう? 平日は一日の大半を学校で過ごし、溜めなくていいストレスを貯めてしまう。いっその事、家で授業が受けられればいいのに……。そう考えた学生は数知れずだと思う


「はぁぁぁぁぁ……」


 夏休み明け。多くの生徒で賑わう教室の自席で深い溜息を吐くのは僕、五味陽人。誤解のないように言っておくけど、僕は夏休み明けの学校が憂鬱だから溜息を吐いてるわけじゃない。アンジュのところにスパイとして潜り込むのが嫌すぎて溜息をついているのだ


「朝から溜息なんて吐いてどうしたんだよ?」


 声を掛けてきたのは甲谷。彼とは夏休み中に何度か会ってたけど、改めて見ると夏休み前より肌の色が黒くなったのではないかと思う


「甲谷君……何でもないよ」


 口が裂けてもアンジュの事やスパイとしてあのオバサンの囲いになるだなんて言えない。同士の人達にすら言えないのにコイツに言えるわけがない。正直やりたくない。あのオバサンは基本、肯定的な意見しか聞き入れない。ちょっとでも否定したり、注意したりするとキレた上にアンチ認定。取扱注意が服を着て歩いてるようなもの。甲谷を始め、何かしらアンジュから被害を被ってる人間にはスパイするとは言えないのだ


「何でもないって……さっきから溜息吐いてるだろ。周りをよく見ろ」

「え?」


 甲谷に言われて辺りを見回すと不安そうな顔で僕を見るクラスメイト達の姿があった。溜息吐いてる奴なんて気にしないで談笑をしてればいいものを……


「みんなお前の事が心配なんだよ」

「えっと……本当に何でもないんだけど……溜息吐いてたのは別に恋とか悩みとかそういうんじゃないし」

「本当にそうか?」


 甲谷の刺すような眼差しが僕を射抜く。彼の目が「誤魔化しは効かないからな」と言っていた。今の僕ができる選択は二つ。甲谷を人気のない場所に呼び出して全ての真実を話した上で僕と同じ活動をさせるか、強引に誤魔化して僕一人でアンジュのところに潜る。ぶっちゃけどっちでもいい。妥協するとしたら全てを話した後で甲谷には全てを黙っていてもらう。これに尽きる


「本当だとは断言できないけど、話すなら甲谷君だけにしたい。諸々バレると面倒だし、警戒されでもしたら計画が水の泡になっちゃうから」


 心配してくれてるクラスメイトには申し訳ないけど、ブジャルの正体もこれからしようとしている事も知ってる人間は一人で十分。むしろ知ってる人間が少ない方が好都合。アンジュはバカだから肯定してくれる人は何も考えずに受け入れるけど、実はアンチ側の人間だったと知ったら多くの配信者やVtuberに迷惑がかかる。中には面白いから叩くって輩も出てくる。別にどんな理由で叩こうと勝手だけど、SNSのプロフィールに万が一推しマを付けてたらアンジュは確実に叩いた人の推しに八つ当たりする。叩かれるのは自業自得だってのに……全く、いい歳して注意・批判と誹謗中傷の区別が付かない奴はこれだから困る


「計画? 何の話だ?」

「知りたい?」

「それが麻子姉ぇの為になるなら知りてぇ」

「麻子さんの為……になるかと聞かれたら甲谷君が僕の話を聞いてどう思うかによるから何とも言えない。リアルでもネットでも君がどんな事をしてでも麻子さんを守りたいと思うなら聞けばいい。そうじゃないなら僕が溜息吐いてた理由は聞かない方がいい。決めるのは甲谷君次第だよ」

「俺……次第……?」

「そうだよ。君が一人のVtuberとそのリスナー達を守りたいのならここでじゃないけど、全てを話す。別に自治厨になれって言ってるんじゃないから軽く考えてもらって構わないし、すぐに決めろってわけじゃない。決まった時に言ってくれれば話すよ」

「あ、ああ……」


 タイミングよくチャイムが鳴り、甲谷や他のクラスメイトは自分の席に着いた。計画の話をした時は目を丸くしていたけど、最後の方は真顔だった。重く考えなきゃいいんだけど……実際重たい話じゃないんだけどさ。だけど、重い話じゃないと思っているのは僕だけで配信者やVtuberにとって自身の配信コメ欄を荒らされるのは大問題なのかも。というか、確実に大問題。だからこそ甲谷をこちら側に引き入れるべきじゃないと思う。ブジャルの正体も知るべきじゃない。彼らは日の当たる場所で楽しくやってればいい。暗い世界にいるのは僕だけで十分だ


 甲谷がどんな決断をするのか予想しながら夏休み明け最初のHRに臨んだ。Vtuberがどんな配信をし、SNSで何にいいねを押そうと僕には関係ないけど、情報の取捨選択は正しくした方がいいと思う。今のはVtuberに限った話だけど、情報の取捨選択はVtuberに限った事ではない。SNSにいる人全てに言える事だ。この話は置いとくとして、アンジュに関してはVtuberだけじゃなく、個人勢や新人Vtuberを応援する人全員あのオバサン関係の投稿に反応するべきじゃない。下手に反応して目を付けられたら堪ったものじゃない


「話すの嫌になってきたなぁ……」


 担任の声に耳を傾けつつ僕は窓の外を見た。どうしてこうなったかなぁ……


「はぁ……Vtuberになったら簡単に人気者になれるって輩が多くなったからこうなったのかなぁ……」


 Vtuberになったら人気者になるのは簡単だなんて大間違い。実際は簡単じゃない。チャンネル登録者数は伸びないし、SNSでフォロワー千単位いてもチャンネル登録者数は数百単位だなんてザラ。仮に千を超えてたとしてもリアルタイムで配信した時の同接数なんて二桁。登録者数一万を超えたあたりでようやく同接数百人越え。何が言いたいのかと言うと、必ずしもチャンネル登録と同接が同じとは限らないって事


「アンジュの場合は比例してなさ過ぎるんだよなぁ……」


 他の新人や個人勢で登録者数千人を超えてる人でも同接数は二桁。僕の知ってる範囲じゃこれがデフォ。で、アンジュの登録者だけど、登録者は3000人ちょっと。今は増えてるのかもしれないけど、問題は登録者数じゃなく同接。3000人ちょっといて同接が一桁とか人気ないにも程がある。ちなみに、SNSのフォロワーもVIDEO・POSTのチャンネル登録者数もお金を出せば買える。買ったところでどっちも中身はスカスカのロボットとかだから意味はないけど


「バカなVtuberが増えたなぁ……」


 無名のVtuber連中に呆れながら僕はHRを適当にやり過ごした







 今日は夏休み明けという事で昼前に終業。部活のある生徒は教室を後にし、部活のない生徒は……夏休みの思い出話に花を咲かせたり、帰宅したりと色々


「はぁ……帰りたくないなぁ……」


 普通帰宅ってなったらウキウキ気分なのに僕は全くウキウキしない。帰ったら最初にやるのはゲームへログイン。それもブジャルの垢じゃなく適当に名前を付けた垢で。複垢でゲームをする事自体は別にいいんだけど、VCで喋ったり、チャットを書くのが堪らなく憂鬱だ。アンジュを持ち上げる事ほど苦痛なものはない。マズい料理を美味しい美味しいと言って食べるのと同じ。心にもない事を言うのは苦痛でしかない


「陽人……」


 教室を出ようとしたところで甲谷に引き留められた。吹っ切れた顔をしてるところを見るにHR前に話した事関係だろう。別に重たい話じゃないから即決してくれてもよかったのに……


「何?」

「お前の話を聞きたいんだが……」

「それは決心がついたって解釈でいいのかな?」

「ああ。俺は麻子姉ぇと彼女のリスナー達を守る」


 重いんだよなぁ……一大決心をしたみたいな顔をしてるけど、重いんだよ……配信してる側からすると一大事なんだろうけどさぁ……重いんだよなぁ……アンジュなんてSNS上だとちょっと言い返されたらすぐに逃げ出すレベル1モンスター程度の人間なのに……しつこさがゴキブリ並みだから低レベルモンスターと言えど侮れないんだけど……甲谷の纏ってる雰囲気のせいか温度差で風邪引きそうなんだけど……


「君が決めた事なら僕は止めないよ。それより、ここじゃなんだから場所を移そうか」

「場所を移すのはいいんだが……」

「何?」

「アレ見てみろ」


 甲谷が顎をしゃくり、長村達の方を見ろと促してきた。そちらに目を向けると何かを企んでいる丈達と長村の姿があった。この様子だと夢乃もグルだろう


「はぁ……彼女達を巻き込む────というか、引き込むつもりはないんだけど……」


 教室で溜息吐いてた僕の自業自得なんだけど、正直な話、甲谷もこちら側に引き込むつもりはなかった。僕は自分が孤独だと言うつもりはない。リアルじゃ甲谷達がいるし、ネットじゃ討伐隊さんを始め、アンジュと戦う同士がいるし。今回のイタズラ擬きは人数が多くなると怪しまれそうだから秘密にしてあるってだけ


「巻き込む? 引き込む? そんなにヤバい事なのか?」

「えーっと……ヤバいってわけじゃないんだけど……そうだなぁ……接客業の大変さを知る事になりそうだとだけ言っとく」

「?」


 頭に疑問符を浮かべて首を傾げる甲谷。アンジュというオバサンを名前だけでしか知らない人間だったらこうなるのも無理はないか……この先の事を考えると本当に憂鬱過ぎて僕は眉間に手をやりそっと息を吐いた


今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。